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異世界召喚による日本人拉致に自衛隊が立ち向かうようです  作者: 七十八十
第5章 よっつめの世界 ~なんやかんや言っても大艦巨砲はロマン~
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5-20 16インチ砲は血を啜る

「見張り員より報告、艦隊正面に艦影見ゆ。針路は9時方向と推測されるとのこと」


この報告に大海洋艦隊旗艦 戦艦マイエステイティは色めき立った。


「数は!」

「大型艦1隻のみとのこと。距離は10キロから15キロ」


1隻のみという報告は艦隊幕僚団を落胆させたものの、まずは景気づけに沈んだ僚艦達への餞としようと士気は天を衝くほどに旺盛であった。

もっとも、この距離10キロちょっとという報告の時点で、彼らは致命的なミスをおかしているのだが、それに気付けるものはここにはいない。


敵艦との距離は、マストの一番上に設けられた見張り所にいる鷹人族の見張り員によるものであった。

鷹人族は目が良く、双眼鏡を使わずとも遠見ができるとのことで見張りには重宝される存在である。

必然、艦隊旗艦に配属されるような見張り員は熟練のそれであり、見えたものの距離を簡単に推測できるのだが、今回はそれが致命的なミスを呼んだ。


「見えたものとの距離を推測する」

当たり前に思えることだが、手の届く範囲ならともかく、ある程度の離れた物との距離を測るとき、人は「知っているもの」と比較した見え方で距離をはかっている。

例えば、50m先に何かわからない白いボールが置かれているとき、横に同じ大きさの白い六角形と黒い五角形の組み合わせのボール、まぁつまりサッカーボールがあったらどう思うか?

ほとんどの人は、ああ直径20センチちょっとの白いボールだな。と思うだろう。


その後、白いボールだけが置かれて、あのボールまでの距離はいくつですかと聞かれたら、ほとんどの人は同じ大きさに見えれば「50m」と答えるのではないだろうか?

それが100m先に置かれた直径が倍のボールだとしても。


いやいや、50m先か100m先かなんて気付くよ。と言われるかもしれない。

では、もっと遠くなったら?

そう、例えば「戦艦とは全長120m前後だ。あれは敵の戦艦だ。戦艦があの大きさに見える距離は10~15キロくらいだ。つまりあの敵戦艦との距離は10~15キロだ」と思ってしまうのではないだろうか。

ちなみに、アイオワ級戦艦の全長は270m。この世界の常識的な戦艦の軽く倍である。


そして、さらに致命的なこと。

この世界における技術水準は概ね明治時代である。

つまり戦艦の最大射程は10キロ。命中が期待できる有効射程は6~7キロである。

対するアイオワ型戦艦の主砲16inch(40.6cm)/50 Mk.7は、徹甲弾でおよそ38キロある。しかも哨戒ヘリからデータリンクで情報を貰えるうえ、無線で着弾修正もできる。


大海洋艦隊側が距離を詰めようにも、必死で投炭しても20ノットに届かないのに、アイオワ級戦艦の最大速力は1968年の公試で35ノットオーバーを記録している。

今回の現役復帰に当たって、機関はそれほど大規模に手を加えられていないが、それでも25ノットは軽くでる。


ワンサイドゲームは最初から決まっているのである。


「距離を一気に詰めて斉射で仕留める!僚艦の無念を晴らすのだ!」


司令が叫ぶのと、旗艦の周囲に轟音とともに3つの水柱が立つのは同時だった。


「は?」


それを見た艦隊の全員が一瞬、事態を理解するのが遅れた。


「初弾夾叉・・・だと・・・?この距離で?」


司令がかろうじて呟いた言葉だったが、実際には彼らが思う倍の距離あるのだが、それにはまだ彼らは気づいていない。

そもそも見張り所に測距儀はないのである。

とはいえ、本来ならそろそろ彼らも気付いていいはずだった。その距離ならそろそろ艦橋の高さからでも見えないとおかしい。と。


ちなみに、ウィスコンシンの斉射が3発だったのは各砲塔1門ずつの照準射だったためである。

というかそもそも、ろくに試験もせずに異世界に持ってきたので発砲するのは今回の現役復帰で初めてだったりするのだが。


続けて残りの6門が斉射される。

発射された砲弾重量1トンを超えるAP(徹甲弾) Mk.8は、5つの水柱を戦艦マイエステイティの周囲に生じさせた。

つまり、1発は命中した。


当初、僚艦達は再度夾叉したものの、また外れたと思った。

しかし、命中した1発は易々とバイタルパート(重要区画)を貫通し、ボイラー室に到達、そこで炸裂したことでボイラーを破損させ、また船体に浸水を生じさせた。

加圧され100度以上になった水と、それどころではない高温の水蒸気が漏れ出した機関室は一瞬で全滅。

これだけで艦にとっては致命的だが、ボイラーから溢れ出した100度を超える水と、浸水で流れ込んだ20度に満たない海水がぶつかったとき、戦艦マイエステイティは終わりを迎えた。


水蒸気爆発による船体中央での大爆発により、船体は二つに折れ、その衝撃で後部弾薬庫も爆発、一瞬で海中へと引きずり込まれていった。


後にマータメリ帝国終焉の始まりと言われることになる海戦は、まだその半分が過ぎたところであり、ウィスコンシンの16インチ砲はまだまだ血に飢えていた。

この後、司令官不在の大海洋艦隊が降伏を選択するまでの間に、さらに戦艦6隻と装甲巡洋艦1隻、偵察巡洋艦1隻が犠牲となるのだった。

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