考察シリーズ:戦前日の丸船隊 1万トン級タンカー
戦前日本の商船隊における優秀タンカーは概ね1万トン級であった。
その中でも一大勢力を誇ったのは川崎型油槽船であり、同型船13隻という大所帯であった。
1932年の船舶改善助成施設によって造船不況から一気に活気づくこととなった日本海運業界であったが、これは貨物船と貨客船が助成のターゲットでタンカーはそれに含まれていなかった。
しかし、これに帝国海軍が一枚噛んできたことで話が変わってくる。
元々、船舶改善助成施設という政策は帝国海軍が戦時において徴用することを前提としたモノで、設計段階から特設巡洋艦などに改装することが前提とされていたモノだ。靖国丸などがその代表例と言えるだろう。
そして帝国海軍はタンカーに対しても同様に徴用・特設艦艇としての運用を前提とした要目を突きつけ、これを軍艦建造で定評のある川崎重工業(川崎造船所)に請け負わせた。
当然その設計には艦政本部が大きく介入指導している。
海軍の介入で船舶改善助成施設適用の同型船、優秀船舶建造助成施設適用の同型船と時期によって助成に違いがあるが、国策として建造された優秀船舶であるのはいずれにしても変わらない事実である。
34年から続々と竣工し、40年までに12隻が出揃い、43年に追加分が竣工している。
また、川崎型油槽船と同規模の1万トン級タンカーが別途同時期に6隻建造されている。この中には出光商会などが出資して設立した昭和タンカーが運用した日章丸も含まれる。
さて、この1万トン級タンカーの輸送能力とそれらがどれだけの石油製品になり、どれだけの消費を支えるかざっくりとした数字を示してみよう。
原油の比重は概ね0.8であり、1万トンタンカーは載荷12,000キロリットルと比定可能だ。
製油所での生産ロスは概ね10パーセント程度であるから11,000キロリットル前後が製品化対象となる。
これに製品別生産比を考慮すると、以下のようになる。
1,航空用ガソリン:1,600キロリットル
2,艦船用重油:5,200キロリットル
3,軽油/潤滑油など:4,200キロリットル
航空用ガソリンについては帝国陸軍の燃料消費実績から考えれば戦時では1日半から2日程度の消費量ということになる。艦船用重油については大和型の重油タンクの85パーセントを賄う数字である。
ちなみに北号作戦で伊勢と日向が持ち帰った航空用ガソリンが2,200キロリットル程度である。
これを規準にいえば、帝国海軍の12隻の戦艦を同時に動かすためには川崎型油槽船13隻が1往復してやっと得られる数字だということがわかる。
確かに川崎型油槽船が1隻いれば大和型2隻を賄えるけれども、逆に言えば海軍が徴用すればするほど本土への原油還送に支障が出るわけだ。当然のことだが、全艦隊を動かすためには相応なタンカーを必要とするし、それの備蓄が必要となる。




