5-18 決戦!大海洋
「対水上戦闘用意!」
『対水上戦闘用意、実際』
護衛艦しまかぜの艦内に、艦長の号令とともに戦闘配置を知らせる放送が響き渡る。
目標とする敵艦隊までの距離は概ね80キロ。
対艦ミサイルによるアウトレンジ攻撃で一気にケリをつけるつもりだが、この日米連合艦隊には不安要素があった。
「果たして何発ちゃんと飛ぶのか・・・」
艦長である芳留一佐の呟きはもっともであった。
帝都での戦闘の際、Mk13から発射されたハープーンは7発。うち1発はブースターの不良で発射直後に海没、もう1発はブースター切り離し後のターボジェット点火に失敗して海没。さらに1発は命中直前のポップアップ時に弾頭の誘導レーダーが動作不良で失探、海面に突入した。
つまり7発中4発しかまともに動作しなかったのである。
理由は簡単。
日本もアメリカもMk13から発射する形式のRGM-84なんて、保管期限切れのものしか無く、廃棄処分寸前のものをかき集めたためである。
ちなみに、O・H・ペリー級フリゲートが現役の国からは普通に調達されるため、生産ライン自体はあるが、そんな予算はかけれないということでこうなった。
結果、Mk13の弾庫には33発のハープーンが残っているものの、帝都での正常動作率を基準にすると18発しか正常動作しないことになる。
74式アスロックランチャーの即応弾8発と予備弾8発も同形式なので、こちらも同じ信頼度なら10発程度。
なお、メンテマニアの海自が文句を言わなかったのは、この大量のハープーンはアメリカが供給してくれたからである。
そして日米で合わせて24発ある、キャニスター内に密閉保管されているタイプはまだ希望が持てる。
とはいえ、保管期限ギリギリか切れているのは同じなのだが。
保管期限が切れたミサイルでも、きちんと燃料や電子機器を交換してやれば問題なく使用可能になるのだが、その予算はケチられた。
間違いなくアメリカが今回の派遣艦の現役復帰に予算を使いすぎたせいである。
「発射筒及びアスロックランチャーのハープーンを斉射したのち、アスロックランチャーは再装填、Mk13は順次装填、発射を行う」
とはいえ、もとの世界ではお目にかかれない、単艦によるミサイル飽和攻撃である。
その迫力を想像して胸が高まる。
残念なのは、その着弾を肉眼で見れないことである。
「米海軍から入電、ハープーン発射準備よし、カウントダウンされたし」
「ハープーン斉射用意!」
史上最大のミサイル飽和攻撃が始まろうとしていた。
そして、そこから80キロ離れた洋上。
自分たちに向かって高性能炸薬100キロを抱えた物体が音速に近い速度で殺到しようとしているなど、知る由もないマータメリ帝国大海洋連合艦隊である。
方々に索敵網を張っているにもかかわらず、一向に目標艦隊発見の報告はなく、艦隊はただただ無駄に石炭を焚いているだけである。
もっとも、実は米海軍の哨戒ヘリや米海兵隊のAV-8Bが常に触接しているのだが、「航空機」というものが存在しない世界なので、対空警戒という概念は存在せず、見張り員はひたすら水平線に目を凝らしているのだった。
「まだ見つからんのか」
「はい、全く」
司令長官にも参謀にも疲れが見える。
そもそもこちらに向かって逃走したという情報が誤りではないのか?そのように幕僚団は考え始めていた。
「そもそも、この艦隊の戦力は過剰でしょう。4つほどにわけて、索敵範囲も広げてはどうでしょう?」
「とはいえ、勅命はこの艦隊でもって敵を撃滅せよ、だ。それほどの敵と認識されているということだろう」
「しかし、それも接敵できなければ何もなりません。ここまで見つかっていない以上、索敵を重視した編成に切り替えるべきでは」
艦隊旗艦の幹部食堂で、艦隊幕僚団が喧々諤々の議論交わしているころ、艦隊外縁に位置する偵察巡洋艦の見張り員が最初に異変に気付いた。
水平線の向こうから、鳥ではない何かが大量に飛んできたのである。
その数は16。
何だかわからないが凄まじいスピードで飛来するそれを、何かわからずボーっと見過ごしてしまった見張り員が慌てて警報の鐘を鳴らしたとき、すでにハープーンは偵察巡洋艦を飛び越し、艦隊中枢に向かって殺到しようとしていた。
33発発射した日米艦隊側の感想としては
「予想よりもさらにまともに飛ばねぇ!?」
というものだったが、防御手段を持たない艦隊に致命的な結果をもたらすには十分な数であった。




