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『ゾンビだらけの世界でただ1人の魔法使い』  作者: mixtape
第1章:インセプション
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第14話:虫の知らせ

パチっと目が開き目が覚める。


壁にかけられた時計を見るが、まだ朝6時頃。


カーテンレースの隙間から差し込む朝日が目に入る。


ぐがーといびきをかいているヒカルを起こさないように、そっとカーテンの隙間を閉める。


繋はそろり起きるとパジャマ姿のまま洗面所に向かい顔を洗う。冷たい水で眠気も覚めた後、繋は台所に向かった。

朝ごはんを作るために台所に置いていたトランクケースを開けて、中から味噌や米、野菜、卵を取り出して料理の準備をしていく。


まずは、米を研ぐ。研いだ米を土鍋に入れ、少しの間浸水させる。

浸水させている間、今度は味噌汁を作りにかかる。鍋に水と粉末出汁を入れて火にかける。途中均一に切った野菜達を鍋に入れて、しばらくした後火を止め味噌を溶いた。

米の方も浸水がある程度出来たらコンロの火を付ける。


(ほうれん草は、そうだな・・・・・・うん、おひたしにしよう)


繋は鼻歌を口ずさみながら馴れた手つきで次々と朝食を完成させていった。


ちなみに。


なぜ、魔法を発動しなくても火や水が使えるのかだが、家そのものを魔道具として作り変えたからだったりする。


地脈エネルギーを変換する事で火や電気を使えるようにしていたり。


生活水については、錬金魔法で中庭に自動型の井戸ポンプを作った事により水が使えるようにしている。


そのお陰で、昨夜は久しぶりにお風呂に入れるという事で菊香が物凄く嬉しそうにはしゃいでいたのを繋は笑いながら思い返す。


ほうれん草のおひたしを器に盛り付け終えると、今度は卵をどう調理しようかと繋は考える。少し考えた後、和食尽くしにしたいと考え、今度は卵焼き作りに取り掛かった。


卵焼き作りに取り掛かるのと同時進行で、繋はシンクに「シュピーレン」と魔法をかける。


すると、スポンジが勝手に洗い物を洗い始めた。


洗い終わった物は今度は布巾が動き出し水気を拭いていく。最後には拭き終えた物達は勝手に食器棚に戻っていった。


(うん、良い感じだ。上手に巻けた)


卵焼きを上手に巻けたことで、繋は一人静かに満足そうな顔をする。


ご飯も炊け、ヒカルと菊香の朝食分を用意して居間のテーブルに並べていく。


繋は埃から食べ物を守る為の食卓カバーを探すが、直ぐに見つからなかった為並べた朝食に簡易的な結界魔法をかけた。更に2人宛にメモを残した後、繋は私服に着替え、麦わら帽子を被り外に出かけた。


繋は昨夜家から少し離れた場所で祖父が菜園していた小さな畑があった事を昨日思い出し、畑があったであろう場所に向かう。


途中ゾンビと遭遇する事もなく、無事に祖父の畑に辿り着いた。


畑は流石に何年もほったらかされてるのもあって、雑草が生え放題かつ土もずっと耕されていないので硬くて畑の面影が無かった。


畑の光景に繋は倉庫にあった草刈り鎌と軍手を身に着け、繋は気合を入れる。


(・・・・・・よし!)


まずは、ぼうぼうに生えている草を人力で刈っていく。


ひたすら無心に草を刈り終えると、硬くなっている土壌を土魔法で耕していった。


土魔法で耕し終えると、見た目はそれっぽい畑に戻っていった。だがこれだけでは、作物は育たない為、堆肥が無い代わりに魔力を地面に流し込んでいった。


通称魔畑まばたけの完成である。


これで通常よりも何倍も速いスピードで作物が育っていくので、早めの収穫を見込めるのだ。


さらに繋はセプネテスから持ってきた、野菜の種を蒔いていく。


早ければ明後日には収穫できる筈だと繋は予想する。そして、これで食料不足には困らないだろうと繋は安心する。


(2人には栄養のある美味しい物を食べさせてあげたいから、育つのが楽しみだ)


繋は軍手を脱ぎ、帰る準備をする。ふと、畑をこのままにしておくべきかと悩んだ。


(流石に他の人が此処を知る事が無いだろうけど・・・・・・)


繋は帰り際に流石に普通の畑ではないものをこのままにしておく事は出来ないなと思い、畑の周囲にも人除けの結界を張って帰った。


帰ったらヒカル達にも畑の事を話して、後は帰る途中にでも、魚を釣って帰ろうかなと繋は畑を後にした。




「ただいま~」


「あ、お帰りなさい」


「おう」


帰宅の挨拶をしながら、からがらと引き戸を開けると、繋の挨拶に返してくれる人が居た事に繋は想定していなかったのか固まる。


「お、なんだ? ぼーっと突っ立って」


寝巻姿のヒカルが玄関まで近づいて、繋の顔の前をゆらゆらと手を振る。


「あ、いや・・・・・・」


一瞬、両親やヒョードルが自分が家に帰った時に出迎えてくれた事を思い出し固まってしまったのだ。


「わっ、凄い! 魚だ!」


菊香が繋が持っていたバケツの中を見て驚きの声を上げる。繋の手に持っていたバケツの中には畑から帰るついでに海で釣ってきたアジが数匹泳いでいた。


魚まで釣れるなんてサバイバル能力高けぇなとヒカルは顎をさすりながら関心していた。釣り竿なんてあったのか?と聞かれて、どこか心ここにあらずだった繋はやっとヒカルの問いに答えた。


「あ、えっと・・・・・杖を釣り竿にして」


「相変わらず、すげえな」


菊香は今度自分も釣りをしてみたいと繋にお願いをする。それに、ヒカルも頷いた。繋は2人に二階に祖父が使っていた大量の釣り竿があると話し、何時でも使って良いと2人に言うと2人は楽しそうに何を釣ろうかと会話をする。


2人のその姿に、昔の面影を重ね繋は懐かしくなる。思いに暮れているとヒカルから声をかけられた。


「それ、重いだろ。持つぞ」


ヒカルは言うが早いか、繋が返答するよりも早く、バケツを繋の手から引き取った。


余りにもスマートな行いに、繋は思考が少し遅れた後心の中で「か、カッコイイ!」と呟いたのだった。





「え! 畑もあるんですか?!」


今朝方畑で野菜を植えた事、二日後には収穫出来る事を菊香から用意されたお茶を飲みながら2人に話しをした。


キラキラと目を輝かせる菊香に「まあ、野菜だけだけどね」と繋は言うと、菊香はブンブンと勢いよく顔を横に振った。


今朝食べたほうれん草のおひたしもそうだが、ずっと保存食生活で野菜を食べる機会が無くなった現状では、女子高生の自分としてはめちゃくちゃ嬉しいのだと菊香は熱く語った。


「という事なんです!」


「た、確かに」


「いや、単に食いしん坊なだけだろ」


ちょっと!おじさん何てこと言うの!と抗議する菊香に、菊香の熱意に飲まれていた繋は目をぱちくりと瞬かせ笑った。


「じゃあ、野菜が収穫したらBBQでもしよっか」


幸いにも肉類に関しては魔法のトランクケースの中に大量に保存があるしと繋は提案する。


「やったー!! 大賛成です!」


はしゃぐ菊香を微笑ましく見ながら、繋はセプネテスでの旅を思い出す。


(うちのパーティは男所帯だったのもあって、お肉をよく食べるから大量に保管してたんだけど、肉ばっかりでバランスが悪いってスノトラは良く怒ってたなあ)


繋はふとスヴィグル達の事を思い出し、皆今ごろ何をしているんだろうと思いを馳せる。


(みんな、元気にしてると良いなあ)





へっくしゅん!と大きなくしゃみをスヴィグルがする。


「ちょっと・・・・・・風邪? 大丈夫? うつさないでよね」


「ああ、大丈夫だ。って、おい! 最後の酷くねぇか!?」


「健康だけが取り柄なのにな」


「ベオ~・・・・・・」


魔王を無事倒した後、女神の言う通り、まだまだ世界は魔物の残党の脅威に怯えており、魔物の残党を倒すために、スヴィグル、スノトラ、ベオウルフの3人は日々奮闘していた。


今日も無事に魔物の群れを倒し、帰路につく最中スヴィグルは無性にむず痒くなり大きなくしゃみをした。


「お前らなあ・・・・・・もうちょっとケイみたいに優しく気遣ってくれよ」


スヴィグルはズズっと人差し指で鼻の下をこすって、優しくない仲間二人に文句を言う。


「冗談よ冗談」


「冷たっ!」


しょぼくれたスヴィグルにスノトラはサラッと返す。


(ケイが居なくなってから2人からの俺への当たりがちょっと強いんだよなあ)


(・・・・・・まあ、2人とも寂しいのかもしれんがな)


そんな少し反抗期が来ている2人を窘めようとしないのは、スヴィグル自身が年長者だからというのと、恐らく甘えの裏返しだと思っているからだ。


この場に居ないヒョードルも恐らく同じ事を思うだろう。だから、リーダーとして年長者として、これぐらいは受け止めてやらなければならないと思うのだ。


(まあ、それでも)


(揶揄ってやりたくなるのは別だがな)


「なんだなんだ2人ともケイが居なくて寂しいのか」


ニヤリと意地悪な顔をしながらそう言うと、


「はあ!?  そんなの寂しいに決まってるじゃない!」


まさかの逆ギレに「お、おう」とスヴィグルは狼狽える。そんな感じでスヴィグルとスノトラは軽口を交わしていると。


「・・・・・・ケイは無事に向こうの世界に着いたのかな」


ポツリとベオウルフが言葉を漏らしたのをスヴィグルとスノトラは聞き逃さなかった。


「・・・・・・大丈夫よ。ベオウルフ」


「女神様が向こうの世界に送ったんだし無事な筈だわ」


真っ先にフォローしたのはスノトラだった。それに続くようにスヴィグルも大丈夫だろとベオウルフの肩を軽く叩いた。


「だよな。ああ・・・・・・そう・・・だよな」


煮え切らない回答にスヴィグルは「もしかして」と聞く。


「・・・・・・何か感じ取ったのか?」


獣人族の中でもベオウルフは第六感が非常に優れている為、スヴィグルはケイの身に何か良くない事が起きているのではないかと心配する。


(ケイとは魂の契りをしてるが、あくまでアレはお互いの命の危機を知らせ役目しかないんだよな・・・・・・)


「いや、それがよ、良く分かんねぇんだ。嫌な感覚の時は直球で嫌な感じが来るんだけどよ、今はうっすらとしたもんしか分かんねえ」


スヴィグルとスノトラは目を見合わせるとこくりと頷くと直ぐに行動に移した。


こういう時のベオウルフの虫の知らせは信じたほうが良いと長い旅路で2人は知っているからだ。


「よし! 女神様に直接聞いてみましょう」


「でも、どうやって」


「取り合えず、ヒョードルに相談だな」


そう言うと3人はヒョードルの家に向かって行ったのだった。




もし良かったら、ブックマークかリアクションスタンプでも押して貰えると更にやる気が出ます・・・!

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