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第5話:共に

2025/8/30 大幅改稿+タイトル名変更

2025/11/26 校正

(くっそハードだけど、確実に力が身についてきてる)


あれから更に数週間。


スヴィグルは訓練生寮を出て、ヒョードルに言われた通りけいの家に身を寄せていた。

討伐訓練が無い時は、朝昼毎日のようにスヴィグルから手解きを受ける日々。


(というか、あんな化物から毎日のように師事されてたなら、そりゃあアイツも強い訳だわ)


そのお陰もあってか、着実に自分の戦闘技術が上がっていくのを感じていた。

それだけじゃない。毎日1日に3食、けいによる栄養バランスが取れた美味い食事もあってか、スヴィグルの身体は見る見る変化していった。

止まっていた身長は伸び、筋肉が付き始めた。


「いっでーーー!! 少しは手心を加えろよなクソじじい!!」


「フハハハハ!! そう吠えれるなら、まだまだ元気が残っている証拠じゃ!!」


そして、今日も今日とてヒョードルから扱かれ、身体の至る所に擦り傷や打撲痕が出来ていた。


場所はヒョードルの家の縁側。


今日の鍛錬も終わりヴィグルとけいが隣同士で座っていた。


「いてて・・・・・・。今日もマジで容赦なかったな」


「僕以外で訓練に食いついてくれる人が出来て嬉しいんだろうね・・・・・・にしてもやりすぎだけど」


本当に困った人だ。と笑いながらけいはスヴィグルに回復魔法を施す。


「お前も毎日毎日とありがとうな」


「気にしないでよ。したいからしてるだけだもん」


「それでもだ」


そう言ってくれるスヴィグルにけいはふふふと顔が緩む。


「なんだよ間抜けな顔をして」


「ちょっ、酷いんだけど!」


出会ってから何だかんだで3カ月近く。

今は毎日のように顔を合わせているのもあり、2人は軽口を言い合えるくらいの仲になった。


「こうやって3人でいるとさ、なんか、・・・・・・ううん、やっぱり何でもないや」


神妙な顔で何か言いだそうとしていたけいは、こんな事言うべきじゃないと口を紡ぐが、スヴィグルがそれに続く言葉を揶揄うように拾う。


「んだよ? あれか?家族みたいだ~って言いたいのか?」


「え? なんでわかったのさ」


「大当たりかよ・・・・・・」


スヴィグルは呆れたように目を細め、けいのじと〜っと効果音がつくような目で見る。


「それぐらい言っても罰なんて当たらねえだろうよ」


ため息交じりにそう伝えると、けいは「だって・・・・・・」と呟いた。


「君の家族に失礼かなあって」


その言葉にスヴィグルはまた心臓がきゅうっと締め付けられるような痛みを感じる。


「お前はよ・・・・・・本当に。ほんとにほんとうにコイツは人の事ばかり考えやがって!」


「ちょっとは自分の言いたい事ぐらい素直に言えってんだ!」


思わず怒鳴るような言い方になってしまい、直ぐにしまったと頭が冷える。

直ぐにスヴィグルは「すまん!」と謝る。目を瞑り、けいの反応を待つが静かだったので、恐る恐るスヴィグルは目を開けた。


そこには固まるけいがいて、けいはゆっくりと口を動かす。


「だって、僕が素直になったって・・・・・・迷惑しか、かからないじゃないか」


「あ・・・・・・ッ・・・・・・、何でもない!! ごめん忘れて! 治療も終わったし、後はゆっくり休んでね」


慌てたように早口で言い切ると、けいは立ち上がりかけた。まるでこの場から逃げ出すみたいに。


「って、おい!」


スヴィグルの腕が、咄嗟に彼を掴む。

がしり、と逃がすまいとする手は獣のようで、その瞳もまた獲物を捕らえた狩人のものだった。


「逃げんな」


「逃げてない」


けいは睨み返す。しかしその声には微かな震えが混じっている。

スヴィグルは考えた。腕力だけならけいに勝てる為、無理矢理この場に座らせることもできる。


けれど、そんなやり方は絶対にしたくなかった。


だからこそ、けいが立ち止まってくれそうな言葉を探しだし、選び、口にした。


「なら、頼みがある」


「・・・・・・?」


「お前の世界の話が聞きたい」


しばしの沈黙のあと、離してくれる様子が無いスヴィグルに観念したようにけいは再び腰を下ろした。


スヴィグルに顔を向けるとため息交じりに言葉を吐く。


「この間話したでしょ?」


「他の事も、特にお前の事を聞きたいんだ。どのようにそっちの世界でお前が生きてきたのかをさ」


けいは口を紡ぐ。視線をあちらこちらと泳がし、目を瞬かせた後。


「・・・・・・わかった、でも何も面白くないからね」


まだ視線は若干泳いでいたが、それでも彼はゆっくりと語り始める事を決めた。


――自分が生まれ育った世界のことを。


(・・・・・・やっぱりな)


スヴィグルはけいの話を聞きながら、何度も違和感を覚えた。両親の話が淡々と語られるものの、そこには肝心な部分が抜け落ちているように感じられた。


(これか・・・・・・じいさんが言ってたのは)


悲しんではいる。だが、そこにあるべき深い哀しみが見えない。


まるで、けいと両親の間には大きな溝があるようだった。


けいは親の話になると意識的に逸らしている事を。

そして、これが彼の心の闇であり、自分を貶める原因の一部であることがわかった気がした。


けいが笑うとき、その表情には人を安心させるための仮面がある。その奥に潜む闇を、スヴィグルはいま確かに感じ取っていた。


スヴィグルは時折だが、ヒョードルからけいについて話を聞いていた。けい自身から語られることが少なく、尋ねようとすると逃げられてしまうことが多かった。


ヒョードルからは本人から語られるのを待つべきだと言われていたが、待ちきれずに彼に頼み込んだ。


スヴィグルは気長に待つ性分ではないため、距離を縮めようとするたびに一歩後ろに引くけいに対して、強硬手段をとらざるを得なかったのだ。


(こいつは本当は自分に手を伸ばして欲しい癖に、その手が怖くて逃げるんだ)


そんな必死なスヴィグルに、ヒョードルも応えてあげたくなり、けいについて語ってくれた。


その内容にスヴィグルはけいの手を握ってやりたいと思うぐらい凄惨だった事を思い返す。


両親との間には深い溝があり、幼少期からほったらかされていたこと。

あのひび割れたような胸から伸びている傷痕は、外法によって身体を改造したから。

そして、一度は魔力の暴走で死にかけたこと。


(実の親からは中途半端に見放され、養父からは今は愛情を受けている。・・・・・・けども、アイツはその受け取り方が分からないでいる)


(オレは・・・・・・お前と出会って色んなものが変化した。全て良い方向に向かって行った。でもお前にそれを言えばきっと俺が頑張ったからだと言うだろう)


(でも、自分の力だけじゃ無理だったんだ。独りじゃ絶対駄目だったんだよ、───ケイ)


スヴィグルはそう思い、隣で平坦に自分の事を説明するけいを見つめるのだった。


「って事で、異世界・・・・・・まあ地球だね。地球での僕の人生はこんな感じ。大した面白味もなかったでしょ?」


「いんや。文化も人の生き方も面白かったぜ。何より、学校だっけ? いいな、それ。お前と行けたら楽しかっただろうな」


「あはは・・・・・・それは楽しそうな学生生活になりそうだけど、スヴィグルくんとは四歳違うから、中学校以降は学校が分かれちゃうね」


けいは少し笑って肩をすくめる。

でも――その次の言葉は、小さく、胸に刺さる響きを持っていた。


「あっちの世界で独り残した親友と・・・・・・それから、歳の離れた兄として、君みたいな人が居たら・・・・・・嬉しかったのかも」


「・・・・・・ふーん。なら俺を兄貴として思っても良いんだぜ?」


口にしたのは、半分は冗談だった。


(・・・・・・本当は、お前とは対等でいたいんだ。兄とか弟とか、そういう関係じゃなくてな)


だが返ってきたのは、案外あっさりした拒絶だった。


「え? ごめん。無理」


「おい!?」


「んふふ・・・・・・だって君とは、一緒に肩を並べて生きて戦いたいもん」


「・・・・・・っ!!」


一瞬、息が詰まる。

それはスヴィグルがずっと胸にしまっていた願望と、寸分違わぬ言葉だった。


「てか、僕のことを聞いたんだから、今度は君の話もしてよ!」


「はぁ? 俺の話こそ聞いても、なんも面白くもねえぞ?」


「いいじゃない! 他の家庭というか、そういうの気になるんだ」


けいの声音には、どこか羨望が滲んでいた。

スヴィグルは小さく息を吐き、観念したように語り始める。


「四人家族で、妹がいたこと事は離したよな」


そこからスヴィグルはけいに過去を語り聞かせた。


王都から離れた集落で、平和に暮らしていたこと。

父から斧の使い方を教わり、母や妹と畑を耕していたこと。

時々、家族四人でピクニックに行ったこと。


語るうちに、懐かしい景色と笑い声が蘇り、目頭が熱くなる。

けれどけいは、何も言わずただ静かに耳を傾けていた。

その横顔は、敢えてこちらを見ないようにしているようで――それがまた、優しかった。


やがて全てを語り終え、スヴィグルは青空を仰ぐ。


「な? 普通だったろ」


「うん。普通で・・・・・・とても素敵な家族だったんだなって、よく分かったよ」


「・・・・・・ッ!」


見えないように、スヴィグルは唇を噛んだ。


(・・・・・・ほんと、そういうとこなんだよ。どうして俺の欲しい言葉を、ピンポイントにくれるんだよ・・・・・・)


けいの横顔を盗み見る。

その表情には、羨望と――泣き出しそうな影が滲んでいた。


(でも・・・・・・お前も欲してるんだろ。俺と同じように・・・・・・)


だったら、待ってくれ。

強くなるから。必ず隣で戦えるようになるから。


――その時は。


(家族って呼んでも、いいよな)




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