6-11 科学技術が進むほど夜は有利になる
キルゾーンで待ち伏せた陸自10式戦車と、そこまで引っ張ってきた米陸軍M1A2によるAPFSDSの十字砲火を浴びた皇国軍主力が、大楯ごと貫通されたり、1発で2体まとめて串刺しにされたりして、文字通り全滅しつつあるころ、皇国軍野営地でも動きがあった。
残った魔導騎士と兵站部隊が、なんとか魔力補給の手筈を整えて、野営地を進発する準備ができたのである。
「これでなんとか主力部隊を追いかけられるな」
「補給もままならなかった状況から、かなりの数が行動不能になっているのではないでしょうか」
「何も考えずに突撃する魔導騎士が多すぎる!騎士はイノシシしかいないのか!」
「全く、追いかけて見つける度に補給などと、面倒事を増やしてくれる」
魔力の補充が済んでいないにもかかわらず、何の確認もせずに8割の魔導騎士が敵を追いかけて突撃していったことに、補給担当の兵員達はぶーぶー文句を言っていた。
そんな声を聴きながら、この派遣部隊の兵站責任者でもある初老の伯爵はそっと溜息をついた。
たしかに、敵と見るや魔力残量も見ずに突撃していった魔導騎士の視野狭窄は責められるべきものだが、それによって敵が野営地から引き離され、補給部隊が守られたことも事実である。
自分たちの仕事の手間が増えたことに文句を言っている兵員のどれだけがこのことを理解しているのだろうか。
それにしても、恐ろしい敵だと伯爵は考えていた。
戦場のルールを無視したのは、恐らく魔導騎士を持たぬが故であろうと思われた。そもそも、逆のことは皇国の常套手段であった。
しかし、そのうえで完全な奇襲であったにも関わらず、彼らは魔導騎士を狙わず、補給部隊だけを集中攻撃した。
兵站を潰された軍隊は時間がたてばたつほど不利になる。現に、皇国軍の派遣部隊は今日の夕食と明日の朝食を吹き飛ばされ、魔導騎士への魔力補給もままならぬ状態での戦闘を余儀なくされた。
なんとか魔導騎士への補給ユニットをかき集め、使えそうなものはニコイチ、サンコイチにしてみたものの、派遣部隊全てに補給するには到底足りていない。
このままでは、全皇国軍の半分を占めるこの派遣部隊は明日には行動不能に陥ることになる。
魔導騎士の操縦の才能が無く、若いころから兵站畑を歩み、後方部門の増強をずっと訴え続けてきた伯爵だったが、皇国の正面戦力偏重は治らなかった。
もともと貧弱な兵站で過大な正面戦力を支えてきたのだ。この兵站の損害は、この派遣部隊だけでなく、皇国軍全体に致命的な影響を与えることになるだろう。
と、先のことばかり考えていた伯爵だったが、ふと気になったことがあった。
完璧な奇襲を成功させて、兵站を叩くような敵である。反撃を受けてこの場を離れることになるのは元々織り込み済みだろう。
実際、攻撃を行って居場所のばれた敵は、魔導騎士が追撃すると潮が引くように撤退していった。
では、そんな敵がこのまま野営地を放っておくだろうか?
そう気付いて周囲を見渡した伯爵はぞっとした。
残った魔導騎士は、補給が済んでいないことに気付いたか、補給中だった騎士である。
つまり、兵站部門が受けた損害を理解し、その復旧に手を貸してくれた部隊が主である。
彼らのおかげで今、主力を追いかける段取りをなんとかつけられたのだが、一体誰が周囲の警戒をしてるのだ?と伯爵は恐怖したのだが、残念ながら警戒していたとしてもなんの意味もなさなかっただろう。
野戦飛行場を造ったのに、ここまでの日米軍の作戦に航空機が参加していないことが答えである。
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『アパッチ01、コース侵入予定通り』
『アパッチ02、01後方80で追尾中』
陸自のAH-64Dが2機、暗闇の中を匍匐飛行している。
今回の世界に派遣された、(いろんな意味で)陸自なけなしの航空戦力である。
『カウボーイ01から06、フォーメーションを維持し予定通り侵攻』
米陸軍のAH-64Dは6機。
お金持ちは羨ましい。
『お先に』
轟音をあげて2機のジェット機がアパッチの頭上を飛び越していく。
とはいうものの、速度差は時速300キロもないので、一瞬で見えなくなる。というほどのものではなく、各機のFLIRはその特徴的なお尻をしばらく眺め続けることになった。
AC-130と並ぶ空の死神。
毎分3900発の30mm機関砲弾をばらまくA-10攻撃機が、米軍の持ち込んだ切り札である。
『こちらアナグマ、目標にレーザー照射開始』
『ウォートホッグ01、ラジャー。レーザー確認、シーカーオン、ロック、ファイア』
2機から発射された4発のマーベリックは、アナグマが指示した目標に向けてまっすぐ向かっていき、命中した。
標的は皇国軍補給部隊が必死になってかき集めた魔力補給用の装置である。
『こちらアナグマ、ビーコンを作動させた。それ以外は敵だから好きに撃て』
『カーニバルだ!』
野営地に一直線に着弾の閃光が伸びた。遅れてブモオオオオオオオという特徴的な、味方としては最高に頼もしい、そして敵としては絶対に聞きたくない音が聞こえる。
夜間航空攻撃。
まともな暗視装置すらない相手にとっての悪夢は、まだ始まったばかりである。




