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第2話:大鎌

2025/10/7 技名を統一。加筆・修正済み。


廃市街地へと繋がる道は、風も吹かぬほど静まり返っていた。


ビルは半分以上が倒壊しており、無残に潰れた車が道を塞ぐ。

ビル以外の建物も勿論の事崩れており、窓は砕け、壁には黒く焦げた痕跡が残っていた。


「こんな所に、本当に人がいるのかな・・・・・・?」


パキリと割れた窓ガラスを踏みしめながら、不安そうな声で菊香が呟く。


「救難信号があったのは間違いないんよね~」


飄々とした態度で軽そうにそう答えるのはユミル。金髪を揺らしながら、まるで彼女はピクニックに来たみたいに、軽い足取りで歩いていく。

スキップのように歩み進める彼女だが、その後ろ姿を繋とヒカルは見ていると、彼女が唯の一般人じゃない事が分かる。

体幹にブレは無いし、ちゃんと周りを警戒しながら視線を動かしている。

そんなユミルに繋とヒカルの2人はアイコンタクトする。


「・・・・・・念のために越したことはないし、慎重に行こうね」


「俺が先頭を歩く」


菊香とけいは後ろで援護を頼むとヒカルが指揮を取る。

ヒカルは黒いナックルグローブを革ジャンのポケットから取り出すと、装着して拳をギュッと握っては開いて何時でも殴れるように準備をした。


ふいにユミルが立ち止まった。繋が止まった彼女の前方を見やると、ぼんやりと人影が見える。


「──────ッ此方です、助けてください!!!」


此方に気付き大きく手を振り叫ぶように、こちらの存在を示す人達がいた。


「見つけたって、罠かもしれないからって、っえ!? あれ・・・・・・ちょっ!繋ちゃん!!?」


ユミルが避難民を見つけ、助けに行こうと言う前に真っ先に走ったのは繋だった。

その行動の速さにユミルは心底信じられない物を見たかのように目を見開く。


「噓でしょ・・・・・・普通罠かもしんないのに・・・・・・」


「そこが、繋さんの良いとこでもあるんだけど、心配するくらいお人好しなんですよね~」


菊香がユミルの隣に立ち呆れるように言う。


ユミルはそんな菊香に「・・・・・・まじかあ」と呟く。


(どういう精神構造してんのよ・・・・・・、どう考えても正常じゃやない)


そんな風に考え込んでいるユミルにヒカルが隣から言葉をかける。


「今にわかるさ」


此方の考えを見透かすようなヒカルの発言に、ユミルは目を見開く。しかし、どこか自分と同じ匂い、もしくは近い性質を持っているヒカルに対して、ユミルは少しだけ理解を示した。


「もしかして、キミも墜ちた側?」


「どちらの意味でもな」


ヒカルの曖昧な返答に、ユミルは思わず眉をひそめた。ヒカルの言葉がどちらの意味で回答したのかユミルには分からなかったが、それを詳しく聞くのは躊躇われた。


(キっちゃん素直だし良い子なんだけど、この2人は色々と厄介だわ~・・・)


(てか、繋ちゃんはちょっと度を行き過ぎたお人好しだし、目の前の彼に至っては私と似たような匂いがするしで、今回は運命力が色々と動きすぎでは?!)


ユミルは心の中で叫びながら前方の助けを求めている人へ向かって走る繋の後ろ姿を目に入れる。





「お待たせしました!」


繋が駆け寄ると、それは十代後半くらいの少年が両親から手を握られ倒れている姿があった

少年は浅い呼吸を繰り返し、唇が乾ききって、肌色が青くなっている事が確認出来る。


「う、うちの子は大丈夫なんでしょうか・・・?」


不安と焦りが滲み出た家族の言葉に、繋は「安心してください」と柔らかい笑みを向ける。


繋は少年の足から漏れ出る血を確認しながら、少年の胸に耳を当てる。血が流れ過ぎているせいか、鼓動は弱いがまだ脈打っているのを確認する。


「良かった・・・・・・まだ、大丈夫そうだ」


繋はすぐに回復魔法を施す。橙色の淡い光が、少年の体を包む。

漏れ出てていた血は体内へ吸収され、穴が空いていた傷が徐々に埋まっていく。浅い呼吸だった少年は次第に呼吸が安定し、土色だった顔にも血色が戻ってきた。


「流石繋さん。良かったこの子も回復できて・・・・・・」


追い付いた菊香が繋の隣で安藤する横で、ユミルが眉をひそめる。


「っチ! タイミング悪~」


彼女が舌打ちをしたその瞬間、四方の路地からゾンビの群れがぞろぞろと現れた。


「Class2の癖に一丁前に待ち構えやがって!キっちゃん、皆!構えて!」


ユミルが叫ぶと同時に、影が地面を這う。

ゾンビの足元から伸びた影が、まるで縄のように足を絡め取る。


「こっちの数十体はアタシが何とかするから、ケイちゃん達はキッちゃんとその家族を守ってあげて!!」


ユミルが声を張り上げると、彼女の影がグワン!と急速に地面を這うように拡大し始めた。


「そこから先に行かせるわけないでしょ~」


目を伏し目がちに、気怠そうな声で。


「───スカッグ・ケトル(影の手)」


彼女が静かにそう唱えると、ズララと彼女の拡大した影から無数の黒い鎖が次々と伸び、ゾンビたちをしっかりと拘束していく。


「あの力は・・・・・・、異能なのか・・・?」とヒカルが驚きの声を漏らした。

繋も同様に、目を凝らしていた。そして、すぐに彼女の力に何か違和感を感じ取る。


(異能じゃない。あれは、魔法・・・・・・? いや、違う。でも近しい何かだ・・・・・・)


「スカッグ・スカジ(影を刈る大鎌)」


ユミルは冷めた表情で右手を横に上げる。すると彼女の影からまたもや何かが現れる。

影から風が吹きあがる。彼女の金髪を荒々しく振り乱しながら、影から約2メートルの大鎌が出てきた。ユミルは雄大な動きでそれを振り回し、肩に担いで地面を力強く蹴る。


「邪魔者はどきなーーー!!」


大鎌の重量をものともせず、ザシュ───とゾンビを気持ちのいいほどの鋭さで一気に薙ぎ払う。


その背後では、菊香が繋の援護に回っていた。彼女は慣れた手つきで弓を巧みに扱い、近づくゾンビたちを次々と射倒していく。


「繋さん・・・・・・! 」


「よし・・・何とか回復が間に合った・・・!!」


息を吹き返した少年と家族に、繋は近くの建物の陰で隠れるよう指示する。


「菊香ちゃんお待たせ───!!」


杖を宙から取り出し、杖を切るように振る。先ほどの親子が隠れた場所に結界を張りながら同時に、攻撃魔法を展開する。


次々と大量に隆起した土の槍がゾンビ達を貫いていく。


菊香もまた、魔法の弓を構える。狙いを定め引き絞る


「─────────そこだ!!」


無数の矢が飛び、ゾンビ達の頭や身体を貫いていく。


ヒカルは離れた場所で赤雷を纏いながら次々とゾンビをなぎ倒していく。


繋はヒカルが動きやすいように瓦礫や倒れた建物を浮遊魔法でどかしながら補助するのも忘れないようにする。


同時に影のような真っ黒な死神のような大きな鎌を携えたユミルがゾンビを切り刻んでいくのを横目で見る。


戦闘慣れした彼女の動きを観察しながら、彼女の影による束縛に似たような魔法で「グロウ」と唱える。急激に成長した植物の蔦がゾンビに絡まりつき、ユミルは「ナイス!!」と言いながら鎌を振った。


4人で順調にゾンビを倒していく。


けれども倒しても倒しても湧いてくるゾンビ達。

Class3は居なくとも、敵の数が多すぎた。皮膚はただれ、骨の露出も目立つゾンビ達が足を引きずりながらも、止まることなく繋たちに迫ってくる。


「っ・・・・・・多い。キリがない」


菊香の声に疲れの色が見えてくる。いくら魔法で改造したコンバウンドボウでも数十回も引いていたら、彼女の肩にも限界が近づいていた。


「菊香ちゃん、休んでて、ここは僕が───」


繋は宙から花の栞を取り出し、オルタナティブ・マジックを発動しかけようとすると、ガシリと肩を抑えられる。肩を抑えた人物を見上げると、そこには未だに余裕そうなヒカルが立っていた。


「菊香も休んでろ。後は俺がやる」


「ヒカルさん・・・・・・」


繋が目を見開いた。


一瞬躊躇うように俯き、考える。

ここで役に立たない自分に価値などあるのか。と自己否定するもう一人の自分が背後から囁く。顔色が悪くなるのが自分でも分かる。


だけど、あの日の夜を繋は思い出すも、自己否定が膨らんでいく。


(・・・・・・頼れない。頼っちゃいけない。役に立たない自分なんて・・・・・・)


徐々に俯く視線に、上からヒカルが力強く言い放つ。


「俺を頼れ」


その言葉を聞いた瞬間、遥か遠くの世界に居る親友を思い出した。まるで影に光が差すような感覚だった。


(少しくらい他人を信じてさ、頼ってみても良いのかな・・・・・・)


(──────ねえ、僕?)


繋は自分の心に語りかける。答えは───


繋はゆっくりと頷いた。


「・・・・・・お願いしてもいい?」


その言葉にヒカルは口角を上げニヤリと笑う。


「任しとけ」


ヒカルはそう言って、2人の前を歩く。

呻き声が徐々に大きくなっていく。大量に向ってくるゾンビ群を睨み付けるようにヒカルは右手を上げる。


「ラウズ・ゲイル」


低く唸るようにヒカルが呟いた後、バリリリ!電気がが弾ける音が響く。

彼の赤雷を纏った右手に雷の槍が形成され──────グン!!と右手を思い切り振りかぶった。


瞬間。赤雷の槍は音を置き去りにして炸裂する。

雷鳴のような一撃が、ゾンビの群れを跡形もなく吹き飛ばしたのだった。





少し離れた場所でユミルが最後の一体を影で引き裂き、戦場はやっと静寂を取り戻した。


「ふいー、こっちも無事終わった〜。みんなもお疲れ~あれだけの数をこの数人で対処出来るって凄いじゃんね」


ユミルは大きく息を吐き、手を振って汗をぬぐう。軽快な言葉で繋達へ近づくが、彼女の足元がふらついた。


「ユミルさん!?」


繋が慌てて駆け寄ると、彼女は苦笑いを浮かべた。


「ちょっと力使いすぎたかも~・・・・・・アタシの力意外と精神力使うんよね~・・・・・・」


その言葉に繋はまるで自分の力と同じだと気付く。しかし、今は無茶をした彼女に繋は注意するように言った。


「1人で無茶するなんてダメだよ・・・・・・」


「ああ、全くその通りだ。何所かの誰かさんと一緒でな」


「うそでしょ?!!」


まさかの飛び火に繋は固まる。


「そんな事言わなくて良いじゃんか・・・」とぶつぶつ言いながら、治療を始める繋の後ろでヒカルは腕を組みながら細めた目でユミルを見ていた。


ヒカルは繋がユミルを治療する姿を傍目に警戒体勢を取ったままだった。一緒に戦ったとは言え、ヒカルは未だにユミルの事を完全に信用していなかった。こうやって疲れている姿でさえ演技かもしれないと疑っている。


「だってさぁ〜頼んだ側だし。キミ達ばかりに任せっきりじゃ、カッコつかないじゃん?」


そう言って笑うユミルに、繋は溜息をついた。


「・・・・・・別にカッコつけなくても良いんだよ。一応さ、出会ったばかりだけど仲間なんだから、一緒に戦おうよ」


治療をしつつ、そう言うと、繋はユミルの頬にも切り傷を見つけ、ごめんねと一言言うと手の平でその箇所を癒し始めた。


その言葉と行動に、ユミルの目が揺れた。


(まじかよ・・・・・・度が付くお人好しじゃんか・・・・・・)


「・・・・・・ヒカルっち、繋ちゃんて、いつもこんな感じなの」


余りにも珍しい人種の為、ユミルは同じ匂いがするヒカルに確認を取ってしまう。

「頭が痛くなるぐらいな」


ヒカルが目を伏せて困ったもんだ。と言うような表情をするものだから、ユミルは一瞬キョトンとした顔をした後「あっははは!!」と面白そうに大きく笑った。





その夜。


繋たちは救助した少年と家族を荷台に乗せた後、車の中へ戻る。


「直ぐにでもこの人たちを、拠点まで連れて帰ろう」


「賛成。あと、ご飯食べたらすぐに寝てね。もう今日は魔法、使っちゃダメだから」


菊香が母親のように言うと、繋は苦笑いするしかなかった。


「でも、繋さん、最近ちょっと変わったよね」


「え?」


「なんかね、柔らかくなってきたっていうか。いや、元からだったんだけど、今は私達に黙って無理をしてる事が多かったけど、今は少しでも頼ってくれている感じがするの」


菊香は両手を後ろで組み、微笑みながら話す。

そんな彼女に繋は返す言葉に詰まり、少し目尻を下げるように作り笑いをする。


(───菊香ちゃんも、もしかしたら知っているのかな・・・あの日の夜の事を)


もし知っていて、こうやって距離を考えてくれているのなら、有難い気持ちと年下の女の子に気を遣わせてしまっている自分に不甲斐なさを感じる。


(・・・・・・それれも、今はまだ)


(ごめんね。君の前や、誠一君たちの前では頼れる完璧な大人でありたいんだ)


「ありがとうね菊香ちゃん」


「いえいえ~」


そう言って笑い合うと、


車内に安堵の空気が流れた。


だが。


誰も気づいていない。


繋たちが戦っていた時、建物の影から、ひとりの男とそれ以外にも居る複数の人間たちがその様子を見ていたことを。


その男は、スカーフを巻き、無線機に静かに呟いた。


「渡 繋を確認した。次の段階へ移行する」




もしこの内容が良かったらブクマ・評価・リアクションしてくれますと飛び跳ねて喜んでるかも。

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