5-19 超ド級戦艦って響きがいいよね
「戦艦ロフケウス、傾斜止まりません!」
「防護巡洋艦ポラ、機関停止!浸水止まりません!」
「装甲巡洋艦サンカリ、総員離艦発令!」
次々にもたらされる悲惨な報告に、司令長官は思わず机を叩いてしまった。
「なんなのだこれは!」
大声で怒鳴る。
しかし、その答えを誰も持ち合わせてはいない。
自分が落ち着かなければならない。そう言い聞かせれば言い聞かせるほど、司令の激昂は収まらなくなりつつあった。
突然艦隊に殺到した謎の飛翔体。
それにより、すでに4隻が轟沈、6隻が沈みつつあり、2隻で火災が発生していた。
なお、日米側の判定では33発のハープーンのうち、17発がブースター、またはエンジンの不具合で脱落、2発がシーカーの不具合で海面に突入、14発が命中という結果だった。
14発命中で12隻しか被害がないのは、各ミサイルがデータリンクするわけではないので、同一目標に突っ込んだのがいるということである。
さらに、実は4発は信管が作動しておらず、うち2発は同一目標に別のミサイルも命中したので露見しなかったのである。なお、不発のミサイルが命中した艦では、残った推進剤の燃焼で火災が発生している。
期限切れミサイルの信頼性の無さに日米艦隊がブーブー文句を言っている一方で、マータメリ帝国の艦隊司令長官は悪夢を見ていた。
敵艦隊に関する情報が何もないうちに、一瞬にして10隻を失い、2隻が戦闘不能になったのである。
「飛翔体の飛んできた方向に向けて全艦を全速で向かわせろ!」
攻撃を受けた方向に敵がいるはずだという確信をもって、艦隊司令は命令を下す。
対艦ミサイルの場合、必ずしも飛んできた方向と発射位置は一致しないのだが、彼らはそんなことは知らないし、この場合日米艦隊も特に迂回コースなどは設定しなかったので、それは正しかった。
12隻落伍したとて、いまだに大海洋艦隊は世界有数の戦力を誇る大艦隊だという自信が、艦隊を復讐戦へと向かわせたのである。
戦艦5隻、装甲巡洋艦3隻、防護巡洋艦3隻、偵察巡洋艦1隻を失い、火災発生中の戦艦2隻の援護と轟沈した艦の乗員救護に巡洋艦や特務艦を残してもなお、戦艦13隻、装甲巡洋艦3隻を有する大艦隊に比肩する艦隊は、この世界にないのだ。
「敵艦隊、転進してこちらにまっすぐ向かってくるようです」
米海軍のMH-60Rからのデータリンクによると、10隻を失っても戦意旺盛にこちらに突っ込んでくるらしい。
まだハープーンはアスロックランチャーの予備弾8発とMk13の弾庫の32発が残っているが、今回の正常作動率から見ると、あまりいい結果は期待できそうにない。
「ペリリューとましゅうを退避させるか」
しまかぜとペリリューは5インチ砲、そしてましゅうには無理矢理つけられた76mm砲があるものの、敵艦隊は30センチ砲を有する前ド級戦艦が主力である。
そもそも、艦隊で一番遅いペリリューとましゅうで24ノットでるので、最大速力が20ノットに届かない敵艦隊とわざわざ同じ土俵で戦う必要はない。
「米海軍より入電、我コレヨリ敵艦隊ニ突入ス、しまかぜはペリリュー、ましゅうを護衛し退避されたし、発戦艦ウィスコンシン艦長 宛護衛艦しまかぜ艦長」
「えぇ・・・」
アイオワ級戦艦4番艦ウィスコンシン。
アメリカが今回の世界への派遣のために、莫大な予算をつぎ込んで復帰させた超ド級戦艦である。
係留されて一般公開されていたノーフォークでは、観光資源がなくなると反対運動が起き、議会からは今世紀最大の予算の無駄遣いだと叩かれたが、この世界で見つかった戦略鉱物資源と「世界最期の現役戦艦」という観光資源を餌に強硬に押し通したのである。
大統領の趣味とも、海軍の夢とも、いろいろ言われながら3度目の現役復帰を果たしたウィスコンシンは、サンテディエゴ、ハワイ、佐世保と寄港し、各地で戦艦フィーバーを巻き起こしながらこの世界に派遣された。
そして今、湾岸戦争以来となる実戦、艦対艦戦闘に関して言えば、1944年の就役以来初めてとなる実戦へと向かおうとしている。
「まぁ、ついていくわけにもいかんし、ましゅう、ペリリューとともに退避するぞ」
芳留一佐がそう言うと、艦内のそこかしこで「ええー」という不満の声が上がった。
実際、それは艦長の耳にも入ったが
「俺だってウィスコンシンの斉射を生で見て見たかったよ」
という愚痴ともつかない発言と共に有耶無耶になったのだった。




