6-3 転生者は魔導騎士を改良する
この世界に転生して15年が過ぎた。
ここまでで最大の収穫は、王都から流れてきたクリスという魔導技師を雇うことが出来たことである。
しかも美人。異世界サイコー
その前衛的かつ伝統にとらわれないアイディアが、王都の魔導騎士開発所では疎まれ、閑職へと追いやられたのだという。
魔導騎士に触れることも許されない職場に残る理由はない。と辞表を叩きつけた彼女は放浪の旅に出た。
そして、地方の有力貴族の領地を渡り歩いてうちの領地まで流れてきたという。
ランシュタット王国内では中の上くらいであるうちの伯爵家の領地にくるまでに、そこそこ回ったようだがどこでも相手にされなかったという。
貴族主義のこの国では、レールから外れた人間の扱いはひどいものである。
各貴族が領地で雇う魔導技師は、王都の魔導技師学校を卒業し、王都の魔導騎士関連施設で経験を積んだ者を、魔導技師学校からの推薦を受けて雇うというのが一般的である。
そして、領地の魔導技師に与える仕事は、保有する魔導騎士の整備。
魔導技師学校の推薦状を持たず、王都の魔導騎士開発所を飛び出してきて、魔導騎士に搭載する新機軸を売り込んでくる魔導技師など、普通の貴族は雇わない。
しかし、前世の記憶を持つ俺は、優秀ならなんでもいいやとしか思わないので、とりあえず雇ってみることにした。
ちなみに、親父には反対されたので、俺個人の使用人ということになっている。
彼女が自分をうちの家に売り込みに来た時に、新機軸として実装を推したのはいわばコマンド入力の実装だった。
魔導騎士は、”剣で斬る”という動作を2回させた場合、1度横凪ぎに斬りつけた後、再度また同じ動作をするために構え直し、同じように横凪ぎに斬り付ける。
これを、特定のテンポで2度”剣で斬る”と入力した場合に、横凪ぎに斬り付けた後、返す剣でそのまま斬り付けるようにしたり、一撃目をフェイントにして二撃目に強く斬り付けるといった動作をさせるというのである。
俺はそれを聞いた瞬間、こいつを雇うべきだと思ったが、父親はそうではなかったようで、俺に摘み出すように言ったのである。
それまでは(魔導騎士に乗りたかったので)従順な息子を演じていたが、さすがにこの時ばかりは反抗した。
是非この機能を実装すべきだと説得する俺に、やらせてみてダメだったら諦めるだろうと思ったのか、これも勉強だと思ったのか、俺個人の使用人として雇い、触っていいのも俺の搭乗する戦闘用魔導騎士のみという条件がつけられた。
とにもかくにも、それまでひとりで悶々と考えていたことが、突然協力者ができたのだからいろいろ試してみることにした。
「どこからそんなアイディアが出てくるんですか?」
と目を丸くするクリスの俺の見る目に、崇拝に近いものを感じるが、元々持っている前世の知識を応用しているだけで、自分のアイディアではないので非常にむず痒い。
とりあえず実装したのは、コマンド入力によるいくつかの動作の実行と、爆発魔法を応用したバーニアだった。
バーニアとはいうものの、いわば火薬ロケットを爆発魔法を使って実現したもので、風魔法を用いたジャンプの着地点ずらしや、ステップ、短距離の突進などに使用するためのものである。
中でも、ジャンプの着地点ずらしの威力は絶大だった。
なんせ、風魔法を一度発動したら、そのジャンプの間に次の風魔法を発動させることはできないのである。
つまり、一度ジャンプすれば、着地点に敵がいようが、地雷があろうが、火口だろうが回避できないのである。
それを回避可能になる。
まぁ、開発段階で爆発の規模を調査するときに、最初は爆発を強くしすぎて凄まじいGがかかってコクピットに朝食をぶちまけたりもしたが、些細なことだ。
ぶちまけた朝食を片付けながら、戦闘機の射出座席の開発は少しずつ火薬の量を増やしながら行ったという話を思い出し、普通はそうだよなと思ったのは余談である。
なぜそんなことを誰も考えなかったのかと思うが、俺が思いついたのもバーニアスラスターと火薬ロケットの存在を知っていたが故なので、ゼロからこれを思いつけというのは難しいかもしれない。
この着地点ずらしを見た父親が驚愕して、クリスを当家で正式に技師として雇いたいと言い出した。
しかし、俺個人の使用人だから一日中あれやこれやと魔導騎士の改良に従事していられるのであって、伯爵家の魔導技師となると給料は良くなっても、整備や雑務などに時間をとれらることになる。
そのことで彼女も渋ったし、俺としても理解者が他のことに時間をとられるというのは嬉しくない。
そこで親父に
「彼女は俺の使用人だ!他の誰にも渡さない!」
と啖呵を切ったところ、親父にも母親にもクリスにも誤解されたらしく、親父は
「うーん、正妻は同格の貴族でないといかんが、妾なら・・・」
とかのたまい、母親は
「あらら、若いっていいわねぇ」
とか笑い、クリスは
「いや、あの、私って君より7歳も年上だし、魔導騎士のことしかわかんないし」
とか言いながら顔を赤くしてあたふたしていた。
なんだこれ。
なんだこれ。




