5-14 自衛官、走る
「で、なんでこんなことになってるんですかね?」
「知るか!」
今現在、護衛の俺たちを含む日米混成交渉団は乗ってきたしまかぜに向かって全力疾走中である。
「ていうか、なんでいきなり決裂してるんだよ!?」
「向こうがこっちの艦全部接収させろとかいうからしょうがないやん?」
しょうがないやん?じゃねぇよ!
というかなにしれっと海将補が返事してるんですかねぇ!?
つーか、いきなり向こうの衛兵がこっちを拘束しようとしてくるとか、どんな決裂のさせ方したんだよ!
ここはこの世界で最大の勢力を誇るマータメリ帝国の首都である。
首都というものの、海岸線に張り付くように広がる大港湾というほうがしっくりくる感じで、江の島のように突き出た島がまるごと帝城になっており、そこの大会議室が交渉の場だった。
「いや、あれは交渉の余地が無い。自分たちが世界最強で、我々なんぞ簡単に踏みつぶせると思っとる」
アメリカ側の首席交渉官である海軍少将が苦い顔でいう。
マータメリ帝国の本国は本州程度の大きさの島である。この世界では大きい方の陸地になるので、本国自体もそこそこ大きいということになる。
往時の大英帝国のように多数の植民地をもっており、海軍の規模も往時の英海軍のような巨大なものである。
判明しているだけで、本国艦隊、西方艦隊、多島海艦隊、大遠洋艦隊、南方艦隊を保有しており、その全てがそれ単独で(技術水準はさて置き)日本海海戦の帝国海軍に匹敵するような規模を有している。
増長するなというほうが無理であろう。
「最初からいうことを聞くのなら保護を与えてやるという態度だ。どうしようもない」
「まぁ、こちらの戦力をただしく認識できてないのだから、仕方ないといえば仕方ないのだろうが、あれでは世界中敵だらけだろうな」
交渉にでていた関係者は日米問わず口々に「俺は悪くねぇ!」ということを言い方を変えて言っているものの、こちらもこちらでそもそも譲歩する気無かったんじゃね?
「せっかく準備してきたんだから使ってみたいじゃないか」
艦隊司令でもある米海軍少将はにやりと笑った。
いや、その前にしまかぜまでたどり着けるかが問題なんですが。
海兵隊とともにこちらを拘束しようとしてきた近衛兵を蹴散らし、現在は廊下を全力疾走中である。
相手は単発装填のボルトアクション、こちらは自動小銃に分隊支援火器のおまけつき。
ガダルカナルの日米間だってもうちょっとましな火力差だっただろう。
「しまかぜはすでに舫をといて出港準備完了とのこと」
無線でしまかぜと連絡をとっていた桧山が報告する。
えー、やだなぁ、出港していく船に飛び乗るとかしないといけないのかなぁ。
「敵襲!」
声と同時に、海兵隊武装偵察部隊のジャネット少尉と部下が制圧する。
お見事
「しかし、来るときに通ったバカデカい門を閉じられると面倒じゃないか?」
ジャネット少尉が心配しているが、俺は大して心配していなかった。
「あの感じだとイベントとかでしか開けてないだろう。つまり、横に通用口みたいなのがあるはずだ。最悪、あそこはしまかぜから直接狙える」
にやりと笑うと、ジャネット少尉はそれはいいとゲラゲラ笑っていた。
「あ、ちょっと、まって、もう、はしる、むり」
「きみら、なんで、そんな、くそおもたい、もん、もって、はしって、へいき、なの」
尻で椅子を磨くのが仕事の日米将官様は完全に息が上がっている。
それでも走るあたり、命の危機を感じているのか、軍人魂があるのか。
プシュ、プシュとサプレッサー装備のHK416がたまに情けない音を出すと、敵の衛兵が倒れる。
向こうだって火縄銃やフリントロックってわけじゃないんだから、単発とはいえ装填さえしていれば即時発砲できるはずだが、反撃されることなく倒していく。
まず根本的に戦術が未熟なのだろう。
この世界では大規模な陸戦というのは想定されていない。なぜなら陸の国境線がないからである。
わざわざ少ない国土を荒らして戦場にするくらいなら海上で雌雄を決する、という考えでも不思議はない。
そもそもが単発装填のボルトアクションでは、その戦術は戦列歩兵の延長線上にならざるを得ない。
じっくり狙って撃つ訓練はしていても、飛び出し撃ちや咄嗟射撃の訓練はしていないだろう。
こんな建物内の警備にあたるなら、この世界の技術水準でも連発式のある拳銃のほうが遥かに有用と思うが、おそらく見栄えの問題でライフルを持たせている。
まぁ、もっともここの兵士は場所を考えるとどちらかというと儀礼兵だろう。
儀礼兵というのはどこの国も見栄えが第一だ。
日本も儀仗隊は木製ストックの映えるM1ガーランドに、礼砲用の105mm榴弾砲(これは音量の問題もあるようだが)と、見栄えだけのために骨董品を維持している。
アメリカもM14を使ったり、ソ連・ロシアに至ってはSKSの儀仗隊モデルまで作っている始末である。
頓着しないのは意外にも英国で、その時々の制式小銃を使用しており、更新のたびに伝統的な制服と合わないと一悶着起きている。
そんなことはさておき、問題の扉まできた。
閉じているものの、根本的な問題として
「あほなことせんでも窓から出れるよな」




