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【今更~&ありがとう~】 恋文~昴流&月代編~

『今更抗うのも面倒なので流されることにしました。』と『『ありがとう』は俺の言葉』の昴流&月代のお話になります。


時期的には『『ありがとう』は俺の言葉』の後のお話になります。

「ねえ、お父さん」

「ん?」

「お母さんの遺品整理していたらこんなの出てきたんだけど」

オルゴール箱を目の前に置く乙姫(おとき)


天板に天の川が彫られたその箱には見覚えがあった。


初デートの時に俺が月代に贈ったものだ。


そういえば、月代がコレを時々開けては微笑んでいたよな。

一体、何が入っているのだろうか。


持ち上げて軽く振るがカチカチとオルゴール部分の音しかしない。


「乙姫は中身を見たのか?」

「うん、鍵は(ひこ)が預かっていたんだって」

「彦星が?」

「『絶対にパパには内緒よ。パパに渡しちゃだめだからね』って言われていたらしいんだけど……好奇心には勝てなかったんだよね~」

あははと笑いながら小さな鍵を俺の手のひらに置く乙姫。


「お母さん、ずっと大切にしていたんだね」

そう言い残して友達と出かけてくると元気に部屋から出ていった。



鍵を鍵穴にさして回せばカチリと小さな音が鳴り開いた。

蓋を開ければ月代が好きだと言っていた曲が鳴り出す。


暫しオルゴールの音色に耳を傾け、箱の中を見ると複数のカードが入っていた。


カードを取り出し、一枚一枚中身を見て、思わず口を手で覆う。


「全部残していたのか?」


カードは全て俺が月代に贈った物だった。


誕生日カードはもちろん。

入院している時に贈った花に添えていたもの。

退院した時に渡した花束に添えていたもの。

婚約した時に指輪に添えたもの。

結婚した時のもの。

毎年の結婚記念日のもの。

彦星と乙姫を身ごもったとわかった時に感謝の気持ちを込めて贈ったもの。

無事に子供たちを出産した時の喜びを込めたもの。

子供たちの入学式、卒業式の時に渡したときのもの。


先は長くはないと医者に宣告された時に贈ったもの。


全部


俺が送ったカードが……この箱に納められていた。


ふと、このオルゴール箱にはからくり仕掛けがあるということを思い出した。


底蓋を少しずらすと板が外れ、中から1通の手紙が出てきた。


あて先は『一条昴流さま』


俺宛の手紙だ。



『 昴流さんへ

  この手紙を見つけたという事は、私はもうあなたの隣りにはいないのね。

  そして、あのカードの山が見つかったってことね。

  あのカードは私の宝物だった。

  だから誰にもこの箱を触らせなかったの。


  私は生まれつき病気を持っていて成人できるかもわからなかった。

  ずっと成人することなく死んでしまうんだって思っていた。


  でも、あなたと出会って『生きたい』って思うようになったの。

  あなたが話してくれた日常がキラキラと輝いて見えていたあの頃。

  常に死と隣り合わせだった私の生きる希望だった。


  高校で再びあなたを見かけた時は『また会えた』って密かに喜んでいたの。

  表には出さなかったけどね。

  あなたも気づかなかったでしょ?


  私の双子の妹があなたをターゲットにしているって知った時

  正直、心穏やかじゃなかった。

  私に『生きたい』という希望を与えてくれたあなたを取られたくないと思ったの。


  あの時はあなたを『兄』のように思っていたから『兄』を取られたくないのだと思い込んでいたの。


  あの時の私は再び発病して死を身近に感じていたから……

  長くは生きられないって絶望を抱いていた


  でもそんな私にあなたは再び私に『生きたい』と思わせてくれた。


  あなたから告白された時、本当はすぐに頷きたかった。


  詩織ちゃんからあなたの事を聞いて『兄』として好きなんじゃないって気づいていたから。


  『兄』としてではなく『異性』としてあなたに惹かれていたんだって。


  何度も入退院を繰り返している私にあなたは優しかった。

  その優しさが辛い時もあった。


  私よりも相応しい人はたくさんいるのにって


  それでも私はあなたの手を突き放すことが出来なかった。


  新薬が出来て、普通の生活が送れるようになった時は神様に感謝したわ。

  まだあなたと生きられるって。


  あなたからプロポーズされた時、本当に嬉しかった。

  あなたと出会うまで諦めていた夢がまた一つ叶ったのだから。


  子供を授かったとわかり、医師に諦めるように言われた時

  あなたは必死に医師を説得してくれた。

  産みたいという私のわがままを聞いてくれた。


  正直に言うとね

  子供が出来たってわかった時、産みたいと思う気持ちと産んでいいのかなという気持ちが半々だった。

  また病が発病して産んであげられないんじゃないかとか。

  私のように生まれつき病気持ちで生まれるんじゃないかとか。

  いろいろ悩んでいたらあなたは言ってくれたわね。


  「月代が願えば必ず叶うから」って


  その言葉に勇気を貰ったの。

  あなたの言葉はいつも私に『生きる』道標になってくれていた。


  病が発病する事もなく、子供たちを無事に産み育てることが出来た。

  あなたに似て、病気一つなく丈夫に育ってくれてよかった。


  まさか、子供の成人式を見られるまで生きられるとは思わなかったわ。

  

  再び病が発病し、根治は無理だろうと言われ時、時間切れなのねって思ったの。


  本来なら20まで生きることが出来ないと言われていた。

  それが、大好きな人と結婚し、子を成し、子の成長を見れたのだから後悔はないわ。


  ただ、残念なのが孫が見られなかった事ね。


  本当、昴流さんと一緒にいると欲が出ちゃうわね。


  ねえ、私は孫を見る事はできないけど、あなたはちゃんと孫の成長を見届けてね。


  あの子達や孫たちの土産話、楽しみにしているわ


  また再び会えるその日まで……



                            月代 』


  

ポツリポツリと水滴が手に持つ手紙に吸い込まれていく。


月代の書いた文字が滲んでいく。


慌てて水滴をふき取り、手紙を箱の中にしまう。


カードをもう一度見ると、裏には月代からの返事が書かれていた。


全部が全部嬉しいという気持ちじゃないことがわかる。


『また入院。今度はどれくらいだろう』


『やっとまた昴流さんと出かけられる』


『こんな体に生まれたくなかった』


『離れなきゃいけないのに……』


『早く昴流さんを解放しなきゃ』


『それでも昴流さんの優しさに縋ってしまう』


『夢なら醒めないで』


『もう少しだけ……生かせて』


『本当に夢じゃないのね』


『ありがとう』


最後に贈ったカードには『また、会えたらいいな』と書かれていた。




***


「ねえ、彦」

「ん?」

「お父さん、書斎に籠って何やっているの?」

「母さんへの恋文(ラブレター)を書いているんじゃない?」

「は?」

「乙が昼間渡したオルゴール箱に入っているカードを読んだって言っていたからね」

「え?だってあれってただのカードでしょ?」

「乙……あれは、父さんから母さんへのラブレターじゃないか」

「へ?」

「文面はありきたりな文面だったかもしれない。だけど、あのカードには父さんから母さんへの想いが詰まっているんだよ」

「……乙女思考だ……」

「乙には理解できないだろうけどね」

「なんですって!?」

「僕ですらあのカードが恋文に相当するってわかったのに……乙、一生結婚できないね」

「別にいいわよ!私は二次元に生きるのだから!!」

「それじゃ、いつまでたっても父さんは母さんに会いに行けないって嘆くよ?」

「うっ」

「僕はやっと気持ちの整理がついたからね。近々結婚するよ」

「はぁ!?」

「母さんが唯一心残りにしていた夢を叶えようと思ってね」

「いつの間に……」

「父さんに孫を抱かせろって言われた時から考えていたんだ」

「それって去年からってこと?」

「うん」

「……相手は誰?」

「乙もよーっく知っている子だよ」

「……まさか」

「今度父さんを交えて食事をしようかと計画中。日程が決まったら乙にも連絡するからね」



***


リビングからにぎやかな声が聞えてくる。

彦星と乙姫が騒いでいるのだろう。


いくつになっても騒がしいやつらだ。


なあ、月代。

俺がお前と再び会えるのはまだまだ先になりそうだが、待っていてくれるか?


またお前に会える時は、お前の好きな花と俺のありったけの想いを込めたカードを贈るよ。


それまで、俺達を見守っていてくれ。



5/23は恋文の日という事でふと思いついたのでばーっと書いちゃいました。


まあ、いろいろと矛盾点が増えているけどね…ヾ(--;)ぉぃ


彦星君の相手はご想像にお任せします。お好きな子を当ててください。

(書く予定はない。彦星が断固拒否しているので)


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