表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

遠い日の歌

これは遠い遠い昔のこと。

どこか遠くて、それでいて近いかもしれない場所の、遠い昔の話。


慌ただしく動く人の波をちょこまかとすり抜けてボクは歩く。

「あっお嬢様どこへ行かれるのです?」

「ちょっと散歩だよーっ」

しまった気付かれた。あのメイドはうるさいんだよなぁ……

「また外出ですか?ダメですよ旦那様はうるさいんですから」

「えーパパのお小言なんて聞いてらんないよーっ」

「それでもダメなものはダメなんです!!」

「ちぇっ」

…………うーん、どーしよっかなー。そうだ。

「ていっ」

「いやんっ!?」

必殺、映画のワンシーンごっこ!! ふぁさぁ、と舞うロングスカートを尻目に猛ダッシュ。

「こ、こらーー!! 夜久乃お嬢様ーー!?」

「へーんだっ!!」

捕まってなんかたまるもんか、だってみんなとの約束があるからねーっ。


坂を下って、森を抜けて、街が見えたら目的地はもうすぐそこ。古びたコンクリートの壁に囲まれた建物の、その向こう。コンクリートの崩れた所から顔を覗かせれば、

「お、来た来た」

「やっほーやくのーん」

「おせーぞやくのー」

「やっほー、また来ちゃった」

少し狭い裏庭で、プラスチックの剣を構えて向き合う2人と、それを見る仲間たち。

「ていっ、スキあり!!」

「あーっ乙女きったねぇぞ!!」

「汚くないもーん!!」

ボクに注意が向いたスキに、背の高い子がもう一方の男の子に斬り掛かる。慌てて避けたけども、真剣だったら腕が真っ二つにされてたね。

「やー、乙女ちゃんそれは卑怯じゃないかなぁ……」

「えーっ莉緒(りお)までー?」

「乙女、卑怯」

「暁乃にまで言われたぁ……やくのー」

「うん、それはやっぱり卑怯かなぁ」

「うわーん夜久乃までー!」

「そりゃっスキあり!!」

と、落ち込む乙女を見て男の子ー賢人(けんと)が仕返しとばかりに切りかかる。

「おっと、それは見過ごせないなぁ」

つい、と二人の間に割って入ると、乙女から剣を奪って賢人の剣を受け流す。

「勇敢なる敵の剣闘士、この私めが相手してしんぜよう!!」

高らかに名乗りを上げると振り返って乙女に軽くウインク。

「ほう、貴殿が王国に名高き騎士エオウィンか。ならば相手にとって不足は無い」

お、即座にノッてくれるとはありがたい。

「それではいざ尋常に」

「いざ」

双方、刀を構えて緊迫したムードを出してみる。一触即発、誰かがゴクリと唾を飲む。

「はいはいそこまで。おやつの時間ですよ」

突然降ってきたその声に振り向くと、

「あ、院長先生……」

「院長先生」

自然と背筋が伸びる。

「おや、夜久乃ちゃんも来てたのね」

「はい、今しがた」

「そう、またあそこの壁のとこから入ったのね」

「……へへっ、その方が面白いから」

「全く、そっちは危ないからちゃんと正門から入りなさいって言ってるでしょう?お洋服も汚れちゃうし」

「……はーい……」

物腰は柔らかいのに断れない圧がある、それが院長先生の怖いところなんだけど……

「ほらほら、おやつの前にはみんな手を洗ってらっしゃい。夜久乃ちゃんも食べてくよね?」

「え、いや、ボクは……」

「いいのよ。夜久乃ちゃんはこの かぜのこ園の大事なお客様なんだから」

「そう…………ですか……では」

「でもちゃんと手は洗ってきてね?」

「うぐ、はーい……」

敵わないなぁ……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ