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第14話:復讐

2025/10/21 題名変更+大幅加筆修正

2025/12/15 全改稿

煌夜こうやは何度も瞬きをする。


空き教室のカーテンが秋風に揺れる。


一生に戦おうとは、どういう事なのだろうか。


確かに彼個人は力を貸してくれる雰囲気ではあった。だが、今の宣言はまるで皆で戦おうと、そういう風な意味で受け取れる気がした。


そこまで考えて、煌夜こうやは首を振る。


何を都合の良いように考えているのだと。


いくらけいの存在が各拠点の太いパイプであっても、あくまで4大拠点の内の3つが彼の一存のみで戦う事を決める事は出来ない。───筈だ。


確かに、東京の問題を解決するには反乱軍だけでは力不足すぎる。


そもそも、解決すべき問題が大きすぎるのだ。


しかし、煌夜こうやは反乱軍のリーダーではあるが、この四年間大拠点を築きあげ、運営してきた責任者達と比べて格が低い。何の交渉材料もなければ、話しあう為のパイプも持ってない。


だから、強力な力を持つけいの存在が、東京を倒すには必要不可欠だった。


それだけじゃない。けいは、どこの拠点にも身を置いてないにも関わらず多くの人脈を持っている。


京都の拠点の責任者の義甥であり。

奈良では京都の使者として来ていたのにいつの間にか拠点運営の中心に入り込んでいるだけじゃなく、奈良の責任者とも親しくなっていた。


挙句の果てには、広島の拠点の責任者とは親友という仲だ。


意味が分からない。


煌夜こうやの胸中を表すなら、この一言につきる。


この四年間、白熊冬吾の拠点を除き、京都と奈良は不干渉だった。


それなのにも関わらず、けいがやってからというものそれが目まぐるしく変わっていき、そして───。


強硬手段で不道徳な行為をした自分に対して、協力すると言ってきたのだ。


「ほんとうに、意味が分からないんだが」





「早速このあと、皆に話してみるね」


サラッと重要な事を言うものだから、またもやスルーしそうになるが煌夜こうやは慌てて止めに入る。


「ま、まてまて! そんなにフットワークが軽くていいのか?!」


「え? 大切な事だから一早く決めないとだよ?」


いや、その通りだが、そうじゃないと煌夜こうやは頭を抱えたくなる。

けいは1人百面相をしている煌夜こうやに説明をする。


煌夜こうやくんの心配は分かるよ。きみの事だきっと、僕の動き一つで色んな事が動いていいのかって」


東京VS他拠点との全面戦争。


恐らく、それが煌夜こうやにとって一番恐れている事だろうとけいは想像する。

もちろん、全面戦争などは最終手段の一つだとは思っている。


少しでも被害を抑えて東京を掌握出来ればいいのだが、ゾンビ兵を作るような人達だ。ちょっとやそっとじゃ上手くいかないだろうとけいは予想する。


(綺麗ごとだけで、解決できれば良かったんだけど・・・・・・それが出来ない事を僕は良く知っている)


時には正しい心を持ったまま、力で解決しなければならない時もある。


過激な考えだと、重々分かってはいる。

分かってはいるが、どちらにしろ先に東京の問題をクリアする必要があるのだ。


だって、今の現状を受け入れ、何もせずに暮らしていたとしても、大厄災は待ってくれない。


スタンピードは人々を殺しつくすまで止まらないのだから。


けい煌夜こうやに「僕が演説で話したこと、覚えてるかい?」と問うた。


煌夜こうやは問われ、沈黙する。けいが演説で言っていた事を思い出す。


そして───気付いた。


「そうだった・・・・・・スタンピードが待っているのか・・・・・・」


「その通り・・・・・・東京のゾンビ兵で世界を支配されるのが先か、スタンピードで殺戮されるのが先か。今、直ぐにでも、判断する必要があるんだ。───たとえ、京都と奈良、広島の人達を巻き込んでも」


けいは真剣な眼差しで煌夜こうやを見つめる。2人の間の空気が張り詰めるも、直ぐにけいはふわりと笑って見せた。


「といっても、強制じゃないし、最終的には各々の判断に任せるさ。───僕は、僕の大切な人たち助けたいだけだからね」


優しい声色だった。

けれど、確固たる意志を感じもした。

煌夜こうやは目を見張って、けいの顔を見る。


穏やかな表情をしているのに、そこに立っているのは同じ人間なのかと見間違うほど、

重厚な雰囲気があった。




煌夜こうやはゆっくりと口を開いた。


「渡くん・・・・・・」


「うん」


反乱軍なんて言っているが、動機は決して立派じゃないし、けいのように誰かを守りたい訳でもない。


ただ、姉を殺した奴らを許せない。


同じような被害者を出したくない気持ちも嘘ではない。


けれど、心の大半を占めるのは復讐という暗い感情。


それだけの為に、同じ気持ちを抱く人達を集め反乱軍を立ち上げた。


「俺も、他のみんなも身内を弄び殺した奴らに復讐するために、そしてこれ以上同じ被害が増えないようにする為に反乱軍を興した」


他の責任者のように立派な信念がある訳じゃない。復讐の後の事だって未だ何も考えてない。そんな曖昧で、刹那的な状態で人をまとめ上げる立場に立ってしまっている。


こんな動機で力を貸してくれるのかと煌夜こうやは不安になる。


そんな煌夜こうやを前にけいは言ってのける。

「貸すよ。あ、もちろん復讐するとしても、対象者以外の復讐はアウトだからね」


「な・・・・・・・」


あっけらかんと答えられたものだから、煌夜こうやは口を開けてしまう。


そんな煌夜こうやけいは困ったような表情で話す。


「復讐を止めろ、なんて言葉。当事者じゃない僕がそんな事を言う権利はないし、どんな理由があったって僕は手を貸すよ」


他のみんなも一緒じゃないかなとけいは続ける。


「それに、利害も一致してるし」


「そうなのかな・・・・・・」


「そうだと思うよ───それに、個人的な考えだだけど、復讐と言っても、言い換えれば・・・・・・家族の為に戦うって事だと僕は思うんだ」


「家族の為に・・・・・か」


「そう、家族であるお姉さんのために君は戦う事を決めて、そして自分と同じ被害者を増やさない為に戦ってる」


けい煌夜こうやの顔を覗き込んで、柔らかい笑みをかける。

その姿に一瞬、姉の面影が───


「キミは頑張ってる。偉いよ煌夜こうやくん」

(あんたは頑張ってる、偉いぞ煌夜こうや


重なった。


優しかった姉を思い出す。

優しくて、芯が強くて、唯一の、たった一人の家族を思い出す。


生暖かい湿りが頬を伝う。


煌夜こうやは一瞬それが自分のものだと気付くのに遅れた。

姉が亡くなった時さえ泣かなかったのに。

否。泣くよりも、自分と相手への怒りが自分を支配し、泣く事を忘れてしまったのだ。

それ以降ずっと姉の為に泣けなかった。


煌夜こうやは元来、誰かの上に立つような性格の人間じゃなかった。

むしろ姉の方が、そういったのは得意でリーダーシップをとって周りを動かすのが得意だった。

そして誰よりも優しかった。

大人になっても、ずっと、ずっと守られていた。


色んな思い出が溢れ出す。

教室の空いた窓から澄んだ空気やひんやりとした風が煌夜こうやの肌を撫でて、姉との思い出を増長させる。


煌夜こうやは目を伏せた。


自分もいつまでも曖昧な判断をするなと自分を叱咤する。


現状を再認識し、目標を再確認する。


やがて、顔を上げると真っ直ぐ目で、けいの目を見た。


僅かに震える煌夜こうやの口から出た言葉にけいはゆっくりと頷いて答えた。


「これ以上、オレと、同じ思いをする人をださせたくない───だから、力を貸して欲しい」


「ああ、もちろんさ」





煌夜こうやが落ち着くまで、けいは静かに待つ。

温かい飲み物でも用意しようと、更に簡易空間魔法から気持ちを和らげる紅茶の葉を取り出す。2人分のティーカップを用意して、ティーポットに魔法でお湯を沸かし入れ、茶葉を放り込んだ。


「きみは・・・・・・」


ゆっくりとした時間が幾分か過ぎたあと、煌夜こうやが口を開いた。


「きみは、不思議な人だな」


「おや、可笑しい人じゃなかったの?」


揶揄うように言えば、煌夜こうやも釣られて笑う。


「可笑しいとは今も思ってる」


「ちょっと!?」


がくりと肩が下がり、危うくティーポットを持っていた手を離しそうになった。


「きみの前だと、素の自分でいられる。理想のリーダーとしての自分じゃなくて良いんだって」


君のように強くなりたいな。と煌夜こうやが呟くと、ピタリとけいの動きが止まる。


「ん? どうしたんだ?」


「ううん。僕は強くないよ」


けいは緩やかに首を振って苦笑いをする。


煌夜こうやくんと同じで、僕も理想の自分を作ってる」


ただ、それが苦じゃないとけい煌夜こうやに伝えた。


「ずっと、長く演じるとね、演じている自分も本来お自分の一部になっちゃった」


そう言って曖昧に笑う姿に煌夜こうやは息を飲んだ。


一瞬、踏み込んでもいいのだろうかと、躊躇する。しかし、根が臆病な煌夜こうやは一歩踏み出す事が出来ないまま、そんなけいを眺めるしか出来なかった。


でも、せめて、自分を受け入れてくれたけいに何とか言葉をかける事が出来ないか、必死に脳内で言葉を探す。


自分はこういう時に、気の利いた言葉を言えない、口下手な自分に腹が立つ。


考える。考えに考え抜いて、やっとでた言葉は───


「オレたち似た者同士だな」


煌夜こうやは、この言葉を言った瞬間、何を言ってるのだろうと自分を殴りたくなった。もっと、他にもあるだろうと、バカヤロウと自分を叱咤する。


またもや、1人で百面相をしていると、突如笑い声が聞こえた。


「ふふッ・・・あっははは! たしかに! うん、僕たち似てるかもね」


けい煌夜こうやにティーカップを差し出す。


「じゃあ、そんな不器用な僕たちのこれからに、同じ仲間として───いや、友人として乾杯でもしよっか」


先ほどまでの暗めの雰囲気を一掃するかのように、けいは笑いながらおどけてみせる。


煌夜こうやは、そんなけいの言葉に鳩が豆鉄砲を食ったような顔になったが、すぐに同じように笑って見せながら、差し出されたティーカップを持つ。


2人はティーカップを持ち上げると、「乾杯」と言って、軽く触れ合わせて乾杯をしたのだった。


そして、2人は廃校から出る。


子供達の為に持ってきた給食缶を両手に持つけい煌夜こうやは手伝いを申しでる。


「本当に手伝わなくていいのか?」


「大丈夫、大丈夫。これでも力あるからね」


それを聞いて、煌夜こうやはそういえばと思い出す。


今のけいは仮の姿で、本来は30だと噂で聞いた。そうなると、同い歳になるのだが、それが本当なのかと尋ねる。


「え!? まさかの同じ歳なの?!」


「うっ、この見た目だから良く年上だと間違えられるが・・・・・・」


ショックを受けている煌夜こうやけいは逆に自分は30でも若く見られるから羨ましいと告げる。


「ちなみに、本来の姿はこんな感じ」


そう言うや否や、けいはその場で、つま先をトンと地面に叩く。すると、彼の周りに橙色の淡い光が放ち、霧となる。


ゆっくりと霧が晴れると、そこには少し身長が高くなって、落ち着いた雰囲気のけいがそこに立っていた。


「その姿には戻らないのか?」


「ああ~・・・・・実は、良く分からない理由で20になったままで・・・・・・」


「魔法が誤作動しているとかなのか?」


先ほどの対話の中で、煌夜こうやに異世界の事と、魔法の仕組みを教えたというのもあり、どういうものか理解したうえで煌夜こうやが尋ねた。


「それが、そうじゃないみたいなんだよね」


「・・・・・・それは、大丈夫なのだろうか・・・・・・」


「まあ、今のところ身体の方にも支障はないし、大丈夫、大丈夫」


あっけらかんとした態度のけい煌夜こうやは納得できなかった。


けいは自分の事になると、ずさんになる傾向があると煌夜こうやは気付き始めていた。


人にはとことん優しいのに、反対に自分の事は全然大事にしないけい煌夜こうやは顔を顰める。


ポンと小気味の良い音が鳴る。

それは、けいの姿が20の姿に戻った音だった。


けい煌夜こうやが自分の事を心配してくれている事に気づかずに「じゃあ、また明後日! またね」と言葉を交わす。


「ああ、また・・・・・・」


そう言って、2人は別の道を歩いて、帰っていく。


途中、煌夜こうやは振り返り遠のいていくけいの背中を見つめた。


(キミと話せて、本当に良かった)


改めて、自分が成さねばならない事を再認識できた。


そして、自分の復讐が終わった後、改めてけいの為に力を貸したいと思うのだ。




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