【最後の召喚&結ばれたイト~番外編】おじちゃんたちの話は本当だった
『最後の召喚』と『結ばれたイトの先(仮題)』を読まれていることが前提です。
ですが、主人公'sは登場しません。
彼・彼女の知り合い(?)が主人公です。
ほんの30秒前までは学校の教室にいたはずだった。
友人と馬鹿な話をして放課後を過ごしていたはずだった。
友人がスマホで写真を撮った瞬間にまばゆい光が教室内を包み込み、光が収まったら見知らぬ場所にいた。
友人たちと共に……
全員が茫然とあたりを見回し、互いの頬を抓り始めた。
どうやら、俺を含め全員が夢を見ていると思ったらしい。
しかし、つねられた頬は痛みを伴い赤くなった。
「ここはどこだ?」
俺のつぶやきに友人たちは無言で首を振る。
いままでいた教室の面影はひとかけらもなく、四方を白い石で覆われ、窓もなく、等間隔で配置されている照明は蝋燭に灯された炎。
昔、伯父が出演していた作品にこのようなシーンがあったような……
「これはいったい……」
静まり返っていた部屋に驚きの声が響いた。
声がした方を振り返って俺は驚いた。
「お、伯父さん……じゃないよな。伯父さんより若い……髪の色も違う……」
扉らしきものの前に立っていた人は俺の伯父にそっくりの顔をしていた。
だが、伯父ではない。
なぜなら、彼は俺達と同じくらいの青年だったからだ。
***
ところ変わって、俺達はきらびやかな広間に連れてこられた。
中世ヨーロッパの城に似ている。
友人たちはキョロキョロとあたりを見回してはいるが、言葉を発することはなかった。
いや、声を出すことが出来ないようだ。
身振り手振りで俺に助けを求めて来たからな。
友人たちの必死の身振り手振り(ジェスチャーゲームになってしまい最終的には面倒くさくなって筆談になった)でわかったことだが、どうやら俺は『日本語』ではない言葉を話しているようだ。
しかしなぜ、俺だけ声が出るんだろう?
それに俺は普通に『日本語』で話しているつもりなんだけど、友人たちには聞きなれない言葉らしい。
広間では先ほどの青年が一段高い席に座って俺達を見下ろしていた。
多分、俺の予想が外れていなければあそこは玉座と呼ばれる場所だろう。
そして、俺達は信じたくはないけどタイムスリップしたか異世界に誘拐されたのだろう。
本来ならパニックに陥っていてもおかしくない状況で俺が冷静でいられたのは母のおかげだろう。
幼い頃からありとあらゆるジャンルの本を読んでいたし、アニメやゲームにものめり込んでいる。(現在進行形)
その中でも異世界移転やら異世界転生の物語を母はこよなく愛し俺にも読むよう強制している。(同じく現在進行形)
そして、その作品のキャラのコスプレをさせられ、年に二回大きな祭りにドナドナされ、多くのカメ子達の餌食になっている。
母から出るバイト代が破格だし、俺自身別人になり切ることの面白さを伯父から教わってからは母の要望を可能な限り応えるようにしてる。
さて、玉座に座っている青年の隣りに立っている偉そうなおっさんの話によると、やはり俺達は異世界に誘拐されてきたということだ。
うん、あえて『召喚』とは呼ばず『誘拐』という。
おっさんがそう言っているんだからそうなんだろう?
俺が言ったわけじゃない。
偉そうなおっさんが『君たちを誘拐したのは……』って説明してくれたんだよ。
ちなみに犯人は十数年前に『召喚』された『神子(偽)』と呼ばれる人の力(魔力というらしい)が暴走したらしい。
本人は本物の『神子』だと主張しているが、神官長曰く『神子補佐』が本当の役職なので『神子』の後に(偽)が付くという。
なんじゃそれっと思ったが、案外この世界では浸透している事らしい。
この国以外にもあと4人ほど『神子(偽)』が存在するらしい。
力が暴走した原因は不明だけど、二度と起こらない異世界からの誘拐が起きて上層部(特に神殿側)は右往左往しているらしい。
一通り話を聞いた後、俺はふと気になることがあり聞いてみた。
「発言を許して頂けますか?陛下」
玉座に座る青年に視線を向けると驚いたような表情を浮かべていた。
友人たちも驚いた表情をしている。
玉座に座る青年が小さく頷くと偉そうなおっさんが許可を出した。
「確認したいのですが、ここはクインディア大陸でしょうか」
「そうだ。ここはクインディアの西側にあるウェス国。通称西国と呼ばれているが……異世界のそなたがなぜ知っている?」
一気に眉間に皺を寄せるおっさん。
うわ~、真殿のおじちゃんと、春江のおっちゃんたちが言っていた事って本当だったんだ。
まーじーかー!
よし、無事に元の世界に帰ったら二人に話してみよう。
「エドガルド=エアハルトとウィンド=デリウスという名に心当たりは?」
俺の出した名前におっさんが興奮気味に食いついた。
エドガルド=エアハルトは先代国王の護衛騎士兼先任の神殿責任者。
度々暴走(脱走)する先代国王の首根っこを摑まえては執務室の椅子に座らせていた強者らしい。
現在は隠居している先代国王について、神殿関係の職を返上(騎士の方は残している)し幼馴染達と一緒に離宮で先代国王のお守りをしているという。
今回の事件のことについて相談すべく、宰相が呼び出し現在離宮から王都に向かっているという。
離宮から王都まで片道7日間かかるという。
ウィンド=デリウスは隣接している中央国と呼ばれる国の魔石研究の第一人者だという。
あ、魔石っていうのは要約すると不思議な力が込められている石の事らしい。
一時期は魔石研究所の所長として中央国の発展に貢献していたらしいが研究所の後継者が出来るとさっさと第一線を退いたという。
現在の中央国の王弟だが、自由奔放でふらりと奥さんと子供を連れてあちこち魔石発掘の旅に出ているらしい。
て、まだ二人ともこっちで存命なのかよ。
てっきり、彼らの死後だと思ってたのに…………
ん?でも、彼らから聞いた時期よりかは少し後の時間か…………
じゃあ、あの人のことは知っているかな?
「では、ジュリ=ドウモトは?」
俺が出した名前に、広間が静まり返った。
幼い頃、真殿のおじちゃんと春江のおっちゃんから聞いた嘘か本当かわからない話が真実であったという確証に繋がった。
真殿おじちゃんと春江のおっちゃんは『前世』の記憶を持ち生まれてきたという。
春江のおっちゃんは『前世の記憶』を友人に話し、気に入ったその友人はそれを映像化させた。
それに出演していたのが俺の伯父。
幼い頃に見せられたその映像が実は異世界で実際に起こっていたことを元にしたものだと話していたのが真殿のおじちゃんと春江のおっちゃん。
信じるか信じないかは自分で判断しろって言われたから作り物だと思っていたけど……
本当のことだったことに驚いたわ!
「なぜその名を?」
今まで黙っていた玉座に座った青年-多分国王だろうね-が険しい表情で俺を見つめてきた。
俺は笑みを浮かべた。
友人達は俺の笑顔に顔色を悪くしているが気にしない。
「そなたはなぜ、真の神子の名を知っている?」
青年の言葉に微かな歓喜の音が混じっている。
きっと、青年は彼女と少なからず関わりが合ったのだろうな。
俺はニヤリと口許を緩ませた。
「先程あげた二名から聞いていたからです。もっとも、ジュリ=ドウモト本人はこちらでのことは何一つ覚えていませんけどね」
俺の言葉に青年とおっさんは瞳を大きく開いた。
おお、人間、やろうと思えばそんなこともできるんだな~と変な感想が浮かんだ。
「といっても、エドガルド=エアハルト、ウィンド=デリウス本人からではなく、両名の記憶を持っている人達から聞きました。彼女がこの世界でどのような扱いを受けていたかも。ただ、一つだけお知らせしておきます。ジュリ=ドウモトは幸せに暮らしています」
「……そうか」
静まり返っていた広間に響いた青年の声に、どこからともなく安堵のような囁きが広がった。
「ええ、現在旦那さんと子供に囲まれて、笑顔の絶えない日々を送っております」
付け足したように言った俺の言葉に青年と宰相のおっさんがピシリと固まった。
「か、彼女は結婚したのですか?」
「ええ、してますよ。どれだけの歳月が流れていると思っているんです?まさか、ずっと独り身だとでも思っていたのですか?彼女がこちらの世界で奮闘したのは元の世界に待っている人がいたからだと語っていたと聞いていたのですがね~」
意地の悪い笑み(友人談)を浮かべた俺にこの世界の人たちは言葉を詰まらせたようだ。
「……で、話は変わりますが俺達は元の世界に帰れるのですよね?たしか彼女が使用した帰還用の陣があるはずですが……」
「あることはあるのだが……発動させるための魔力がごっそり減ってしまい現在どれほどで溜まるのか調査中です」
「では、その間俺達はどうすれば?」
「私の賓客としてこの王宮に留まってもらいたい。そして、教えて欲しい」
青年は高い位置から降り、俺の目の前に立った。
「彼女の……ジュリ=ドウモトのことを」
「俺の知る範囲でよろしければ……っとその前に友人たちの言語能力をどうにかできませんかね?ずっと俺が代弁するのにも限界がありますし……」
「ああ、それなら王立魔術学園の学院長が作ったブレスレットが役立つだろう。ジン、早急にファル・アルフェ特級魔導士に連絡をして人数分用意するように手配してくれ」
青年の言葉に部屋の隅に控えていたのであろうローブ姿の人物が駆けだしていった。
***
俺達が元の世界に戻るために必要な魔力が神殿内に溜まるまで7日間は有すると言われた。
その間、俺達は王宮内を自由に出歩く権利と希望者には騎士団での鍛錬に参加することもできるという。
友人たちはこぞって騎士団の鍛錬に参加するようだ。
もともと彼らは剣道部に所属しているし、全国レベルの強さだがもっと強い相手と戦いたい!と常々愚痴っていたから(いろんな意味で)大丈夫だろう。
あ、言語に関してはブレスレットをはめた途端に理解できるようになったらしい。
ただ、外すとまた訳の分からない言葉が聞え、話したくても声が出なくなるらしい。
ブレスレットは記念にくれるそうだ。
男がしていても違和感がないシルバーのブレスレットで友人たちは大変喜んでいた。
ちょっと羨ましいと思ったのは内緒だ。
俺は青年-やはりこの国の王だった-ユーグに彼女の話をせがまれている。
正直、彼女の話をすると彼女の旦那-俺の伯父-がもれなくセットでついてくるんだよな。
隠すほどのことでもないし、まあいいか。
その前に、この国と彼女の関係を洗いざらい聞き出すことにした。
結果、春江のおっちゃんから聞いていた話と大した相違はなかった。
ただな~
「叔父上はそれはそれはジュリのことを……」
とユーグが先代国王と彼女のことを熱弁してくるのだ。
どうやら、ユーグは先代国王と彼女の小説を読んでそれが真実だと信じているらしい。(実際には違う)
なによりユーグの母親が彼女の熱烈なファンらしく、隠し撮りされていた写真(こちらの世界では魔写とよばれているらしい)が大量にあった。
それを一枚一枚懇切丁寧に説明されたが、正直右から左にスルーしていった。
祖母と母が知ったら絶対見たいというに違いない代物が目の前に所狭しと並んでいる。
父の実家の本棚に似たような物が大量に納められているブツがあり、俺は幼い頃から何度も祖母の膝の上で見せられたものだ。
祖母(+母)と同類の人がこっちの世界にもいるのか~とどこか遠い目をしていた俺がいる。
***
俺が知る限りの彼女の話をするとユーグは首を傾げた。
まあ、話していた俺自身も彼女のこっちとあっちでの違いに首を傾げるけどな。
だけど、俺の知る彼女はあっちの世界での彼女だけだ。
「なんかユーグたちに聞いた話と俺の知っている彼女のイメージが上手く重ならない」
「うん、私もそう思う」
「記憶を消されているからかな?」
「どういうことだ?」
「これは俺の憶測だけど、こっちに来た『神子(偽)』って元々は俺達の世界の人間で彼女に近い危険人物だったんだよな?」
「本人たちは親友だと言っているらしいが」
「それはないね。あの人は一度でも懐に入れた人を見捨てることはしないよ。その人たちを見捨てて元の世界に帰ったってことは彼女にとって『神子(偽)』は害ある人物ってことだと思う。で、その人物が元の世界から消えたから本来の彼女に戻ったというか『素』を出せるようになった……と俺は思う」
「つまり、こっちにいた時の彼女は『神子(偽)』のせいであのような格好や性格をしていたと?」
「格好もそうだけど、がむしゃらに働いていたのはきっと早くその人達から離れたかったからだと思う」
「そういえば、『神子(偽)』派の意見と叔父たちの意見は全く正反対だったな」
ユーグが言う彼女はとにかくパワフルという言葉が似合う人物。
何事にも率先していていく人というイメージだ。
しかし、俺が知っている彼女は普段はおっとりとしているけど、やる時はやる人って感じなんだよな。
・・・あれ?
でも待てよ、もし彼女がこっちに来ていたのがその『やる時』だったとしたらなんとなくイメージが重なる。
そういえば俺は彼女が本気を出している所って見たことないような。
父や母、伯父たちから伝え聞いているだけだから実際に彼女が『やる時』の姿を見たことはない。
「そういえば『神子(偽)』はいまどうなっているんだ?」
「神殿の奥に閉じ込めてある」
「は?」
「適当な理由を並べて神殿の奥にある周囲の音を完全に防ぐ通称『遮音部屋』へ取り巻き(愛人達)と共に入れた。取り巻き達と楽しく生活している」
「それはそれでどうなんだ?」
「衣食住をちゃんと与えているから文句は言わせていないよ。それにやっていることは屋敷にいた頃から変わっていないから気にしていないみたいだし。それに、あの部屋は魔力を吸収するのに適しているからな」
にやりと黒い笑みを浮かべるユーグに俺はそれ以上『神子(偽)』について聞くことはなかった。
うん、聞かない方がいいと俺の中の危険レーダーが察知した。
「あ、そういえばこの間彼女と写真撮ったんだった」
話題を変えるために制服のポケットにしまってあったスマホを取り出し、写真フォルダを開くと真っ先に出てきたのが彼女とのツーショット。
ちなみに撮影したのは伯父。
これを撮る時、伯父はものすごーく嫌そうな顔していたけど彼女が取り成してくれて撮影できたんだよな。
撮影の後、甥っ子にまで嫉妬するなよって散々からかったけどね。
俺と叔父のやり取りを彼女は楽しそうに見ていたな。
スマホをユーグに渡すと瞳をキラキラと輝かせていろいろな角度からスマホを眺めていた。
「ジュリが持っていた物とは違うんだな。ジュリが持っていたのは確か、折りたためてボタンがたくさんついていた」
「日々進化しているからね」
「こっちは平べったいんだな。ボタンもない」
「画面を触りながら操作するタイプだからな」
「なるほど……叔父上が見たら分解されそうだから叔父上……いや、魔導省や魔術学園の人間には見せないようにした方がいいだろう」
「魔導省?」
「魔導の研究を行っている国管轄の機関のことだ。叔父上が王になる前に私財で作り上げた研究所をそのまま国で管理している」
「へー、面白そうだな」
「見に行くか?」
「いいのか?」
「もちろん」
母の影響か、俺自身ファンタジー……魔法とかに憧れているんだよな。
ユーグが部屋の隅に置かれている機械(?)に触れると一瞬光った後、立体映像が映し出された。
二言三言話した後、再び機械に触れると映像は消えた。
「よし、魔導省の許可は下りた。今からでも行けるけどどうする?」
「行けるなら行く!憧れていたんだよな~魔法と魔術とか。俺らの世界にはないものだから」
そういえばユーグは国王としての仕事はいいのだろうか。
移動途中でそれとなく聞くと
「大丈夫だ。朝と夜にまとめてやっている。昼間は君たちの話を聞くのが仕事だ」
さわやかな笑顔で言われた。
「あんまり無理するなよ」
「ああ、それは叔父上からも言われている。根を詰めすぎるな、適度に手を抜けってな。もっとも叔父上もジュリに同じことを言われたそうだけど」
くすくすと笑っているユーグは懐かしそうに笑っている。
「ユーグは彼女との思い出はあるのか?」
「彼女がこの国にいた時……父達が愚かな王位継承権争いをして命を落とした時、私はまだ5歳前後だった。叔父上以外の継承権を持つ成人男性が全員命を落とした。外祖父はまだ未成年だった私を担ぎ上げて私をお飾りの王にするつもりだったのだろうが、それを彼女が阻止してくれた。叔父上を焚き付けて私に子供らしい子供時代を送る時間を与えてくれた。私が彼女と直に接することが出来たのは一度だけ」
「一度だけ?」
「外祖父は叔父上とジュリのことを嫌っていたからな。私や母が叔父上やジュリに近づくのを悉く邪魔してくれた。ある日、私は監視の目を潜り抜けて叔父上たちがお茶会をしていた現場に突入した」
「は?」
「時々、叔父上の側近たちがジュリを着飾って、叔父上とのお茶会の場をセッティングしていたんだよ。叔父上の彼女への好意は周囲にダダ漏れだったらしいからね」
「よく摘まみ出されなかったな」
「まだ子供だったからね。彼女が構わないと言えば叔父上たちはすぐに私の席も用意してくれたよ」
その時の事は成長した今も忘れることが出来ないという。
「ふふ、もしかしたら私の初恋は彼女だったのかもしれないな」
「え?」
「私の婚約者は彼女に似ているとよく言われているんだ。姿形じゃなくて雰囲気がってことだけどね」
ユーグが言うには彼女との思い出はそれだけ。
あとは母親や叔父からこういう人だったという思い出を聞いて育ったという。
***
魔導省ではジュリオという人が説明をしてくれた。
後で聞いたら彼は魔導省の長官だった。
つまり組織のトップの人だった。
俺の第一印象は中間管理職のおっさんだったけどな。
上からの重圧と下からの突き上げで辟易しているように見えたからだ。
だが、彼の知識はすごかった。
一つ質問するとその倍の回答が来る。
話を聞いていて思ったのはこの人は魔術が好きなんだということだ。
彼だけじゃない。
魔導省に携わっている人全員が『魔術大好き』と口を揃える事だろう。
ジュリオさんの執務室でとあるノートを見つけた。
なんとなく手に取って開こうとしても糊でくっついているかのように開かなかった。
「それには術が掛けられているんですが、解除方法が見つからなくてね」
「解除方法って?」
「術を掛けた人が設定したように解除をしないとそのもの自体が抹消してしまうんだよ。まあ、一応10回まではチャレンジ可能に設定してあるみたいだけど。現在8回ほど解除を試みたけどすべて失敗。これ以上は誰も怖くて解除が出来ずにいる」
「ちなみにヒントになるようなものは?」
「伝え聞いたところでは彼女の本名を唱える……とか」
「……彼女の本名?もしかして『ツバサ=ドウモト』?」
ノートを持ったまま呟いたらいきなりノートが光り出した。
慌ててジュリオさんに渡すとすぐに光が収まった。
「か、解除されました」
ジュリオさんの言葉に、部屋のドアが勢いよく開いたと思ったら頭がつるつるで白いひげを生やしたじーさんが飛び込んできた。
「か、解除されたじゃと!?」
「師匠……どこから沸いたのですか」
ノートに飛びつこうとしていたじーさんをひらりと交わしたジュリオさん。
「異世界からの客がここに来ると聞いたから覗きに来たらちょうど聞こえてきたんじゃい!」
ジュリオさんが頭上に掲げたノートを奪おうとぴょこぴょこしているじーさん(めちゃ身長が低い。多分130~140くらい)を冷めた目で見つめているジュリオさん。
どうやらじーさんはジュリオさんのお師匠らしい。
「ええい!はよ、そのノートを見せんかい!このバカ弟子が!」
「そのまえに客人に挨拶が先でしょうが。彼が解いてくれたのですからお礼を言ってください」
ジュリオさんの言葉にじーさんはくるりと俺に向き合うと開いているのかいないのかわからないほっそい糸のような目がカッと見開いた。
思わず後ずさりした俺は悪くないと思う。
うん、いきなり目をカッと開かれたら誰だって驚くと思う。
「お前さん、ジュリの血縁者か?」
「え?」
「お前さんからジュリと似た魔力を感じる」
「…………ええ、彼女は俺の父方の叔母です」
「は?」
「え?」
「そうだったのか!?」
上からじーさん、ジュリオさん、ユーグの三者三様の反応が返ってきた。
あ、そういえば親戚だとは話していなかったなと、ただの知り合いという風に話していたからユーグは気づかなかったのか。
「お前さんの名前は?」
「堂元樹。こっちの世界ではイツキ=ドウモトかな?」
今更ながらに名前を聞かれた。
ユーグにすら聞かれていなかったな。そういえば。
名前も知らずによくもまあ、話が出来ていたなと今更ながらに思う。
ちなみに伯父の出ていたアニメの登場人物(女性)と同じ名前だと判明したのは役所に届けだした後だったらしい。叔父(父の弟)からの指摘で気づいたらしい。
本当は大樹と付けたかったらしいが、親父とイニシャルが同じなるとか何とかで樹になったと聞いている。
その後、じーさんを交えて魔導省の食堂で根掘り葉掘り叔母のことを聞かされた。
ユーグ達に話した事の繰り返しだったが反応が違うので面白かった。
叔母がすでに結婚し子持ちだと知った途端に、食堂にいたいい年の男共が机に突っ伏したのは何だったんだろうか。
ユーグに視線を送ると苦笑しながら肩をすくめるだけだった。
***
俺達が『誘拐』されて6日目の夜。
先王とその側近が王宮に到着した。
エドガルドさんだけを呼び付けたつもりが、先王もついてきたらしい。
先王は俺を見た瞬間、満面の笑みを浮かべて
「ツバサは元気か?」
と聞いてきた。
は?
ちょっとなんでピンポイントで俺に聞いてきた?
「お前はツバサの血縁者だろ?魔力のオーラが似ている」
まじか。
魔導省で出会ったじーさんと同じような事を言っている。
あ、でも叔母と似ているって言われてちょっと嬉しいかな。
俺は母似だから叔母とは似ている所がないから。
あれ?
でもこの人はなぜ、叔母の本名を言葉に出して言えるんだ?
春江のおっちゃんたち曰く『俺達は死ぬまで翼ちゃんのことをジュリとしか呼ぶことが出来なかった』って言っていたのに。
うーん、まあいいっか。
「はい、叔母は今、とても幸せに暮らしています。愛する旦那さんと子供たちに囲まれて」
にっこりと、真実を告げる。
先王の側近たちは一瞬にして笑みを張り付けたまま固まった。
石化現象を見るのは何度目だろう……
最初の謁見の間でのジークとその臣下達だろ。
社会科見学と称して見て回った王宮の各部署のお偉いさん達だろ。
伯母の話を聞きたがった元後宮に住まうジークの母親達だろ。
魔導省に勤めている魔導士達だろ。
あと、騎士団のムッキムキのおっさんたち。
騎士団のムッキムキのおっさんたちはその後、訓練場が破壊される寸前まで暴れたらしい(友人談。俺はすぐに逃げたから事後に知った)
みーんな、叔母の現状を聞くと石化する。
皆の中で叔母の時間はどうやら止まっていたらしい。
自分たちが年取っているんだから叔母も取っていてもおかしくないとなぜ思わないのかな~
「そうか、ツバサは息災か。ツバサの子はきっとツバサに似て可愛いだろうな」
そんな中、先王だけは満面の笑みを浮かべていた。
「残念ながら、叔母の子は皆父親似です」
「は?」
「叔母の子は全員父親にそっくりです。男も女も」
「へ?」
「叔母は子供たちが父親に似ていることを大変喜んでいるのですが、伯父は叔母に似た子が欲しかったと酒の席で愚痴っていると聞いたことがあります」
「……」
「写真あるけど見ます?」
制服のポケットからスマホを取り出すと、先王はすぐさま俺の目の前まで駆けてきた。
スマホの中には伯父一家の写真も多数入れてある。
何故かというと、伯父が子供たちに高校に入学するまで携帯を与えていないからだ。
現在中学1年と小学校5年だから携帯を与えられるのはまだまだ先である。
遊びに行くと70%の割合でスマホを強奪され、イトコたちのカメラと化す。
すぐに叔母が取り上げるが、カメラアプリ以外を使わないことを条件に俺が許可をしたことで俺のスマホには伯父一家の写真がたんまりとあるのだ。
もちろん、写真データは伯父にすべて渡してあるし、俺のパソコンにもバックアップは取ってある。
伯父が仕事の時に撮影することが多い(俺が伯父がいない時間を見計らって遊びに行くのも原因か)からだ。
伯父は基本、嫁馬鹿でもあるが子馬鹿(周囲には妻を溺愛し子煩悩な人と認識されている)でもある。
俺からスマホを受け取り、画面をみた先王がピシッと固まった。
画面を覗き込むと、ちょうど伯父一家全員が写っている写真だった。
そういえば、伯父さんと先王って瓜二つだよな。
春江のおっちゃんとエドガルドって人は全く顔のつくりが一緒だった。
思わず「春江のおっちゃん」と言いそうになったくらいだ。
ただし、俺がわかるのは外面だけだけどな。
春江のおっちゃんたちの生まれ変わりが本当(顔かたちがそっくり)だとすると、先王は伯父に生まれ変わってことか?
え?なにそれ……
昔、祖母たちが作った物語(同人誌)の中身そのものなんだけど?
え?マジ?
マジで!?
と思っていると、背後から先王の側近たちも覗き込んできた。
画面を見た彼らもまた石化した。
「ああ、数日前に写した叔母一家の写真ですね。叔母、幸せそうでしょ?」
にやりと笑う俺に、傍にいた友人たちが深いため息をついた。
そこそこと話しているが会話はしっかり俺の耳にも届いている。
「おい、堂元の親戚自慢が始まるのか?」
「いや、自慢したところで異世界だしな~」
「やつの親戚自慢の加害者ってどれだけいる?」
「さあな、やつと同じクラスになった奴はもれなく被害に遭ってきたからな」
失礼な。
自慢の親戚を自慢して何が悪い。
ぶっちゃけ両親よりも伯父家族はいろいろと規格外で話題に事欠かさないんだよな。
まあ伯父の職業がある意味特殊なのも要因だろうが……
叔母も伯父に負けず劣らず様々な逸話を持っているし、イトコたちも幼い頃からいろいろとやらかしているからな。
ちなみに、祖母が伯父一家の日常を同人誌で発表していたりする。
一応、伯父一家だとは分からないように書いてはいるけど、わかる人にはわかるんだよな。
「本当に幸せそうだな」
先王はスマホに写っている叔母の顔をなぞりながら呟いていた。
いつもなら、叔母たちの話をこれでもかって話す俺も、先王にはそれ以上話すことはなかった。
なんとなく、触れてはいけない部分に触れてしまった感じがするからだ。
***
誘拐されて7日目。
俺達は最初にいた場所に連れてこられた。
どうやら、この部屋は過去に召喚の儀を行っていた部屋らしく、長い間封鎖されていたらしい。
7日前、突如この部屋からものすごい魔力を感じた為、ジークが様子を見にきて俺達を発見したという。
おい、王様自ら赴くって……神殿関係者や魔導士協会の奴らを派遣するもんじゃないのか!?
ジーク曰く。
仕事の息抜きに散歩していたら強力な魔力を感じ取ったので覗きに来た。
ジークの従者による通訳。
仕事に飽き飽きしていつものごくサボるために城を抜け出したところ、神殿から強力な魔力を感知したため、見張り役の護衛騎士たちを巻いて神殿に突入し、君たちを見つけた。
ということらしい。
従者に「いい意味でも悪い意味でも先王にそっくり」と深いため息と共に愚痴られたのもこの6日間の間で何回あっただろうか。
「さて、魔力も十分だな。イツキ、ツバサによろしくな」
先王の言葉を皮切りに、この7日間(6日間?)の間に知り合った人達に別れを告げる。
といってもこの場にいるのはジークと先王と先王の側近と騎士団の若手(ジークの護衛)が数名だけ。
宰相のおっさんは俺達の存在が国民達に気づかれないよう画策しているという。
俺達の存在は王宮に勤めている人以外は知らないらしい。
厳しい箝口令を敷き、俺達の存在を外に漏らしたら即解雇だという通知も出していたという。
友人たちを見ると騎士団の若手の人達と熱い抱擁を交わていた。
俺はジークたちに叔母の話をせがまれて騎士団で稽古を付けてもらうことはできなかった。
まあ、俺は剣道部じゃないから別に……と思っていたけど実はものすごく羨ましいと思っている。
だってさ、魔術を少し教えてもらっても元の世界じゃ使えないじゃん?
使えないものを教わってもね~ということで、結局俺はこの世界で叔母の話をしていただけだった。
一通りの別れの挨拶を済ませると、俺達は浮かび上がっている魔方陣の真ん中に立つように言われた。
魔方陣の四隅には先王とその側近が立っている。
彼らが術を施すという。
過去に叔母を元の世界に戻した実績もあるので安心しろと言われているが、不安がないわけじゃない。
不安に思いつつも、足元で光る魔方陣に視線を向ける。
すると足元に家族の顔が浮かんだ。
「父さん?母さん?」
俺のつぶやきを皮切りに友人たちもそれぞれ見えているであろう人たちの名前を呟いていく。
「どうやら無事に繋がったようだな」
先王の言葉に視線を上げると彼は優しい笑みを浮かべていた。
「今見ている者達を心に強く浮かべろ。それが元の世界に戻る『道』となる」
「……叔母に伝えることはありますか?」
ふとそんな言葉が漏れた。
先王は驚きの表情を一瞬だけ浮かべ、小さく首を横に振った。
「彼女が幸せなら何も言う事はない」
先王の言葉に春江のおっちゃんたちの言葉を思い出す。
『彼女は何一つ覚えていないから今の幸せを掴んでいる。俺達はこの先、彼女が異世界の記憶を取り戻さないことを願っている』
叔母に話したところで叔母にとっては知らない人ってことか。
「では、最後にあなたの写真を撮らせてください」
「は?」
「この不思議な体験の記念に。ジーク、先王の隣りに並んでくれ」
俺がスマホを取り出すとジークはすぐに先王の隣りに並んだ。
素早くカメラアプリを起動し、二人並んだところでシャッターを押す。
綺麗に撮れていることを確認するとすぐに保存した。
スマホをポケットにしまうと魔方陣の光がさらに強くなり、まばゆい光が俺達を包んだ。
眩しさから閉じていた目を開くと、そこは俺達の教室だった。
時間はほとんど進んでいなかった。
***
あの不思議な体験から1週間。
友人たちから異世界での記憶が消えた。
ただ残っているのはブレスレットのみ。
俺だけが覚えている異世界での記憶。
還る直前に撮った写真は家に帰ってすぐに現像した。
母や祖母に見つからないようにデータは外部メモリーに保存し、印刷した写真共々隠した。
スマホの中から該当する写真は全て削除した。
ただ、真殿のおじちゃんと春江のおっちゃんにはデータを渡した。
写真データを見た二人は驚きつつも懐かしそうな笑みを浮かべていた。
今回の出来事は他人に話してもウソかマコトかはわからない。
それでも、俺はこの出来事を消したくないと思った。
祖母にそれとなく、こんな夢を見たって感じで話すと祖母はにっこりと笑って俺の頭を撫でた。
「いっちゃんのお話は私が責任をもって物語にしてあげるわね」
「え?」
「だって、いっちゃんは忘れたくないんでしょ?」
「う、うん」
「なら、おばあちゃんがいっちゃんの為だけの物語を書いた上げる。だから……」
キラリと光った祖母の瞳にちょっとビビったけど、祖母の事細かな質問にウソ偽りなく答えた。
なぜか昔から祖母には嘘が通じないから親族の間では祖母には絶対にウソをついてはいけないというルールが出来たほどだ。
嘘をつくと小遣いを減らされるという俺達にとっては死活問題が発生するからである。
そして数か月後、俺の手元には一冊の本が届いた。
祖母にはジークたちの容姿は伝えていなかった(質問項目になかったから)のに、祖母の書いた物語にかかれた挿絵の彼らの姿は俺の知る彼らだった。
いつか、異世界での出来事は忘れてしまうかもしれないけど。
この本がこの世界とあの世界を繋ぐ唯一のモノになるといいなと思っている俺がいる。
しかし、なぜ俺があの世界に連れて行かれたのかは終ぞ知る術はなかった。
余談
一緒に異世界に行った友人たち(全員剣道部所属)は、各種大会で『負け知らずの剣士集団』と呼ばれるようになっていた。
最後は上手くまとめられることが出来なかったけどあえてそのままで…(゜-゜;)ヾ(-_-;) オイ
主人公君(堂元樹)がひょっこりと顔を見せたと思ったらあっという間に書きあがってしまった作品。
一番驚いているのは作者の私だったりするσ(^_^;)アセアセ...
ある意味ストレス発散にはなったが…ヾ(--;)ぉぃ
なぜか、『最後の召喚』関係(結ばれたイト~を含む)のキャラは私の脳内に訴えてくる。
が、基本無視しているのだが……ストレスがたまると書いてしまうorz
基本、小話に納められている話は9割がたおふざけで書いてあるので軽く読み流して頂けると助かります。




