表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【4章準備中】追放された騎士好き聖女は今日も幸せ【26年1月9日コミックス3巻】  作者: 結生まひろ
第一章 憧れの騎士団の寮で働けることになりました!
29/131

29.ちょっと待ってください、今深呼吸します

 その日の夜、食堂でリックさんの歓迎会が行われた。


 そんなに大それたものではないけれど、私のときのように皆で食事をとって、ワインが開けられた。


 その後も翌日休みの人が何人かと、リックさん、レオさん、ミルコさん、ヨティさん等が残って、今もお酒を飲んでいる。


「皆さん、こちらよろしければ」


 そんな場に、私は切り分けたチーズとナッツを大皿に乗せて持っていった。


「お! ありがとう、シベルちゃん!」

「さすが、気が利くねぇ」

「いいえ。皆さんとても楽しそうですね」

「シベルちゃんも一緒に飲む?」

「いえ、私は遠慮しておきます」


 皆さん、もう既に結構酔っているご様子だ。

 いつもより更に声が大きくて、陽気で、とても楽しそう。


 ……私も皆さんに混ざりたい気持ちはあるけれど、見ているだけで十分楽しいです!


「え~? シベルちゃんも一緒に飲もうよ。ほら、俺の隣空いてるよ?」

「ヨティさん、随分飲まれてますね」

「まだまだ! 酒が飲めなくて騎士が務まるかぁ!」

「まぁ」


 いつも以上に陽気なヨティさんの頰は赤く染まっている。

 王都ではこういう賑やかなお酒の場には遭遇する機会なんてなかったから、やっぱりいるだけでとても楽しい。しかも、この方たちは全員騎士なのだから、私にとってはまるで楽園。


「ヨティ。あまりシベルちゃんに絡むな」

「なんすか、団長、焼きもちっすか? とか言いながら、本当は団長が一番シベルちゃんと飲みたいんすよね~?」

「そ、そんなことはない!!」


 レオさんとヨティさんって、本当に仲がいいのね。まるで兄弟みたいだわ。


「嫌がる女性に無理に酒を勧めるのはよくないと言っているんだ」

「シベルちゃんって、お酒嫌いなの?」

「嫌いというか……弱いので。皆さんにご迷惑をかけてしまっては大変ですからね」


 ヨティさんからの質問には、淑女らしく微笑んで答えておく。


「え? シベルちゃんお酒弱いんだ! へぇ~、可愛い。酔ってるシベルちゃん見たいっすよね、団長」

「ヨティ、いい加減シベルちゃんが困っているだろう」

「うふふふふ」


 飲んでも構わないのだけど、私が酔ったら困るのは、たぶんヨティさんたちのほうですよ?


 だってきっと、本性を出して絡んでしまうから……。それでもいいですか?


「すまないね、シベルちゃん。こいつらに付き合っていたらいつまでも眠れないから、先に休んでくれ」

「ありがとうございます。では、空いたボトルを下げたらそうさせていただきますね」


 レオさんのお気遣いに頷いて、テーブルの上に転がっている空のボトルを手に取る。


「いーや、俺のほうが強いに決まってる!」

「いやいや、俺ですよ」

「よーし! そんなに言うなら勝負だ!!」


 けれど、またヨティさんの大きな声が聞こえて、彼のほうを振り向く。


 すると何やら、リックさんとテーブルを挟んで向かい合い、肘を突いて手を握り合う二人。


「……?」


 途端に、周りにいた方々も二人を注目して盛り上がった。


 一体なにが始まるの?


「いいぞ! いけ!」

「頑張れヨティ! どうした、ほら! 押されてるぞ!」


 肘を立てて握られた右手。捲られた袖。二人とも歯を食いしばっていて、腕に筋が浮いている。


 まぁ……!

 これは力比べね!!


「……っあーっ、くそ!!」

「ほら、やっぱり俺の勝ちですね」


 やがて、ヨティさんの手の甲がテーブルにつき、勝敗は決した。

 勝ったのはリックさんだ。


「もう一回だもう一回! 今はあまり力が入れられなかったんすよ!」

「何度だって相手になりますよ」

「次は本気でいくからな、覚悟しろよ新人!」


 負けたヨティさんは、ますます顔を赤くさせると、着ていたシャツを突然ガバッと脱いでしまった。


「!!?」

「よーし、これで本気を出せる!」


 ちょ……、ちょっと、ちょっと待ってください、脱ぐなんて聞いてません……!!


 ヨティさんは騎士の中では細身のほうだと思っていた。けれどとんでもない。思っていたより十分立派で、とても綺麗な筋肉がついている。


 先日レオさんの身体を見てしまったときよりもっと近い距離であることに、私の顔は一瞬にして熱くなる。


「あら……シベル、大丈夫?」

「は、はい……」


 動揺と混乱で思わず顔を背けてしまった私に、同じようにこの場にいたエルガさんが歩み寄ってきてくれる。


 ……大丈夫じゃありません!!

 心の準備もなく、突然それは……美味しすぎます!!

 ちょっと待ってください。今深呼吸してから、もう一度見ますから!!


 辺りにはアルコールの匂いが漂っているし、それだけで酔ってしまいそう。

 それに、にやけてしまいそうになる口元を堪えるのにも必死だ。もう、手で覆って隠してしまおう。


「おいおいおい、シベルちゃんがいるのに何をしているんだ。服を着ろ、ヨティ!」


 そんな私の耳についたのは、溜め息交じりのレオさんの声。


「あ、シベルちゃん、ごめん」


 へへへ、と笑っているヨティさんの声に、私は手のひらで口元を覆いながらちらりと視線を上げる。


「すまないね、シベルちゃん。ここは男ばかりなものだから、どうも酒が入ると気が抜けてしまいがちで……」

「い、いいえ……! 私は大丈夫です!」


 けれどまた、レオさんが溜め息交じりに口を開いた。


 ヨティさんはなにも悪くない。楽しいお酒の場なのだから、全然構わない。誰にも迷惑はかかっていないし、私だって大歓迎なのです……!


 ただちょっと、心の準備が必要だっただけで。


「……エルガも、あとはいいよ。シベルちゃんを部屋に連れていってあげてくれ」

「はい」

「あ……」


 まずは心を落ち着けましょう。そう思って深く息を吐いていたら、エルガさんに「いきましょう」と言われて、私は食堂から連れ出されてしまった。


 最後にもう一度だけ……!


 そう思って、ちらっとだけ振り返ったら、レオさんと目が合った。


「…………」


 だからそのまま、すっと視線を前に戻す私。


 ……ヨティさんの身体をもう一度見ようとする、変な女だと思われてしまったかしら……?


 ああ……もう。欲を出すからよ、シベル。



「ごめんなさいね、貴女は先に戻らせればよかったわ」

「いいえ。それより、エルガさんは平気なんですね」


 レオさんもエルガさんも私のことばかり心配しているけれど、エルガさんだってまだ若い女性だ。

 年齢は二十歳と言っていた。


「ええ。私はああいうことは慣れているから。でもシベルはまだここに来たばかりだものね。でも、これからもああいう場に遭遇してしまうことはあるかもしれないわ。あの人たち、結構自由だから」

「えっ……そうなんですか!?」


 よくあることなんですか!!?


「ええ、気をつけるように言っておくわね」

「いえ!!」

「え?」


 エルガさんのその言葉には、思わず思い切り否定してしまった。


「あ……その、私のせいで皆さんが窮屈な思いをしてしまうのは申し訳ないので、これまで通りで大丈夫です!」

「……でも」

「私が気をつけます!」

「……そう、貴女って本当にいい子ね」

「う、うふふ、そんなことないですよ、うふふふ……」


 にこりと優しく微笑むエルガさんの笑顔に、少しだけ心が痛んだ。




腕相撲をするの巻。ヨティは細マッチョ。


酔ったらシベルはどうなるか想像できた方はブックマーク、評価☆☆☆☆☆、いいねをぽちっとお願いします|ω・*)


次回、レオ視点です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] う~ん、シベルさんに古の迷作・超兄貴シリーズをプレイさせてみたい(ゲス顔) いやしかし、騎士様方の様な戦う筋肉推しであるからして、魅せ筋じゃイマイチ琴線に響かない感じでしょうかね?
[良い点] 笑いを堪えながら読んでいたのに「もう一度見ますから!!」でブフォッとしてしまいました (∗˃̶̀₎౩₍˂̶́∗) [一言] 毎回、読むと元気が出ます。ありがとうございます!
[一言] いいですね…腕相撲で半裸…盛り上がる上腕二頭筋…鎖骨…背中…肘!肩!肩甲骨の盛り上がり!! にやけないようにする努力は怠らないところ、素晴らしいです…!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ