【最後の召喚&結ばれたイト~小話】 髪飾りの贈り主(真殿和馬視点)
『最後の召喚』と『結ばれたイトの先(仮題)』のコラボ小話です。
サブタイトルは適当です(`・ω・´)ゞ
イトコの日向黒兎が彼女を連れてきたのはホワイトデーが10日ほど過ぎた頃だった。
俺の記憶に残っている彼女とは印象がだいぶ違っていた。
昔、出会った時は、どこか諦めたような寂しそうな笑みを浮かべていたが、今目の前にいる彼女は心の底からの笑みを浮かべている。
まあ、その笑みを引き出しているのがイトコ殿なのは確かだな。
彼女は秋頃、手にした髪飾りの贈り主を探しているという。
誰がなぜ自分に贈ったのか知りたいと友人知人に聞きまくったが誰も知らないと……
そこで髪飾りのデザインが俺の会社『B.R.』の初期の作品に似ているという事で俺に話を聞きに来たらしい。
現在は大量生産しているが昔は完全オーダーメイドでやっていたからな。
もっとも黒兎も誰が彼女に贈ったのか気になるのか、彼女の相談に乗るふりをして俺のところに来たのだろう。
もちろん、俺はその髪飾りの贈り主を知っている。
正確には『真殿和馬』としては知らない。
だが、生まれ持った『真殿和馬のモノではない記憶』の中に髪飾りの贈り主が存在している。
突然だが、俺には『前世の記憶』というモノがあるらしい。
小さい頃はただのリアルな夢だと思っていた。
だけど、大学時代に知り合った春江絵斗との出会いで『リアルな夢』ではないと思うようになった。
絵斗は幼い頃から繰り返し見る夢を友人の近藤たちに話しては話題のネタをよく提供していた。
それがきっかけで近藤は脚本家への道へ進んだんだからスゲーよな。
近藤は今では黒兎が大変世話になっているアニメなどの脚本家様だ。
大学時代ふとあることがきっかけで絵斗がよく見るという夢の話になった。
絵斗が話す内容は俺が持つ記憶に酷似していた。
絵斗の話す話に登場する人物と俺の記憶にある人物の名前がぴったり一致していたのだ。
ただの偶然なのか、酒の席だったこともあり俺の持つ記憶の話を絵斗にすると驚いたような顔をしていた。
それから時々、絵斗とは夢の話をするようになった。
今年の春、絵斗から『あれは夢じゃない。前世の記憶だった』って言われた時は絵斗をどの病院に連れ込もうかと真剣に悩んだ。
しかし、絵斗が『前世の記憶』だと決定づけた人物を見た時、俺の記憶も『前世の記憶』だとすんなり受け止めていた。
絵斗に誘われて遠目に彼女・ジュリ(本名:堂元翼)の姿を見た時、不思議と『ああ、あの時(いろいろと)迷っていた俺を救ってくれた彼女だ』って思った。
もっともこの時、黒兎の片思いの相手(翼という名前だけしか知らなかった)だとは分からなかったけどね。
彼女を遠目に見た時はまだ過去の俺達に出会う前の彼女だった。
次に彼女を目にしたのは夏休みだった。
七海が連れまわしているのをこれまた遠目で見かけただけだったが、かなり雰囲気が変わっていた。
初めて見かけた時よりも表情が明るくなっていた。
ちょうどその頃、黒兎から頼まれていたのが『魔導士の証』の水晶を治めるペンダントトップの制作だった。
翼ちゃんがいつもポケットに無造作に入れているらしいと七海から聞き俺に依頼してきた。
四カ国(北・東・南・西)分だとわかっていたからクローバー方の形にした。
前世の俺と絵斗が暮らしていた『クインディア大陸』の形がクローバーに似ていたからだ。
出来上がった物を黒兎に渡すも、タイミングが合わないとかで七海が彼女に渡したそうだ。
水晶がぴったりと納まったことに驚いていたようだが、実は俺も絵斗も彼女が持っている水晶と同じ物を持っていたりする。
俺達は生まれた時に握り締めて生まれてきたという。
病院では一時期大騒ぎとなったらしい。
水晶を俺から取り上げようとすると大泣きして暴れるが、握らせると大人しくなるという事で『この水晶はこの子の安定剤なのだろう。不思議なこともあるもんだ。誤飲させないよう十分に気を付けなければ』ということで落ち着いたらしい。
今では俺も絵斗もピアスにして常に身につけている。
小さい頃は常に傍にないと落ち着かなかったが思春期を過ぎるころには自分を飾るアクセサリーとしてしか水晶を認識していなかった。
俺も絵斗も水晶のことを思い出した時、互いに何とも言えない表情を浮かべていた。
まあそうだよな。
魔法・魔術という概念がないこの世界で『魔導士の証』なんてものは正直持っていても意味がないからな。
さて、話を翼ちゃんの髪飾りについて戻そう。
翼ちゃんの髪飾りの贈り主はヴィート・ウェス・クローチェ。
クインディア大陸の西側を治めていた西国の王だ。
彼女が西国に召喚された時、西国は急増した魔獣と王位継承権争いで国が荒んでいた。
だが、彼女の助言(表向きは神子と呼ばれていたマリ・イシヅカの発言)で急速に問題は片付いていった。
実質1年ちょっとで国の運営がまともになっていた。
急激な変化の裏にいる彼女の存在に気づいた各国の上層部(神子の取り巻き以外)は幾度となく彼女へ手紙を送っていたらしいが全て神子の取り巻き達に握りつぶされていた。
そのことを知ったのは彼女を追いかけて各国を回っていたアルヴィスタ・エルマンの各国の魔導士協会の会長宛への報告書で発覚したという。
魔導士協会の会長たちは神子たちを問い詰めたが知らぬ存ぜぬを通され、証拠もないことから苦い思いをしたらしい。
これは魔導士協会に所属している友人から又聞きした話なので真実はわからない。
彼女に贈られた髪飾りは俺がヴィートに頼まれて作ったものだ。
正確には、前世の俺が材料(宝石)を探し出し、前世の妻が加工し、前世の妹が装飾をしたものだが。
ヴィート曰く『彼女の瞳を表したもの』という何とも難しい注文をしてくれたものだ。
そもそも、俺達はヴィートの言う『彼女』とは正式に会ったことがなかったからだ。
ヴィートや彼の幼馴染から情報を聞き出し何パターンものデザインを描いたことか……(前世の妹が)
あ、俺とヴィートは留学時代に知り合った友人だ。
あいつは王位継承権が最下位だからって結構好き勝手にやっていたんだが……
人生何が起こるかわからないというのをあいつは実体験した。
それでもあいつの性格が変わらなかったのは幼馴染達の存在が大きいだろうが、それは今回は割愛しよう。
いつか絵斗が語ってくれると信じて……
「翼ちゃんが持っている髪飾りは俺が作ったものに間違いないよ。俺の知り合いに頼まれて作った」
正確には前世の俺がだけど。
「その人は今……」
真剣な眼差しの翼ちゃんと落ち着きのない黒兎。
「個人情報だから詳しいことは教えることが出来ないけど、これだけは言ってもいいかな」
お茶を一口飲んでまっすぐに翼ちゃんを見つめる。
「その髪飾りの贈り主は翼ちゃんをとっても大切に想っていた人だよ。ただ、もうこの世にはいない。その髪飾りは送り主と深い関わり合いがある春江絵斗によって君に届けられたんだと思う」
「春江先生?でも春江先生は知らないって」
「そういう約束だからきっとはぐらかしたんだろうね」
実際は違うが、ここではそうしておいた方が無難だろう。
あとで絵斗に口裏を合わせてもらうように連絡入れておこう。
「私はその人と仲が良かったのですか?」
「いいや?彼の一方通行……片思いだったはずだよ」
「え?」
「遠目で見た翼ちゃんに一目ぼれしたけど、声を掛ける勇気もなく陰ながら見守っていたというところかな?」
実際は『友人』の枠を超えるのが怖くて逃げていたヘタレだったけどな。
「なあ、和馬。それってストーカーじゃないのか?」
「いや、黒兎も知っているがもし、翼ちゃんに付きまとう変質者がいたらあの大地君が黙っていないと思う」
「あー、うん」
どこか遠い目をしている黒兎。
彼の翼ちゃんレーダーはすごいとしか言いようがない。
彼女に害のある人物は悉く葬られているからな……社会的に……
黒兎が無事なのは彼の彼女(婚約者)が黒兎の双子の妹という事と、彼が黒兎を認めているからだろう。
じゃなければ、黒兎も今頃どうなっていることやら……想像しただけで恐ろしいわ!
「大地君の翼ちゃんレーダーに引っかからなかったという事は無害な人物だったんだろう」
まあ、こっちの世界に存在していない人物だから大地君も気づくわけないけどな。
「あの、もうこの世にいないと先ほど……」
「ああ、すでに亡くなっている」
うん、死んでいるから今こうして新たな生を受けているんだよね。
俺も絵斗もヴィートも。
「名前を教えてくれませんか?」
「ごめんね。俺からは教えることはできない。でも、古くからの知り合いである絵斗なら教えてくれるかもしれないよ」
絵斗なら上手く誤魔化してくれるだろう。
丸投げしちゃうけどいいよな。
俺じゃこれ以上は無理。
ぽろっと話しちゃいそうだからな。
せっかく翼ちゃんはジュリと名乗っていた『クインディアでの辛い記憶』を封印しているんだ。
翼ちゃんにはこのまま黒兎と幸せになってほしい。
「その髪飾りの贈り主は翼ちゃんの幸せを何よりも願っていたらしいよ。翼ちゃんが想い人と幸せになれるといいなと言っていたと絵斗から聞いたことがある」
「え?」
「翼ちゃんの視線の先に誰がいたのか彼は知っていたってことだよ」
ちょっと茶化すように言うと真っ赤になる翼ちゃん。
そんな翼ちゃんを愛おしそうに見つめる黒兎。
いやはや、ほんの少し前までは『兄と妹』の関係が壊れたら~とビクビクしていた黒兎の姿はどこへやら。
今では周りの目を気にすることなく溺愛オーラを振りまく黒兎には呆れるばかりだ。
もっとも、その溺愛モードのおかげで彼の仕事先の人たちは彼をからかいまくっているそうだが……
本人たちが幸せならいいか。
後日、翼ちゃんは絵斗に問いただしたという。
絵斗はお得意の笑みを張り付けたまま、俺と口裏を合わせた設定で翼ちゃんを納得させたという。
髪飾りは現在、翼ちゃんの机の引き出しの奥に保管されているとか。
なんでも黒兎が自分以外が贈った物を付けているのが嫌だと遠回しに告げたらしい。
前世の自分に嫉妬しているとは黒兎も夢にも思わないだろうが……
物語的には前世で叶わなかった恋を今世で成就させたことになるのかな?
あれ?でもそうなると、ヴィート時代は来世の自分に嫉妬していたってことか!?
これはこれで面白そうだな……近藤あたりに話したら何かしらのアイデアになるだろうか。
今度話してみようかな。
黒兎には独占力が強いのは嫌われる原因になるから気を付けろとだけ遠回しに告げておいたがはっきり言って無意味だったと知るのはすぐのことだった。
意外と翼ちゃんも独占力が強かった。
それに、嫌なものは嫌だとハッキリ黒兎に告げているようだ。
ますます黒兎が翼ちゃんに嵌っていくのを俺達はただただ静かに見守るしかなかった。
***
【余談-和馬と絵斗の会話-】
「そういえば、和馬はいつヴィート=日向黒兎だと気づいたんだ?」
「翼ちゃんを見かけた時」
「それまでは気づかなかったと?」
「なんとなく似ているな~とは思ったけど、ヴィートはジュリに会うまで女にだらしなかったから一途な黒兎と女たらしだったヴィートが結びつかなかった」
俺の言葉に絵斗は飲んでいたビールを吹きだしていた。
「まあ、たしかに……ジュリに会う前のヴィートは来るモノ拒まずだったよな」
「そうそう、理想の女性に巡り合うため~とか言ってさ」
「でも、ジュリに出会ってからは一途だったぞ」
「まあ、その部分だけを見ればそっくりと言えばそっくりだよな。ヴィートと黒兎は!」
「一途さとヘタレ具合がそっくりだよな」
酒の席(絵斗の家で)だからか、前世と今世の違いをぐだぐだと絵斗と話していた。
「そういえば、アルドとカルロもこっちに転生しているの知ってるか?」
「は?」
「アルドは俺の従兄に、カルロは日向君のマネージャーに転生している」
「を!?」
「ちなみにアルドは彼女の学校の先輩として親しくしている。あとアルヴィスタ殿もアルドの友人になっている」
「まじか!?転生率半端ねえな!」
「俺が把握しているだけでもヴィート、アルド、カルロ、アルヴィスタ殿の4人だな。もっとも4人とも記憶は持っていない。持っていないが……堂元翼の周りにいる」
「……俺らが知らないだけでもっとあっちの世界の人間が転生しているかもしれないな」
「まあ、俺としては彼女が幸せならそれでいい」
「それは俺も同じだ。彼女には幸せになってほしい」
そのあとはヴィートと黒兎に関する話題でひとしきり盛り上がってその日はお開きになった。
【余談2―和馬と近藤の会話-】
「真殿~この間のアイデアだけど……」
近藤が一冊の本を取り出しテーブルの上に置いた。
「これは?」
中身を見ていいのか聞くと近藤は小さく頷いた。
ぱらぱらと中身を見るとどうやら脚本のようだ。
「七海ちゃんにお前のアイデアをチロッと話したら、自分たちのサークルで出していいかって打診されたんだ。私の方はこのアイデアの作品化は無理なんだよな。アイデアにあった『王のヒミツ』のヴィストの来世とイツキの物語いう設定は面白いと思う。だけど『王のヒミツ』はDVDの最終巻とキャラソンの発売をもって終了しているし、アフターストーリーは正直、ファンの間では好まれない。ファンとしては個人的にああなったのではないか、こうなったのではないかとファン同士で盛り上がりたいらしい。これは七海ちゃん談」
ああうん。七海ならそういうだろうね。
ちなみに近藤は俺と黒兎、七海がイトコ同士だとは気付いていない。
だが高校大学の先輩後輩であることは知っているし、黒兎が俺の店をよく使う(ほぼフルオーダーする)事から顔なじみであると認識はしているらしい。
一度俺と黒兎たちの関係を話したことはあったが、近藤の記憶から消えている。
なぜならあいつが酔っぱらっていた時に話したからだ。
近藤は酔っている間の記憶はきれいさっぱり消えるタイプだ。
ちなみに俺と絵斗は酔っていても記憶はばっちり残るタイプ。
黒兎は都合の悪いことはきれいさっぱり消し去るタイプだ。
七海は大地君に止められてから飲んでないからどうだっただろうか……
大地君は底なしのザル。
大地君曰く、堂元家は先祖代々ザルだそうだ。
「いいんじゃないか?」
「作中にある主人公の前世の設定は濁してあるから、わかる人にはわかる程度になるかも。もっとも、主人公の独白というかたちで作品を作るらしいから仕上がりがどうなるかは私も分からない」
「お前と七海って仲いいよな?」
普通、自分たちが作る作品の中身を話すことってないと思うんだが……
よくファミレスやファーストフード店で作品のアイデアなどを大きな声で話していて、後日、自分たちが作った作品と似たような作品が出回っていると知ると発表時期を調べずに盗作された~って騒ぐ奴らがいるらしい。
アイデアというものは口に出して誰かに話した時点で、他人のモノになりやすいものだ。
うちの店でも昔似たようなことがあったが、こちらは何年何月何日に発表とか発売って告知してあったし、デザイン画には常に日付とサインを入れ、さらに写メ(作品とデザイン画とカレンダー付時計とTV画面が一緒に写っているモノ)に残していてたから、相手側の訴えは退けられた。
しかし、一度掛けられた盗作疑惑は払しょくされてもマイナスイメージはしばらくついて回った。
……因縁つけてきたやつにはそれなりに制裁を与えておいた。
そういえば、あいつら最近まったく見かけないけどどうしたんだろうな。
「ん?ああ、私も七海ちゃんのサークルの一員だからな」
「は?」
「表向きには公表していないから知っている人は少ないが、私も七海ちゃんのサークルの一員として時々イベントに参加しているぞ」
「業界的にはいいのか?」
「仕事じゃなくて趣味のイラストを公表しているだけだからな。問題はないだろう。それに企業用作品とはしっかり名前を分けているし」
本人がいいというならいいんだろうな。
もう、そこら辺は突っ込まずにおこう。
「じゃあ、これは誰が書いたんだ?」
脚本を指で突くと近藤は苦笑いをしながら書いた人物の名前を挙げた。
「…………はい?」
「サークルメンバーの一人である堂元華さんが書いたモノなの」
「堂元……華?翼ちゃんと関係あるのか?」
「翼ちゃんのお母さん」
「はぁ!?」
翼ちゃんの母親ってことは、七海の将来の嫁ぎ先の姑さんってことだよな?
七海、お前どういう交流をしているんだ!?
「彼女、メンバー内の重役的ポジションにいるのよね。彼女の判断で作品の売り上げが大きく変わるのよ。彼女がゴーサインを出した作品はすべて即日完売、後日増刷しているのよね」
なに、その羨ましいスキル。
うちの作品にもアドバイスくれないかなとちょっと現実逃避。
アイデアは自由にしていいと告げたその場で、近藤は七海に連絡を入れ、次の大型イベントに間に合わせるために活動を行うと告げた。
別にイベントに参加すること自体は反対しないが……
七海、お前今年新社会人だろうが。
新しい生活に慣れるまで同人活動は控えた方が無難だと思うんだが……
と心配している俺を近藤は一蹴した。
なんでも七海主催のサークルは上は華さんから下は空君のガールフレンドまでと幅広い年齢層で、今回の作品は華さんを中心に行うから七海自身は制作にそれほど携わらないから問題ないという。
サークルというより、小さな企業だな~と思ったことは内緒だ。
まあ、本人たちがいいなら外野がいう事はないよな。
そして、後に知る。
華さん中心に作成された今回の同人ドラマCDは驚異の売り上げ数をたたき出したという……
以前から書く書くと言っていた絵斗と和馬の絡みを書きたかっただけの話のような気がしなくもない(笑)
作者自身も何人異世界から転生させたのか覚えていません。
当初の予定は5人のはずだったのに……
そして、初出し!『最後の召喚』の舞台となった国のある大陸名が!
大陸名はだいたい決めてあったのに出し忘れていたという(゜-゜;)ヾ(-_-;) オイオイ...
そしていまだに打ち間違えると……




