6-4 転生者はお約束を始める
18歳になった。
クリスとともに改良した魔導騎士は好調で、簡易的なロックオンシステムも実装できた。
魔導騎士が駆動している時に漏れる魔素を検知する装置があったので、それを組み込むことで魔導騎士限定だが、自動で腕を目標に追尾させれるようにしたのである。
これによって遠距離攻撃の狙撃くらいにしか使えなかった魔石投射機を接近戦でも使用可能にしたのである。
格闘攻撃も命中率が飛躍的に向上した。
せっかく改良したのだから、試してみたくなるのが人というものだ。
王都で開かれる、魔導騎士の大会に腕試しも兼ねて出てみることにした。
クリスと共に改良した機構はこれまで一切外に出していない。
唯一、親父が乗る機体にも同様の改良を施しただけである。
つまり、うちの伯爵家の所有する2騎のみが、コンボやキャンセル、ロックオンを使用できるというわけである。
クリスは、古臭い伝統に凝り固まった他の騎士など敵にならないと胸を張っていた。もう少し胸に自己主張があれば完璧なのだが、と口には出さなかったのに何故か殴られた。
胸を見る目が気に食わなかったとのこと。理不尽だ。
そして、大会のために訪れた王都で待っていたのは・・・お約束だった。
田舎者とバカにしてくる取り巻きを引き連れた自称”最強”の侯爵に、クリスを無能呼ばわりする無能そうな魔導大学の教授、街で絡まれているところを助けてくれたイケメン男爵と思ってたら実は女な自称ライバルとか、なんかてんこ盛りでお腹一杯である。
ちなみに、この世界、魔導騎士操縦の腕さえあれば貴族の当主は性別を問わないらしい。
そんなこんながあって、ランシュタット王国魔導騎士戦闘技術競技会、騎士戦技会と呼ばれる大会の予選の日になった。
各地の貴族が保有する魔導騎士や、王国騎士団の魔導騎士が出場し、最強の魔導騎士と騎手を決める大会である。
この大会で好成績を残せば、王国騎士団での地位や社交界の名誉が手に入るという。
ちなみに、王国騎士団とはいうものの、本当の意味で王国が持つのは近衛騎士団のみで、それ以外に4つある騎士団は全て、各貴族からの与力に寄っている。
王国騎士団で功績を残せば、爵位の上昇や領地の拡大の可能性があるので、各家の若い次期当主や、魔導騎士を貸し出された次男、三男が所属していることが多いと言う。
そして、騎士戦技会は爵位や領地には関係ないが、騎士団内での地位をあげるには手っ取り早い機会なので、魔導騎士を所有している王都近辺の騎手はほぼ全てが参加している。
参加しないのは近衛騎士団くらいだ。
「私とお前で徹底的に作り替えたこの騎体が、そこらのへっぽこに後れをとるはずがない。さくっといってこい」
予選の出番を前にクリスが声をかけてくる。
そもそも、俺は練習相手である親父としか対戦したことはないので、これが親父意外と戦う初めての機会である。
使用する武器は演習弾の入った魔石投射機に演習用の剣、演習用の盾である。
魔石投射機は本来は、火炎魔法や凍結魔法といった攻撃魔法の封じられた魔石を、エアガンのような機構で発射する装置である。
まぁ、その圧縮空気を造る機構が風魔法な辺り、ファンタジーだなぁと思うのだが。
ちなみに、速度を上げるために火薬を想定して爆発魔法で発射する機構を試作したのだが、魔石も投射機も持たなかったので没になった。
「クリスの主張が正しいと認めさせるためにも、優勝しないとな」
俺はクリスを見ながら力強く言った。
「そう思ってくれるのは、ありがたいが、私はお前が怪我をせずに終わってくれのがいちばん・・・」
段々小さくなっていく声で赤くなりながらクリスが何かいっている。
まぁ、いずれにしても勝たないとな。
「いってくる」
コクピットのハッチを閉鎖し、魔導騎士を立ち上がらせる。
コクピット内部は、前と左右に大型ディスプレイのような、映像透写板がある。つまるところ、コクピット外側の様子を映してくれる板である。
風呂や更衣室の壁につけたら覗きし放題じゃないのかと思ったが、それに対応した材質しか透写できないらしい。無念。
イヴォルヴと名付けた魔導騎士を闘技場真ん中まで進める。
周囲は観客席があるものの、予選ということで人影はまばらだ。よほどのマニアか、関係者でないなら普通は本選から見に来る。
著名な騎士や騎手は予選を免除されているせいだという。
相手の魔導騎士と拳を合わせる挨拶をし、開始位置まで下がる。
直径200mほどの円形の闘技場で、100m離れてのスタートである。
ちなみに、観客席が危険じゃないかと思われるが、演習弾は闘技場から飛び出ると魔力を拡散して消えるようになっているので、観客席に弾が飛び込むことは無い。
騎士が突っ込んでくる可能性はあるが、それはご愛敬らしい。
開始の合図とともに、魔石投射機を連射、相手の攻撃も見越してサイドステップしながら発射する。
やはり開始と同時に相手も発砲していたらしく、もといた場所を演習弾が通過していく。
カーンとマガジンが空になったことを示す音が鳴る。
すかさず、リロード、といっても魔石投射機上部の4つあるチューブマガジンをリボルバーのように回転させるだけである。
サイドステップを継続しつつ連射、対戦相手や審判が戸惑っているのが伝わってくる。
そりゃそうだ。彼らの知る魔導騎士はこんな軽快にサイドステップをしながら、立て続けに命中弾を叩きこめない。
演習弾は命中すると魔導騎士に疑似的な作動不良を引き起こすようになっている。
すでに10発近い命中弾を浴びている対戦相手は満足に動けないはずである。
カーンとまたマガジンが空になったことを知らせる音が響き、再度マガジンを回そうとしたところで、審判が勝負ありを宣言した。
なんかあっけなかったな。




