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1-9『華一』

 ◇ジャネット=リファ サイド◇


 わたくしの名前はジャネット=リファ。

 ウィルヘルム帝国公爵家であるリファ家の息女です。

 私の実家であるリファ家は代々魔法に秀でた人材を輩出してきた家系。

 兄2人は帝国騎士団再精鋭部隊の一角である【獅子鷲魔導師団(ししわしまどうしだん)】に所属しておりますし、5つ上の姉は皇帝陛下直属の宮廷魔導師の道に進みました。


 そんな環境で育った私ですから、幼い頃から魔法漬けの日々を送り、大陸でも有数の魔法使い養成学校と呼ばれる「プラハ魔法学園」に当然のように入学致しました。


 私は風・水・土の3つの属性魔法の使い手であり、称号は『風華(かざはな)

 文字通り風属性の魔法が得意で、水と土がそれに付随する「サブ属性」ですね。


 学園での生活も順調で、1年生の初めから派閥を作り、学年トップクラスの使い手や、上の学年の先輩方と研鑽(けんさん)を積み、今では学内トップクラスのランクを維持しています。


 私の学内ランクは6位。

 この学園では、学内ランク10位以内のものを『殿上人(てんじょうびと)』と呼びます。

 ですから、教師の方々や学内外の関係者の方々は私のことを呼ぶ際に『殿』という呼称をお使いになるのですが、私は殿方ではないので、その呼び方になかなか慣れません。


 学内順位が私よりも上の方は、1人を除いて全員上級生。もうすぐ3年生となる先輩方で翌年には卒業なされます。

 先輩方に挑むのもなかなか楽しいものではあったのですけれど、学内順位が上がり、派閥が大きくなるにつれて、おいそれと決闘をすることが叶わなくなり、また、彼らも卒業とその先の就職を控え、以前ほど姿を見せなくなられたので、最近は本当に退屈です。


 そろそろ後進を育成されては、と側近の者たちは言いますが、まだ新学期を迎えておらず、2年生にもなっていないのに早くも引継ぎを考えるってどうなのでしょうね?


 このような状況ですので、私の日々の楽しみは、寮内にある畑の作物を育てることと、日課の日向ぼっこしかありません。

 作物を育てることはとても楽しいです。

 農作業は、何もかもが私の思うようになりませんし、少しでもあの子たちの機嫌を損ねたり、手抜きをしたりするとそれがすべて顔や体に出てきてしまいますから。


 私は幼い頃から何かが欲しいと心から願ったことがありません。

 欲しいと思う前に、周りの方々がすべて用意してしまうのです。

 学園に行くことで少しはままならぬことが増えると期待していたのですが、幼い頃からつき合いのあった他の貴族家の子たちがそのまま側近となって私の脇を支えているので、結局、屋敷に住んでいた頃と生活にあまり変化がないのです。


 ええ。もちろん、側近たちには感謝をしています。

 ですが、とにかく退屈なのです。

 加えて、最近では楽しみの野菜作りも側近たちと、彼女たちに屈して派閥に加入した子たちが先回りをしてしまうのです。虫取りなどもやってみれば案外楽しいことなのですが、私が作業に出向くころにはアブラ虫1匹いない状況です。私のことを大事に想ってのことなのですけどね。


 そのような事情もあり、最近の私は寮の屋根の上にいる時間が増えました。


 屋根の上で学園にある色々な場所を見るのは楽しいです。

 この学園は実力主義の決闘文化。

 あらゆる場所で決闘を催しているので見飽きないですよね。


 とりわけ、新しくこの学園に足を踏み入れたばかりの子たちの戦いは観ていてとても楽しいのですよ。


 もちろん、私の派閥に属する新入生も大切な子たちなのですが、その決闘は、観ていて楽しいというのとは違うのですよね。

 もう訓練に片足突っ込んでいるようですし、なんて言えばいいのでしょう?私や側近たちに憧れて入ってきているので、型にはまり過ぎていて、どこか面白味にかけるのです。


 昨日入ったばかりの子が、明日には完全に側近の教える流儀に染まってしまっているのですよ?退屈です。


 それに比べて、他の子たちはまだまだ粗削りで楽しいです。

 まるで凸凹の形をした野菜のよう。


 ですから、側近たちがこの寮の生徒を完全に支配下に置こうとした時には、私は全力で止めました。

 いえ、まったく全力は出していないのですが、強権を発動しましたね。

 畑作り以来です。

 やはり、ひとつ屋根の下に同じ派閥の者しかいないというのはよろしくないと思います。風通しが悪いですもの。


 側近たちはとても優秀な子たちなのですが、そういう所が行き過ぎていてたまにキズです。

 いつか、私が屋外で野菜を育てているのを見て「ジャネット様は風も土も水も操れるのですから、屋内に野菜を育てる施設を作る方が安全で良いのでは?」などと助言をしてきましたが、まるでわかっていないのです。

 だって、かわいそうじゃありませんか?

 おひさまの光を十分に浴びられないなんて。

 おひさまの光も雨風も、お野菜にとって栄養にも毒にもなるから楽しいのですよ。

 その中で、まっすぐに育ち、ピカピカになった子たちのどんなに愛しいことか……


 こほんっ、話がそれました。


 そのような切実な事情があるので、私は今日も寮の屋根の上にいるのです。

 ぽかぽかのおひさまに当たりながら、少し体を浮かせ、学園を眺めていると……


 あ、発見!

 決闘です。

 校門入って少し先にある中庭にある石畳の決闘場。

 いわゆる『入門の決闘場』ですね。誰しもが通る道です。


 私から見て手前側、門からですと奥になりますね。

 陣取る子は私の住む寮の一員であるブルート君ですね。


 彼は正直あまり可愛くありません。

 相手を選んで弱いものいじめをしている子ですから。

 今は寮内で私の派閥の動向をこそこそ伺いながら好き勝手やっていますが、そのうち私の側近たちや実力をつけた派閥の子たちに淘汰されるでしょうね。

 お野菜でも、腐った部分はかわいそうですけど切り捨てなければ他の子たちに悪影響になってしまいますからね。


 今、ブルート君に狙われている子も残念ながらあまり素質に恵まれてはいないのでしょう。

 着ているローブはなぜかとても良いものに見えるのですけどね。

 どこで購入したものなのでしょう?帝都の高級店でもみたことない品ですね。


 決闘が始まりました。

 ブルート君の戦法は把握しています。

 あの子は「戦闘方式」の決闘オンリーです。考えが浅い子ですから。

 応用力がないのですよね……魔法ではなく頭の方に。


 ああ、やっぱり……対峙する子は『色付き』でしたか。

『色付き』の子は残念ながら素質に恵まれていません。

 せめて『黒魔導師』か『白魔導師』であればグラン級(上級)の攻撃魔法や回復・支援魔法をたくさん覚えられるのでまだ救いはあるのですが、かわいそうなのは『赤魔導師』の子たちです。


『赤魔導師』の子は学園内に数パーセントいますし、新入生の中にも数名いるようですが、皆大きなハンデを背負っているのです。

 それは、ハイ級(中級)の黒・白魔法しか覚えられないのですよね。

 実社会ではよっぽど役立つ人材だと私は思うのですが、ここのように突き抜けた強さ、技術が求められる場所ではどうしても器用貧乏の枠に嵌まってしまいます。


 ブルート君はそんな器用貧乏な子たち、それも独り立ちする前の子たちを狙い撃ちにする姑息さを持っているので、標的にされたあの子もきっと『赤魔導師』なのでしょう。

 かわいそうですが、ここは実力主義の学園。実力主義はつまり弱肉強食の世界ということなのです。


 ああ……やっぱり……

 ブルート君の出した水竜もどきに対してハイ級の黒魔法で対抗しています。


 彼は寮内でもよく自分の水魔法を自慢していますが、あの魔法もまだグラン級(上級)に毛の生えた程度の技なのです。

 属性魔法の深淵はエクス級(最上級)にあり、そこからの工夫がすべての始まりなのです。

 グラン級(上級)に毛が生えた魔法は主属性ではなく、他の補助的な役割にとどまるのですよ。現に、私の土魔法と水魔法はグラン級です。

 グラン級で威張るのであれば、やはり『黒魔導師』の熟達者ように4元素属性の魔法をすべて放てるようにならなくては、ね。


 私は決闘を観戦するのを止め、空を見上げました。

 おひさまは今日もぽかぽかです。

 おひさまは絶対に手に入らないからこそ美しい。


 ……びっくりしました!!


 草でできた日傘越しに、おひさまをぼんやりと眺めていたらとつぜん大きな水竜が空に昇っていきました。

 まるでおひさまを求めるかのように……


 そして、姿を消すとともに、とても美しい虹を描いたのです。

 なんて素晴らしい光景だったのでしょう。


 いえ、それどころではありません。

 あんな大きい水竜をせいぜいもどきしか作れないブルート君が……?


 いえ、違います。

 ブルート君は猛獣に怯える小鹿のように膝を落として震えています。

 全然可愛くないですけどね。


 ……と、いうことは、です。

 あの巨大な水竜を放ったのはあの紫のローブをまとった子ということになります。


 大変ですっ!

 完璧に見逃してしまいました。

 私はなぜ決闘から目を離してしまったのでしょうか?


 あの子は一体どのような魔法使いなのでしょう?

 ブルート君の技を完全にコピーしてさらに何倍もの威力にしたのです。

 あれだけの大きさだとグラン級は悠に超えてエクス級ですよ。


 ブルート君は、単細胞ではありますが、あれで姑息、いや狡猾な面を持っていますので戦い前に相手の情報を得ることについては、手を抜くことはしないと思うのですよね。

 したがって、あの紫の子のことを『色付き』だと確信したことは、まず疑いありません。


 俄然がぜん、興味が沸いてきました。

 決闘の結果が周囲にどう伝わるのかはわかりませんが、立会人をされているのが1学年主任のクローニ先生です。面識はほとんどありませんが、彼は、現実社会のしがらみよりも学園の在り方を重要視される教師と聞いています。見た目はかなり胡散臭い方ですけどね。

 で、あるならば、あの子にとって不利な結果にはしないはず。

 私は、急いでマジックボードを取り出しました。

 制服のポケットにも入るほどの薄型軽量タイプでの最新版で大理石製ですよ。値段は知りません。


 調べるのは、貴族籍の新入生情報。

 はい、目ぼしい貴族籍の子たちはすでにこの学園に在籍済みです。

 ということは、あの子は平民出身というのが濃厚ですね。

 どこかの商会の子か、冒険者の子か、はたまた辺境の村の子か……

 流石に、そこまでは調べられません。


 ですが、まだ調べることはあります。

 シアン寮。そう、平民寮の空室情報です。


 ……良かった。定員一杯です。

 これで、あの紫の子がこのマゼンタ寮にやって来ることが確定しました。

 1人で大きな荷物を抱えているので、遠方からやって来てこの学園の寮に入ることはまず間違いないですからね。


 そうとなれば、これから急いでやるべきことがあります。


 どうしましょう!?

 あの子が欲しい。


 側近にこのあとのことを相談すべきでしょうか?

 いえ、やめましょう。


 いつもの「探索」の訓練と称し、準備をしてもらいましょう。

 決闘しましょう。

 そうしましょう。


※17時にアップするものはこの回の後編になります。

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