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異世界召喚による日本人拉致に自衛隊が立ち向かうようです  作者: 七十八十
第5章 よっつめの世界 ~なんやかんや言っても大艦巨砲はロマン~
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5-17 艦隊決戦近づく

威容を誇る大艦隊が波を切り、大海を進む。

先日の御前会議の結果、編成された特別連合艦隊である。


結論としては、交渉決裂の責は帝国の一部責任者の暴走にあるものの、帝都防衛戦力が半壊したことは事実であり、そのことは看過できない。

これを放置することは帝国の威信に関わることであり、再交渉は帝国の武威を示した後に行われるべきである。

というのが、大方の意見だった。


彼らにとって不幸だったのは、護衛艦の戦力を実際に目の当たりにした重役たちは、皇帝の専権事項である外交交渉の開始、終了の決定を侵したとして全員自死しており、職責を全うしただけとされた現場レベルの人間の報告は、「ありえない戦場伝説である」と、報告が上に上がる途中で握りつぶされたことだった。


結果、「30ノットで航行する大型巡洋艦」「1発で戦艦を撃沈する謎の兵器」「凄まじい速度で連射される主砲」といった情報が、帝国中枢に上がることは無かった。

つまるところ帝国中枢の認識は、「なんかユーニービみたいな未知の機関を積んだ強力な戦艦」といった程度の認識だった。

被害を考えれば、ちょっと強力な戦艦程度の話ではないとわかりそうなものだが、人間は「知っていることしかわからない」というのはどこの世界も同じである。


さて、翻って帝国の編成した大艦隊である。


帝都での失態を無かったことにするべく、その威容は過剰と呼べるほどのものであり、遠征艦隊の主力である大海洋艦隊を主力に、方面艦隊、各植民地防衛艦隊から戦力を抽出した史上稀に見る大艦隊であった。

その威容は、日本人に説明するならば「バルチック艦隊と旅順艦隊が集合したものを上回る」というのがしっくりくるだろうか。


1万~1万5千トンクラスの前ド級戦艦が18隻、1万トンクラスの装甲巡洋艦が6隻、5千トンクラスの防護巡洋艦が6隻、3~4千トンクラスの偵察巡洋艦が8隻、他工作艦や輸送艦といった支援艦艇多数という大艦隊である。


その連合艦隊の司令官となった大海洋艦隊司令長官の海軍中将は溜息をついた。


「まったくふざけた指令だ」


彼はそもそもこの艦隊の編成自体に反対だった。

聞くところでは敵は僅か数隻だという話だったので、こんな大袈裟なことをするのは金の無駄だと考えていた。他に使うべき場所がある、と。

帝国の主力であると同時に、遠征を常とする機動戦力である大海洋艦隊司令長官の彼は、外地の様子というのもいやというほど見ていた。


実直な実務家軍人である彼は、帝国の強さは広大な植民地とそこから供給される多様な人材にあると考えていた。

マータメリ帝国は人族の国であるが、その植民地には多種多様な鳥人族や獣人族がいた。

昼間の見張り員として絶大な信頼を置かれている鷹人族、それを夜間に補う梟人族、太陽や星、磁場で羅針盤や六分儀がなくても現在地を把握する燕人族、他を寄せ付けない膂力で弾薬運搬をはじめ重量物運搬に活躍する熊人族といった、様々な種族の強みを活かすことによって、他国より高い個艦能力を得ることに成功しているのである。


それであるにも関わらず、植民地の環境は本国に比べ劣悪なまま、水兵の待遇も悪く、いくら上申しても顧みられることは無い。

どうやら帝都の連中は植民地の住人を絶対に逆らうことは無い奴隷か何かと勘違いしているらしい。


扱いに不満を抱いている水兵は間違いなくいる。

技術解析のために係留されていたユーニービが海賊如きに強奪されたのも、そういった不平水兵が手引きしたのだろうと彼は考えていたし、実際そうだった。


「発見の報告はないか」

「全くありません」


主席参謀はお手上げと言った感じで、万歳した。

索敵のために周辺の駐留艦隊から巡洋艦や水雷艇をかき集めて哨戒させているが、全く発見の報告がない。

彼らには知る由もないが、航空偵察とレーダー索敵を行っている日米艦隊を、いくら人より目がいいといっても目視で見つけるのは、日米艦隊が「見つからないように」動いている限り果てしなく困難である。


「そもそも、敵の情報もないまま、発見して交戦せよとはどんな命令だ」

「勅命ですから、不敬罪を問われますよ」

「知ったことか。貴様が言わん限り誰にもわからん」


遠征に出ていたため、帝都での騒動を一切知らない大海洋艦隊の幕僚団にしてみれば、命令の意図は不明であり、敵のことはもっと不明だった。


そして、彼らにはもっと不明なまま、まさにその時、日米による再交渉の提案を皇帝が


「経緯はどうであれ、汚辱を濯がぬ限り交渉はない」


と却下していたのである。


これを受け、日米艦隊4隻は帝国への攻撃を行うことで「強引に」交渉のテーブルについてもらうか、そもそもテーブルから降りてもらうという決定を下したのだった。

結果、ここに技術格差おおむね100年の大海戦が起こることになるのだが、この世界最大の艦隊である大海洋艦隊には知る由もなかった。

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