第3話:異能
2025/8/4 大幅加筆修正済み
繋たち3人と夏原と晴斗の5人はテント外に集まり、繋から渡されたおにぎりと麦茶を片手に持ちながら、打ち合わせをしていた。
「夏原くんは、京都の難民キャンプの救助隊のリーダーなんだって」
繋は、夏原たちが難民キャンプの救助隊のリーダーであるとヒカルに説明した。彼に道案内をして貰えば、自分たちはスムーズにキャンプへ向かえる。
「まさか難民キャンプ関係者の人と遭遇できるなんてラッキーだ」と繋は心の中で呟いた。
「ほお〜。てことはお前に案内して貰えば早めに目的地に辿り着くわけだ」
「それはそうだが・・・・・・。渡くん・・・失礼だけど、この方は・・・あー、その・・・・・・」
夏原は繋の方を向くと、表情をしかめっ面にしながら、言いにくそうに言葉を探した。
「夏原くん? どうしたの?」
夏原は自分が警察官だったという事もあり、職業柄気にしてしまうのだと前置きを置いたうえで意を決して尋ねる。
「反社関係の人・・・・・・じゃないんだよな」
一瞬、空気が止まった。
次の瞬間、繋が噴き出し、菊香も堪えきれずに笑い出して、
ヒカルは思わず額に手を当てた。
「──────っふ」
「あっははは!」
釣られたように繋も笑い出し、二人はヒカルを指差して笑いが止まらない。
ガタイも良く、身長も高い。更に威圧感もあり、目つきが悪いヒカルは傍から見れば、そっち方面の人間だと間違えられるのも仕方ないのかもしれない。
ヒカルと菊香はそれに対して何とも思っていなかったのだが、改めて他人にそう言われ、ヒカルの性格とのギャップを知ってる2人だからこそ、その質問が可笑しくて笑ってしまう。
「・・・・・・おい!!」
嗜めるように叱るヒカルに、「ごめんね」と繋は笑いで涙が溢れる目元を人差し指で拭いながら謝った。
「夏原くん大丈夫だよ。彼は一般人だし、それにこう見えて面倒見が良い人なんです」
「うんうん。繋さんの言う通り、夏原さん、安心して大丈夫! おじさんは、こう見えて駅員さんでしたから」
「え!!? 駅員!」
「え!!? ヒカルさん駅員さんだったんだ・・・・・・!!」
夏原は華麗な二度見をしながらヒカルの全身を目に入れ、繋はまさかの職業に吃驚する。
「お前ら失礼すぎんだろ」
ヒカルは腕を組みながら、青筋を立てる。そして、繋と夏原を睨みつつ、唸るように怒る。
「わわわ、ヒカルさんごめん・・・・・・」
突然湧いた情報に呆けてしまった夏原も繋への謝罪の言葉に、夏原自身もヒカルにも謝った。
「豪打さんの言う通り見た目で判断してしまい、大変申し訳ありません。つい、職業柄尋ねてしまった」
夏原は更に爆弾を投下する。
「重ね重ね、本当に申し訳ない、こんな時代だから・・・・・・何かしら脅されているかもしれないと思って」
「2人とも”未成年”でしょうし」
謝る2人と、夏原の警察官ゆえに確認をしてしまう癖にヒカルはため息をつきながら「はあ・・・・・・まあ、疑うのもしょうがなねえよな」と怒りを収めていると、夏原の「未成年」という言葉に、ヒカルと菊香も同じようにその言葉を拾った。
ヒカルと菊香は同時に顔を見合わせる。
そろ〜っと逃げようとする、繋の首ねっこを掴みヒカルは繋を逃がさないようにする。
「おい、未成年って誰の事だ」
「え? あ、ああ・・・・・・彼は未成年じゃないのか? いや、すまない、もしかして20歳にはなっているのか」
その言葉に今度は繋が顔を両手で覆った。
それに、菊香はふふっと零れ落ちる笑い顔を隠しながら「っふふふ」笑う。ヒカルは今度は自分が笑う番が来た事で豪快に笑い始めた。
「──────っく、───っははは!!」
「そ、そんなに、笑う事か?」
夏原は怪訝そうな顔を浮かべる。
4人の様子を静かに見ていた晴斗も疑問を浮かべた表情をしていた。
そんな、2人にヒカルは爆弾を落とす。
「ハハッ・・・・・・こいつはこう見えて30歳なんだよ」
ヒカルがニヤリと笑みを浮かべながら、繋の背中を叩いた。
「え?」
「は?」
夏原と晴斗は一瞬、理解が追いつかず目を瞬かせたが、すぐに驚愕の色を浮かべて繋を凝視する。
「・・・・・・う、嘘・・・マジで・・・・・・?」
一方の夏原は、何かの冗談かと思っていたが、ヒカルと繋の表情が真剣なのを見て顔を引きつらせた。
「本当に・・・・・・30、だと・・・・・・?」
一瞬の静寂。そして、
「はあ──────!!!」
「ええええ─────!!!」
今日一番の驚きの声がモールの屋上に響き渡った。
晴斗はまだ半信半疑といった様子で、繋をまじまじと見つめる。
夏原も信じきれないように眉をひそめ、四つの目にさらされた繋は、なんとも言えない気分になる。
───確かに、元の年齢の時ですら若く見えるとは言われていた。でも、二十代に若返った今でも、未成年に間違えられることに、喜ぶべきなのか、怒るべきなのか、繋の心は複雑だった。
(・・・・・・ヒカルさんの事笑えないよね)
◇
5人はテントを片付け、旅立つ準備を行う。
本当はここで一日過ごしても良いと思っていたが、ヒカル達の旅道具は魔法で改造したものばかりだった為、ばれない為にも仕方なく出発するしかなかった。
「にしても、まさか渡さんが自分より年上ですとは・・・・・・」
「そ、そんなに畏まらなくて良いからね」
夏原は繋が自分よりも年上だと分かると、敬語で話しかける。繋は敬語じゃなくても良いと彼に断りをいれるが、「いえ、年上の方には敬語を使うのが当然ですので」と譲らなかった。
しかし、そんなに畏まられても居心地も悪いし、大した事もしてない自分を敬う必要はないのだと思っている繋は、話し方は敬語でも良いから、せめて態度はフランクでいて欲しいと話す。すると、彼はそれならと承諾してくれて、取り合えず繋はホッとため息をついた。
「なんだ・・・・・・あいつ、やけにお前に懐いてるな」
「さあ・・・・・・なんでだろ?」
ヒカルはテント用具を畳んだあと、車の中にしまいながら繋に話しかけた。
繋は、何でだろうと思っているが、打ちのめされていた夏原に優しく誠実な言葉をかけ、彼の心を救った事を救った本人は気付いていない。
「・・・・・・そういや、お前相手が年下になると急に大人びるよな」
「大人びているんじゃなくて、大人なんです!」
繋は「うぅぅぅ」と唸るような声を出しながら、ジトリと目を細めてヒカルを見る。
そんな繋にヒカルは「ワハハ」と笑うがヒカルはやはりと思った。
(たまに子供っぽくなるのは、俺に対して無意識に甘えてくれているのかもしれねえな)
ヒカルの予想は当たっていた。
ワタリケイは責任感が異常に強く、年下には年上として完璧な大人として、頼りになる存在として在ろうとする。その反動なのか、自分より年上だったり、頼りになる人には無意識に甘えてしまう。
ヒョードルとフリッグからも言及されていた、繋自身が気付いてない、若しくは気付かないようにしている精神的な障害。
しかし、今のヒカルに繋をどうこうする事は出来ない。むしろ、何かある度にちょっとずつ何かを背負わせてしまっている。
そんな繋に出来る事はせめて戦闘面で迷惑をかけないぐらい。
もしくは、精神的な依存先として受け止めるぐらい。
(──────もっと、ほかにコイツの為に出来る事は無いもんか)
誰にも気づかれないように、ヒカルは小さくため息をついた。胸の奥に溜まる憂いを、少しでも外へ逃がすために。
「晴斗くん、そっち持てる?」
「はい!」
菊香と晴斗は2人で折り畳みようの椅子を片づけており、その姿をヒカルと繋はどこか微笑ましそうに見る。
「ははは・・・・・・、ああやって見ると、あいつはまだ子供で学生だったなんだなと思い出すぜ」
万感の思いでヒカルの口から出された言葉に、繋は「本当にね・・・・・・」としんみりと返す。
「何としても、普通の日常に戻してあげたいね」
「・・・・・・そうだな」
それぞれの思いを胸に、彼らは車へ向かって歩き出す。
「難民キャンプに着いたら、情報収集しなきゃだ」
「ああ。ここからが本番だな」
少しでも早く、解決の糸口を探したいと思うのだった。
◇
「では、難民キャンプの位置だが・・・・・・」
繋は夏原に道路地図を見せ、現在地から難民キャンプの場所までのおおよその位置を教えて貰う。現在地からおよそ5時間ほどの距離。
勿論それは、スムーズにいけばの話し。
「そういえば、赤井さんは武器を持ってるけど、お二人は持ってないんですね」
晴斗がそういえばと疑問を口にした。
ヒカルは「ああ・・・・・・」というと、「俺は基本ステゴロだからな」と言い、自分の革ジャンのポケットの中に手を入れてゴソゴソと動かし、「ホラ」と晴斗の前に見せた。
ヒカルの手にはナックルグローブがあった。
ヒカルは、左手首に着いていたリストバンドをポケットの中で、グローブに変換させたのだ。
さも当然のようにしていたため、繋は一瞬驚いたが、不器用そうな見た目に反して、ヒカルが自然に人を欺けることに感心した。
ヒカルは隣で宇宙猫のように固まっている繋に気づくと、こいつ失礼な事を考えているのではないか?と勘付き、固まっている繋の肩を肘でつついた。
「ほら、おまえの番だぞ」
「あ、ああ僕はね、これ」
そう言って車の中から取り出したのは長杖だった。いつもの装飾が飾られていた派手な杖ではなく、シンプルな何の飾りも無い杖だった。
実はちょっとした認識阻害の魔法をかけているので、そう見えているだけ。
3人の武器を見て晴斗は「凄い・・・・・・」と感嘆の言葉を漏らす。
夏原は2人の武器を眺めた後、質問をする。
「飛び道具ではなくて、打撃武器・・・・・・もしかして、二人は”能力者”なのか?」
夏原と2人だけで会話をしていた際に聞いた”能力者”というワードに繋が、いち早く反応する。
「そうだ! 夏原さん、能力者って?」
「あ、ああ、そうか、3人だけで旅をしていたのなら聞いたことないかもしれないですよね」
夏原は説明する。
「能力者」について。
——ゾンビに噛まれてもゾンビ化を免れる者が、稀に“能力”に目覚めることがある。
——怪力になったり、超スピードで動けるようになったりと身体的な強化に特化した人もいれば、炎を出したり、風を起こしたり、氷を作る事だって出来る。
「てことは、難民キャンプには何人かいるのか?」
「ええ。うちの難民キャンプにも数人程度いますね。ですが、非戦闘員の方が殆どの為、生活基盤の方で力を貸してくれています」
「あ、ちなみにですが、ウチのリーダーは更に特殊です」
「特殊?」
ヒカルの質問に答えたあと、繋が続くようにオウム返しのように聞き返した。
「ああ、俺の口からはどう説明したものか・・・・・・直接会って話した方が早いかもしれません。どちらにしろ、難民キャンプの受け入れ手続きの時にリーダーに会いますから」
繋は新しい情報が次々と出てくるのを、一つ一つ確認したかったが流石にココで停滞する訳にはいかないだろうと思い、彼の質問にだけ答える。
(これは、好都合だ。それなら、魔法の存在を隠し通す言い訳にもなるかも。余計な詮索も避けられる)
「それで、能力者かどうかなんだけど、ヒカルさんと僕はそれに当たるかもしれない」
ヒカルと繋は顔を見合わせてこくりと頷く。
「そうだな。俺は身体強化と電気系統の能力が使える」
「僕は念力系統だね」
菊香は、こうもすらすらと嘘をつく大人2人に、苦笑いをしながら見ていた。
その視線に気づいた大人2人は何所ぞ吹く風で夏原に説明をする。
「それは、凄いな・・・・・・俺にも力があれば・・・・・・」
「夏原くん・・・・・・もしかして?」
もしやと思い、繋は彼に尋ねた。夏原は実はと、左腕の服の袖を捲る。鍛えられた筋肉の腕が露わになる。その表面には嚙まれた傷跡があった。
「以前嚙まれた事があったんです。・・・しかし、自分には何も発現しなかった」
悔しそうな顔をする夏原に、繋は静かに言葉をかける。
「・・・・・・夏原くん」
「・・・・・・でもね・・・・・・力があっても無くても関係ないんだよ。救える時は救えるし、救えないときは、どんなに最善を尽くしても救えない・・・・・・」
その言葉に夏原だけじゃない、ヒカルも菊香も晴斗も繋の方を見る。
繋はどこか困ったように笑いながら、次第にぼんやりと自分の足元を見つめる。
いつかこの世界でも、ゾンビに怯えないですむ日が来ればいい──その為には、”自分”が頑張らなければと繋は思う。
「ねえ、夏原くん。ありきたりな言葉だけど、全部を見すぎて、傍にある大事なものを見逃さなければ良い」
「────なんて、カッコつけちゃったけど、僕はそう思うよ」
繋は顔を上げ、夏原を見つめる。
繋の声音はいつも通り静かだったが、その中に確かな重みがあった。まるで過去に、どうしようもなく救えなかった経験を持っているような────そんな、深い影を落とす響きだった。
「・・・・・・そう、ですね」
夏原はゆっくりと頷いた。悔しさは簡単には拭えないが、それでも前回と同様に繋の言葉が胸に少しだけ落ちる。
晴斗も、何かを感じ取ったように繋をじっと見つめていた。
「・・・・・・ねぇ」
菊香が小さく呟いた。
「繋さんの言う通り、力があるとかないとか、そういうのよりも・・・・・・私、誰かのために動こうとしてる人の方がずっと“凄い”と思う」
その言葉に、ヒカルは「・・・・・・だな」と短く返した。
「────よし。じゃあ、出発するか」
ヒカルが気持ちを切り替えるように言うと、繋は黙って頷き、菊香が「うん!」と元気に答えた。
晴斗も「はい!」と力強く返す。
夏原の顔は未だに晴れやかと言うには程遠く、完全に吹っ切れなかった。
だが、少しでも切り替えるために「ああ、行こう」と言葉に力を込めて言った。
モールの屋上に漂う静けさを背に、5人は京都の難民キャンプへ向かい出す。
各々の物語は、まだ始まったばかりだった────。
2025/8/4 後書き
やっと、夏原と繋のやり取りを大幅に加筆修正出来ました。彼も一応サブ主人公なので修正前は直ぐに葛藤が無くなってしまってたので、直ぐには悩みは解決しないようにしたのと、後は繋とぶつかって欲しいので、そこら辺もう色々書いていきたいと思います。
もし良かったら、ブックマークかリアクションスタンプでも押して貰えると更にやる気が出ます・・・!




