第8話:狂化
2025/9/4 大幅改稿済み+タイトル名変更
2025/11/26 加筆修正
春が来た。同時に、新たな勇者一行の旅立ちの日でもあった。
スヴィグル・ハーキュリー。そして、その相棒にして渡繋。
二人とも年を重ね、繋は二十一歳、スヴィグルは二十五歳になった。歳月だけでなく、外見も様変わりしている。特にスヴィグル。
髪は無造作の伸び、黄金色の髪は後ろで一本にまとめられ、かつての青年っぽさはどこへやら。体格もひとまわり大きくなっていて、ヒョードルの訓練と繋のバランスのとれた食事管理のおかげで、身長はついに186センチに到達していた。
そのアゴにはしっかりとした髭も生えていて、風格はまさに“ヴァイキング”。
前日に盛大な送別会があり、翌日の朝の出発。今は二人、ヒョードルの家の前に立っている。
「なんでお前、送別会来なかったんだよ」
スヴィグルがやや拗ねた声を出す。
「主役は君だし、ぽっと出の僕が混ざったら盛り下がるでしょ」
繋は、不思議そうに首をかしげる。
「そんなわけねえだろ! 他のやつらだって、お前に憧れてるんだぞ。なんでアイツ来てねぇんだって、大騒ぎだったわ」
「──っ、そ、それなら・・・・・・悪いことしちゃったね」
「今度戻ったら、顔出してやれよ。あいつら泣いて喜ぶぞ」
「うーん、そこまで言うなら、そうするよ」
泣いて喜ぶって大袈裟だなあと繋(けい)は内心思っていたが、スヴィグルと一緒にいるようになってからというもの、繋(けい)の隠れファンが増えてきていたりする。
超絶優等生タイプで、人のプライドをバキボキと折るような強さを持つ近寄りがたい存在だと思っていた男は普通に人当たりも良く、一緒に話してて心落ち着く存在だったのだ。
「ああ、絶対そうしろよ」
そのやりとりの最中、ヒョードルが奥から顔を出す。
「おーい、荷物の支度はちゃんとできておるかのう?」
「よし、じゃあ・・・・・・」スヴィグルが空を仰ぐ。
「行くか!!」
「うん!」
鳥たちのさえずりも、今日はどこか別れを惜しむようだった。
出発の選択は、繋の希望だった。大勢の人に見送られるより、思い入れのあるこの家で 大切な人との別れがいい、と。
「よっしゃ、じいさん行ってくるぜ!」
スヴィグルが肩を大きく回しておどけてみせる。隣には、今日の日の為にヒョードルが用意してくれたローブを着ている繋の姿があった。
二人を見つめるヒョードルは、腕を組んで渋い顔だ。
「うぅむ・・・・・・どうにも、落ち着かんのう・・・・・・」
「え? あんたでも寂しくなるのか?」
スヴィグルがからかうように言うと、忽ち拳骨が脳天に落ちた。
「いっだぁーー!! マジでやめろよクソじじい!!」
「年寄りをからかうもんじゃないわい。年寄りを」
「どこが年寄りだ! 見た目も若ぇ方だし体力もバケモンだろうが!」
「はいはい、そこまでそこまで〜」
繋が慌てて二人を止める。
「繋、お前も寂しいんじゃないか? じいさんがお前に世話焼く姿、見られねえぜ」
「どっちかというと、僕が面倒みてるんじゃ?」
「おうおう、若造2人が生意気に言いよるわ」
スヴィグルが悪戯っぽく言うと、繋もニヤリと口角を上げ揶揄いで返し、そう言うやいなやヒョードルは拗ねたように腕をくんだ。
「・・・・・・まあ、でも、僕も寂しいに決まってるよ」
そう言って、繋は肩をすくめて両手を差し出す。
「ん? ケイよ、どうしたんじゃ?」
「再会の約束のハグだよ。・・・・・・少しでも寂しさが紛れるから。ハグでもしないと、踏み出せないこともあるし」
「お前って奴は・・・・・・」
「繋よ・・・このタイミングでか・・・・・・」
と、ヒョードルとスヴィグルが呆れたように同時にため息を漏らした。
まさか、こんなタイミングで甘えてきた事に2人は頭を抱えたくなる。
普段甘えた言動を一切出さない繋なのだ。そんな繋が甘えてきたのが、魔王討伐の出発前など縁起が悪すぎて、2人はこんなタイミングで言うなよと呆れかえったのだ。
「えっ、なんで!?」
繋がキョトンとする。
ヒョードルが近づくと、一瞬ぎこちなくなったものの、無言で繋を強く抱きしめた。 年季の入った大きな手が、繋の背中を優しく叩く。その動作には、彼なりの情がたっぷり詰まっていた。
「ほれ。心配せんでも、ワシはここでちゃんと待っておるぞ」
「うん・・・・・・ありがとう」
離れる瞬間、繋の目の端がわずかに潤んでいるのに気付く。
「おいおい、なんか湿っぽいな」 スヴィグルが冗談っぽく笑うが、喉の奥がつまったような声でスヴィグルは無理やり明るく振る舞う。
すると、ハグをし終えた繋がスヴィグルの方に向き語りかける。
「じゃあ、スヴィグルにも・・・・・・ハグ、してもいい?」
「お、おう・・・・・・!?・・・・・・いや、マジ、いきなり来る?」
周りで鳥のさえずりが一瞬止まる気がした。 それでも繋は小さく頷いた後、視線を逸らさずスヴィグルを見つめる。
その視線にスヴィグルは「ああ、これは茶化せねえな」と観念し、同じように両手を差し出す。
その瞬間、繋は思いきりスヴィグルにハグした。
「また一緒に此処に帰ろうね、きっと」
「そうだな・・・・・・。ああ、絶対に、だ」
繋の言葉と行動に感傷的な感情が伝播したのか、スヴィグルの声にはほんの少しだけ震えが混じっていた。
「という事なら、スヴィグル、お主も儂にハグをしろ」
ヒョードルが二人を見て、にやりと笑う。
「は、はあーーーー!!! 誰がするかよ!」
「ほらほら、時間が持ったない。それにこれぐらいで恥ずかしがる事もなかろう」
「そうそう。折角だしね」
隣からも、加勢が入ってしまいスヴィグルは逃げられなくなる。そして、ムググと言うと仕方ないとやれやれしながらも、顔を赤らめヒョードルにハグをした。
「くそ・・・・・・ケイならまだしも、恥ずかしいな・・・・・・」
すると、ヒョードルは「くっくっ」と喉で笑ったあと、優しい声色でスヴィグルに語りかける。
「スヴィグルよ。お主も絶対に、絶対に、無事で帰ってこい」
「わかってるよ。言われなくても──」
「いや、言う。何度でもな。これは家族としての命令じゃ」
その言葉に、スヴィグルは押し黙り、瞳孔が大きくなる。
ヒョードルの背中を思わず強く抱きしめてしまい、ヒョードルから笑われる。
「・・・・・・」
無言でゆっくりと離れるスヴィグルに、繋は何も言わずに、優しそうな表情で黙って隣に立っていた。
ヒョードルが小さな包みを差し出す。
「ほれ、道中のご飯じゃ。ケイが作ってくれるものとは出来が違うがな」
その包みには、簡単な握り飯数個とちょっとした付け合わせが入っていた。
「ヒョードルありがとう。作ってくれて嬉しい」
「じいさん、ありがとうな!」
「ぜってー2人でここに帰って来るからな!」
「ふははは。気を付けて行ってこい。そして忘れるなよ。お前たちの帰る場所は、ここだからな」
スヴィグルと繋が互いの顔を見合わせる。その顔には、笑顔と決意と、そしてほんの少し寂しさがあった。
こうして春の朝――ヒョードルの家の門前で、二人は新たな旅の第一歩を踏み出すのだった。
遠ざかっていく二人の背中を見送りながら、ヒョードルは首に手を添え、コキコキと骨を鳴らした。
「して、スヴィグルには古き魔王の血が流れておったが、本人は気づいておらんかったし、最後まで知ることはなかったのう・・・・・・。あの血は昔は仲間殺しで有名だったが、今は流石に変わっておろう。それに、まあ、繋もいる。大丈夫じゃしな」
この一年間、スヴィグルがヒョードルに師事する中で、何度か意識が飛ぶことがあった。そのあいだ、彼は人間離れした動きすら見せていた。
(やはり、あの血が騒いでいるのだろうな)
ハーキュリー族――神に呪われし王の血、と言われてはいるが、フリッグ様は「私は一切関与してないぞ」と言っていた。御前の話では、むしろ古き魔王が遺した血族らしい。
(狂化による解放で、極限まで身体能力を解き放つことができる。もし将来、その力を飼い慣らせたなら、とんでもないことになるぞ)
そんな考えに、ヒョードルはひとり、楽しげに口元をほころばせた。
(その血のことはケイにも伝えておるし、もし将来スヴィグルが“狂化”に呑みこまれたなら、御前から教えられた通りハーキュリー族の村へ行き、儀式を執り行う必要がある)
それは――狂化した戦士を鎮めるには、誰かが相手となって闘わねばならない、というものだ。
(いまのスヴィグルの強さに対抗できる者がいるとしたら・・・・・・儂か、ケイだけじゃろう)
だが、その役目を自ら望んだのは、繋の方だった。
いままでのような自罰的な行為かと一瞬だけ不安がよぎったが、そうではないことに、ヒョードルは心底驚かされた。
(「家族のために、僕がスヴィグルを助けたい」・・・・・・か)
正直、家族同士を戦わせるような事態は、できれば避けたかった。
だが、あれほどしっかりと、自分の意志を口にして繋が主張したのは初めてだった。
――だから、ヒョードルはその意志を尊重することにした。念のため、万が一のフリッグ様からの保険もある。
(それに、あやつは強い)
自分の教えをすべて吸収し、なおかつ独自の流儀へと昇華してみせた。攻撃魔法の適性はないものの、初級魔法しか使えない分、その不足分を技術と工夫で補っている。
(ケイよ、スヴィグルを頼んだぞ)
「さてはて、儂もさっさと今の仕事を終えて・・・・・・“仲間”として加わらせてもらうかのう」
そう独りごちながら、ヒョードルの口元にはどこか苦い笑みが浮かんでいた。
◇
ふたりはその手に背を向け、森の小径を歩き出した。
朝陽が静かに木々の隙間から差し込む。
森の道を抜け、丘を越え、川を渡って──
スヴィグルと繋のふたり旅が始まった。
旅は順調だった。
ときおり魔物が現れても、スヴィグルの斧と繋の魔法があれば、どんな魔獣も恐れるに足りなかった。
戦闘の後、肩を並べて笑い合う二人の姿は、もはや戦士と呼ぶにふさわしいものだった。
互いの成長を感じながら、スヴィグルも繋も、ほのかに誇らしさを胸に秘める。そして、そんな日々がずっと続くような気さえしていた。
「・・・・・・なんか、不思議だよなあ」
「なになに、どうしたのさ?」
繋が横で歩くスヴィグルの顔を見る。
「訓練寮でずっと過ごすもんだと思ってたら、今度はじいさんの家でお世話になって、さらに今度はお前とこうやって旅に出てる」
前の自分では想像出来ないぐらい事が進んでいる事にスヴィグルは「信じられねぇよな」と言葉にする。
「・・・・・・そうだね。・・・・・・僕も同じ気持ちだよ」
それは繋にとってもそうだった。
両親と死に別れ、女神フリッグに拾われ、ヒョードルの養子となり、それからはずっと場所を変えずにヒョードルと2人で暮らしていた。
初めて広い世界に飛び出て、初めてこの世界を感じ取れて、繋の止まっていた時間がやっと動いた気がした。
互いに、
あの時止まってしまった”時間”が動き出したのだ。
「ねねね」
繋が何かを思いついたかのように、楽しそうにスヴィグルに声をかける。何となく楽しそうな繋にスヴィグルは眉をひそめ、目を丸くして、「なんだあ?」と訝しげに首をかしげた。
「この先大変な事が沢山起きるとは思うんだけどさ」
「僕たちなら、何でも出来そうだよね」
春風が吹いた気がした。
手を後ろに組んで、繋はステップをする。
スヴィグルの先を歩き、振り向いた瞬間、口角を上げ、まるで少年のように笑う繋に釣られて笑う。
「ははは、オレもだ・・・・・・!」
スヴィグルは空を見上げた。
(そうだ、オレ達なら何でも出来る)
青い空に白い雲、風に揺れる木々。どこまでも続く道。魔王討伐という旅であっても2人ならどんな困難にでも立ち向かえると思っていた。
その矢先だった。
──最初の試練がスヴィグルと繋に訪れた。
旅に出て数ヶ月後の夜。
次の町へ歩く途中の道すがら、小規模な魔獣の群れとそれを統括する魔物に遭遇した。
「数が多いな・・・・・・だが、オレたちなら───」
「余裕さ!」
スヴィグルはそう言って斧を抜き、先陣を切った。
それに呼応するように繋も魔法で補助をする。
繋と息の合った連携で、次々と敵を屠っていく。
その戦いは、いつも通り終わりに──向かうはずだった。
(おかしい・・・・・・何時もよりやけに身体の動きが良い?)
スヴィグルは自身の身体に違和感を感じる。
そこまで力を込めてないのにも関わらず、本気で力を込めた時と同じような力が発揮される。
(なんだ・・・・・・、視界が暗くなる)
──何かが、確実に異常だった。体の奥から、ふつふつと真っ黒な熱が沸き起こる。どこまでも続くはずだった平穏が、音を立てて軋み始める。
──その時
ドクン!とスヴィグルの心臓が高鳴った。
血が熱くなる。
視界が赤くなる。
「────ガ・・・・・・ァアアアアッッ!!」
獣のひと噛みが肩に届く寸前、スヴィグルの剣が一閃した。
いや──その速度は、まるで風を裂くような音さえ切るようだった。
一太刀で三体まとめて切り裂いたかと思えば、そのまま空を切った斬撃がビュン!!と飛び、統率していた魔物の首が落ちた。
それを目に入れた繋は「とうとう来たか・・・・・・!」と目を細める。
「・・・・・・ッガぁアアッッ!!」
スヴィグルの獣のような怒号、もしくは獣のような咆哮が辺りをハウリングする。
ゆっくりとスヴィグルの瞳が開かれると、澄んだ青色の瞳は燃えるような紅に染まっていた。
「エフナッ(穿て)!!」
繋は杖を長杖から短杖に切り替え、杖を振って残りの魔獣を繋は土魔法で一掃すると同時に片手で人差し指と中指を揃え宙を縦に切るように手印を刻み、鎮静効果のある回復魔法結界を展開する。
ラベンダーの、青みがかった優しく淡い紫色の霧の結界を展開する。
気を失い、正常な判断が出来なくなったスヴィグルが見境なく繋に向かう前に先に辺りに
淡い紫色の靄が場を包み、スヴィグルの体にも静かに作用した。
動きが鈍った瞬間、すかさず繋はスヴィグルの前に詰め寄り彼の頭を優しく掴んだ。
「ロウ(静まれ)」と繋が鎮静作用のある回復魔法を静かに唱える。
「──────っはッ?」
気を取り戻したスヴィグルが、息を吹き返すように荒く息を流し呼吸を繰り替えす。はぁッはぁッと滝のような汗と斧を握ったまま、スヴィグルがその場に崩れ落ちる。
「スヴィグル!!」
繋がそのまま彼の肩を支える。
肩で激しく息をしながら、額から汗をしたたらせていた。
「ッは・・・・・・はぁッ・・・・・・オレ・・・・・・」
「今はいいから、ゆっくり休んで」
繋はスヴィグルに昂った精神を落ち着かせる為の鎮静魔法をかける。繋は眉をひそめ、静かにスヴィグルの背を撫でるようにさすった。
スヴィグルは眉を寄せ、唇を噛む。
「・・・・・・オレ、お前に攻撃しようとしてたよな・・・?」
その一言に繋は目を瞑ると(もう、隠し通すのは無理か・・・・・・)と苦く思った。
(ヒョードル、もう彼には伝えようと思うよ・・・・・・)
「・・・とりあえず、一旦休もう。長旅で疲れも溜まってるし、町まで直ぐだから」と言って繋は杖を長杖に戻し、さらに少し伸ばす。
繋はそれに跨ぐと、スヴィグルを浮遊魔法で浮かせ自分の後ろに乗せた。
「な・・・ッ。飛行魔法だと魔力を沢山使うじゃねえか・・・!大丈夫だ!オレは歩ける!」
慌てたように拒否をしようとすると、繋がぴしゃりと有無言わせない雰囲気で「スヴィグル」と一言、彼の名前だけ読んだ。
「繋・・・・・・わかったよ・・・・・・」
こういう時の繋は何を言っても聞いてくれないと分かっている為スヴィグルは黙って頷くしかなかった。
スヴィグルが大人しく杖に跨り、上空へ浮遊していく感覚に身を任せながら顔俯き黙っていた。
(あの解放感・・・あれは、なんだったんだ・・・?)
もっと本能的で、もっと──獣じみた感覚にスヴィグルは瞳を揺らす。
(まるで、蹂躙するのが楽しいなんて・・・、獣そのもじゃねえかよ)
(それに・・・・・・)
(オレは・・・)
スヴィグルは風が頬を撫でるのを感じながら、キツそうな表情で目の前の背中を見上げて見つめる。
(もし、繋が強くなかったら・・・・・・、オレは殺していたのかもしれない?)
その思いが脳裏をかすめた瞬間、スヴィグルは反射的に口元を押さえた。吐き気がこみ上げ、胃の奥がきしんだ。
たまたま繋が熟練の魔法使いであり、どんな状況にも冷静に対処できる経験者だったからこそ、最悪の事態は免れた。それでも、自分の刃が繋に向かってしまったという現実に、スヴィグルはどうしても目を背けることができなかった。
(オレが、繋を――殺そうとしていた・・・・・・)
その事実が喉元に引っかかり、息苦しさとなって胸を締めつける。
指の隙間から、かろうじて理性が流れ落ちるのを必死で食い止めようとする。本当に、もう少し踏み外していたら、決して元には戻れない何かを壊していたーーそう思うと、心臓が恐ろしいほど小さく鼓動し始めた。
どんなに気を失っていて、どんなに自分の意思が無かったとはいえ、「あの瞬間の自分」に、言い訳できる余地はもうなかった。ただ、その重さを、辛さを、じっと耐えるしかなかった。
やっと手に入れた家族を。一度は失い、もう二度と手に入らないと思っていた家族を、今度は自分の手で殺そうとしてしまったなんて――。
その事実が、胸を締めつけて離さない。
と、その時だった。
「大丈夫」
ふいにかけられた一言に、はっと顔を上げる。
「・・・・・・え?」
「大丈夫だよ。スヴィグル」
何がだよ。何も大丈夫じゃねえよ。オレはお前を殺そうとしたんだ――
言葉にならない罪悪感が喉元につかえて、息が詰まる。心の奥で自分を責める声だけが、ますます大きくなっていく。
そんなスヴィグルの気持ちを見透かすように、繋は明るい声で言葉を続けた。
「だって、僕、強いからね」
冗談めかした声で。けれど、その響きはいつもと変わらず優しい。
その軽やかさにスヴィグルは一瞬、呆然とする。
さっきまで心を埋め尽くしていた重い罪悪感が、不思議とどこかへ流れていった。
(・・・・・・オレは、お前のそういう所に頭が上がらねえよ)
――この声と言葉に、いつも救われてきた。
胸の奥に、そっと灯がともる。
(ったく・・・・・・お前は、ほんとうによ・・・・・・)
普段は滅多に見せない強気な繋の表情と声に、スヴィグルは思わず吹き出してしまう。
たったそれだけのひと言が、スヴィグルの心を、不思議なほどあたたかく包み込んでくれたのだった。
もしこの内容が良かったらブクマ・評価・リアクションしてくれますと飛び跳ねて喜んでるかも。




