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『ゾンビだらけの世界でただ1人の魔法使い』  作者: mixtape
第1章:インセプション
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小話:灯


市内まで車を走らせてると、ふと菊香が出雲大社に寄ってみたいと呟いた。


繋がその言葉を拾い、理由を聞いてみる。


すると、彼女は願掛けもかねて途中出雲大社に寄りたいとの事だった。


ヒカルと繋は確かにそれもアリだと思い、菊香の提案に乗ると、京都へ向かっていた進路を変更し出雲大社に向かう為にハンドルを切った。


大社近くまで向かう途中、ゾンビとの遭遇を危惧していたが、市内のゾンビは前回class3が出現してくれたお陰なのか何事もなく無事に大社前に辿り着く事が出来た。


石で出来た巨大な鳥居の前に車を止め、3人とも降りる。鳥居をくぐり抜け松の木々が並ぶ参道を歩く。


数年放置されていた事もあり、参道の周りに綺麗に植えられていた松の木々達は枝が折れていたり、倒木していたりと荒れに荒れていた。


参道を通り抜け、3人は境内を見て回る。


「うわあ、でっか!」


神楽殿に飾られていた大しめ縄を見て菊香が感嘆の言葉を漏らす。


出雲大社の大しめ縄は有名だった。日本一。いや、世界一の大きさを誇るしめ縄を3人は見上げる。


一通りその壮大さに感心し、眺め終わると次は拝殿に向かう。


拝殿に辿り着くと、幸い本殿自体は寂れてはいるが、荘厳で神聖な建物は健在だったが・・・。


3人は賽銭箱の前まで到着すると、きょろきょろと周りを見渡す。


賽銭箱は案の定というべきか、ボロボロに損傷していた。また、本来拝殿前に吊るされている大きな鈴から垂らされているであろう麻縄は存在せず、上に鈴だけが残っている様な状態だった。


「神社なんて行く縁が無かったから今回が初めてだわ」


「えっそうなんだ。私は初詣で毎年家族と」


「僕は両親が共働きで家に居ない事が多かったから、来たことないな」


繋はそれが幼少の頃より当たり前の事だった為、気にもせず何ともない風に言ったのだが、その言葉にヒカルと菊香はチラリと顔を見合わせる。


それは、とても寂しい事だったのではないのだろうかと口に出そうとして、菊香は口をつぐむ。


そんな言葉より、今を大事に出来たらと思い菊香は違う言葉をつむいだ。


「なら、私も初めてだ」


「菊香ちゃんは家族で来た事あるのに?」


菊香の言葉に繋は不思議そうな顔を浮かべながら彼女に問うと、菊香はヒカルと繋の手を取る。


「私たち”3人”初めての御参り記念」


不適な笑みでそう返す菊香に繋は「それはいいね」と朗らかに笑った。


ヒカルも満更では無さそうな顔をしていた。


いざ、3人で拝礼をしようとしていた途中、そういえばと繋は思い出した。


「確か出雲大社ってお参りの仕方が違ったはず」


「へえ、そうなのか」


興味があるのか無いのかよく分からない声色で返事をするヒカルだが、繋は取り合えず説明を続ける。


祖父から教えて貰った事を過去の記憶から引っ張りだしながら2人に説明をした。


「確か、二礼ニ拍手一礼が一般的というか多いんだけど、出雲大社の場合は二礼四拍手一礼みたい」


更に正式には八拍手らしい。なぜそのような作法なのかは繋にはさっぱりだが、とりあえず、二礼四拍手一礼でやってみようかと2人に話す。


「あ、でも・・・お賽銭僕持ってないや」


繋は肝心な事を思い出す。異世界帰りで地球のお金を持っていなかった事に。そんな繋に菊香は繋の分を自分で出すと言ってくれた。


菊香の厚意に「ありがとう」と感謝の言葉を伝えると、チャリンとお金が落ちる音が聞こえた。


音の鳴る方へ菊香と繋は顔を向けるとヒカルがお賽銭箱に硬貨を放り込んだであろうポーズをしていた。


「ん? 3人分の賽銭を入れといたぞ」


「わっ、おじさんありがとう」


「え、ありがとう」


「別に大した事じゃあねえよ」


ヒカルは気恥ずかしいのか、2人に「さっさとやろうぜ」と言う。そんな、ヒカルに繋とヒカルは顔を見合わせると軽く苦笑いをする。


繋はこの男の何気ない優しさというか、スマートな所が好ましいと思うのだった。


そして、3人は改めて賽銭箱の前に並んだ。


菊香を真ん中に3人は拝殿の前で手を合わせ、二礼四拍手一礼を行う。


3人分の手を叩く音が境内に響く。


3人はそれぞれのタイミングで顔を上げていく。1番初めに上げたのはヒカルで、その次は繋。最後に菊香だった。


「よし、行くか」


「うん」


「だね」


拝殿を背に3人は車を置いた場所へ戻っていく。


三人の帰り道。


曇り空の向こう、雲が静かに割れて、一条の陽射しが差し込んだ。


それはまるで、未来を照らす灯のようだった。



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