6-8 転生者は増長する
「テリオス・トルステルを侯爵に叙する」
エリザベートにどうにか勝った後、王城に戻ると謁見の間に呼ばれていつの間にか王様っぽい服に着替えていたエリザベートに突然言い渡された。
「あと、ヘーニル侯爵が率いていた翡翠騎士団も解散して関わっていた貴族から魔導騎士を取り上げたので新しい騎士団を作らねばならない」
「それを俺にやれと?」
めんどくさくない?
なんかクリスは横で目をキラキラさせてるけど。別に実験用の騎士が手に入ったわけじゃないからね?
「私に勝ったのだから、それくらいはやってもらわんとな。ついでに貴様の専用機もつくってやろう。あんなポンコツで私に勝ったのだから、期待しているぞ」
クリスがおおーとか言ってさらに目をキラキラさせてるけど、この娘絶対趣味に走る気だよ。
この娘に任せると絶対乗りにくいのになるよ!
とはいえ、専用機、専用機ですよ。楽しみだね。
と、突然女王はこちらに寄ってきて、体をくっつけてきた。
胸の慎ましやかさがクリスと同等なので、あんまりラッキー感がない。
「私のことはエリザと呼べ」
耳に口を寄せて、息がかかるくらいの距離で言われた。
顔が整った美人にそんなことされるとちょっと興奮する。
あ、あとクリスさん、目が怖いです。
そして、自分の専用機をクリスとあれやこれやしたり、エリザと騎士団の面子をあれやこれやしたり、いろんな女性に言い寄られてニヨニヨしたりしてあっという間に時間は過ぎて行った。
世間的に俺は、魔導騎士の扱いに長けた国王に、旧式の汎用機で勝った天才ということになっているらしい。
女王の覚えめでたく、新騎士団長に抜擢された出世頭。
有象無象が寄ってこないほうがおかしいだろう。
おかげでいろいろとイイ思いをさせてもらったし、お金に困ることもなくなった。
別にチート能力なんてなくても、科学技術が劣る世界に転生するだけでチートなんだなぁと実感した。
「なーに黄昏てんのさ」
王城の庭を眺めながらぼーっとしていると突然声をかけられた。
「最近忙しいからゆっくりしてたんだよ。それも誰かのせいで終わったが」
「騎士団長様は余裕だねぇ。こっちはいくら処理しても仕事が終わらないんだけど」
まぁ、確かに俺が最近している仕事は、専用機の最終検査と調整、社交界での顔見せ、各有力者からの接待、エリザに呼び出されてご機嫌取りといった感じで、騎士団の仕事はしていない。
「悪いな、副騎士団長には迷惑をかける」
「まぁいいけどねー、ボクは君のおまけで爵位が跳ね上がっただけだしー」
俺達の手助けをしてくれたボクっ娘男爵は、なんでも父親が学者で、王女の幼少期の教育係も務めた関係で、エリザとは面識があり、彼女のためにいろいろ動いていたらしい。
で、そのボクっ娘男爵あらため、リース・スタンパー男爵は、もともと王女の目や耳として動いていた功績と、ヘーニル侯爵一派壊滅の功績で、爵位を一つ飛ばして伯爵になっている。
そのうえで、俺が率いる新騎士団の副団長になっていた。
俺としても知り合いで信用できる奴が副官のほうがいいので、諸手をあげて賛成したのだが、結果的に知り合いに仕事を押し付ける形になっている。
「こんな美人に仕事を押し付ける形になって申し訳ないと思っているよ」
横に寄り添い、左手を腰にまわし、右手をとる。
前世の俺が見たら気持ち悪くて反吐を吐きそうだが、まぁ、冗談みたいなもんだし。
というか、前世だとこれ完全にセクハラよね。
「う、うぇぇぇ、美、美人・・・な、なにを言っているのかな。誰の事を言っているのかな」
リースは顔を真っ赤にして、体をもじもじさせながらごにょごにょ言う。
あれ?冗談のつもりだったけど、これいけるんじゃね?チョロインじゃね?
部下と深く繋がる、じゃない、理解し合うって大切だよね。うん。
専用機の調整も今回で最後。
この専用機への名入れを持って、新騎士団も正式稼働することになっている。
なんか名入れはエリザがやるとか言っていたので、止めるのもめんどくさいしノータッチにしている。
「あとはバーニアの反応速度とバランスを調整したら終わり」
事務的にクリスが告げた。
最近、クリスの機嫌が非常に悪い。
領地にいたときから同じ屋敷で住んでいたが、ここまで不機嫌なのは初めてだ。
「なあ」
「なに?」
憮然とした顔でこちらを見るクリス。
前は一緒に魔導騎士の調整してるときなんて、いつでも楽しそうな笑顔だったんだが。
「なんか最近不機嫌じゃない?」
わかんないのでド直球で聴くことにする。
一瞬きょとんとこっちを見た後、溜息を吐きクリスは言った。
「別に」
「いや、その返答の時点で不機嫌じゃん」
明らかにむすっとしているクリスに言葉を続ける。
「パートナーが不機嫌ていうのは俺としても気になる。長い付き合いなんだし何か言ってくれたら力になるし、俺が原因なら何でも言ってくれ」
「・・・」
じっとクリスは俺を見た後、またひとつ溜息をついた。
「最近、お前は増長して調子に乗っている」
そして、ぼそっと言った。
「そうか?」
「ああ、そうだ。普段のお前ならもっと慎重だろうし、バカみたいに有象無象の”贈り物”を受けたりもしないだろう」
そうかな?クリスの過剰評価な気もするが。
あ、いや、確かに普段の俺ならリースの腰に手を回したり、そのまま押し切ったりはしないか。
言われて見ると順調に行き過ぎて調子にのっていたかもしれない。
注意しないと足元を掬われる。クリスはそう言いたいのだろう。
「悪かったよ。確かにそうだ。注意する」
「それと女王とイチャイチャしすぎだ」
「それはしてない」
向こうに一方的に呼び出されて遊び相手になってるだけだ。
「私は平民出身だし、侯爵夫人になんて釣り合わないだろうが、それでも愛人くらいには」
あー、いつぞやの親父に切った啖呵の件、割と本気だったのか。
いや、まぁ別に長い付き合いだし、クリスのことは憎からず思ってるし、胸は控えめだけど美人だし、でも今かぁ・・・ここでかぁ・・・。
「悪かったよ、クリス。今の立場と成果はクリスがくれたものだと思ってるし、俺個人としてもクリスのことは大切だと思っている。もしまた調子のってるようなら、遠慮なく言ってくれ」
とりあえず誤魔化そう。
嘘はいってないし。




