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第11話:鑑定

2025/8/12 全改稿+タイトル変更

珍しい組み合わせの2人が横並びで拠点内を渡り歩いていた。


菊香と晴斗が談笑をしながら拠点内の学校に向かって会話をしていると、


「そういえば気になってたんすけど」


晴斗が突如ソワソワしだしたので菊香が「どうしたの?」と尋ねる。


「菊香さんのその武器の弓って、もしかして渡さんが作ってたりしてますか?」


「うん。そうだよ!」


良くわかったねと言う菊香に晴斗は、渡さんが魔法使いってのを聞いて、もしかしたらと思ってと言う。


それを聞いた菊香は、ああ確かにゲームとかで魔法使いが武器を作ったりするシーンとかあるもんねと答える。


「て事は、弓か矢に何か魔術が施されていたり?」


晴斗の目が一気に輝いた。


「え、いいんすか!?」

「いいよ〜。でも、大切にね? 大事な私の相棒だからさ」


菊香はそっと弓を渡す。


「すごっ・・・・・・形状が変わった!」


謎の技術すぎて、魔法って本当にあるんだ〜と興奮気味に呟く晴斗を菊香は微笑みながら見ながら、菊香は弓を手にした日々を思い出す。


──けいから渡された時のこと。手にタコができるほど練習した毎日。


「使いこなせるまで、1ヵ月はかかったんだよねえ」


菊香はふと、あの家で、3人で楽しく過ごしていた1ヵ月を懐かしむように思い出す。あの場所から離れて、まだ少しだが、それでも菊香の心に僅かな寂しさを感じさせた。


「やっぱり、魔法で作られたものだとしても、扱う為の技術力は自分で身につけないといけないんっすね・・・」


渋い表情で考えるように俯く晴斗に菊香は首を傾げる。


「俺、今までどこでも足手まといで・・・・・・。だから、何かできるようになりたくて、ここの拠点ならみんな優しいし、色んな事に取り組んでみようと思ってるんす」


その言葉に、菊香はけいに戦い方を教わった日のことを思い出す。

──おじさんに頼ってばかりの自分が悔しかった、あの頃。


同じように自分に何か出来る事が無いかを模索し続けた日々。そして何とか戦える術を手に入れた日。


投げかけられる言葉の種類は少ないけど菊香は本心を伝える。


「晴斗君ならきっと何でも出来るよ、応援してる!」


晴斗は笑顔で「頑張ります!」と答えた。





場所は変わり、二人は学校跡地を歩いていた。


シグル達が修繕と補強をしたと聞き、廃れてはいるけどあちらこちらに手をかけた痕跡が見受けられる。

学校の廊下は綺麗に塗料が施されピカピカとなっており、教室の窓ガラスも幾つかは新しいものに取り替えられていた。


廊下を抜けると、足音がコツンと乾いた音を立てる。


「うわ~・・・なんか、学校の放課後を思い出すかも」


「その気持ち、分かるっす」


教室の中は、綺麗に整理されており、シグルが言うには今でも避難民の子供達の教育現場として使用しているとの事だ。


「豊饒祭まであと2ヶ月」と書かれた文字の横には、色あせた落書き――丸顔のキャラクターが、にやけた笑みでこちらを見ている。


「へえ、難民キャンプでも祭りとかやるんだ」


「シグルさんが拠点内を精霊術で結界を張ってるお陰もあって、秋ごろに小規模で豊饒祭をやるみたいっすよ」


2人はぎこちなく椅子に腰掛けると、錆びた金具がきしむ音を立てた。

自然と学生時代の話題に花が咲く。

部活のこと、通っていた学校、放課後の過ごし方、高校時代の流行り――

取り留めのない話なのに、笑顔がこぼれ、時間がゆるやかに流れていく。


ふと、開けた窓から吹き込む風が黒板の端に貼られたプリントを揺らし、紙がはためく音が二人の会話に溶け込んだ。


その瞬間、菊香の胸に、言葉にならない郷愁が広がる。


やがて話題は、家族のことへ移った。


「晴斗くんは“東の難民キャンプ”にお父さんがいるかもしれないんだね」


「っすね。自分は元々ひとり親で・・・・・・。逃げてる途中で分断しちゃって、多分、東京の拠点に居ると思うんすよね」


胸元から銀色のロケットペンダントを取り出す晴斗。

カチャリと開くと、中には笑顔で肩を組む父と子の写真。

写真に映るしゃがんだ父の顔は、少し頼りなさげで、それでも優しさが滲み出ている。


「わあ、優しそうなお父さん」


菊香は微笑み、晴斗は「生きてたらいいんすけど」と照れくさそうに笑う。

場が和み、菊香は「きっと会えるよ。そう祈ってる」と言った。


「ありがとう・・・・・・っす」


晴斗がうつむきながらも、少し照れくさそうに笑みを返したそのとき――


「――あ、本当にいた!」


教室の入り口から、明るい声が響いた。

振り返ると、けいとシグルが並んで立っていた。


「菊香ちゃん、晴斗くんこんにちは~」


けいは軽く息を弾ませながら、手に持った包みを掲げる。


けいさん?! どうしてココに?」


「僕、学校って中学生のとき以来なんだよ。ちょっと懐かしくてさ・・・・・・さっきまでシグルさんに、ここでの思い出とか話してたんだ」


けい様の中学生時代の話、貴重な話が聞けて嬉しかったですわ。これでヒョードル兄様に勝てます!」


「まって、どういう戦いをしてるんですか」とジトリとけいが目を細めながら引く。


そして思い出したかのように、菊香と晴斗にけいは尋ねる。


「そうだそうだ。シグルさん用にお弁当を多めに作ってるんだけど、せっかくだし晴斗君も一緒にお昼ご飯でもどう?」


「え!?自分もいいんすか!」


晴斗が顔をほころばせ、けいは「もちろん」と笑った。

けいはシグルに「シグルさんの為に多く作ったけど2人にも良いかい?」と念の為尋ね、シグルは勿論と頷く。


「お弁当は誰かと一緒に食べたら美味しいのですもんね」


「あはは。昔話した事を覚えてたんですね」


菊香は「ちなみにここで?」と笑いながら聞く。


「学生気分に戻るって事で!」


みんなで机を寄せ合い、埃を軽く払う。

重箱を包む風呂敷を解き、上段の蓋を開けると、ふわりと漂う香ばしい唐揚げや出汁の香る卵焼きの匂いが辺りを満たした。彩り鮮やかなポテトサラダやブロッコリー、みずみずしいミニトマトが目を引き、様々な具材を詰め込んだおにぎりとソーセージが美味しそうに姿を現した。


「わー、美味しそう!」

「ワタリさん、料理上手なんすね」


陽射しの差し込む廃教室に、4人の笑い声が溶けていく。割れた窓から入る風が、カーテンとともに静かに揺れていた。


晴斗は、ふと箸を止め、真剣な表情になる。揺れるカーテンの向こうに視線を投げかけながら、自分の中にある漠然とした不安を振り払うように意を決した。


「そういえば・・・・・・魔法って後天的に覚えることはできないって聞いたんすけど、精霊術なら、頑張れば覚えられたりします?」


けいとシグルは顔を見合わせ、けいが首を横に振る。


「残念だけど、精霊術も後天的に習得はできないんだ」


「・・・・・・そう、ですか」


晴斗はわずかに肩を落とし、箸を置く。


そんな彼に、けいは柔らかな笑みを向けた。

けいは思っていた。恐らく彼も、菊香や夏原と同じように自分に出来る事を探し、もがいているのを。


(諦める必要はないさ。君の可能性を広げる手助けを、僕はできるはずだから)


「でもさ、魔道具なら別だよ。菊香ちゃんが使ってる弓みたいに、晴斗君に合うものを見繕ってあげようか」


「え、本当っすか!?」


晴斗の目が一気に輝く。


シグルが目を丸くし、感嘆の声を上げた。


「さすがけい様・・・・・・魔道具まで作れるなんて、本当に多才でいらっしゃるのですね」


「いやいや、ちょっと得意なだけだよ」


シグルが大袈裟なくらいに褒めてくれてるから、けいは耳を赤くする。けいは箸を置き、顎に手を当ててじっと晴斗を眺める。


「うーん・・・・・・晴斗君は、前線で戦うよりも全体を見て動く方が得意そうだよね」


「ま、まあ・・・・・・後ろから支える方が性に合ってます」


「だったら、鑑定スキル付きのモノクルなんてどうだろう」


「モノクル・・・・・・?」


「相手の攻撃特性や、遠見の魔法、それに傷や怪我の状態まで見えたりと、そんな感じで作ったんだよね。僕も昔は使ってたけど、場数を踏んで判断ができるようになったし、使える魔法も増えたから手放したんだ」


けいは自分の右目の横を軽く叩き、懐かしそうに微笑んだ。


「でも晴斗君なら、有効に使えるはずだよ。戦況を読むのも大事な力だからね」


「・・・・・・それ、すごく欲しいっす」


晴斗の声は弾み、菊香が「なんかワンちゃんみたいな顔してるよ」と笑った。


「なんか懐かしいね。けいさんからこの弓を貰ったときを思い出すかも」


「懐かしいねえ。もうあれから2か月近く経つもんね」


菊香とけいは顔を見合わせ、あの夏を懐かしむ。


「よし、ご飯を食べ終わったら使い方を教えるね」


けいがそう言うと、シグルが続けた。


「なら、わたくしは後衛としての動き方、心構えをお教えしましょう」


「ワタリさん、シグルさん、よろしくお願いしまッス」


晴斗は思いっきり頭を下げ、けいはそれを聞いて少し青ざめる。


「し、シグルさん・・・・・・あの、お手柔らかにしてあげてね・・・・・・」


かつて、嫌々ながら異世界で生き抜くためにヒョードルから色んな事を叩き込まれたけいが、そのスパルタを思い出し冷や汗が出る。


養父であるヒョードルの家系というか、彼は王族でありながら文武両道かつ何かを極める事に妥協が無いのだ。


(もちろん、フォローもしてくれたけど、それはもう飴と鞭の使い方が上手かったんだ・・・・・・)


異世界の義兄弟であるスヴィグルも、ヒョードルに滅茶苦茶に絞られたことを思い出してしまう。


けいの様子に菊香はピンとくる。


「え、もしかして、シグルさんってスパルタ・・・・・・?」


「・・・・・・養父のヒョードルもそうだったし、シグルさんも同じなんだよね」


そうなのだ。彼女は異世界で勇者一行の支援部隊のリーダーを務めていただけでなく、全部隊の戦闘能力と指揮系統を叩き上げた張本人でもある。


「へ・・・・・・?」


晴斗がぽかんとするも、時すでに遅し。


「晴斗さん」


その一言で、シグルは彼の手をガシッとしっかり掴む。


「ひぃッ!」


「その心意気、しかとこのシグル受け止めました」


「い、いえ、そのお手柔らかに、お願いします」


晴斗の目は恐怖で揺れた。


「大丈夫です。適した訓練内容を作り、無理のない程度で、しかし一切の妥協なく貴方に」


「───叩き込みます」


シグルの表情は、とてもとても綺麗に微笑んでいた。





ご飯が終わり、みんなと別れた晴斗は一人用の仮設住宅のベッドに寝転がり、けいから貰ったモノクルを手に取る。


モノクルは金色の枠で彩られ、レンズの右上にはフクロウの羽の褐色の縦縞模様が浮かんでいる。


「かっけえ~」


モノクルは「現れろ」と念じると、晴斗の右目に現れ、周囲の家具の情報を表示する。けいは、使用者が慣れればさらに様々な情報を見ることができると言っていた。


けいはさらに、シグルの訓練が過酷ならすぐに言ってくれと約束してくれた。会って間もない自分に対して、こんなに優しく接してくれるのもそうだし、こうやって魔法道具を分け与えてくれた事に、本当に優しい人だなあとしみじみ思う。


(でも、うちの父さんとどこか雰囲気が似ている気がする・・・・・・)


本当は臆病なのに、いざ自分がやらなければならない状況になったら、自分を押し殺して自分の為に動いてくれた事を思い出す。


だから、晴斗は、なるべく頑張るつもりだった。


「父さんと会えたら、一緒に戦えるって見せてやるんだ」


かつて、自分を守るために離れ離れになってしまった父の事を晴斗は思い浮かべる。


早く再会したいと願い、晴斗は目を閉じた。




もし良かったら、ブックマークかスタンプでも押して貰えると更にやる気が出ます・・・!

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