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第12話:詮索

2025/10/17 題名変更+大幅加筆修正

2025/12/15 全改稿

「ん? うん? んんん? あはは、ユミルちゃんったら冗談が上手いんだから~」


「あ、キャパオーバーしちゃった」


大丈夫か〜菊っちゃんーーーと頭を抱えながら空笑いを続けている菊香の肩をゆらゆらとゆするユミル。


「おーい、菊香もどってこーい」


ヒカルも珍しく思考が停止し、呆けていたが、菊香が正気度を失った事で我に返る事が出来た。ヒカル自身もまだ頭が痛いのか眉間に皺を寄せながら、菊香の目の前で手を上下に振る。


そんな様子を繋はあははと困ったように笑う。


繋も一瞬だけ思考がフリーズするが、それでもこの場にいる仲間達よりかは場数が多いためすぐに我に返る事ができた。


(宇宙かあ。・・・・・・宇宙ねえ。そりゃあ、魔法も効かない訳だ、うん、宇宙だもん)


いや、やはり正常ではなかった。


案の定、繋も正気度が下がっている。


そういえばと繋は冬吾が静かな事を思い出す。


(冬吾も訳が分からなくて固まってるんだろうなあ)


そう予想しながら、隣に座っている冬吾の方を振り向くと、予想通り静かだった。


重ためのぼさぼさの髪のせい見えづらいが、遠い目をしているに違いない。


「冬吾起きてる〜? 冬吾〜? ん? あれ?」


幾ら呼んでも、いくらゆすっても反応が無い。


「もしかして・・・・・・」


繋はぼざぼさに伸びた前髪をかきあげた。


「気を失ってる・・・・・・!!?」


そこには、なんと、白目になって気を遠くにやっていた友がそこに居たのだった。


SAN値チェック。

渡繋:成功

ヒカル:成功

菊香:失敗

冬吾:失敗


ちょっとしたパニックである。





「うま~い、あったか~い、つめた~い」


「美味しいもん食べて復活なんて、相変わらずだな」


「へーんだ! そんなこと言うなら、おじさんのアップルパイ奪い取るもんね!」


「まて、誰がやるか」


「甘いもんは正義よ、正義、って白ちゃんだけぜんざい食ってるし!! うらやましいから、よこせ!」


「ぎゃー!! 野蛮すぎんじゃろ!!」


わちゃわちゃしてる4人を傍目に紅茶を注ぐ、繋。


(いやあ・・・・・・みんな正気に戻ってよかったよかった)


流石に処理落ちした2人を放っておいて話しを進める事は出来ないため、そこで登場したのが甘味大作戦である。


もちろん、大作戦といっても大した内容ではない。


ただの糖分補給と癒しの時間の提供だ。


繋は魔法のトランクケースに収納していた、デザートたちを取り出して、4人に振る舞ったのである。


冬吾を除く3人にバターとシナモンが香る熱々のアップルパイにバニラアイスを乗せたものを出して、冬吾には温かいぜんざいを出してあげたのだった。


出したデザートは思いのほか好評らしく、争奪戦が行われている。


それを、生暖かい目で眺めているのが繋だった。


ちなみに、デザートの材料はどれもこれも異世界のものであり、肉類と違って未だに大量に余りまくっているのを使っている。


流石に拠点内で育てた農作物は使えないし、やっとインフラも整って上手くいき始めたばかりというのもあり、異世界の時に何かあっても良いようにと過剰なほど食物をトランクケースに収納しておいて良かったと、当時の自分を褒めてあげたかった。


(にしても、こうやって仲間が増えるなんて、みんなを思い出すなあ)


菊香とヒカルとの出会いから始まり、晴斗、誠一、そしてシグルとの再開。時を経て、ユミル、冬吾と出会い互いに手を取り合う事が出来た。


繋は縁に恵まれている事に感謝したくなる。


(元気にしてるといいなあ。ヒョードルはワーカホリックだったから、ちゃんと休んでくれているといいんだけど。ご飯も食べないことがあったし、心配だなあ。スノトラもヒョードルと同じで、魔法の研究に集中し始めると何も口にしないし、ベオも体が頑丈だからって無理していないといいんだけど)


年下組はなんだかんだで、まだ子供だ。大丈夫かな、と繋は心配してしまう。


遠い別の世界に離れていても、異世界の仲間たちのことがどうしても気になってしまうのは、きっと今目の前にいる仲間たちと重ねてしまうからだ。


決して彼らを代わりの存在として見ているわけではないが、それでも時々恋しくなってしまうのは仕方がない。


(スヴィグルは、大丈夫かな?)


繋は「う〜ん」と顎に手をあてて想像する。出会ったころはそっけなく、気性も荒かったが、共に旅を続け、歳を重ねていくうちに、成長し、皆を率いる立派な男になったスヴィグルのことを思い出す。


脳裏に浮かぶのは、ヒョードルの豪快な笑いにそっくりになった快男児の姿だ。


(うん、まあ、スヴィなら大丈夫か!)


その場にいないスヴィグルのツッコミが聞こえた気がした。


何が「大丈夫」なのかはさっぱり分からないが、信頼ゆえか、長い付き合いのせいか、繋はたまにスヴィグルへの対応が雑になってしまう。


ちなみに、遠く離れた異世界での彼らの様子だが──。


「スノトラ、上空での攻撃任せた!」


「任せなさい! 防御はよろしく!」


「「てことで、わたし/オレも連れていけ!!!」」


「だ〜か〜ら〜!! むりだっつってんだろ?!」


「縁の強さがどちらにしても足りない2人は何をやっているんだ」


「わははは、これは理屈じゃないのですよ御上。ただの、八つ当たりですじゃ」


「わかってんなら、止めてくれ!」


「ってことで、儂も本来は行ける筈だが立場的にこの世界から居なくなることが出来ん。てことで、儂もその八つ当たりに参戦させてもらおうか!!」


「ざけんなよ! くそじじい!!」


こんな感じで元気なので心配は無用なのである。


「落ち着いてきたみたいだし、食べながらでもいいから続けてもOK?」


ユミルが手に持っていたフォークを杖のように軽くふりながら話すと、宙に光の文字と絵がつらつらと浮かび上がる。


そこには簡易的な絵で地球にぶつかった隕石、隕石に癒着していた良く分からない生命体をバクテリアのように描き、それが小動物に寄生、何かしらで噛まれた人間に更に寄生してゾンビとなっている図が分かりやすく宙に描かれていた。


ユミルは紅茶を一口飲み、「これが、あたしが奈良の拠点を立ち上げる前に単独で調べ上げた内容」だと説明した。


暗闇の中で薄く光る絵を見ながら、各々が頬杖をついたり、顎に手を当てたり、頭を掻いたりと困惑し始める。


「んんん、こうなると解決方法が分からんのう・・・・・・」


「もう、ゾンビになった奴らを全員殺すしかねえんじゃあねえのか?」


「通りで回復魔法が効かないわけだよね」


「そうなんよ~、原因だけは分かっているけど解決方法は未だに? って感じなのさ」


「ん〜」と各自が唸っていると、そういえばと菊香がフォークで隕石の絵を指した。


「この隕石ってどこにあるの?」


「それがねえ、厄介なことに東京拠点にあんのよ」


「厄介?」


「そう。厄介。あそこはね、ゾンビが蔓延した時に一目散で防衛拠点を作り上げたとこなんだけど、秘密が多すぎて謎!」


一応名目としては、世界救済のためにゾンビ化の原因を探ってるとユミルは説明する。


その説明に、繋はシグルが言っていた事を思い出す。


「確か、軍事的な側面が強いんだっけ?」


「らしいんよね〜。確かにあそこは、他の拠点と違って能力者も多いし」


「探りにいったけど、表面上は京都と一緒で崩壊前の東京とさして変わらなかった。まるで予測していたかみたいにね」


「偶然・・・・・・?」


「にしては、上手くいきすぎだよねえ」


「ともかく、繋ちゃんのお陰で4大拠店の内の3つの拠点が同盟を組むことが出来たし、大助かり~」


大助かりと言う事はつまり、原因究明の為に本腰を入れる事が出来る事。そして、その隕石について東京へ探りを入れる事が出来るのだとユミルは説明する。


「いやあほんと京都と東京が敵だったらどうしようかと思ってたよ~」


「意外とお前ん所は上手くやってたんだな」


ヒカルが意外そうな顔で冬吾に顔を向ける。その言葉にいつもの嫌味や皮肉とかは混じっておらず純粋な称賛だった。


その事に少しだけ吃驚したのか表情が固まって少しだけ照れたように頭を掻く。


「いやあ、それほどまでじゃない。むしろ、なんでシグルさんとことユミルんとこが拮抗状態だったのか不思議じゃ」


「そりゃあ、同じ異世界人って分かったら警戒するっしょ」


皆が、首を傾げる。


「ほら、うち元魔王だし。同じ存在が地球に来ている可能性あるじゃん」


たしかにそうだったと皆が「あっ」と思い出す。


ユミルが偶々、善性を持つ側の人間だったから何も問題が起きてないだけで、もし世界を支配するタイプの魔王だったら彼女の言う通り警戒しなければならないだろう。


だから、彼女は魔力の大半を使って奈良の拠点に探知系の異能が効かない妨害魔法をかけたのだ。


それに対して、菊香が空笑いをしながら言う。


「お互いに牽制しあってただけなんだね」


「そうそう、めっちゃ時間を無駄にしちゃったわけだ」


ユミルはやれやれと肩を竦めて見せた。


「けど、そのお陰で皆とも会えたわけだ」


その言葉を発した人物に、みんなが顔を一斉に向ける。発した本人は何気なく言っただけだが、繋は「へ?」と紅茶を飲もうとしていた手をピタリと止める。


「えへへ、わたし繋さんのそういう考え方大好き」


他の仲間達も菊香の言葉に同意するように頷く。繋にとっては何気ない言葉だったが、なぜ菊香が大好きと言ってくれたのか、そして皆が「まさにその通りだ」と納得したような顔で頷いているのか、本人にはよく分からない。


ただ、照れくさくなったのか、繋は「え、と、ありがとう」とへにゃりと笑いながら頬を掻いた。


「じゃあ・・・・・・後は、これからの事について話そうか」


ユミルがアップルパイの最後の一切れを口に入れた。


「まずは繋ちゃんたち。立て続けに申し訳ないけど、一番身軽に動けて、力と索敵能力が高い繋ちゃんたちが東京に行ってきて内情を探って欲しい」


「なら、シグルさんにも共有しておかなきゃね」


「いえす! よろしく!」


「んで、お前らは?」


「あたしらは、戦力の準備」


その言葉に場の雰囲気が一気にピリつく


「軍事的な面が強いから、場合によっては戦うかもしれないからね」


「それは、避けられない事・・・・・・?」


菊香が不安そうな表情でユミルに尋ねる。

ユミルは、そんな菊香に心配ないよと言ってあげたかったが、無責任な事をいう訳にもいかず、真っすぐと菊香の顔を見て、その不安に応える。


「避けられない可能性が高いってあたしは思ってる。秘匿しすぎだし、隕石の件なんて超絶重要事項を4大拠点であるうち等にも共有されてない。てことは、何か狙いがある筈」


「それって・・・・・・」


「世界を掌握するとかね」


菊香と冬吾はユミルの言葉に息を飲んだ。繋とヒカルに関しては、異世界での経験があるというのもあり、その最悪なパターンを予想出来ていた。


2人は苦い顔でユミルの言葉を聞く。


「未だに根本的な解決方法は分からないけど、とりあえずその“隕石”を調査、あるいは確保しないと何も分からないよ」


そして、もしかするとその隕石を死守するため、東京の拠点を管理する人間たちが動き出すかもしれない。


「そういえば、ユミルちゃんは東京の責任者って会ったことある?」


「あるにはあるんだけど、どう見ても上に立つような器のあるおっちゃんじゃなかったんだよねえ」


むしろ、彼の側近である女性の方が頭が切れて、直感的に“ヤバい”と感じたそうだ。


「ヤバいって、どういうことだよ」


「いやあ、感覚的な話なんだけど。ぞわぞわしたっていうか、あ、コイツダメだなって、こう……生理的嫌悪? 人を人として見て無い感じというか? とにかく気持ち悪くなって、つい攻撃しちゃった」


「おい!?」


流石の衝撃発言に、ヒカルは目を丸くする。


そして追われる身になったのだと、彼女は悪びれもせず「てへ」と笑う。


「でも、珍しいのう。ワシはあんまし、ユミルが攻撃的になるのを見た事ないけん」


冬吾の言葉どおり、ユミルは基本的に誰でも受け入れるタイプだ。


奈良の拠点を見れば、彼女の性格はよく分かる。時雨と一部の隊長を除けば、彼女の隊には、世界が崩壊する前から道を踏み外した人間も多くいる。


邪悪でさえなければ、受け入れる。 もしくは、害になるものであれば後から排除すればいい。シグルとはまた違った拠点の在り方だ。 彼女もまた元はそちら側の頂きを冠する者として、異世界では数多の種族を受け入れ、導くことを自然にやっていた。


ちなみに、冬吾の拠点は、良くも悪くも活発――というか、ヤクザっぽいというか、仁義を重んじる拠点だが、それはまた別の話。


「てことは、注意しないといけないのは、その側近の女の人か」


繋はユミルの話をまとめ、頭の中で記憶する。


「けど、繋ちゃん、あの反乱軍の男は大丈夫なの?」


ふと思い出したように、ユミルが呟いた。


「ああ、彼ね。最近は一人の時を狙って近づいてくるけど、敵意は無いし、今度わざと隙を作って話してみるつもり」


「了解」


「そういや、ずっと気にしてたな」


ヒカルも、以前からその話を聞いていたことを思い出す。


「繋さん一人で大丈夫?」


「大丈夫、大丈夫」


「ほんとかのう?」


仲間達からの心配にむず痒くなるも、繋は強気の発言をする。


「ただの人ぐらいなら、余裕さ」


当の本人が、穏やかに笑って、こう言いのけるだから仲間達は、繋に軽く一捻りされる未来に内心手を合わせるのだった。




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