表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界召喚による日本人拉致に自衛隊が立ち向かうようです  作者: 七十八十
第6章 いつつめの世界 ~二足歩行のロボットって人くらいの大きさが一番便利なんじゃね?~
87/170

6-10 罠と気付いても遅いか回避できないことはままある

『突撃しろ!連中は遠距離用の攻城兵器!距離を詰めてしまえば魔導騎士の敵ではない!』


指揮官騎から魔法で増幅された音声が飛ぶ。

起動した騎士が一斉に跳躍し、敵との距離を詰める。


とはいえ、一度の跳躍で詰められる距離は騎体によるが、200mの跳躍でも長い方である。

一度跳躍すれば、クールタイムがあるので、ひたすら走る。

クールタイムが終われば再び跳躍。


『隊長!敵が後退しています!』

『追え!逃がすな!』


魔導騎士が全力疾走で概ね時速40キロ。

対してM1A2の全速は時速70キロ近いものの、不整地だということを考慮するなら時速40キロ前後。

要するに距離は跳躍によってしか縮まらないということになるのだが、実際には魔導騎士のほうが走行可能な地形の選択肢は広いので、わずかではあるが走っているだけでも差は詰まる。


散発的に攻撃を受け、魔導騎士はかなり数を減らしているが、そもそも800騎近い魔導騎士が一斉に追撃に入ったので、数で押し切れると指揮官は踏んでいた。


『大楯だ!大楯を前に出せ!』


大楯が貫通されたものの、敵の攻撃を防いだのを見て、指揮官は部隊に指示を出す。


『この先は川で岸は崖になっている!そこまで追い込めば連中は動けまい!』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「奴さん達、楯を前に出してきましたね」


砲手が照準器を覗きながら言う。

と、ドゴンと音がして駐退機が後退し、排莢された砲弾尾部がカコンと音を立てて落ちる。

駐退機が作動したのと同時に、車体は轟音をあげて走り出していた。


「即席の空間装甲ってわけだ」


装填手は答えながら、砲塔後部の防爆扉が開いた弾薬庫からHEATMP(多目的対戦車榴弾)を取り出し、装填する。

体が砲塔後方に向かってつんのめる感覚。

砲塔を真後ろに向けて全力疾走しているので、急停車したときの感覚がいつもの逆である。


装填良し(レディ)!」

撃て(ファイア)!」


走行、停止、発砲、走行、停止、発砲。

この繰り返し。いわゆる躍進射というやつである。

基本的に戦車は走りながら撃つというのは想定されていない。

できないわけではないが、著しく命中率が落ちるのが普通である。


作戦地域(キルゾーン)までAPFSDS(サボット)は使用禁止だ」


車長は事前のブリーフィングで伝達されたことを繰り返す。


「大楯が有効と思わせておいて、キルゾーンで一気に殲滅とか、考えた奴かなり性格悪いな」

「というか、キルゾーンまで引っ張っていく必要あるのか?」

「それ以前に日本の戦車は走りながらでも百発百中だろ。ヤキマで見たぜ。なんで俺らが引っ張て行く役なんだ?逆の方が良くね?」


砲手と装填手の会話を聞きながら、車長は心の中で、みんなそう思ったけど政治とかいろいろあったんだよ。と思うのだった。

ちなみに、日本の戦車が走行間射撃での命中精度が高い理由は、コスト(値段)メンテナンス(日常整備の手間)をかなぐり捨てて採用している油圧サスペンションのおかげである。

広大なヨーロッパ平原で機動戦をやるための欧米戦車と、待ち伏せと陣地転換を基本にする日本戦車では、設計思想が根本から異なるからこそ採用できる機構である。


「まもなくキルゾーンだ。崖に追い詰められた哀れな子羊の演技の時間だぞ」

「どうせ車内にいるんだから関係ないじゃないですか」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ちっ」


指揮官は自騎のコクピットで思わず舌打ちした。


大楯装備の騎体を前に出してから、敵の攻撃による被害は激減したものの、魔力切れで脱落する騎体がかなり増えていた。

野営設営中の満足に補給が済んでいない時間を狙われたせいである。

実際、自分の部隊も魔力消費を抑えるため、跳躍の使用を禁じ、走って追いかけるだけになっている。

そのせいで、距離が先ほどから詰まらなくなっていた。


と、そこで、まさか補給が万全でないことを見越して、あの時間にしかけてきたのか?という疑問が浮かんだ。

そして、日は完全に沈んだというのに、敵の攻撃精度は落ちていない。

対してこちらは、視界を魔力で増幅してかろうじて走る地面を見ている程度。敵の位置は、敵が攻撃したときの閃光で確認している有様である。


そこまで考えて、ふと、「誘いこまれたのではないか?」という疑問が脳裏をよぎり、背筋に寒気が走った。


『隊長、川です!』


部下の呼びかけにより、思考を中断した。


『連中を川に蹴り落としてやれ!仲間の無念を晴らすのだ!』


そう叫んだ指揮官の意識は、側面から飛来したAPFSDSによって刈り取られたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ