6-6 転生者は専用機と対峙する
今年もよろしくお願いいたします。
「あのようなものをのさばらせたのは、全て私の不徳の致すところだ。迷惑をかけた」
そう言って頭を下げるこの国の最高権力者。
うむ、くるしゅうない。とかやろうとしたらクリスに思いっきり太ももをつねられた。
ていうか、この国の王様、女王だったんだね。知らなかったわ。興味もなかったけど。
「だが、卿のおかげで不遜な企みを持つ連中を一網打尽にすることだできた。感謝する」
なんでも、現国王が王位に就く前、前王の子供達で王位を争い魔導騎士による総当たり戦を行ったらしい。
ヘーニル侯爵の妹が前王に嫁いでおり、その息子が優勝できるよう侯爵が手を回していたらしいが、現国王が全勝で勝利をかっさらったのだとか。
・・・つまり逆恨みか。
ちなみに、その負けた当人は逆上して現国王に斬りかかって逆襲されたらしい。侯爵以上に短絡的だな。
「で、だ」
女王様は先ほどまでの殊勝な態度から一変、ニヤリと笑ってこちらを見た。
横にいる大臣がまたはじまったよみたいな顔をしている。
「是非とも卿に手合わせ願いたいのだが?」
これ、断ったらめんどくさい奴よね?
「エリザベート女王が搭乗する魔導騎士マジェスティは全てが特別仕様だ。国王のための一品物、油断はできないぞ」
「3倍くらいで動くの?」
なんか紅いし角生えてるし。
「3倍は言いすぎだが、戦技会の予選で当たったような連中とは格が違うぞ。まぁ、制御系は従来通りだから気にするな。いつも通り気楽に行け」
ぽんぽんと肩を叩いてクリスはコクピットから出て行く。
そんなに力んでるつもりはないんだが。
「んじゃ、言われた通りにしますかね」
魔導騎士イヴォルヴを立ち上がらせる。
制御系にかなり手をいれたとはいえ、駆動系自体は量産機のものである。
正直、一品物の特別製にどこまでやれるのか気にはなる。というか、専用機に量産機で勝つとか憧れるやん?
「両者、挨拶」
戦技会と同じように騎士の拳を突き合わせて挨拶し、開始位置に移動する。
ただし、今回は戦技会ではないので、闘技場ではなく、騎士団の演習場で観客もいない。
そのかわりと言っては何だが、地面は平坦ではなく、障害物もある。
「始め!」
審判の号令と同時に魔石投射機を連射するが、女王の駆るマジェスティは開始と同時に横に飛んでいた。
って、確かに戦技会で戦ったどの騎体よりも速い!
一応、照準は追尾できているものの、ロックオン機能自体は相手騎士の現在地を追尾するだけなので、激しく動かれるとそのままでは当たらない。
一応マニュアルで修正できるようにしてあるので、予測位置に撃ちこむこともできるが、回避に専念されると厳しい。
何より、こちらも動いているので照準に専念するわけにもいかない。
とりあえず動きながら射撃は向こうも理論上できるが、こちらのように相手をロックする機能もないのであれだけ激しく動いている限り考える必要はない。
となると、向こうはあの速さを活かして一気に距離を詰めて格闘戦に持ち込みたいはず。
とりあえず、距離を保ちつつ動き続けて様子を見る。
うーん、向こうが速すぎて照準のシステム自体は追い続けているが、腕や機体旋回が追い付いていないようだ。射撃は完全に後追いになっている。
このあたりが量産品の限界なのだろう。
この感じだと接近戦は悪手のような気がする。多分、向こうの格闘攻撃を見てからだと防御や回避は間に合わないか、間に合っても碌なことにならない。
とはいえ、このままでは弾切れになるし、どうしたものか。
「うわっ」
どうするか考えながら漫然と牽制射撃をしていたら、マジェスティが一気に距離を詰めてきた。
とはいえ、バーニアほどの瞬発力はないので、騎体を横にずらして回避する。
ついでに、相手の動きが直線になったのを利用して、1発有効弾をいれることができた。
危ない危ない。
バーニアがなければ横に逃げる前にぶつかられていただろう。
と思ったら、盾を前に出して再度突撃してきた。
剣を抜いているし、射撃戦は諦めているようだ。
ふと思いついたことがあるので、ギリギリまで待って、バーニアを吹かして後ろに下がる。
というか、バーニア使わないと互角に動けないとか専用機半端ないな。
マジェスティが振るった剣の横凪ぎが騎体ギリギリを通過する。
やっべ、思ったより余裕が無かった。
ロックオン機構が存在しない以上、格闘攻撃は攻撃範囲を広くとることが重視される。
騎体が飛行可能なわけでもないので、必然的に横凪ぎが最も有効とされ、突きは悪手とされる。
しかし、横凪ぎは防御も容易なのである。
そして、こちらの”突き”はロックオン機能のおかげで、きちんと相手騎体中央を狙ってくれる。
そこで、マジェスティの横凪ぎが振り抜かれた直後、踏み込んで”あえて”一般的な横凪ぎのモーションを出す。
まぁ、普通ならここで相手は盾を構える防御の態勢をとるのだが・・・
「女王様思い切りよすぎぃ!」
思わず叫んでしまった。
マジェスティは防御をとらずに、再度横凪ぎを繰り出すことを選択。
ちょっとは迷うかと思ったのだが、行動自体は予想通り。
相打ちになっても騎体性能差で押し切れると踏んだのだろう。
相手が従来の騎体ならそれ勝てただろうが、残念。この騎体相手に横凪ぎは悪手なんだよ。
俺は横凪ぎのモーションを中断、左腕の盾で攻撃を受けるようにし、右腕でマジェスティ胴体に向けて突きを放った。
結果、バキーンという破壊音が演習場に響き渡った。
女王様の乗るマジェスティの放った横凪ぎを、俺の乗るイヴォルヴが盾で受けた音。
俺の乗るイヴォルヴが放った突きが、女王様の乗るマジェスティの胴体に命中、演習用の剣が壊れた音。
そのどちらかなのか、両方なのか。
とこの時は思っていたのだが、後からクリスに聞いた話、マジェスティの横凪ぎを受けた盾を持つイヴォルヴの左腕が破壊された音だったらしい。
防御したのに演習用の剣で左腕が破壊されるとか、やっぱ専用機ずるくない?




