表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ゾンビだらけの世界でただ1人の魔法使い』  作者: mixtape
第1章:インセプション
18/83

第18話:剣呑

「え━━っと・・・何それ・・・?」


「知らんのか、バイクだ」


聞きたかった答えはそうじゃないと、繋は珍しく頭を抱えた。


話は少し遡る。


物資調達かつ自分の力量を知る為、ヒカルは一人で市内へ向おうとしたが、流石に田舎町から市内へ向うまで歩いて行こうと思うと休みなしで4時間もかかる。


一人で行くにも危険だし、寧ろ着いたとしても4時間も歩けば体力は尽きかけているだろう。


そんな状態でもしゾンビに襲われでもしたら流石に死ぬ可能性の方が高いため、繋はヒカルにNGサインを出して一人で行くのを止めさせた。


いくら異能が使えるとして、身体は生身だし、異能の力も無限に使えるものなのか限界値が分からない状態で行くには無謀が過ぎると繋は考えている。


一緒に暮らすようになって、早3週間。


ある程度互いの性格がわかるようになってきたと思っていたのだが、ヒカルの意外な行動にも繋は驚いた。


取り合えず行くのなら、2人か、菊香を連れて3人で。


ちゃんと準備をした上で行くべきだとヒカルを説得して、その時は大人しく引き下がってくれたと思ったら、これだ。


訓練に出かけて帰ってきたと思っていたら、ヒカルはまさかの物を持ち帰ってきたのだ。


そして冒頭に戻る。


繋はヒカルにガレージに呼ばれ、何だろうと行ったソコにはボロボロのバイクがあった。


「これを直してくれないか」


そう言われ、繋は勘付いた。ヒカルがバイクに乗って市内に一人で行くことを。


(ヒカルさん・・・諦めてなかったのね・・・)


すると、横から菊香が繋の袖をちょいちょいと引っ張って、どこか諦めた目で繋に言った。


「渡さん・・・こういう時のおじさんは厄介だよ」


こういう時というのは、恐らく自分の中で一度決めたら自分の意思を突き通そうとするという意味だろう。


良い意味で言えば、芯が強い。


悪く言えば、頑固者。


繋は視線をヒカルに向けると、腕を組んで、てこでも動かないと言う雰囲気を出して立っていた。


そんなヒカルの姿に、繋はスヴィグルを思い出してしまい、まったくもうと心の中で思いながら折れた。


「もう、まったく・・・・・・」


「分かりました、直してあげますよ」


繋は肩を竦めながら言うと、表情こそ変化は無いがピクっと肩が揺れ、先ほどまでの雰囲気と打って変わって若干嬉しそうな雰囲気を出すヒカルに苦笑いをする。


(さて、どう修理しようかな)


ガソリンは魔力で変換するとして、他の壊れている部品に関しては修復魔法だけでは補填が出来ない為、ヒカルに追加で何でも良いから大量の金属くずを探して持ってきてほしいと頼んだ。


ヒカルは分かったと言うと、言うが早く、繋が要求した通りの大量の金属くずをその日の内にかき集めてきた。


その量を見て、ヒカルの本気度に繋は若干引いた。


そして、バイクを修復するために、バイクと大量の金属くずを中心に置く。杖を長杖に変形させて、魔法陣を杖の先で描いていく。


その様子を近くで冷たいお茶を飲みながら見守る2人。


菊香が魔法を見て興奮するのは分かるが、ヒカルもソワソワと楽しみを隠し切れない様子に繋はふっと笑いが零れそうになってしまう。


だが、今は集中する所だと我慢して陣を描き続けた。


無事に魔法陣を描き終わり、修復魔法と錬金魔法を発動させる。


家を立て直した時と同様に、オレンジ色の淡い光が壊れたバイクを包み込む。


そして、ただ直すのだけではなく、エンジンの代わりに魔力路を取り付ける。


その都度魔力で換装するには繋の今の魔力量では厳しいので、ガソリンの代わりに魔力を込めた水晶をバイクの燃料代わりにするように魔改造する。


(あとで、水晶の欠片をヒカルさんに渡すのを忘れないようにっと)


よし!と繋は呟くと光は収束し、魔法陣の真ん中には新品同様に修理されたバイクが立っていた。


菊香は繋の隣に立つとお疲れ様ですと麦茶を差し出してくれた。


繋はありがとうと有難く菊香の手からコップを受け取る。


ぐびりとコップの中身を飲みながら視線をバイクの方に向けると、おお!かっけえな!とはしゃぐようにバイクの周りを一周するヒカルが視線の先に居た。


バイクの周りを一周した後、今度はバイクをじっくりと眺めて、最後にはバイクに跨る姿を見て、繋は「ぷっ」ととうとう笑いこぼれた。


「あっははは!」


「・・・・・・なんだよ」


「いや、ふふふ、そんなにはしゃぐなんて珍しいと思って」


「良いだろ、別に、バイク好きなんだよ」


ヒカルは照れるように頭をガシガシ掻く。


ほほう。と繋と菊香は目を合わせて驚いた。


「意外・・・おじさん、バイク好きだったんだ」


でも、それはそうかと菊香は思った。


菊香が良く知っているヒカルは、ゾンビ化した世界で必死に自分を守り、生きる為に毎日戦っていたヒカルなのだ。


常に気を張っていて、周囲の人には常に疑いをかけて、眉間の皺が日に日に濃くなり、元々鋭かった目つきは、疑う日々を送る度に日に日に鋭くなり、こんな感じで笑ったり、趣味の話をすることなんで今まで無かった。


菊香は、初めて知る彼の一面を見て嬉しく感じた。


ヒカルはというと、恥ずかしいのか、ぶっきら棒に「ゾンビが出る前はバイクに乗るのも見るのも好きだったんだよ」と照れる顔を隠しながらヒカルは答えた。


「良い趣味だね」と繋は本心でそう返すと、「ありがとよ」とヒカルは答える。


「あっそうだそうだ、これ渡しとくね」


繋はコップを持った反対の手に持っていた杖を収納魔法で収納した後、今度は何も無い空間からポンっと小さな布袋を出現させた。


それを、はいとヒカルの手に渡す。


開けても良いかと聞かれ、繋は頷く。そして、ヒカルは中身を確認すると、袋の中の物を一つ摘み、水晶?と不思議そうな顔をしていた。


「それ、燃料の代わり」


繋は、その水晶に自分の魔力が込められている事、そしてその水晶がガソリンの燃料代わりになると説明して、ヒカルを驚かせた。


「いや、何から何までスマン、ありがとう」


ヒカルは途中からしまったと一人反省していた。繋にバイクを直して貰ってる最中にそう言えばガソリンも無いのに直してどうするんだと、途中で気づいたのだ。


つい、バイクを見つけた事でつい舞い上がってしまい、繋に手間と負担をかけた事に謝罪した。


そんなヒカルに繋は笑みを浮かべながら、そんな事良いよと何時もの調子で返す。


「だめですよ、渡さん。こういう時は注意しないと、おじさん我儘になっちゃいますよ」


「おい!」


えへへとお茶目に舌を出しながら、何時もの仕返しと言わんばかりに菊香はヒカルに追い打ちをかけて、ヒカルに突っ込まれる。


そんな、2人のやり取りに繋は声を出して笑うのだった。





日帰りだが、念のためにと必要な物をバイクの後ろの荷台に積むとヒカルは繋から貰ったゴーグルを装着してバイクに跨った。


「じゃあ、行ってくる」


菊香と繋はわざわざ見送る為だけに、玄関から出る。


「気をつけてね」


「本当にね」


「わーってる」


ヒカルは後ろで見送る2人にひらひらと手を振りながら、バイク音をふかし、そして出発した。


海沿いの道をバイクで駆け抜ける。


8月最後だが、まだ陽射しは強く暑い風が身体を打つ。


だが、それでもバイクで走っているときに不意に香る季節の匂いや、風の心地よさがヒカルは好きだった。


ゾンビが世界を覆うまでは、こうやって一人でツーリングをしていたものだと思い出す。


今は何の奇跡か、こうやってバイクに乗れる事を不思議に思う。


(と言っても、アイツのお陰なんだよな)


ヒカルはこの束の間の平和な時間を享受する。


そして、この時間を与えてくれた彼に感謝する。


もし、世界が平和になって、落ち着いた時間が出来るのなら、ヒカルは2人を連れて遠出をしても良いかもしれないと、そう思うぐらいには菊香の事は当たり前だが繋にも心を許している。


いつか、そんな日が来ることを信じて、希望なのか分からない胸の高鳴りを、気持ちをスピードに乗せるためにヒカルはアクセルを強く捻った。





30分程バイクを走らせ、市内に辿り着くとヒカルはまず物資を調達するために最初にショッピングモールへ向かった。


ショッピングモールに着くと屋上駐車場まで登ってバイクを停めて降りた。


ヒカルはゴーグルを外し、屋上から周りを見渡す。


(相変わらず、ゾンビは居ねえな)


拠点としている町なら、繋が魔法でゾンビが近寄らないように結界を張っているという事は知っているが、流石に市内にまで出ればある程度はゾンビと遭遇するだろうと思っていた。


だが、予想は外れ、右を見ても左を見てもゾンビらしき存在は居なかった。


居なければ居ないで好都合なのだが、ヒカル的には少しでも、今の自分の力が何所まで通用するのか力試しをしてみたい気持ちにも駆られていた。


本来はこんな好戦的な性格では無かった筈なのだが、繋に出会ってからというもの、不思議な事が続いている。


戦闘に意欲的になっただけじゃない。


知らない筈の人間が繋に重なったり、自分と似ている男がたまに夢に出て来たりなど奇妙な事が身に起きていた。


・・・・・・それに、しまいにはコレだ。


ヒカルが拳を握り、意識する。すると、拳の周りを覆うようにオレンジ色の雷がバチッバチッと音を鳴らしながらスパークする。


初めてこの力を見た瞬間、ヒカルは驚きは無かった。


なぜなら、繋からグローブを渡され身に着けた瞬間、恐らく自分はこういう事が出来るだろうと直感が動いた。


そして、日を追って訓練をする毎に、この力の使い方も理解するようになってきた


この事を繋に言ってしまえば、間違いなく心配するだろうと思い、ヒカルは敢えて言わなかったが、大事にはならないだろうと思っている。


(取り合えず、探しにくいか)


ヒカルは頼まれていた物を探しに、モール内の薬品コーナーへ向かった。


モールの中は想像通り散乱しており、様々な物が埃を被っていたり、朽ちていたりした。


薬品コーナーに辿り着くと、ヒカルは繋の言葉を思い出す。


(アイツが言うには損傷がそこまで酷くなければ、ある程度は復元できるって言ってたな)


持ってきたリュックサックに傷薬やら、包帯やら、更に保存食も見つけると片っ端から使えそうな物を詰め込んでいく。


リュックサックに拡張魔法をかけているお陰で、リュックサックの大きさに反して、結構な量を入れる事が出来た。


よし、こんなもんで良いかとヒカルはモールから出る準備をしようとした。


その時。


ガコン!と物が倒れる音が遠くから聞こえた。


サッとヒカルは咄嗟に、棚の影に身を潜める。


棚と棚の間をゆっくりと移動し、音が鳴った方向へ向かった。


足を引きずるような音が聞こえ、ヒカルはゾンビか?一瞬頭に浮かんだ。


が、棚の端から覗かせた光景の先には、


剥き出しの筋肉が鎧の様に武装された身長3mの直立二足歩行の人型のゾンビだった。


そして、グロテスクな見た目だけじゃなく、左腕にはガトリングの重火器が腕と一体化していた。


(class3!!?)


だからか!とヒカルは全てが繋がった。


噂で聞いていた。class3はclass1を大量に捕食する事で生まれる突然変異体だと聞いた事があったが、どおりで市内なのにclass1のゾンビが居ない事にヒカルは納得した。


(って! 納得してる場合じゃねえよなっ)


ヒカルはこのまま戦うべきか、どうかと悩んでいた。


でも、相手の行動が分からない状態で戦いに向かっても危険だと、思考にストッパーが入る。


少しの間考えていると、ジャキっと金属音が鳴った。


ヒカルはその音に気づき顔を上げた瞬間、ズガガガ!!!っとガトリングがこちらに向かって撃たれる。


「っクソ!! どうやって気づいてんだ!!!」


ヒカルは間一髪音に気付いた事で逃げる為の動作に移ったが、相手がどうやって此方に気づいたのかと舌打ちをする。


ガトリング弾が打ち続けられる音が続く。


ヒカルの後を追うように弾痕も追い続ける。


ヒカルは低めの体制を取り、スライディングをして近くのレジ裏に隠れた。


暫くすると、ガトリング弾の音が鳴り止んだ。


ヒカルは今のうちに呼吸を整える。


耳を澄ますと怪物の足音がこちらに近付いてくるのが分かる。


(落ち着け・・・・・・落ちつけ俺)


鼓動が速くなる。


額から冷や汗が出るのを、手の平でグイと拭う。


こりゃあやべえなヒカルは笑う。肩が震え、足が震える。


ただし、それは恐怖からではない。


「やっと試せる」

(やっと戦える)


その言葉を発したのはヒカルだったのか。


今のヒカルは、別人だと間違えるくらいに纏っている雰囲気が別人に変わっていた。


ヒカルは、汗が視界の邪魔にならないように、ズボンの後ろポケットから汗を拭くためのタオルを鉢巻のように額にきつく巻く。


そして、レジの上を飛び越える。


目前の敵を前に、両こぶしを構えると強面の顔に似合う、凶悪な笑みを浮かべた。





もし良かったら、ブックマークかリアクションスタンプでも押して貰えると更にやる気が出ます・・・!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ