6-2 自衛官、ブリーフィングを行う
「えー、それではこれよりAA004世界に関するブリーフィングを始めさせていただきます」
なんで俺がこんな仕事と思うが、任された以上はやらねばならない。
事前偵察してきた世界の情報を直接説明するという役目を仰せつかったのだが・・・ナンデコンナヒトタチガアイテナノ?
まず日本側の出席者は、陸自第7師団師団長たる陸将を筆頭に、副師団長たる陸将補、幕僚長たる1等陸佐、第1ヘリコプター団長たる陸将補、教育支援飛行隊長たる2等陸佐などなど、総勢10名。
対してアメリカ側出席者は、米陸軍第8軍司令官たる陸軍中将を筆頭に、機甲旅団戦闘団長たる陸軍大佐、米空軍第51戦闘航空団長たる空軍大佐などなど、こちらも総勢10名。
というか、この人たち明らかに自分は行かないよね?
なんでブリーフィング来てんの?
当初聞いてた派遣部隊の幹部に実際に見てきた印象を伝えるためのもの、とか明らかに違うし。
「陸将、それにしても楽しみですな」
「そうだな、なんでも二足歩行の人が乗れるロボットだそうだ。映像を見るのが楽しみだ」
最前列でそんな私語をしている陸将と陸将補。
それが目的で部下と無理矢理入れ替わったな!?
オマエライイカゲンニシロヨ。
「まず、該当世界における技術水準ですが、一部において魔導と呼ばれる技術の利用による突出したものは見られるものの、概ね中世から近世程度と考えていただいて問題ないかと思います」
「情報通信はどうなのだ?」
仕方ないので説明を始めたところ、いきなり質問が飛んだ。
一応真面目に聞く気は皆あるようだ。仕事だもんね。
質問者は米軍だが所属がよくわからない人。多分、DIAとか情報関連部署だろう。
「基本的に中世や近世で想像する通りの水準です。確認した限りでは、早馬、のろし、伝書鳩、この辺りが一番早い伝達手段でしょうか。魔術的なものや、電信といったものは現在までのところ確認できておりません」
それで質問者は納得してくれたらしい。
「続いて軍事力ですが、戦力の主軸は魔導騎士と呼ばれる、人型で中に人が乗り込み魔力で動く身長15m前後の兵器になります」
俺がそう言うと、そこかしこでおっ、とか、これだよ、とか声が上がる。
・・・声が上がった場所が日米関係ないんだけど気のせいか?
「魔石と呼ばれる魔力を貯めこんだ石を背中のバックパックに搭載しており、補給はそれを積み替えることで行うようです。稼働時間は確認した限りで最大24時間程度。立たせているだけでも魔力を消耗するようです」
「魔力で動くとはいうが、駆動部の動力や関節はどうなっているのだ?」
陸将が疑問を口にする。
「配布した資料に向こうで購入した魔導騎士に関する書籍をつけていますが、それによると骨格があり、その外側に人工筋肉のようなもの、そして装甲板となっています。この人工筋肉は魔力を流すことで伸縮し、それによって腕や足を曲げたり伸ばしたりするようです」
その説明に会場はどよめく。
制御はどうなっているのか、とか、コンピューターも無しにそんものを設計可能なのか、とかそんああたりがほとんどを占めている。
「先ほど、魔導騎士を兵器と申し上げましたが、正確には魔法生物、と言った方が正しいのではないかと思います。こちらの世界のロボットのように全てを人間が作っているわけではなく、ゴーレムと呼ばれる魔法生物を組み込むことで、制御系を一部代替させているようです」
「魔法だからなせる技か」
「イメージとしてはネズミの脳みそに電極ぶっさしてコントロールしているってことか?」
乱暴な例えが出たが他に特に思いつかないので、肯定しておく。
「そこに指示を出すのは2つのペダルと2本のレバー、あとはボタン類ですので操作はかなり簡素化されています。その弊害で、決められた以外のことはできず、ボタン1つでオートである程度の行動が可能な代わりに、微修正や動作の中断ができません」
何人かはよくわかっていないようだった。
「つまり、”ライフルをバックパックにつけている剣と持ち替える”という動作はボタンひとつでできますが、その動作の途中で遠方に敵を見つけて、やっぱりライフルで攻撃しよう、となっても剣に持ち替える動作はキャンセルできないので、完全に剣に持ち替えて構えた後に、再度”剣をバックパックにつけてライフルと持ち替える”という動作をさせる必要があります」
「それは戦闘用としては致命的ではないのか?」
「しかもこの動作を”走りながら行う”などということはできません。”走りながらライフルとバックパックにつけて剣と持ち替える”という設定にしておけば可能でしょうが、その場合は必ず走りながら持ち替えることになるようです」
不便すぎるとか、改善の余地は大きそうだがなぜそのままなのだ?、とか喧々諤々の議論になっている。
もっとも、彼らは映画やアニメ、ゲームでロボットというものを知っているので、あーだこーだと意見がでるものの、そんなものが無い世界で、それが当たり前だったら誰も疑問に思わないという話である。
「他の移動方法としては、ジャンプがあります。これは足首からふくらはぎに当たる部分とバックパックに仕込まれた機構で、風魔法を発生させ機体を押し出すことで最大100m程度のジャンプを可能にしているようです。風魔法を発動させる時間によって飛距離を調整するようですが、一度使用すると20秒から100秒程度のクールタイムが必要で、機体によって異なるとのことです」
「これもボタンかね?」
「その通りです。ですので、発動すると着地までセットで、”ジャンプして斬り降ろしながら着地する”としていると絶対に斬りかかるし、”ジャンプして着地する”とだけしていると他に何もできません」
参加者から何か残念なものを見る目を向けられるが、別に俺のせいじゃないのだから勘弁してもらいたい。




