3-3『斡旋』
「これから1か月の間、それぞれ自主トレをしていただきます」
リバーによる高らかな宣言を終え、20人全員集まった俺たちの派閥は、そのまま即時解散となった。
「春の選抜決闘」への出場方針については予想通りまったく異論なし。
皆、期待感に満ち溢れている様子だった。
そして、幹部会で決定した新たな方針とポイント分配について説明があった際に、メンバーたちも、ポイントが付与されることに一瞬、ブルートのように目を輝かせたが、リバーによる課題を聞いた時点で、多くの者が頭を抱えだした。
ポイント分配は金銭的な制約がなくなり、ディリカやカーティスのように学費や生活費を稼ぎながら訓練をする必要のある者にとっては一時的な余裕を生んでくれる。
仮に、200ポイントまるまる1か月の生活費や学費に充てたとしても、評定ポイントを稼げればいいわけだしな。
ちなみに1か月後の評定ポイントのノルマはプラス60点。
1年卒業時のノルマが300なので、これぐらいは頑張れよ、という目標設定としては妥当なところだと思う。
リバー曰く、時間的な制約はアイデアの可能性を引き出す良い方法だが、過度な金銭的な制約や不平等は発想そのものを狭めてしまうことがあるので今回のポイント分配という発案に至ったとのこと。なるほどな、と思う。
とはいえ、これといったアイデアがない、普段からそういうことを考えていない人間にとっては、いきなり背中を押されて大海に突き落とされた気分だろう。
海に放り出されたあとで、いきなり陸地を探して泳げと言われてもな……
一応、ハリーが色々と考えているらしいのと、リバーが毎週、個人面談を行うことで場合によっては救済策を講じるらしいので、たぶん大丈夫だ。
俺?
……もちろん、ノープランだよ!
どうしたもんかな……なんて悩んだところで答えが出るはずもないので、俺は一旦寮部屋に戻り、重い荷物を背負ってからある場所に向かったんだ。
その場所は、学園の事務棟。
エントランスまで辿り着くと、他の学生が入るタイミングを見計らって一緒について行くような形で2階の階段に向かう。流れるように!
もちろん、透明マスク対策だ。
ミッションをやり遂げた俺は、2階入口から1番奥に見える看板の方に軽快に足を進めた。
その一角は、他の事務スペースと違い、簡易的な仕切りが置かれており、部屋のようになっていた。
『ハロー決闘!決闘案内所』
そう。決闘相手に困った学生にその相手を斡旋してくれる学内機関だ。
履修時にこの案内板は確認していたんだ。
「「「「「ノ、ノーウェ=ホーム」」」」」
仕切り内のシートに座っていた学生たちが、俺を見て一様に声をあげた。
なんだ?冷やかしか!?
「つ、次の方どうぞ」
窓口の女性の職員に呼ばれたので向かう。
「き、今日はど、どうされました?」
「決闘相手の斡旋をして欲しくて来ました」
「え?あ、貴方が……ですか?」
「え?そうですけど」
「わ、分かりました。ど、どのような相手をご、ご希望でしょうか?」
「できればランク10位以内の『殿上人』が良いんですけど」
「……」
「「「「「……」」」」」
「無理でしたら10位から30位くらいの人でも構わないんですけど!?」
「……」
「「「「「……」」」」」
……門前払いされた!
なぜ!?
200ポイントまるまる払うってこちらの条件も伝えたのに、「今、貴方と決闘しようと思う上位の方はいないと思いますよ!?」って言われた。
ひどくない!?
……まだまだ実績不足ということか。真摯に受け止めよう。
一応、確認はしてくれるみたいだけど、完全に当てが外れてしまったよ。
ランク上位との決闘に勝てば評定ポイントが多く期待できるから手っ取り早いじゃん、って思ったんだけどなあ。
こうなったらプランBだ!俺にはまだ腹案がある。さっき思いついた。
……ということで、俺は次なる場所を目指すことにする。
1階には戻りたくないので、屋上まで上がり、『ウインドーフロート』を使ってバビューンとね。建物から建物へと移っていく。
荷物が重いからキツい。
登録に必要かと思って持ってきたけど意味なかったな。
次なる目的地は学術棟エリア。
このエリアには、学生が授業を受ける学術棟、先生たちがいる教務棟、学生や講師が研究につかう研究棟などがある。
俺の目的は教務棟。
俺は、教務棟の入口に降り立って、「職員室」と書かれた部屋に伺った。
「すいませーん」
ガララッ……
「なんだね?君は……うん?も、もしや……」
なんか脂ぎった顔をした小太りのおっさんが出て来た。
なんとなくダンジョンにいた「残念なおっさん」に顔が似ている気がするな。
「の、ノーウェ=ホーム!!ここに何しに来た?ここは君のような人間が来る場所じゃないぞ!?」
俺のような人間って、学生ってことか?
でも、廊下を何人かの学生が歩いているし、どういう意味なんだろう。
「え?でも、他にも学生いますけど……」
「学生のことじゃない。君がなぜここに来たのかと言っているのだ?」
俺も学生なのに何を言っているんだろう?
というか、この先生はなぜ初対面の俺にこんなにも喧嘩腰なんだろうか。
「あ!先生、もしかして俺と決闘がしたいんですか?それなら……」
「な、な、なっ……き、き、君は何を言っているのかね?」
……なんだ、違うのか?
じゃあ、質問に答えるか、どっかに行ってほしいんだが……
「主任……ゴリオス主任。ここは私が対応しますので」
「う、うむ。そうだな。た、頼んだぞトリュゲル。そ、それとノーウェ=ホーム。『バブル斜光クラブ』を討伐したくらいで良い気になるなよ。まだまだ上には上がいるのだからな」
今度はガリガリの体型で眼鏡を掛けた、神経質そうな七三分けの男性が出て来た。
脂ぎったおっさん先生?は捨て台詞を吐いて中へと戻っていった。
……あの先生?はAランクの魔物と何のつながりがあるのだろうか?
それより上がいるって、あの人は魔王の幹部かなんかなのかな?
顔が「残念なおっさん」だし……まさかな。
「すまないね。主任は色々と気を揉んでいるんだよ、君のせいでね。ノーウェ=ホーム君……それで?この職員室に『色付き』の君が何の用かね?」
この人も明らかに招かざる人間に接する態度ではあるけど、さっきのおっさんのようにいきなりの喧嘩腰ではないから、まあいいや。
学園のしきたりがいまいち分からないけど、ひょっとしたら職員室にみだりに伺ってはいけないのかもしれないし。
「クローニ先生はいますか?ちょっと用事というかお願い事があるんですけど」
「クローニ?ふん、そういうことか……」
え?どういうこと?
「私からも君に一言忠告しておくが、あまり学外であれこれやって学園を騒がせるのは感心しないな」
「はあ……」
「これからは学外の活動をするときは学園を通してもらいたいものだね」
はあ?
なぜ、いくら学生だからといって学外の活動まで学校にコントロールされなきゃいけないのだろうか?
少しカチンときた。
……ん?
でも、待てよ……
「あ、はいっ!分かりました!!じゃあ、今度からゼニ……シスターアルテの依頼はすべて学園を通すようにって俺から話しておきますね。ゴリオス先生とトリガラ先生でしたっけ?伝えておきますので、今後の対応はお願いしますっ!!」
「「「「「……っ!!!」」」」」
周囲の視線がなぜか俺に集まる
「き、き、君は……何を言っておるのかねっ……わ……」
「いや、だって今先生が、外の案件は必ず学園を通せって……」
「私はそんなこと言っているんじゃないっ!!」
急に踵を返して慌ただしく中に戻っていったトリガラ先生……
奥にいる脂ぎったゴリオス先生と何やらひそひそ話をしている。
……何なんだよ、まったく!
クローニ先生の居場所を教えてくれるか、決闘してくれるか、あの守銭奴をどうにかしてくれるか、どれかにしてくれよ。
結局、すぐ近くにいてこのやり取りの一部始終を黙って見守っていた別の先生が、こっそりクローニ先生の居場所を教えてくれた。
クローニ先生は専用の講師室に今いるらしい。
俺は居場所を教えてくれた先生に礼を言って職員室の扉を閉めて、急いで3階にあるクローニ先生の講師室に向かった。
「……で?何のようなのかね?」
クローニ先生は、本棚に囲まれた静かな部屋で読書をしているようだった。
先生もだいぶ招かざる客が来たよ、感を醸し出している。
まあ、気にしないけどね。こっちには、特大の貸しがあるし……
「はい!決闘相手がいないので相手してください!200ポイントあります!!」
「はあ……」
そう。俺の考えた腹案は、学生がダメなら教師と決闘すればいいじゃないか、ということだ。
「決闘案内所」や「職員室」での顛末など、これまでのいきさつを先生に話して、何とか頼みこむ俺。
それに対し、ため息を吐くクローニ先生。
え?何かまずかったのかな?
「……あのねえ。教師と学生は基本的に決闘をしてはいけないのだよ。それと我々教師は原則、副業禁止だからさ……」
え?そうなの?
……じゃあ、さっきの喧嘩腰の2人はいったい何だったのだろうか。
「はあ……なんかさらに面倒事が追加された気がするよ」
再びため息を吐くクローニ先生。
俺は少し気まずくなって先生の周囲にある本棚に目をやる。
綺麗に整頓された古めかしい魔術書が所狭しと並べられている。
先生は勉強家だな。几帳面な勉強家だ。
先日のパーティの醜態が嘘のよう。
「ん?待てよ……要するにノーウェ君は魔法を使った強い敵を求めているんだね?それで学生ポイントか評定ポイントを稼げれば、なお良いと……!?」
「はい!」
「なら、良い相手を紹介出来そうだ。別に人間相手でなくても構わないのだよね?」
「えっ?」
クローニ先生も魔物の知り合いがいるの?
不思議な学園だ……
俺はクローニ先生に連れられて教務棟を出た。
途中、職員室を通り過ぎたが、中で怒号が聞こえている。
先生が気にしなくて良いからと言うのでスルーする。
行先はすぐ隣の研究棟であった。
広いエントランスを通り、奥にある第1研究室と書かれた部屋の扉をクローニ先生ががらんと開けた。
ムア~~と異臭が立ち込める……
……この臭いは……あれだな。
……納豆の臭いだ。
「教授、お探しの人物を連れてきましたよ」
先生の開けた扉の奥を覗き込むと……
その中は、あらゆる本や実験道具が散乱している、ものすごいとっ散らかった部屋だった。
時折、実験道具に混じってビーカーの中に入った納豆ご飯と空になった酒瓶が見え隠れしている。
……要するに、汚い。
「クローニ?それは本当かいっ!?」
本の山の中から声が聞こえる。
うめき声みたいでなかなか不気味だ。
お願いだから慌てて起き上がらないでね……
ガラガラ……ガッシャーーーン……
ほらね!?
山が崩れて実験器具がいくつか割れた音がする。
「やれやれ……いったいどれくらいの間、掃除をしていないのかね?君は」
「うーーー、バカ娘が戻って来ないから……あの子……はともかく、普段は派閥の子たちが片づけをしてくれているからーーー」
「……君もよっぽどバカ親だよ……ノーウェ君、紹介しよう。このバカ……いやこの研究バカがマーゴッド=エジウス教授だ。一応……この学園の教師の1人であり、あのROOMを開発したとびきり優秀な魔道具技師だよ」
本の崩れた先から、白衣を着た髪の長い女性が現れた。
茶色の髪の毛はボサボサの状態で、額の上に魔物のような顔をした変なアイマスクを装着したままだ。
あの魔物は伝説のAランク魔物……「ゴリレオ」だな。
敵の攻撃を学習して進化するという……
俺の愛読書『魔帝ビートの冒険戦記』に出てくる魔物。
そんな魔物のアイマスクをしているなんて……この学園……変な先生ばっかり!
「おーーー!!君があの【紫雲】のリーダーのノーウェ=ホームかーーー!!私は君たちの決闘をくまなく観察していたからね!待っていたよーーー!!歓迎するよーーー!ありがとーーー!実験体にーーーーいや、私の研究の大いなる踏み台になってくれてーーー!」
……職員室と違ってめっちゃ歓迎してくれたけど……この先生、初対面の学生にとんでもないことを言っている!?
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
またまた濃い先生が登場しました。
娘って……彼女の家族は誰なんでしょうね?
次回、ノーウェと教授の交渉です。
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




