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3-6『3すくみ』

 無事?に仕事を取ってきた俺は、派閥の家に戻って来た。


 メンバーのほとんどが出払っているため、広い間取りにふさわしい豪華なソファがよりいっそう大きく感じる。


 俺はソファにダイブしてカーティスばりに横向きに寝転がった。

 ちなみに、ソファまでなら寝ることは可能。

 ベッドではないからね。

 毒蛇も出ないし。


「しっかし、昨日の今日でこれかよ……っていうか、まだ1日経ってねえし!?」


 対面のソファに腰掛け、珍しく正しい向きで被っている赤い帽子の唾を少し上げてマスボの画面を凝視するハリー。


「ふふっ、とりあえず動いて成果を得てくるところがノーウェらしいですね」


 一方、直立して大きめのマスボの画面を確認するリバー。


 あれ?そう言えばブルートは?


 2人は、クローニ先生が【紫雲】に向けて送ってくれた仕事の依頼書を読んでいる。


 仕事の依頼書とは、先程、ダメ教授から受注したマムンクルス実験のことだ。


 俺が半日教授の実験を手伝ったあと、翌日にうちのメンバーたちが2日かけてフィードバック作業を手伝う流れ。


 とりあえずの期間は2週間。


 なぜクローニ先生が依頼書を送っているかは、推して測るべし、だ……南無。


「2週間、7、8回参加したとして、1人につき約20ポイントですか……これはなかなかの大盤振る舞いですね」


 うむ。だいぶ吹っ掛けたからな。


 自分の魔法をあんまり安く見積もられるのも嫌だったし、半日時間を割くわけだからそこそこの見返りも欲しい。

 皆も、結構な時間、この仕事にかかりっきりになるわけだからある程度の対価はあげて欲しい。

 交渉にクローニ先生も割って入ろうとしてきたけど、先日のパーティでの一件を引き合いに出して黙らせた。


 第一、単なるマムンクルスの実験だけにとどまらず、部屋の掃除とか雑務も盛られそうだからセット代金をいただかなくては、ね。


 ちなみに、俺への対価は評定60ポイント。魔法1つ開示する毎に10ポイントまで吊り上げた。

 つまり、6個こちらの魔法を教える。

 さらに教える場合は10ポイントずつ追加だ。正直、美味しい。


 これでノルマはめでたく達成。

 もちろん、他でも色々探してみるけどね。

 『殿上人』との決闘とか……


「この獲得ポイントを参加するメンバーに伝えるつもりか?」


「うーん」


「やめた方がいいですね。彼らは彼らで今必死で探していることですし、この依頼だけで満足してもらっても困ります。先生次第だから分からないと伝えましょう。その……マーゴット教授には私の方からお伝えしておきます」


 ダメ教授な!?

 口止めしたところで無駄な気がするけど、まあいいや。

 任せよう。


 リバーの言い分は理解できるし。


「ハリーの方はどうだったんだ?」


「一応、当たりはつけた。あとは鬼が出るか蛇が出るかだが……」


 ハリーの企画案についてはフードパークからの帰りに、すでに聞いていた。


 案外、大胆不敵なやつだと思う。


「……どうやら、釣れたようだ」


 マスボの画面を見ながらニヤリと笑うハリー。


「その顔からして……蛇の方でしたか」


「ああ」


「はー、やっぱりそういう人なのね!?」


「ええ。彼は戦闘狂ならぬ戦術狂ですからね。必ず食いついてくるとは思っていました」


「俺としては、大将の仕事を横取りするみたいで気が引けるけどな」


 ハリーが仕掛けた企画とは、数名の有志を募って戦術の講習会を外部向けに開くというものだ。


 先日の決闘は全校ネットで放映され、主催者の魔道具によって記憶され、すべての決闘の1つ1つが視聴できるようになっている。


 ってことは……あのクズ公子の醜態は永遠に残るってわけか。

 ……魔道具って怖いな。


 ともかく、何を餌に講習会を開くかというと、それは先日の【咬犬】との決闘の中堅戦で俺たちがとった戦術だ。


 ブルートが編み出し、コークン、ホウジュン、アルト、シャウの4人が実行した戦術を明かし、さらにその戦術を深めるための勉強会を開いた上で、その参加者を募ったのである。


 それがどうやって評定につながるんだ?と思うだろう?


 ポイントは、この勉強会に参加する相手に対して講師を連れて来ることを求めたことだ。


 勉強会するから参加してね。でもその際は評定をくれる講師を引っ張って来てね!?


 こんな募集要項に誰が手を挙げるというのか?


 いたんだよ、奇特なやつが!


「はじめからレオ=ナイダスがかかると思ったのか?」


 俺はハリーに率直に聞いてみた。


「ああ、あの決闘後の様子からやつなら絶対に掛かると思っていた」


「いいのか?」


 俺はハリーとリバーの双方と視線を合わせた。


「覚悟の上だ。あいつらもな」


「ハリーなら大丈夫だと思いますよ。ブルートには恐らく荷が重かったでしょうが……」


 俺は、べつに戦術が漏れることを危惧していたわけではない。


 戦術など、一度明るみになった時点で研究されるのが常だ。

 ブルートが編み出したあの戦法も、すでに多くの人間によって研究がされているだろう。

 下手したら、さらに洗練された戦術がすでに編み出されていてもおかしくはない。


 俺が危惧したのは、レオ=ナイダスという戦術狂と共に実戦訓練を交えた勉強会を行って、ハリーや双子たちの身が持つのか?ということだ。


 あの男はおそらく新しい戦術の開発に躍起になるだろう。

 それは、指揮官役を務めるハリーと実行役となる双子たちにかなりの負荷がかかるはず。


 それを心配したんだ、俺は。


 講師次第では手伝った方がいいかな?


「さすがはレオ=ナイダス。講師に現役の帝国軍の軍曹を招聘するらしい……」


「なんと!」


「……」


 うん。頑張ってハリー、双子たち。

 君たちなら出来るよ。影ながら応援するよ。


 どことなく、ハリーが嬉しそうな顔をしている。

 あ!ハリーも貴族の子息だもんな。


 ……その心情、まったくもって理解不能だけど!


 あれ?そう言えばブルートは??


「あとは、まだ思案中だ。ノーウェの持ってきた教授の案件にも参加させて欲しい。やっぱROOMの体験者としてはな」


「別に構わないけど……」


 やる気に満ち溢れているな。さすハリー!

 そして、さっき俺のことを昨日の今日で仕事を取って来るなんてと褒めていたが、よく考えたら自分も早々に決めているじゃないか。


「リバーの方はどうだ?」


「私の方は『魔道具製作』企画のコンテスト応募と参加派閥の呼びかけをしました」


「アレの始動か?」


「ええ」


 ハリーの言うアレとは、派閥決闘戦の祝勝会で出された飲み物のことだろうな。


「現時点では、発泡と保存の両面を担える魔道具の開発は難しいですが、どちらかだけでも開発や改良に成功すればコンテストの入選は堅いかと。さすがに大賞は容易ではありませんが……」


「外注して良いものなのか?」


 俺もそこは気になった。レオ=ナイダスの件以上に。ただ、リバーがそこを考えていないはずはないという安心感もある。


「契約で縛りますから。開発者としての特許権を分け合う形で彼らにも報酬が入ります。それが学園在籍時の実績となるわけですから応募者は必ず出てきます」


「やけに自信満々だな?」


「ちょうど、派閥の解散危機となって実績を欲しがっている人たちがいますからね」


「あ!」


 わっるい顔をしているリバー。

 これは、あの決闘直後にある程度粉をかけていたと見える。


「場合によっては、彼らに新しい派閥を立ち上げてもらい、魔道具開発専門の派閥を目指してもらいますよ。マーゴット教授も巻き込めば喜ぶかと……」


「……ははは……」


「マジかよ!?」


 本当だよ!?

 リバーの頭はいったいどうなっているんだよと思う。

 自分の企画と俺が場当たり的にもらってきた企画を一気に連結しやがった。


 本当はその眼鏡が本体ということはないだろうな!?


「やれやれ。2人ともよく考えているなぁ……」


 リバーにしろ、ハリーにしろ、発想から決断に至るまでの速さが段違いだ。

 しかも、その場を一歩も動かずに仕事を作ってしまっている。

 感嘆する他ない。


「私もハリーもノーウェも根底は同じですからね。魔導師として己のどの部分を売れるか?を考えて動いた結果ですから」


 お前たち、動いてないけどな!?

 俺はこれでも足で稼いだのだよ。

 重い荷を背負いながらな!?


「そう考えると、魔法そのものを売ったリーダーが1番ぶっ飛んでるけどな」


「うん?」


「同感ですね。アイデアでも戦術でもなく、自分の魔法を交渉材料にしてしまう所が恐ろしい」


 おうおう。ずいぶんと褒めてくれるじゃん。

 なんとも、鼻がむず痒いね。


「でも、そこに至る過程で、すでに色々とやらかしてそうなんだよなあ。うちのリーダーの場合は……クローニ先生に話に行ったらマーゴット教授の仕事が貰えたと言っていたが、本当にそれだけか?」


「……それは、たしかに」


 ギクリッ!

 なんか、ずっと見て来たような言い方をされるとドキッとするね。

 ……でも、特に悪いことはしてないはずだし、気にしないでおこう。


 あれ?そう言えばブルートは???


 俺は部屋の中をひとしきりキョロキョロと見回す。

 床に這いつくばったりは……していないようだな。ソファの下にもいなかった。


「……ブルートは……外で空を眺めていました……」


 リバーが両手を後ろに組んで、窓の外を見ている。


「はい?」


「……遠ざかる雲を見つめながら、まるで俺のようだと呟いていたな……」


 ハリーは、帽子を被り直して天井を見つめている。


「……未来が見えないから掴みにいくとも言っていましたね……」


「はいー?」


 2人とも何を言っているんだ?

 あいつはいきなりどうしたんだ?

 失恋でもしたのか?


「ブルートは……『風に吹かれに行く』と言って出掛けました」


「はいーー?」


 ちょっと……どころか、全然何を言っているかわからなかった。


 あいつは、一体どこで何をしているんだ?


 ◇マゼンタ寮正面庭◇


「ブ、ブルート……お前、一体なにをしているんだ?」


 燃えるような赤髪の女子学生ジェシー=トライバルは、いくつもの真っ赤に実ったトマトに囲まれながら、目の前で膝を泥だらけにしながら土下座をしている幼馴染の姿を見て狼狽している。


「頼む!こんなことはジェシーにしか頼めないんだ!」


「え?わ、私にしか頼めない……?な、なんだ!?聞いてやらないこともないから、言ってみろ!?……というか、まず土下座を止めろ」


「ほ、本当か?」


 黒光りする実がたくさん垂れ下がる茄子の畝の前で、額にまで泥をつけた幼馴染はジェシーの言葉を受けて心から喜んでいるようであった。


「あ、ああ……いったいなんだ?頼みというのは」


 ジェシーは、自然に背筋を伸ばして、一度深呼吸をする。


「頼む!ジャネット様に俺を紹介してくれ!!間を取り持って欲しいんだ!」


「は?はあーーーーー???」


「どうしたのですか、ジェシー?そんなに大声を出して?」


 ふいに、その実を長く伸ばしたズッキーニのカーテンの中からエメラルドに輝く公爵令嬢が姿を現した。


 赤、青、緑……

 火、水、風……の魔導師3人が艶々に光る、早生の夏野菜の前で居合わせた。


ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


ブルートは罪な男です……笑


次回、1人取り残された男の話。


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


<ご連絡>

次回から各メンバー視点となりますので、しばらく前書きが入ります。

ご理解のほど、よろしくお願い致します。

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