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27 考古学者の依頼

 ここは召喚師ギルド前。

 多くの召喚師が出入りする中、玲衣とリンナは二人並んで建物を見上げる。

 ヘレイナ達は、いつ襲ってくるか分からない。

 だからこそ、いつも通りの日常を。


「今日も頑張ろうね、リンちゃん」

「あぁ。一緒に頑張ろう、レイ」


 二度目のB級依頼を受けるため、二人はギルドの中へと歩みを進める。



 建物の中は召喚師達で賑わっている。

 当然、召喚師以外の人間がこの施設に来ることはほぼ無いだろう。

 だがそんな中、明らかに召喚師ではない男が、キョロキョロと辺りを見回している。

 黒い短髪、眼鏡を掛けて白衣を羽織っているその男、歳は三十といったところか。

 男はリンナの姿を見つけるや、凄い勢いで近寄ってきた。


「ややっ、あなたはリンナ・ゲルスニールさんですね!!」

「うわっ! そ、そうですけど……、あなたは……?」


 物凄い剣幕の男に若干引くリンナ。

 ひとまず応対してみるものの、不審者スレスレである。


「ワタクシ考古学者をやっております、ホズモンド・マッケシーという者です、はい」

「考古学者……」


 ホズモンドと名乗ったその男、よく見れば小脇に何か抱えている。

 古い書物と思われるそれは、成程考古学者の持ち物だろう。

 もっとも、貴重な物である古い文献を小脇に抱えて持ち歩いていいものだろうか。


「それで、考古学者さんが、私に何か……?」

「それはもう、大ありです!」


 その場でクルリと一回転しながら、ホズモンドは古い書物を突きつける。


「この書物によれば、世界蛇は……、ヨルムンガンドは実在するッ!!」

「世界蛇が!? ……っていうか、もう少し落ち着いて下さい」

「あ……、これは失敬。長年の夢が叶いそうで、つい」


 コホン、と咳払いすると、ホズモンドは落ち着いた様子で語り始める。


「えー、まずはこの書物。古い時代の記録ですが、三神獣の一体ヨルムンガンドの宝玉が封印された場所が記されていたのです」

「ヨルムンガンドって、世界蛇の名前なんですか?」


 初めて耳にする名前に、聞き返すリンナ。

 難しい話には入っていけない玲衣は、とりあえず二人のやり取りを見守る。

 彼女が持っている知識は、暁の伝説の大まかなあらすじだけだ。

 だが英傑の武器が実在する以上、三神獣が実在していても確かにおかしくはないだろう。


「その通りです。現在に伝わっている呼び名は、言わば二つ名。神狼や地獄姫にも真の名があると思われます」

「神狼の……、真の名前……」


 神狼が、この世界に実在する。

 その可能性に、リンナの心は不思議と高揚した。


「あの、神狼の真の名前って、何なんですか!? あと、宝玉のある場所とか!」

「残念ながら、それはまだ突き止められていないのです」

「そうですか……」


 少し残念そうな表情を浮かべるリンナ。

 神狼を従える夢が現実になるかもしれない。

 それにもし、あの神狼を操る事が出来たのなら、間違いなく玲衣の力になれる。

 そう思ったのだが。


「しかし残念がる事はありません。神狼も地獄姫も確実に存在する! いずれは三神獣全てを見つけ出して見せましょう! それこそが、ワタクシの夢! 悲願!!」


 野望に燃える考古学者、ホズモンド・マッケシー。

 この様子、彼の情熱、信念は確かに本物のようだ。


「あの……、結局世界蛇とリンちゃんに何の関係が……?」


 とうとう会話に参加する玲衣。

 一向にリンナに声を掛けた理由が分からないため、さすがに焦れた。

 ホズモンドはその言葉に思考を切りかえると、話を本筋に戻す。


「そうですね、本題に入りましょう。先ほども言いましたが、ヨルムンガンドの宝玉は封印されています。その封印を解くカギこそが……」


 ホズモンドはリンナの腰に下げた杖、その先端の宝玉を指さす。


「ゲルスニール家に伝わる、ひび割れた宝玉!」

「この宝玉が……、ヨルムンガンド封印の鍵!?」

「リンちゃんの宝玉が!? なんで!?」


 ホズモンドの発した発言に、玲衣とリンナは衝撃を受ける。

 異世界から玲衣を呼び出し、正体不明の光の剣を呼び出し、しまいには三神獣封印の鍵だという。

 一体この宝玉はなんだというのだろうか。

 ひび割れた宝玉は今もリンナの杖の先端で、淡い光を発し続けている。


「それって、確かな事なんですか?」

「長年の研究の成果です。様々な文献を当たり、裏は取りました。間違いありません」


 玲衣の疑問に対し、迷い無く答えたホズモンドの表情は自信と確信に満ちている。

 決して不確定要素があるわけではないのだろう。


「そこで私はゲルスニール家に赴き、宝玉を貸してくれないか頼みに行ったのですが、宝玉はリンナさんが持っていったとの事で……」

「そうだったんですか。でもこれを貸すわけには……」


 リンナはこの宝玉を手放すわけにはいかない。

 この宝玉が無ければおそらく光の剣は出せないだろう。

 七傑武装セブンアームズとの戦いにあの力は不可欠だ。


「もちろん貸してほしいなどとは言いません。その代りに頼みがあります」


 ホズモンドは鞄から大きな革袋を取り出した。

 重量感のあるその袋は、中にギッシリと何かが詰まっている。


「ヨルムンガンド封印の地はバリエル大森林の奥深く、強大な召喚獣がひしめく危険な土地です。ただの学者であるワタクシ一人ではとても辿り着けない。そこで貴女に個人的に依頼を出します。ヨルムンガンド封印の地までワタクシを護衛してもらいたい」


 ホズモンドは革袋の口を開け、中身を見せる。

 中にたっぷりと詰まった金貨は、優に五十万Gは超える量だ。


「これは依頼の報酬金、先払いでお渡しします」

「こんなに!? しかも先払いって……」


 この金額はいくらなんでも高額すぎる。

 B級の依頼を十回こなしても届かない額だ。

 彼の熱意が本物だという証拠だろうが、こんな金額そうそう気軽には受け取れない。


「あの……、バリエル大森林の奥地ってA級召喚獣の巣窟ですよね。私はB級召喚師ですので……」

「もちろん分かっております。ですが貴女、いえ。貴女達はA級召喚獣オルトロスの討伐経験があるとか」


 ホズモンドは玲衣の方に目をやる。

 どうやら彼女の情報も収集済みのようだ。


「レイさん、あなたは人間でありながら召喚獣、そして非常に強い力を持っている」

「なんでその事を……」


 玲衣が召喚獣である事は、一部の人間しか知らない事のはずだ。

 なぜこの男がその事を知っているのか。


「ワタクシなりにその宝玉の事も調べていました。その過程で貴女の事も知ったのです。さらに言わせてもらえば……」


 今までに無い真剣な表情のホズモンド。

 一呼吸置いて、彼は交渉の切り札を切る。


「突き止めたのですよ。その宝玉の秘密を」

「本当ですか!? 教えてください!!」


 思わず身を乗り出し、声を上げるリンナ。

 この宝玉の秘密が明らかになれば、光の剣も制御できるようになるかもしれない。


「さて、ではここで交渉と行きましょう。この依頼の達成報酬、まだ話していませんでしたね。報酬は、宝玉の秘密を教える事。どうです? 悪い話ではないでしょう」


 確かにそれは魅力的な報酬だ。

 普段のリンナなら二つ返事で受けただろう。

 だが、今の彼女達には快く受けられない理由があった。


「ねぇ、リンちゃん。この人の依頼を受けて、もしヘレイナ達が襲ってきたら巻き込んじゃう……よね」

「そうだな……。でもこの話は魅力的だ、見返りも大きい。やる価値はあると私は思う。それに」

「それに?」

「……姉さんなら、無関係の人間を巻き込ませるような事はしないと信じてるから」

「……うん、リンちゃんがそう言うなら」


 頷いた玲衣を見て、リンナはホズモンドに告げる。


「ホズモンドさん、その話、お受けします」


 リンナの言葉に緊張が解けたのか、ホズモンドの顔がみるみる笑顔に変わっていく。


「おぉ……、おお! ありがとうございます!! これで長年の研究の成果が証明される……ッ!」

「あはは……」

「うわ……」


 まるでもう目的を達成したかのような喜びようだ。

 床に両ひざを付いてガッツポーズしながら感涙に咽び泣く成人男性の姿に、二人はドン引きした。

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