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異世界召喚による日本人拉致に自衛隊が立ち向かうようです  作者: 七十八十
第5章 よっつめの世界 ~なんやかんや言っても大艦巨砲はロマン~
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5-15 本日、天気晴朗ナレドモ

しまかぜ艦長の芳留一佐はじりじりと足の裏から焼かれるような焦燥感に駆られていた。


「まだか」


思わず声が出てしまったが、独り言より小さな声を聞き届けた者は艦橋にはいなかった。

交渉の決裂が伝わると同時に、マータメリ帝国はしまかぜを接収しようと陸戦隊を送り込んできた。

陸戦隊は20mmCIWSの斉射で血煙となって消えたものの、気分のいいものではない。


それ以後、陸戦隊は遠巻きに岸壁を囲っているだけで、近付いては来ない。

接収される心配は無くなったものの、この港湾には蒸気船時代らしく、要塞砲が据え付けられている。

基本的に港湾内を撃つような構造にはなっていないだろうが、1発でも当たれば装甲なんてほぼ存在しない護衛艦では致命傷になる。


交渉団の入っていった城塞の正面大扉は閉じられ、その前には陸戦隊が隊列を敷いている。

まだ要請はないが、おそらく5インチ砲で吹き飛ばすことになりそうだと艦長は考えていた。


「交渉団が窓から海に飛び降りました!」

「なに!?」


見張り員の報告に艦橋はざわつく。

扉が開けられなかったのか、正面の陸戦隊との交戦を嫌ったのか。海面まで高さ5mはある窓から交渉団は海に飛び込んだのである。


「内火艇おろせ!交渉団を収容しろ!左舷後進、右舷前進、その場回頭!強行離岸したのち内火艇を収容してこの場所を離脱する!」


タグボートなしで無理矢理岸壁から離れるため、艦首側を岸壁に思いっきり押し付ける形になる。

岸壁と船体に挟まれた防舷材が悲鳴をあげているが、かまっている暇はない。


ふと、最近は完全に陸上勤務だった海将補は果たして着衣のまま泳げるのだろうか?と艦橋の何人かは思ったものの、なんの算段も無しに海に飛び込んだりしないだろうと思うことにした。


しまかぜが一気に離岸したのを見て、遠巻きにしていた陸戦隊があたふたと動き回っているのが見えるが、彼らに出来るのは発砲して反撃を喰らうか、黙ってみているかの二択しかない。

問題は港湾内にいる警備艇や艦船である。


「港湾内の艦船の動きに注意せよ!」

「入港時と変わらず、停泊中の戦艦4、装甲巡洋艦4、防護巡洋艦6、他小型艦艇多数。うち、排煙が確認できるもの、装甲巡洋艦1、防護巡洋艦2、小型艦艇6。全て投錨、もしくは係留中で動きなし」


驚くべきことに、艦船のほうは陸戦隊と違って全く動きが無かった。

もっとも、それはこの世界の機関は蒸気レシプロなので、動かしたいときにすぐ起動できる。なんて性質のものではないので、護衛艦側の急な動きを予測も対処もできなかったためである。


「内火艇が交渉団を収容しました」

「内火艇の収容を急げ。収容次第、要塞砲射程外まで離脱する」

「ペリリューより連絡、交渉団の離脱援護のため、爆装したAV-8Bが6機急行中」

「要塞砲を破壊するように誘導しろ」


結局航空攻撃するんなら最初からヘリコプターで乗り込めば離脱も楽だっただろうに。と吉留一佐は思ったものの、もはや後の祭りである。


「副長、CICで戦闘指揮をとれ。沖留めの戦艦4隻に対し、ハープーンによる対艦攻撃を行う」

「本気ですか?」


副長は何を言っているんだといった感じで、復唱せずに聞き返した。

距離で言うと4~5キロも離れていない。普通に考えるとハープーン攻撃には近すぎて攻撃できない。


「近すぎて当てられません」

「何も発射してすぐ当てる必要はない。コース設定で一度外洋に出て戻ってくるようにすればいい」


ミサイルの性能試験で射程距離に見合った試験場が確保できないときなどに、同じ場所をぐるぐるとばしたり、いってもどってきて命中させたりといったことはわりと日常的に行われている。

それを本番でやろうというのである。


「それに、ハープーンがこの世界の戦艦に対して有効なのか、目視で確認もできる。いきなり100キロ先の戦艦に攻撃しても有効なのかどうかは航空偵察でしかわかるまい?」

「つまり、今後の戦闘ための威力判定を行うわけですね。了解しました、CICで戦闘の指揮をとります」

「どこのを使うかは任せるよ」


今のしまかぜは対艦ミサイル弾庫といっても差し支えないほど、ハープーンを大量に積み込んでいる。

結果、発射機もMk13GMLS(ミサイルランチャー)、74式アスロックランチャー、4連装ミサイル発射筒と多彩である。


「内火艇戻ります」

「収容を急がせろ」


内火艇を収容する際は停止しなければならない。

敵艦船はまだ動き出していないとはいえ、乗員全員が思うことは「早くしてくれ」である。


「内火艇収容完了。交渉団も全員無事です」

「両舷一杯!一気に離脱するぞ!」


ガスタービンエンジンが蒸気レシプロとは全く異なる音を上げて、しまかぜを一気に加速する。


『Mk13によるハープーン攻撃を行う。前甲板の作業員は退避せよ』


警報が鳴り響き、轟音とともにハープーンが発射される。

固体燃料ロケットエンジンのブースターは盛大に煙を引きながら7秒間燃焼した後、ミサイル本体から切り離され、ミサイル本体のターボジェットエンジンに点火する。

普通はそのまま指定エリアまで飛んで行って、指定エリアでレーダーを起動、目標を認識して突入するのだが、今回は慣性誘導のプログラムで大きく円を描くように飛んで、元の位置付近に戻ってくる。


「右舷2時の方向、ハープーン!」


見張り員が双眼鏡を覗きながら報告する。

しまかぜは普段は絶対やらない、港湾内を最大戦速で航行中という状況である。

見張り員はハープーンがこっちにむかって来ないことを確認する以上のことをやっている暇はない。

障害物や他の船、そしてもっとも注意しなければならない、敵艦船の動向。

見張らなければならないものは山のようにある。海だけど。


「左舷10時の方向、水雷艇!急速接近!」

「艦橋、CIC!5インチ砲で応戦しろ!」


しまかぜに装備されたMk42 5インチ砲は、一時的とはいえ毎分40発の射撃速度を誇る。

それが前後甲板に1門ずつ。

水雷艇が木っ端微塵になるのと、戻ってきたハープーンが停泊中の戦艦に命中して爆炎を上げるのは同時であった。

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