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異世界召喚による日本人拉致に自衛隊が立ち向かうようです  作者: 七十八十
第7章 ひとつめの世界 ~愚王と愚王の娘と賢姫と元メイド~
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7-5 適材適所は何にでも必要

王都はバレス侯爵家の舞踏会の噂で持ちきりであった。


曰く


「落ち目の貧乏侯爵が背伸びして王の行幸を仰ぎ、一大舞踏会を主宰するらしい」


曰く


「顔が残念でどこの馬の骨ともわからぬ子を産んだ娘を引き取ってくれる相手を探すために全財産をかけたらしい」


曰く


「長年対立していた王妃とクルス公爵に詫びを入れるために盛大な舞踏会を開くらしい」


などなど、とりあえずバレス侯爵が盛大な舞踏会を開くということが共通しているだけで、尾ひれのついた噂話が各所で語られていた。

魔族と和解し、日本とアメリカの施設に搬入される物品の経費を王国が負担しているといっても、特に税率が変わったわけでもなければ、何か引き締めがあったわけでもない王都住民にしてみれば、バレス侯爵家がどうなろうと酒の肴でしかなかった。


そもそも、日本とアメリカの経費を王国が負担しているなんていうのは、王都市民は知らされていないし、知らされたところで、市民に「愛国心」などというのが芽生えるのは近代国家の成立を待つ必要がある。

彼らにしてみれば、税金が上がらないのなら、どのみち貴族たちの交遊費に消える王国の予算など、どうなっていようと指摘するだけ無駄だから関係ないという話であった。


そんな貴族たち(支配階級)の営みなどとは無関係に日々の住民の生活がまわっている王都の一角、後ろ暗い人間や貧困層が集まる区画、いわゆるスラム。

そこにある酒場は昼間から酔っている人間が大勢いて騒々しい。

いや、昼間からというのは語弊がある。なんとこの酒場は、日本もびっくりの24時間営業、いつでも酔っ払いが絶えることのない素敵な酒場である。


そして、その喧騒と、客の素性は互いに詮索しないという暗黙の了解は、ここを表社会と裏社会を繋ぐ商談の場としても有用な物にしていた。


「人集めは順調ですか?」


ローブで顔まで隠しているものの、物腰や言葉遣いが明らかにスラムに似つかわしくない男が向かいの席に座る男に言った。


「ああ、とにかく騒動を起こせばいいなんて、喜んでやる奴はいくらでもいるよ」


答えた男もローブで顔を隠しているものの、その纏った雰囲気は明らかに荒くれ者のそれである。


「支払いはギルドを通してくれ、払い込みが確認できれば実際に連中を動かすよ」


ただ単に「ギルド」と呼ばれるそれは、いわば犯罪ギルドであり、この酒場がその本部だった。

お互いに後ろ暗い仕事を依頼し実行する関係上、事が済んでから双方が会うというのは好ましくない。

そこで犯罪ギルドの出番である。


まず、依頼者が犯罪ギルドにおおまかな依頼内容と報酬を提示する。

それを受けた犯罪ギルドは、それをこなすのに適している思われる所属員に声をかけ、受けた所属員がいれば、直接依頼者と直接内容や報酬を話し合い、合意すれば次のステップへ、決裂すればまた新たな所属員に声がかかるというのを繰り返す。

依頼と報酬が合意されると、依頼者は犯罪ギルドに依頼料と報酬を払い込む。

払い込みが確認されると、所属員は実際に仕事を行い、成功であれば報酬が所属員に支払われ、失敗であれば報酬は依頼者に返還される。

依頼の成功、失敗の判断はギルドが行うので、ごまかしは効かない。


犯罪ギルドは血の掟によって成り立っており、それを破れば依頼者であろうと所属員であろうと、地の果てまで追いかけられる。

犯罪ギルドの存在を知る者は限られた者達だが、彼らはその存在をありがたがると同時に恐れていた。

それは所属員である殺し屋や盗賊といった所属員は勿論、利用者である商人や貴族、はては王族に至るまで、犯罪ギルドを知る全ての者達に共通の感情だった。


「心配するな期日までには払い込んでおく」


依頼者と思われる男は手を振って、向かいの席に座る男を追い払った。

男が退くのと同時に、別の人間がその席についた。


「変わった依頼をしてきたのはあんたかい」


帽子とマスクで顔を隠し、体形のわからないだぼっとした服装で外観からは何もわからないが、どうやら声からして女のようである。


「依頼は複数だしている。どの依頼かはっきり言え」


普通、この手の依頼の場合、内容はぼかしたほうがお互いのためなのだが、この男は依頼を複数出したのに、それぞれの依頼に暗号を振ることをしていなかったらしい。

その時点で、その女と思われる人物は依頼を断ることを決めたのだった。


その後も、少し頭が回る犯罪ギルド所属員はこの男の依頼を断ったので、最終的に依頼を受けたのはどうしようもないゴロツキのような連中か、そもそも犯罪ギルドがそれ以上の仲介を断ったかのいずれかだった。


「クソが!肥溜めの連中の癖に私の依頼を断るなどと!」


酒場を出た男、ノウム男爵は悪態をつきながら断られた依頼をどうするか考えていた。

もっとも、そこがスラムであり、明らかに身なりがスラムの住人でない男が一人でいればどうなるか。

そんなことに考えが及ばないあたり、裏の仕事をさせるのに不適切な人材であったと言える。


その日以降、ノウム男爵を見た者はおらず、協力者が実行目前でいなくなったバレス侯爵は怒り狂うのであったが、自身の見る目の無さのせいだとは気付かないのであった。

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