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第24話:集結

2025/12/15 一部改稿

(良かった・・・・・・倒せた・・・・・・)


意識が遠のいていく。身体の魔力が徐々に抜けていく感覚が分かる。

手足、身体が少しづつ20歳の身体に戻っていく。


(冬吾と煌夜くん、春臣くんが自分を呼ぶ声が聞こえる・・・・・・良かった・・・・・・無事だった・・・・・・自爆技なんて久しぶりに使ったなあ・・・・・・いつぶりだっけ・・・・・・)


身体中が痛すぎて、既に麻痺してしまっているが、脳だけは虚ろいながらも動いてくれた。


しかし、直ぐに限界がやってきた。


(ああ・・・・・・そうだ。バロルを連れていかれない様に4人の魔物と戦った時だったなあ・・・・・・)


微睡む意識の中で、懐かしい記憶が蘇って────けいは意識を手放した。





「さあ! 先に行って、京都の責任者にはけいちゃんの名前を出して、こちらの事情を言えば受け入れてくれる筈だから」


長い時間が過ぎていた。

出発するはずだった昼下がりの青空は、もはや藍色に沈み、空気には夜の冷気が満ちている。


崩壊した奈良の拠点に淡く灯る炎の揺らめきが見える。それが、未だに混乱が続いている事を告げている気がした。


軍用トラックの中でゾンビが倒されるまで耐えていた難民と隊員達が一度車の外に出て、負傷者などいないか確認をとっている。

人々の表情も一様にくたびれており、ゾンビたちとの絶え間ない戦いと恐怖が、身も心もすり減らしているのだと分かった。


時折、しゃがみ込む者や短い会話で気を紛らわす大人たちの姿が見える。


それでも、ようやくゾンビの軍団を制圧し終えた事により、夜闇を背にしての出発が叶った。


ユミルは難民たちが無事かどうか、もう一度しっかりと確認する。凍える子どもに毛布が配られ、母親たちは互いに寄り添っている。


彼女は吐く息が白くなるのを感じながら、軍用トラックの荷台から降りると――ふと何かに気付いて振り返った。


「ん? 時雨、どうしたん?」


時雨と、他の隊長たちも無言でトラックから降りてくる。


彼女たちは整列し、ユミルへと一斉に敬礼を送った。


月明かりが彼女たちの真剣な表情を無遠慮に照らす。沈黙しているが、どこか決意が見えた。


時雨が一歩前に出る。


「どこの拠点で世話になろうと、私達のリーダーは貴方です。必ず帰ってきてください」


静かに他の隊長たちも首を縦に振る。それぞれの眼差しが、ユミルには眩しく感じられた。

思わず「あはっ」と照れ隠しのように笑みを零す。


(なんだ・・・・・・私、ちゃんと自分の居場所、できてたんじゃん)


月の光に白く浮かぶ彼女の横顔は、短い沈黙の中で柔らかく揺れている。


「OK~。君たちの為にもちゃんと帰ってくるよ」


彼女の声が夜空に溶けていく。


冷たい風の中にも、どこか温かな想いがユミルの心に残った。


軍用トラックを見届けた後。


ヒカルはユミルに声を大にして呼びかける。


「ユミル! 俺と菊香はけいの所に行ってくる!」


「まてまて、あたしも行くし!」


その瞬間、二人の輪郭が赤い光に包まれ、爆発的な衝撃波が拠点全体を薙ぎ払った。


先ほどの余波より更に大きな衝撃波が場を包む。


咄嗟にヒカルは菊香を自分の背後へ隠し、ユミルの防御技を真似るように右手だけを前に構え、呪文を発する。


「ラウズ・フリングル」


右手から赤雷が流れ出す。

流れ出した雷はヒカル達を守る大きな輪と形を変え、輪の中は赤い雷が波紋のように広がる。


ユミルの「影の力」が「吸収」なら、ヒカルの「赤雷の力」は「破壊」。


それを守る為の力として扱う。


先ほどと同じようにコンクリートブロックや鉄骨が飛来するが、赤雷の盾がそれらを焼き焦がす。


・・・・・・静寂。


散らばる瓦礫と濁った空気の中、砂埃がゆっくりと沈んでいく。サラサラと微かな音を立てながら、粉塵が足元をすり抜けた——。


「ちょっと、あたしの技パクんなし!」


ユミルが頬を膨らませ、ヒカルにわざとらしく抗議するが、ヒカルは口をポカンと開けていた。


粉塵が落ち着き、視界が晴れた先。その空を見上げ、ヒカルは瞳を揺らす。


それは、空一面に浮かぶ、無数の朱い花の剣。

それは、闇をも焦がすほど鮮烈で、どこか儚げな美しさを持っていた。


その光景に、ヒカルが口角を下げる。

頭の奥で、何かが砕けるような音がして、こんなタイミングで過去の記憶が蘇った。


——赤雷と、朱色の剣。


あの世界で、あの時、自分とけいが共闘した記憶。

彼が身を呈して庇った時の冷たい体温、目に焼きついた惨劇、そのすべてが鮮明によみがえった。


「あれは、まさか・・・・・・ッ!」


とうとう、ヒカルの表情が歪んだ。


転生前。

魔王として覚醒する前。


魔王軍と呼ばれる組織に無理やり連れて行かれそうになったことがあった。幹部クラスの魔物が四人もやってきて、けいと共に死闘を繰り広げた。

 

だが、当時のまだ覚醒前の自分では、一人相手にするだけで精一杯で、そんな自分を守るために、けいは自爆に等しい魔法を使い、命を投げ出してくれた。


───そんな記憶が蘇る。


「おじさんっ! あれ、なに・・・・・・?」


菊香が、怯えを隠せない声で問う。

ユミルが顔を険しくする。

嫌でも、けいが無理をしている事が分かってしまい、不安に揺れる菊香を少しでも柔らげようと強く握り、声をかけた。


「2人とも! 行くよ!」


ユミルの掛け声と共に、ヒカルと菊香とユミルは崩壊した奈良の拠点の中へ駆け出した。





(頼む! 頼むから、無事であってくれ!!)


(お願い! けいさん、無事でいて!)


凍結され、一面が白銀となった奈良の拠点。


冬の寒さと相まって、本来なら身体が凍えるように寒い筈だが、先ほども戦闘を続けていた事もあり、そんな事はどうでも良かった。


ヒカルと菊香はけいの安否を直ぐにでも確認したく、白い息を吐きながら走る。


そして、辿り着き、目に入った光景に2人の表情は絶望に変わる。


凍った大地に横たわる、けい


そこには、class4の影は無く、勝利したのだと思ったのも束の間、無数の剣に貫かれ、血を流すけいの姿が3人の目に飛び込んだ。


けい!!!!」


けいさん!!」


ヒカルと菊香が凄惨な姿となっているけいの元へ慌ただしく駆け寄る。


すぐさま膝をつき、溢れ出る血の前にヒカルは着ていた上着を脱ぐと、ビリビリと引きちぎった。


千切った服を包帯のように手当出来そうな所を見つけては巻いていく。


しかし、勝利の余韻を味わう間もなく、けいの身体を貫いた剣たちは光の花弁となって消えていく。その傷痕から更に血が止めどなくあふれ出し、けいの顔から次第に生気が失われていくのが分かった。


「くそ・・・・・・クソッ、クソッたれ!!」


ヒカルの手が真っ赤な血で濡れていく。


苛立ちが言葉となって出てくるが、それはけいに対してではない。


肝心な時に役に立たない自分に苛立つ声で、それは悲痛さを交えていた。


菊香は涙を堪えながらけいの右手を強く握る。


ユミルが駆け寄り、叫ぶ。


けいちゃん! 今、回復させるから! こんな事なら回復魔法ちゃんと使えるようになっておけばよかったし・・・・・・!!」


ユミルは苦手とする回復魔法を、何とかけいにかける為に彼の胸に両手を当てる。

紫色の光がけいの身体を走る。


しかし、それはまるで空いた器に水を注ぐようだった。

けいの体からは、魔力がどんどん外に漏れ出していく。


「おかしい・・・・・・魔力を流してるのに、なんで止まらないの?!」


ユミルの叫びは夜の空気に吸い込まれていく。

彼女は何度も、息を荒くして回復魔法をけいの体に行使するが、バシュッというかすれた音が響くだけで、魔法は虚しく霧散する。


けいの身体の随所からは、相変わらず鮮血が絶え間なく溢れ出ていた。

苦悶の表情でユミルは歯を食いしばり、必死に原因を探る。


けいの心臓にそっと耳を当て、かすかな鼓動を確かめる。


微かに脈打っている――だが危うい。


そして――ユミルはそっと顔を上げた。


「ねえ・・・・・・ヒカルっち。キっちゃん・・・・・・けいちゃんの服、破るね」


震える声に、ヒカルと菊香は一瞬だけ怪訝そうな顔をしたものの、すぐにけいの魔力回路が原因だと悟る。


遅れて、冬吾たちもけいの元へ集まる。


冬吾は以前、けいから少しだけ話を聞かされていたが、実際に間近で見るのは初めてだった。


煌夜と春臣は互いに一瞥を交わしながら、何が起こっているのか不安そうに見守る。


ビリリとセーターを裂く音が響いた。

柔らかい布地の下から現れたのは、程よく引き締まったけいの肌。


そして、その心臓の上から波のように割れる酷い傷痕――。

それは切り傷とも違う。それはまるで、クレパスのようなひび割れだった。


亀裂の奥で、赤黒いマグマのようなものが脈打つ。


現実離れした光景に、皆が息を呑む。


「魔力回路が暴走してるんだ・・・・・・」


ユミルは震える手で口元を覆い、信じがたいものを見るような目でけいの蒼白な顔を見つめた。


埋め込まれている魔力回路を見るに、馴染んではいるものの、おおよそ碌でもないものだと悟る。むしろ、粗悪品。


魔法を行使する度に身体にダメージが入る代物だとユミルは理解した。

そして同時に、魔法の行使で負った傷を回復魔法で補っている事も理解して、とんでもない事をしているけいにユミルは畏怖ではなく、畏敬いけいの念を抱いた。


(こんな身体で、みんなを守ってくれたのか・・・・・・)


その時、冬吾が静かに膝をつき、けいの手を優しく取った。


「昔から、自分を大切にしないやつじゃの・・・・・・」


初めて見るけいの魔力回路の傷痕。


ヒカルも菊香も、視線をそらすことなく見つめるも、苦しげに眉をひそめている。


どんなに万能な力を持っていたとしても、けいを自分達の出来る範囲で守りたいと思っていた。


しかし、ヒカルと菊香はけいが、自分たちの手の届かない所で命がけの戦いをして、そして死にかけているこの状況に、2人の胸に重い後悔が締め付けられる。


二人は声もなく、けいの横に静かに座り込むだけだった。


「魔法でダメなら、物理的になら。ワシの氷で血を止めるしかない」


冬吾が悔しさを滲ませながら、けいの肌にそっと手を触れる。

蒼白い氷膜がピキピキと音を立てながら傷を覆い、ようやく血の流れが鎮まってきた。


ヒカルがけいを両腕でそっと抱き上げ、声を振り絞る。


「・・・・・・京都にすぐ戻るぞ。シグルなら、けいを助けられるはずだ!」


ユミルが即座に首を縦に振った。


「そうだね。直ぐにでもけいちゃんの様態を良くしなきゃだ」


「なら、おれは、担架を用意してくる」


春臣がそう言うと、「煌夜こうや、てめえは、渡が凍傷にならねえように、その炎でアイツの身体の体温調整をしてやってくれ」


「ま、まて、そんな微調整今までやった事ないぞ」


「なに、ビビッてんだ。やろうと思えば出来る。こいつを救えるのはお前らしかいねえんだ。守られた恩を少しでもさっさと返しな」


そう言って、春臣はその場から離れ、煌夜こうやはどぎまぎしながらけいへ近づき黒炎を手に灯す。


「あはは、煌夜こうやくん緊張しすぎ」


「す、すまない、こういう使い方は初めてなんだ」


緊張した表情で煌夜こうやけいの身体を温めようとすると、ユミルは「要はイメージだよ」と説明した。


「イメージ・・・・・・」


「そッ、イメージ」


「魔法も異能もさして変わらないんよ。どんな風に力を使いたいのか、どういう思いで力を振るうか、全て「心」次第ってこと」


そう言われ、煌夜こうやは周りを見る。


自分を頼る各々の視線が自分へと向けられる。


反乱軍としてのリーダーとしての責任とはまた違った責任に煌夜こうやは一度目を瞑って「よし・・・・・・!」と喝を入れた。


そんな、皆を優しく撫でるように花が吹いた。





誰もが疲れ果てていた。


それでも、一番の功労者であるけいを救うため、仲間たちは必死に動き続けていた。

彼らはけいを丁寧にタンカーへと担ぎ上げ、煌夜の部隊のトラックへ慎重に運び込んでいる。


黒く焦げついた地面や崩れかけた建物が、さっきまでの激戦を物語っていた。空気の中に漂う鉄と煙の匂いが、彼らの疲労に拍車をかけている。


その時だった。


――ピロロ。


静寂を切り裂くように電子音が鳴り響く。

と言っても、電話が実際にあるわけではない。けいがシグルと連絡を取るために作った魔石型の通信電話、いわば魔導具だ。


ヒカルはそれに気づき、そう言えば、けいから渡されていたなと記憶を辿りながら、ポケットに手を突っ込む。


「もしもし」


「───ヒカルさま?」


まさか電話に出たのが、ヒカルだとは思わなかったのか電話の向こうの人間は少し声が上ずっていた。シグルは直ぐに「んんッ」とすぐに咳払いし、声の調子を整える。


「ユミルさんが認識阻害の魔法を解除してくれていたお陰で、遠見の精霊術が使えるようになっていたので、そちらの現状を確認しました・・・・・・その・・・・・・けいさまは?」


「白熊の異能で、なんとか血は止めてる。だが、魔力回路が暴走してて・・・・・・危うい状態だ」


「そうですか・・・・・・」


シグルの沈んだ声が、機器越しにも伝わってくる。


低く短いため息を挟み、すぐに本題に入るため、声のトーンを引き締めた。


「急を要する話があります。スピーカーモードにして、他の皆様にも聞かせていただけますか?」


ヒカルは無言でうなずき、携帯端末をスピーカーに切り替える。


「もしもし、皆様、聞こえますでしょうか?」


「シグルさん?!」


「ふふふ、菊香さま。お久しぶりです。こちらからも今回の戦い、見守っておりました。本当にお疲れ様でした。そして、申し上げにくいですが、重要な問題があります」


「まずは、悪い報せからです───それも二つ」


その言葉をきっかけに、場の空気がピンと張り詰める。


「京都と広島に、ゾンビの大群が押し寄せつつあります。おそらく人為的な操作によるものでしょう。冬吾さんはすぐ広島へ、ユミルさんは此方へ」


隊員たちが、ざわめきはじめた。


「京都にも?」


「信じられない・・・・・・」


焦りや恐怖、戸惑いの声が次々と上がり、誰かが近くの仲間の肩を掴んで動揺をぶつける。

誰かは口元を手で押さえ、誰かは静かに後ずさりする。


目の前の現実を前に、空気が明らかに一段と冷たくなった。焼け焦げた瓦礫の隙間を、夜風が渡っていく。

緊張と不安が静かに混ざり合う中――


パンッ!


乾いた音が静寂を切り裂く。誰かが手を叩いたのだ。

その一拍ののち、ざわつきはゆっくりと収束していく。全員の視線が、再びスピーカーへと集まった。


「ゾンビ群を誘導する薬を生産している工場のような施設を発見しました。ヒカルさん、菊香さんは、それに対処していただきたいです」


ヒカルはしばらく沈黙し、表情を険しくする。


淡々とシグルから説明される内容の中にけいを助ける話が出てこない。


その事に、ヒカルの眼が深い金色に染まり、バチリと身体から赤黒い雷が弾け始める。

その場を押しつぶすような殺意。


「──────おい・・・・・・」


低く押し殺した声でヒカルがつぶやく。


「まさか、けいを見捨てるつもりじゃないだろうな」


刺すような視線。


その言葉が発せられた瞬間、現場の温度が急激に下がるのを誰もが感じた。

ごくり、と唾を飲み込む音さえ聞こえてきそうな静けさが流れた。


傍にいた隊員が息を呑む。

誰かが、無意識に拳銃のグリップに手を添えた。


だがシグルは、電話越しでもただならぬ気配を纏う。

冷静さと、けれど芯に熱を孕ませた声――

普段は穏やかな彼女の声音が、思わずぞくりとするほど強く響く。


「──────何を馬鹿なことをおっしゃっているんですか、ヒカルさま」


言い終えたあと、シグルは一拍間をおいた。声にわずかな震えが混じる。

それは恐怖ではなく、怒りだった。


「流石のわたくしも、今のお言葉には怒りを感じますわ」


ヒカルは一瞬だけバツの悪い顔を浮かべる。


「・・・・・・なら、いい」


そう返しても、ヒカルの声はまだ険しさを残している。


シグルは静かに呼吸を整え、少し柔らかな調子を混ぜて続ける。


「まったく・・・・・・誰が、わたくしの可愛い義甥を見捨てるものですか。冗談でも笑えません」


その裏には、必死に感情を制御する大人の気概があった。


「悪かった、冷静じゃなかった・・・・・・」


ヒカルは観念したように短く謝る。

だが、その顔つきにはまだ安堵しきれない迷いが浮かんでいた。


シグルはヒカルの声色が納得してない事に察し、凛とした声を響かせる。


けいさまについては、間違いなく真っ先に敵が排除しにくるでしょう。───わたくしもこう言いたくは無いですが、戦力を削ぐには意識が無い今がチャンスなのですから・・・・・・」


その言葉にヒカルがグっと口の端を強く噛む。その隣にいた菊香も血が滲むほどの強さで自分の拳を握った。


「なので、少しでも、けいさまが狙われる可能性を減らします。それぞれの動きを分散します。京都に戻られるより煌夜さんたちと共に静岡に向かっていただく予定です。今の彼には、皆様よりも安静が何より必要でしょう」


一瞬の沈黙。


皆の視線が無意識に、けいの担架へ集まる。


煌夜は顔をしかめ、慌てるようにすぐに言い返した。


「ま、待ってくれ。静岡だって・・・・・? 反乱軍が拠点を置いている埼玉じゃないのか? そこに連れていくこと自体は構わないが、静岡には何か設備が用意されているのか?・・・・・・本当に、それで大丈夫なのか?」


仲間たちの息遣いが夜の空気に溶け、誰もが息を殺して返答を待つ。


「それについてですが、もう一つの、悪い知らせです」


その言葉に、煌夜こうやはまさかと顔を強張らせる。


「反乱軍が制圧されました」


「───っな・・・・・!!!?」


その言葉に煌夜こうや煌夜こうやの部下たちがざわめきだつ。ヒカルに菊香、冬吾、ユミル、春臣でさえも目を見開く。


「な、仲間は?! そんな、なぜ!!」


「生きてます」


不安と焦燥、焦り声を断つように凛とした言葉が場を制する。


「え・・・・・・?」


「安心して下さい。生き残っております。とある人物からの手助けにより、無事だったのです」


春臣は「もしや」と顔を上げる。ひとりだけ心当たりがある。


あの東京で責任者という役名でありながら、実際は蛇ノ目に全て掌握されていた。

てっきり、あの男も蛇ノ目の仲間だと思っていた。


しかし、よくよく考えてみれば、可笑しな話しだ。

効率性を求める蛇ノ目なら、あの男は用済みで、ゾンビ兵にしてもおかしくない。


「まさか・・・・・・」


「なぜなら――」


――キュイン


言い終わるより早く、焼け落ちた奈良の拠点に甲高いエンジン音が響く。


黒いヘルメット、真っ黒なライダージャケット。

一人の男が埃を巻き上げてバイクを止めた。


ほんの一瞬、皆の注意が彼に向く。


バイクの男は、ゆっくりとヘルメットを脱ぐ。

その顔には無数の傷跡。頬や顎には古い裂傷が刻まれていた。


だが、歴戦の勇士というよりは、少し頼りなげな壮年の男という印象が強い。

以前、ユミルが揶揄した通りの雰囲気そのままだった。


「ちょうど、来ましたね」


シグルが説明を続ける。


「手助けをしたのは彼です。東京の責任者――仲代皐月なかだい さつきでございます」




もしこの内容が良かったらブクマ・評価・リアクションしてくれますと飛び跳ねて喜んでるかも。

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