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異世界召喚による日本人拉致に自衛隊が立ち向かうようです  作者: 七十八十
第5章 よっつめの世界 ~なんやかんや言っても大艦巨砲はロマン~
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5-22 ある船の始まりと終わり

結局、艦長とユーニービがあの後帰ってくることは二度と無かった。

あのお気楽艦長のことだ、どこかでふらふらしているのだろう。


あのあと置いて行かれた水兵たちはあっさり解散した。

もともと素人水兵は、僕のように騙し討ちで船に放り込まれたり、酔い潰されて借金でがんじがらめになっていることにされたような人たちである。

それなりに生活を楽しんではいたものの、もともと望んで乗っていたわけではない。


1人、また1人とその場を去り、最後に残ったのは僕と副長、あと機関長だった。

とりあえず僕は土下座して泣きついてでも副長に養ってもらうしかないので、そうするつもりだったのだが、それ以前の問題が機関長だった。


「どうします、これ」

「放っておくわけにもいかないでしょう」


うんざりしたように小さく丸まっている機関長を見ながら副長は言った。

相変わらず機関長はソトコワイを連呼している。


仕方ないので、副長の家まで運んで、そこで3人で生活することになった。

とはいえ、蓄えがあるのは副長だけ。いや、機関長もあるのかもしれないがよくわからない。

どうにかしなければという話になったころ、数週間後に艦長の名前で副長宛の手紙が届いた。


今回の件の謝罪が書かれていたものの、なぜそうしたのかは書かれていなかった。

そして、降ろした水兵たちが困っているようなら面倒を見てやってくれ、後は好きにしていいと鍵が2本同封されていた。

1本は港の倉庫の鍵だという。もう1本は副長もわからなかったが、多分金庫のカギだろうとのこと。


機関長は部屋で布団に閉じこもってでてこないので、副長と2人でその倉庫を見に行ったところ、中には大量の石炭袋が積まれていた。

とりあえずこれを売れば一生遊んで暮らせますね。と副長は言っていたが、奥に事務所のようなスペースがあり、そこに金庫があった。

同封されていたもう1つの鍵で開いたので、中を見るとかなりの現金と宝飾品が入っていた。

副長の見立てでは倉庫の石炭より額は大きいだろうとのこと。


独占するのもなんなので現金は水兵に配るかという話になって、探したのだが見つかったほうが少ないという状況に困り果ててしまった。

ほとんどの水兵が、ユーニービを降ろされた後、街を出て行ってしまったのである。

この辺境の街で仕事をしようと思えば、他の船に乗るか、数は少ないが港で荷役するか、酒場で働くくらいしかない。


2人のものにしてしまうというのも、着服したみたいで気分が悪い。

どうしたものかと頭を悩ませていると、機関長が


「船を買いましょう」


と言った。

そのお金で船を買っておいて、行き場のなくなった水兵が見つかったら雇ってやればいいのだ。と。

それはいいということで、僕と副長が帆船にしようとしたら機関長が猛烈に反対して、また機帆船になった。

・・・機関長が蒸気機関の横で生活したいだけじゃないのかな。


こうして僕の新しい船での生活は、副長と機関長、あと街に残っていた数名の水兵でこじんまりとスタートしたのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「結局、マータメリ帝国は日米の利権を認めたな」

「そりゃ、帝城にトマホークまで撃ちこまれたらな」


俺とジャネット少尉は、ウィスコンシンの後部飛行甲板でトレーニング中である。

まぁ、軽いスパーリングのようなものである。


「帝国の権威はガタ落ち、各地で独立闘争や国境紛争が起こっているようだな」

「まぁ、俺らには関係ない話だ」

「その帝国が泣きついてきたから、なんか蒸気機関の図面渡したらしいぞ?」

「つってもタービンじゃなくて、レシプロだろ。それでこれまでと差がつくとも思えんが」


大海洋艦隊の降伏後、日米は再度マータメリ帝国に交渉を要求したが、まだ拒絶された。

いちいち艦隊を潰して回るのも面倒ということで、日時を事前通告したうえで帝城にトマホークを撃ちこんだら、さすがに交渉に応じた。


「お前ら簡単に殺せるんやで?」


と言われているのに交渉に応じないという選択肢は独裁国家にはない。

こちらの要求は全部呑んだのだが、そのうえで技術供与してくれと泣きついてきたので、古い蒸気機関の図面をいくつか渡したらしい。

もっとも、この世界の蒸気機関を見た技官の見立てでは、冶金と加工精度が未熟なので本来必要なのは蒸気機関の図面ではない。とのことだった。


で、いくつかの島の利権と域内の無害通航権と免税特権を手に入れたので、タングステンやリチウム、バナジウムといったレアメタルや、ジスプロシウム、ネオジムといったレアアースを持ち出す準備ができたことになる。

採掘施設と積み出し設備を造って、船に満載して地球に転移させる。という方法をとるようだ。


「中国とロシアはお冠みたいだな」

「そら、そんなとこから買う必要がなくなったからな」

「異世界よりも地球で一騒動あるかもな」


スクランブル回数の急増で空自は悲鳴をあげているといった話も聞く。

現状、ペイしないからという理由で、原油や鉄鉱石などは見つけてもスルーされているが、世界の資源バランスを一気に塗り替えかねないと、各国で異世界とそれを独占利用する日米への警戒感が高まってもいる。


「何事もやりすぎはよくないってことかねぇ」


大した意味のない呟きは青空へと消えて行ったのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「艦長、後方にさらに戦艦2隻が現れました」


掌帆長が報告する。


「やれやれ、悪い情報ばかり当たるねぇ」

「当たると思ったから副長や他の水兵を降ろしたんでしょう」

「まぁ、こっちの都合に巻き込むわけにもいかんでしょ」


頭を掻きながら艦長は言った。


「海軍に入って10年、情報部になって5年、出世コースなんてのは最初から望んでなかったけど、最期は船の上で迎えられるってのは良かったのかねぇ」

「年寄り振る年齢でもないしょうが」


掌帆長は自分より年下の艦長を呆れるように見た。


「まぁ帝国からこの船を奪って、取れる情報は取って、反帝国勢力の手助けをする。スパイとしては合格点だろう」


はははと2人は笑った。


「なんだかんだ言っても海賊生活は楽しかったねぇ」

「ああいう気楽な生活というのもいいものでしたな。続けられるものなら続けたかったものです」


2人は特に何をするでもなく、変り者が多かった乗員を思い出していた。


「お、また1隻増えた」

「もうこの船に技術的価値がないとなったら、失ったメンツのためにも意地でも沈めに来るか」


大海洋艦隊を失った帝国は、各所で発生する反乱や独立運動に手を焼いていた。

それらを帝国から船を奪った海賊が支援しているとなれば、必死にもなるだろう。

本来ならとっくに沈められていてもおかしくないが、「船を取り戻さなければならない」という制約があったので及び腰だった。

しかし、「その制約が無くなった」という情報が情報部経由で入っていた。

この包囲を見る限り正しい情報だったのだろう。


「ま、せいぜい足掻いてやりますかね」





マータメリ帝国海軍 第十一特務艦隊 戦闘詳報


1.一般情勢

我ガ帝国海軍カラ艦船ヲ強奪セル賊ヲ討伐スベク特別編成サル当艦隊ハ、目標艦「ユーニービ」ガ主要活動拠点ト推測サル地域デ索敵ヲ実施シタ。

多島海南方ノ集合地点ニオイテ、事前ノ作戦通リ艦隊ヲ四分割シ各艦隊、戦艦2、巡洋艦4トス。

以後、コノ分割シタ艦隊ヲ、第一カラ第四分艦隊ト呼称ス。


2.経過

一〇二四

索敵担当ノ偵察巡洋艦ヨリ、目標艦発見ノ報。

最寄リノ第三分艦隊ガ急行ス。第一分艦隊ハ退路遮断ノタメ迂回、第二、第四分艦隊ハ第三分艦隊両翼ニ展開。


一一五六

第三分艦隊、目標艦ト触接。


一三〇〇

第一分艦隊、目標艦後方ヘノ展開ヲ完了。


一三一五

戦闘開始。第二、第三、第四分艦隊ニヨル突撃。


一三二一

目標艦、距離7000ニテ第三分艦隊ニ発砲。

当艦隊ハ反撃セズ、突撃ヲ継続。


一三二六

我ノ巡洋艦「メリサタマ」ガ被弾。損害軽微。

第三分艦隊、砲撃開始。


一三二七

目標艦ニ命中弾。

反撃ニヨリ、「メリサタマ」ガ再度被弾。


一三四五

目標艦、発砲停止。


一三四八

目標艦、機関停止。


一三五二

目標艦ニテ大規模ナ爆発。煙ノ色ヨリ、浸水ニヨル水蒸気爆発ト見ラレル。


一三五六

目標艦轟沈。海面ニ漂流物無。

戦闘終了。


3.損害

巡洋艦「メリサタマ」中破

命中弾4 戦死7 重傷18 軽傷12


4.戦果

撃沈 巡洋艦1

長くなってしまいましたがなんとか5章も終わることができました。

強引に終わらせた感がありますが、さすがにこれ以上長くなるのは・・・ということでご了承ください。

あと、年内更新分はとりあえず書き上げましたので、まだしばらくは毎日更新を続けられそうです。

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