2-2 大学生、召喚される
俺の名前は滝川雄一。
20歳の一人暮らしを満喫する大学生。
昨日は所属するクラブの飲み会でしこたま飲んで、どうにかこうにか帰ってきて部屋で寝た。はずだったのだが
「おお、勇者殿、魔王を倒し我が国を救ってくだされ」
なんか目の前で王冠被ってマントを羽織った王様っぽい人が両手を掲げている。
その後ろでなんか魔法使いっぽい人とか大臣っぽい人とかが成功だとか何とか言っている。
ナンデスカコレ?
え?まだ酔ってんの?
ほっぺたをつねってみる。
・・・うん痛い。
え?なにこれ?なにこれ?
何かよくわからないうちにあれよあれよとなんか説明されて装備渡されて仲間つけられたんですけど。
とりあえず話をまとめると
・この世界は魔王に脅かされている
・すでにいくつかの国が魔王に滅ぼされている
・滅ぼされた国の首都の一つを魔王が居城にしている
・俺は勇者召喚で呼ばれた勇者
・勇者は聖剣ミスティルテインによって選ばれ、唯一魔王に止めを刺すことができる
・聖剣自体は魔王以外にはさして強力な武器ではない
・ただし聖剣は勇者には身体能力向上の効果があるので、他の武器とどちらがいいかは微妙
・仲間としてこの国の腕利きを3人つけるから魔王を倒してほしい
・魔王を倒すと(多分)帰れる(はず)
ということらしい。
一番肝心な最後が曖昧すぎませんかねぇ!?
勇者や聖剣の伝承は多数残っているが、魔王を倒した後の勇者の伝承はないらしい。
つまりそれって困ってる時だけすがるけど、後のことは野となれ山となれってことじゃないんですかね。
それ以前になんで仲間3人だけ?
3万人くらいつけて物量で攻めればいいんじゃないですか?
ゲームみたいなお約束とかおかしいから。魔王倒す気ほんとにあるんですかね。
そもそも魔王討伐を他世界のどこの誰ともわからん奴に丸投げで、聖剣の名前がヤドリギって自分らでなんかやる気ないってことかよ。
そもそも王国の名前までミスティルテイン王国って。
とりあえずくっついてきた3人は、剣士、魔術師、僧侶らしい。普通の構成で少し安心した。
でも全員男というのはいただけない。こういうのは美少女とか姫様がいるのがお約束じゃないのか。
まぁ、どうせ他世界のことだし、観光するつもりで魔王城を目指すことにした。
「ですので、勇者殿には是非とも我がミスティルテイン王国の威光を世界中に知らしめながら旅を続けていただきたいのです!」
ミスティルテイン王国を出て1つ目の街の酒場で俺に向かって力説しているのは剣士である。
なんでもこいつはミスティルテイン王国騎士団で一番の腕利き(自称)とのことである。
ここまでの短い道中でも見ててわかったが、重度のナルシストだ。
しかも、自分=ミスティルテイン王国と勘違いしている節もある。
正直うざい。
「そんな無駄なことしてる時間ないでしょ。ぱぱっと行って魔王倒して、さっさと俺は元の世界に帰りたいんだよ」
というか魔王討伐だって大概なのに道中でリスクを増やしてどうするのか。
「さっさと魔王のところに行って、ちゃちゃっと倒しちゃえばいいじゃない。あなたたち強いんでしょ」
「それではいけません!我がミスティルテイン王国の威光を無知蒙昧な連中に知らしめ、世界を導く光とならねばならないのです!」
剣士はうっとりとした顔で大袈裟な身振り手振りで大声をあげている。
うん、まわりのテーブルの人たちの目が完全に剣呑になってるから少し黙ろうか。
「そうです。そして勇者様をこの世に召喚せしめた我らが神の行いこそがこの世あまねく照らす光であると世に示さねばなりません」
剣士はナルシストだが、僧侶は狂信者なのでなおたちが悪い。
ミスティルテイン王国の国教であるミスティルテイン教団は、どうやら王国と一蓮托生の間柄のようで、ときたま連中の中で王国と教団がごっちゃになっている。本人たちは気づいていないようだが。
というか、僧侶っていうから回復魔法とか使えるのかと思ったら、筋肉ガチムチのおっさんで、戦闘時はまっすぐ敵を殴りにいっていた。
構成を聞いてバランスのいいパーティーだなと思った俺に謝れ。
「はぁー。どうでもいいから飯頼んでもいいか」
一人我関せずを決め込んでいた魔術師が話をさえぎってくる。非常にありがたい。
王国でつけられた3人の中では今のところ一番まともに見えるのが魔術師である。
ちらっと聞いた話では金で雇われた傭兵らしい。なんでもミスティルテイン王国では優秀な魔術師が王城付の宮廷魔術師くらいしかいないので、自国では用意できなかったようだ。
「そうだよ、飯食ってさっさと休もうぜ」
俺はうんざりしながら魔術師にありがたく同調した。
「あー、なんなんだよあいつら。鬱陶しい」
ガンと道端にあった木箱を蹴り付ける。
あー、かなり酔ってるなーと自覚するくらいに酒を飲んだ。
ナルシストと狂信者は食事中も延々とミスティルテイン王国がどうだの神がどうだのと繰り返していた。
正直、素面で聞いていられなかったので酒を飲んだ。それもお気に召さなかったらしく、僧侶は一層ぐだぐだ言っていた。
人を勇者だなんだと勝手に呼び出しておいてあーしろこーしろと何様なのかと。
宿に戻るときもあーだこーだとうるさかったので、振り切って一人で街をぶらぶらしている次第である。
というか、魔術師はいつのまにか席から消えていた。面倒なのの相手を押し付けられた気分である。
「失礼、少しよろしいですか?」
後ろから声をかけられ、振り向くとそこにはなかなかの美女がいた。姫騎士とかそんな感じの印象である。
心の中で、ガッツポーズして思った、俺の異世界冒険譚はここから始まる!




