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第23話:花葬

2025/12/15 全改稿

「ブローム・フリングルス(花輪よ舞え)!」


けいの両翼から花びらが舞い、花びら達は円を描くように円となる。花の輪っかが一つ二つと増えていく。


全部で六つ。花の輪の中心にキュインと淡い光が集まる。


無数の斬撃を翻しながら躱し、けいは羽を強く羽ばたかせると、それに呼応したように花輪が動き出す。


花の輪は使用者の意志を映すように宙を自在に駆け巡り、六つの光環となって空中を失踪する敵を追尾する。


class4を囲む様に六つの花輪が上下左右に配置される。


その瞬間、20歳と若返っていた時と比べ、低く落ち着いた声が強く響いた。


「レームル(裁け)!!」


その声を合図に、花の輪の中心からオレンジ色の光がほとばしる。


次々と煌めく光線が敵の翼を貫き、手と足を焼き焦がした。


「ギギギギ」


だが敵は緩く笑うのみ。

けいの攻撃を嘲笑かうようにclass4は高速で欠損した身体を修復させる。class3が徐々にだったら、class4は一瞬だった。


「な───ッ!!?」


けいは目を見開く。


流石にすぐに修復はされないと思っていただけに、class4の自己修復能力がclass3のそれを遥かに凌駕していた。


(火力が足りないのか。小手先の技じゃなく、高出力の技なら倒せるんだろうけど、今の僕では難しいな・・・・・・)


class4はゆるやかに6つの手を格子状に眼前に重ねる。


格子状に重ねた指の隙間を窓のように目の無い顔で繋を覗き込む敵。

何かの技を出してくる事に気付いたけいはすかさず、花輪を自分の前にX字に並べる。


「ギ!」


敵の一言で、ガ!!と格子状の斬撃が放たれる。

受ければサイコロ状に刻まれてしまうのだと考えると、えげつない技を放つなとけいは苦笑いを浮かべた。


(どこか、戦いを楽しんでる気がするけどそれに付き合うつもりは、無い!!)


格子状の斬撃を迎え撃つように、けいも花輪からX型の光線を放つ。

光線と斬撃がぶつかり合った瞬間、空気がビリビリと稲妻のように震え、上空の雲が散った。





「よし! こっちのclass3は全部片づけたぞ!!」


「時雨! これで道が出来たから、急いで京都に向かって!」


ヒカルとユミルがclass3を全て倒し、菊香を筆頭にclass1を粗方片づけた後、まだゾンビがいるが先ほどの状況と比べたらトラックが走れる道が出来ていた。


次々とトラックがエンジン音を鳴らし、動き出す。

一台、また一台とトラックが無事に出発する光景を見送る中、ビカリ!と夜を照らす光が世界を包む。誰もがなんだと戸惑い始めたその瞬間、凄まじい衝撃の余波がヒカル達を襲った。


「きゃっ!」


「菊香! 大丈夫か!!」


衝撃破で吹き飛ばされそうになった菊香をヒカルが抱き留める。衝撃破はテントや瓦礫、学校とあらゆる物を吹き飛ばし、飛来物が凶器となって皆を襲う。


ユミルの力強い叫び声が響き渡り、彼女の手から伸ばした無数の影の鎖が門となっていく。


「呑み込め! スカッグ・フルディル(影の門)!!.」


影で作られた高さ2m越え、幅は人間二人分の大きな扉がヒカルと菊香、時雨や他の隊員、難民を乗せたトラックを守る様に次々と地面から「影の門」がそびえ立つ。


影の扉は盾のように、次々と飛んでくる凶器の嵐を影が飲み込むように受け止めていく。


約2分の嵐。


「ふぃ~、何とか被害は抑えれたかな?」


技を発動させていていたユミルは立ち上がると額の汗を拭う動作をする。まさに彼女の適切な判断のお陰である。流石の繋もclass4を相手に他の仲間達の様子を気遣いながら戦う事ができない状況だ。


「おじさん、ありがとう!・・・・・・でも、さっきの衝撃って・・・・・・」


菊香はそこまで口にすると、バチリバチリと煌く空を見上げる。


けいさん!?」


菊香が目に入ったのは、上空で空を飛ぶ異形の羽をもつ怪物と無数の花びらで形作られている翼で飛ぶけいの姿だった。


「大人の姿になってる!? それに、あの敵は!!」


間違いなく異常が起きている。

イレギュラーな存在と戦う為に、無理をしているのだと理解する。


「おじさん!!」


菊香は自分を抱きとめるヒカルの服を無意識に強く掴む。それは、不安と心配の表れだった。


ヒカルも菊香の言いたい事が分かっているのか彼女の手を掴み返す。同じように眩く光る空を見上げて、ヒカルは内心焦りを覚えつつ、それを見せないように低い声で返答する。


「こっちが終わったら、助けに行くぞ」


(────なんで、あの姿になってるんだ・・・・・・・!!)





(自分の魔力も底が見えてきた・・・・・・)


「次で、決着をつける」


けいの言葉は、静穏でありながら、その瞳には今までの穏やかな瞳は無かった。


ただ、仲間を守るための強い意思を灯し、射殺すように眼前の敵を睨みつける。


空で交わされる戦闘に一瞬の静止が訪れる。次いで大気が轟音を響かせる。


魔力を高める。


けいは魔力を最後の技に全て注ぐ為に、光線を放つ花の輪を解く。


class4はけいが攻撃の手段を解いたことに、不思議そうに首を傾けながらも右腕の一つをゆるやかに振る。その右腕からシャッ!と放たれる斬撃。それは風や音すら斬り裂く純粋な暴威。


けいは片翼で斬撃を弾き、目を細め、唱える。


「グラジオラス・ブロームストランディ」


夕闇に、符のような、赤い花を押し花としたしおりが数十枚と出現する。

栞は花弁となり、朱色の淡い光を放つ花弁が一斉に舞い散った。


一つ一つ魔法の剣が数十本と生成されていく。


「射出」


けいの一声でグラジオラスの魔剣がclass4を目掛けて次々と放たれた。


先ほど放った「グラジオラス・ブロームストランディ」とは違い、真っ直ぐしか投擲できなかった剣が、けいの指示一つで右に左に、上から下からと縦横無尽に投擲されていく。


右人差し指を指揮棒のように、花の魔剣に指示を与えclass4を追い込んでいく。


class4は飛行しながら無数に飛んでくる魔剣を避け、そして斬撃を放ち相殺する。


無数の魔法の剣と斬撃がぶつかり合う。

激烈な衝撃に、凍った地面が破砕される。


時には、遠距離技を繰り出しながら接近戦に持ち込み両者が肉薄する。


飛び交う魔法の剣と斬撃。

手に持った魔剣と斬撃纏う6つの腕が打ち合い、鮮烈な火花をまき散らす。


けいは接近戦と遠距離攻撃と巧に交互に繰り返す。それは相手も同じで無数の斬撃が飛んでくるのを、魔剣で的確に受け流していく。


(相変わらず、技のタイムラグが無いな)


けいは思わず含み笑いをしてしまう。


異世界での強敵達と相手していた時を思い出す。

決して、自分は戦闘が好きじゃないが、こうやって強い敵と戦うとどうしても高揚してしまう自分がいた。


次はどうすればいいのか。相手の攻撃を分析して、相手の一挙手一投足を観察する。


そして掴みとる勝利。


(すっかり、異世界の環境に毒されたのかな)


苦笑めいた表情の裏に、勝利への渇望が滲み出る。


だが次いで、class4が6つの腕を格子状に組んだ。


のこぎりの歯がギャギャと唸るような音を響かせ、

空気に嫌な摩擦音が満ちて───放たれた。


しかし、放たれた斬撃はけいにではなくけいの下に向かって飛ばされる。

一瞬、何故?と疑問がよぎったが直ぐにそれが、地上にいる冬吾達を狙ったものだと悟る。


「小癪な!!」


けいは身体を翻し、急降下する。


冬吾が何とか氷の氷壁を作るが、けいは冬吾達の前へ降り立つと両翼を羽ばたかせて、魔力の障壁を生み出しその猛撃を受け止めたが、衝撃による重圧が全身を縛った。


「ぐぅうっ・・・・・・!!」


けいは冬吾達が無事な事を確認する。


けい!!」


幼馴染が自分の名を呼んで、一瞬だけ振り返る。


「勝ってくれ!」


短く込められた言葉。

心配、憂慮。

それらを全部飲み込んで、冬吾はけいに短く告げる。


それを理解したうえで、けいも笑顔で頷く。


翼を思いっきり羽ばたき、また再び上空へと飛びながら、手を伸ばした。


浮かぶ栞が再び輝き、数十もの剣がclass4を包囲する。

グラジオラスの花が生成する魔剣群は雨あられと放たれ、class4に迫った。


敵も、迫る剣をただ避けるのではなく、6つの腕を器用に動かし四方八方と斬撃を飛ばす。


「凄まじいな・・・・・・」


春臣と煌夜は互いに身体を支えながら、冬吾の隣に立って、呆然と空を仰いだ。


一瞬たりとも視線を空から外せなかった。

春臣が見守るしか出来ない自分へ、腹の底が煮え立つ思いを絞り出す。


「こうやって、見守るしか出来ない事がこんなにキツイなんて生まれて初めて知ったぜ・・・・・・」


春臣の言葉に同意を示す様に、冬吾は険しい表情で拳を握りしめる。


煌夜こうやもその光景にひたすら目を凝らし、眼差しを強くするのみだった。


戦いはさらに激化する。

処理が遅れた斬撃が飛び跳ね、けいの右腕に被弾する。


痛みに声を出す時間さえ勿体なく、けいは一本のグラジオラスの魔剣を目の前で生成

する。


右腕には袖を裂く新たな傷が出来ていたが治癒する暇もなく、彼は魔剣に魔力を注ぎ込む。


「――吹き飛べ」


合図とともに夕闇を走る閃光。


けいの右手から放たれた、高出力の魔剣がclass4の肉体を抉り、肉片が焼け落ちた。


直ぐに修復されると思っていたが、戦い始めた時と比べて敵の再生が遅くなっている事に気づく。


(自己修復能力も無限という訳じゃないという事か・・・・・・!───ならば!)


ダメージを与え続けた事でClass4の修復スピードが下がっている事に気づいたけいは次の一手を繰り出す為に、上空へバッ!と人差し指を差した。


「相打ち覚悟で、限界出力を!」


再度、空に無数の朱色の栞が浮かび上がる。


(出力を上げた事で、コントロールは出来なくなる・・・・・・そして、天蓋を覆う剣先は僕をも貫く。けど・・・・・・)


けいはふっと目を瞑る。

脳裏に浮かぶ仲間達の姿が目に浮かび、ふわりと微笑む。


(大切な人たちを守らないとね)


class4は赤く染まる夜空を見上げ「ギギギギギ」と唸りながら慌てるように、格子状の斬撃を花の天蓋へ放つ。


だが、それはけいが「ブローディア」と唱えた事で、栞を狙った斬撃は八角形の防御癖に弾かれ消えてしまった。


最後の魔力を絞り出す。最後の魔力は地上にいる冬吾達の為に。


とうとう、最後の魔力を使い切り、けいは意識が朦朧とし始める。

あとは精神力での戦いで、けいは静かに、目を閉じた。


「咲き誇れ――グラジオラス」


花の栞が、栞のまま朱く光りだし、夕闇の天蓋は朱色と化す。


───地上。


けいの大技が放たれるタイミングでパチンとブローディアの花の栞が冬吾達の前に現れ、3人を覆う八角形の薄紫色のガラスのような結界が3人を守る。


けい!!!」


冬吾は遥か空に浮かんでいる親友の名前を叫ぶ。


威力を最大現に高めた、大量の花の剣はコントロールする事が出来ない。

その為、けいは地上にいる冬吾達を守るために結界を張ったのだった。


冬吾達は息を飲んで赤く染まった空を見上げる。


無数の光の刃が雨となって降り注ぐ準備をしているのを感じた。


class4は初めて、焦りを浮かべる。目と鼻は無いが視覚が無いだけで、見えてはいるのだ。


人間とは違う構造。

そして、唯一第三者から読み取る事が出来る、感情を表す口。

class4は自分が危険な状況だと感じたのか口角が下がる。


すぐさま、その元凶へ敵は飛行する。


風を切り、猛スピードで凶器と化した、その綺麗で真っ白な、陶器のような腕で、

class4はけいへ急接近し――


その右手でけいの腹部を見事に貫いた。


「がはっ・・・・・・」


次いで怪物はけいの首をギチリと掴んだ。

骨がきしむほどの力強さ。それでも、Class4の口角は下がったままだ。

怪物の不安が拭えない。


なぜならば───。


それでもけいは口元に小さな余韻を浮かべていたからだ。


「・・・・・・っふふふ、これで逃げられないよな」


「終わりだ――」


腹を突き破る、class4の腕。


自分を貫く腕を逃がさないように、けいはclass4の腕を最後の力で強く掴む。

怪物がそこでやっと焦り始めたのか、濁音めいた声が響く。


けいは薄れていく意識の中で、呪文を唱える。


「――グラジオラス」


「ブロームフォル(花葬)」


夜空は赤い栞から、鮮やかな朱色の花びらで塗り替えられる。

遠目に見る者には、夜空に鮮やかな大輪の花が咲いたようにも見えた。

幾千の花が剣となり、ジャキリとclass4とけいを囲む様に並び、矛先を向ける。


無数の美しい朱いい剣が空を断ち割り───


空に浮かぶ、class4とけいを───貫いた。


やがて剣の雨は止み、喧噪は静まり返る。


夜風に混ざる花の残り香だけが漂い、けいとclass4が落ちていく。


「死なせるかよ!!」


春臣が手を伸ばし、落下するけいのクッションを作るために風を巻き上げた。


そして、ゆっくりと地に倒れる人影――


人影の片方が塵となって霧散していく。


けいは全身を深い傷で刻まれながらも、かすかな息を繋いでいた。


風前の灯火ではあるが───花の魔法使いの勝利であった。




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