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第3話:遠縁

2025/8/27 大幅改稿

2025/11/26 加筆修正

あれから数週間、

2人の関係性は劇的に変わる事は無かったが、それでも最初の頃と比べたらスヴィグルはけいをちゃんと見る事が出来た。


そして今回は何度目かの討伐任務。

二人は今までと変わり、互いの呼吸を合わせるのも容易になっていた。2人は効率的に魔獣や魔物を倒していく。


土と汗の匂いが混じった夕刻。二人は小さな丘のふもとの木陰でひと息ついていた。


スヴィグルは、倒した魔獣の血が付いた斧を無言で拭っており、その隣で、けいが丸めた布を腰に敷き、慣れた手つきで今日の夜ご飯を準備していく。


その光景を見ながらスヴィグルはある事を考えていた。


(俺らも最初と比べたら大分距離が近くなった。なら、そろそろあの時の事を聞いても良いかもしれねえよな)


しばらくの静寂。


「よし! もうそろそろ良いだろ!!」


「へ?」


けいの手が止まる。持っていた野菜を置き「いきなり、どうしたの?」と問うと、スヴィグルは真剣な眼差しでけいを見つめ、言葉を紡いだ。


「お前さ、この前俺を庇ったとき。なんで、あんなことしたんだよ」


けいは突然のスヴィグルからの問いに驚くも、渇いたような笑みで明後日の方向を身ながら答えた。


「嘘つくなよ」


「うっ・・・・・・。なんでって言われると・・・・・・。スヴィグルくんが怪我するの、嫌だったから」


スヴィグルに念押しされ言葉に詰まりながらも、言い逃れることは出来ないと感じたのかけいはゆっくりと庇った理由を説明する。

だがその答えは余りにもシンプルなもので、スヴィグルは本気で言っているのかと再確認をした。


「・・・・・・本当に、それだけかよ」


「うん・・・・・・。それだけだよ」


しかし、けいはあっさりと肯定する。そこに、やはり嘘は無いとスヴィグルは感じるも彼は眉間を深くひそめた。


「あーもう!!」と髪がガシガシと搔きながら声を出す。

その声にけいは肩をビクリと揺らし、その姿にスヴィグルは「あ〜すまん、怒ってはいるんだが、怒ってはいねえ」と意味不明な事を言い出し、更にけいを困惑させた。


そんな表情のけいにスヴィグルは突きつけるように説明する。


「やっぱり、何でその理由に結びつくのか考えられねえ!! まだ、ちゃんとした仲間なら分かる!! でも、俺達はあの時初めて会ったばかりの他人なんだぞ!!」


「それに・・・・・・お前さ、自分が死にかけたんだぞ」とスヴィグルが声のトーンを落とし「分かっているのかよ」と確認するようにけいへ問う。


けいはその問いに俯き始める。スヴィグルが納得出来るような言葉を探すが、ほぼ衝動的でやってしまっているため、それをそのまま言ってしまうと恐らく彼は更に怒るに違いないと思い言い淀む。


でも、それ以外の答えはやはり無くて、けいは小さな声でやっと答えた。


「・・・・・・うん、分かってる、分かってるんだけど、身体が勝手に動いちゃって・・・・・・」


スヴィグルはその言葉の意味を、最初はうまく飲み込めなかった。


だが、けいはそのまま言葉を続ける。


「・・・・・・その、ね・・・・・傍に居る人が傷つくのを見たくないんだ。意味が分からないとは思うんだけど」


その言葉と顔にスヴィグルは言葉が詰まる。


「だから、なら自分が傷つけばいいかなって思ってしまうんだ。その、・・・・・・ぼく、自分が傷つくのは慣れてるし」


けいの口から語られる言葉の端端から感情が読み取れない。

というよりかは、どこか全部を諦めてるような言い方でもあった。


(自己犠牲・・・なのか?いや・・・・・・違う。俺と同じで復讐を人生にしてる死に急ぎ野郎か? いや、それも違う。なんだ、こいつをこういう風に追いつめたものは何なんだ)


スヴィグルは考えても答えが見つからないし、けいにかけられる言葉も見つからなかった。


火の粉が静かに星月夜へと舞う。

小さな焚き火のそばで、二人は隣に座り合い岩に腰かけていた。


静寂が2人を包む。

その中、スヴィグルがぽつりと切り出す。


「・・・・・・なあ、お前、家族とかいたのか?というかヒョードル様の秘蔵っ子って噂あんだけど、本当なのかよ」


スヴィグルは知りたくなった。この繊細で自分より強い存在が、どんな事情を持っているのか。踏み込んで見たかった。


唐突な問いに、けいは少し目を瞬かせる。

そして、焚き火の炎を見つめたまま、


「あははは。秘蔵っ子ってのは初めて聞いたけど、ヒョードルの養子である事は間違いないよ」


少しだけ嬉しそうにゆっくりと答えた。でも次には困ったように、眉を下げながら答えるけいにスヴィグルは「マジだったのか」と驚かれる。


「マジだよマジ」とけいはフフフと笑う。


「あ、でも養子なのか」


「うん養子。両親は・・・・・・いたよ。父と母。ふつうの」


含みのある言葉と間。それにスヴィグルはけいの様子が可笑しい事を感じる。表情を覗き込むとそこには遠い目をした、けいの寂しそうな瞳があった。


「まあ2人とも共働きで、ほとんど家にはいなかったからなあ」


スヴィグルは眉をひそめる。


「・・・・・・とも、ばたらき?」


「あ、ごめん。二人とも朝から夜まで働いてて、家にいないって意味」


(んん? 初めて聞く言葉だな・・・・・・)


知らない言葉が出てきてスヴィグルは引っかかるが、けいは言葉を続ける。


「ねえ、スヴィグルくんところの家族はどうだったの?」


突然振られた質問に一瞬戸惑うも、自分から聞いたなら答えるべきだなと考えスヴィグルは身の内の話をけいにした。


家族が魔獣に殺された事、妹がいた事、大事な大事な家族が殺されて復讐のために生きていること。


熱くなりそうな思いと、言葉を何とか抑えつつスヴィグルはけいに何とか説明し終えた。


すると、けいは一言。


「それは・・・・・・寂しかったよね」


ぽつん。とスヴィグルの心に水が一雫が落ちた。


「大切な人達を殺されて、それでも自分だけ生き残ってしまった・・・僕と少しだけ境遇が似てるけど・・・・・・」


「君はそれでも自分の力で立ち上がって、生きてて、凄いよ」


けいの言葉がスヴィグルの渇いた心に水を与えてくれる。


「ま、待ってくれ・・・・・・。似た境遇ってのは?」


自分が満たされそうになる前にスヴィグルは話を止め、けいの口から語られた似た境遇という言葉に反応する。


けいが一瞬だけ考えた素振りをした後、スヴィグルくんなら言っても良いかもと言い、変な事言うけど聞いてくれる?と確認を取られる。


寂しそうな色が瞳の奥に見え隠れする。本当に聞いてしまっても良いのかとスヴィグルは思ったが、「いや、こうなれば最後まで聞いてやる!」と決心し強く頷いた。


そんなスヴィグルの反応にけいは眉を下げながら説明を始める。


「まず僕はね、ここの世界の住人じゃないんだ」


「・・・・・・は?」


予想外すぎて、スヴィグルは呆然とした。どんな言葉が出るのかと身構えていたが、予想を遥かに超えたその言葉に動揺が走る。


スヴィグルが「嘘だろ・・・・・・」と口にしようとする瞬間、けいは諦めたように笑った。それを見て、スヴィグルは直ぐに思い直し、口を引き締めて言った。


「すまん! 続けてくれ!!」


「でも・・・・・・」


「大丈夫だ。ちゃんと最後まで聞く」


ちゃんと、聞きたい。とスヴィグルの言葉にけいは一瞬だけ息を整え、静かに語り始めた。


スヴィグルが彼の口から聞いた話はこうだった。


彼が初めて家族で旅行に出かけたのは、中学一年の夏だった。

まずは、この時点でけいの世界にそういった教育機関があることにスヴィグルは驚いていた。


そして、その旅で突然の事故に遭い、彼の両親は命を落とした。けいだけが生き残り、気が付くと全く別の世界へと放り出されていたのだ。


ただ、彼はヒョードル達に拾われ、生き延びることができた。けいは余り言いたそうではなかったが、自分のせいで事故が起きてしまったと悲しみと苦しみがごっちゃ混ぜになった表情で語っていた。


そして、両親に謝罪したくて、一目で会いたいが為に魔法を学んだが、当然死者と会う事は出来なかった。それからは、養父の手伝いをしながら日々を過ごしていたのだとけいは語った。


最初は感情を感じれたけいの声はどんどん淡々とした声色に変わり、まるで他人事のようだった。


それは割り切っているわけでも、乗り越えているわけでもなく、しょうがないと諦めているような受け止め方だった。


スヴィグルは黙り込んだ。


けいの過去に対して何を言えばいいのか分からなくなったから。


(お前も頑張ったんだな。・・・・・・いや違う。お前の両親が死んだのはお前のせいじゃない・・・・・・いや、これもコイツには意味が無い言葉な気がする)


そんな風に言葉を選びあぐねていると、けいが先に言葉を紡ぐ。


「なんか、こうやって話してみるとやっぱり僕たちって似てるよね」


先ほどの暗い雰囲気と変わって穏やかな声にスヴィグルは救われる。


「似てる?」


「うん。生き残った者同士。何とか頑張って毎日を生きてるところ・・・・・・かな?」


「あ、でもさっきも言った通りだよ。スヴィグルくんは復讐という理由があるにしても、僕と違って、立ち上がって前に進んでいる姿は───尊敬する」


「だって、僕は今も何のために毎日を生きているか分からないもん」


スヴィグルはその言葉に、今一度深く息を吸い込んだ。


胸の奥に渦巻くのは哀れみではなく、怒りだった。


けいが己を軽んじるたびに、まるで誰かに踏み躙られているように感じる。


(・・・・・・違うだろ。お前は、そんなにちっぽけな存在じゃねえだろ)


(だって、お前も見知らぬ世界に放り込まれて、こんな世の中でも必死に生きてきたんだろ? 必死にそんな身体になるまで頑張ったんだろ?)


(俺の欲しい言葉だけ与えるんじゃねえよ)


だがその思いを言葉に変える術を持たない。握った拳に爪が食い込みスヴィグルは悔しそうな顔で顔を下に向ける。


すると、


パン!と渇いた音が響いた。


その音でスヴィグルはハッとすると、隣には既に切り替えて「笑っている」けいがいた。


「はい、ここまで! 暗い話は終わり!」


「スヴィグルくんも聞いてくれてありがとうね。非現実的な内容ばかりで驚いたでしょう?」


「忘れてくれていいからね」


そういうとけいは、「お腹空いたしご飯作るね」と言って逃げるように晩御飯作りに取り掛かった。


その作られた笑みを見てスヴィグルは久しぶりに小さくけいに聞こえないようなレベルで舌打ちをする。


(忘れてくれていい。・・・・・・だと?)


(俺の事ばかり気にしやがって、くそ・・・・・・結局お前の事を知って更に遠くなっただけじゃねえか)


お互いに生き残った者同士。似たような境遇。

でも、ワタリケイは自分の事より、俺の事ばかり気にしてくれた。


(俺は、こいつの他人に気を使うための笑顔や全て諦めたように笑う姿が嫌いだ)


(繊細で、似たような傷を抱えてるのに、俺よりずっと先に立っているお前に嫉妬を覚える俺が嫌いだ)


(でも、俺にできる事は何がある?)


力の差は歴然とあり、戦いの時の精神面はどうやっているのかは分からないが、「別人」のように頼もしくなる。


今目の前にいる繊細な人物とは、見間違うほどに違っていた。


(俺は・・・・・・)


(俺はコイツの隣に立ちたい)


(けど、こいつの隣に立つには復讐心だけじゃ足りない)


(なら・・・・・・俺は変わる。復讐のためだけじゃねえ。お前と肩を並べて戦うために、俺は俺を鍛え直す。───そして、いつか。そうやって諦めるように笑うお前を、俺は何とかしてやりたい)


それぐらい、お前との関係を続けていきたいと思えるぐらい俺は絆されているんだ。





あ、あと。もし良かったら、ブックマークかスタンプでも押して貰えると更にやる気が出ます・・・!

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