5-13 自衛官、海をゆく
「アメリカという国の底力は恐ろしいですな」
「ただの悪乗りな気もするがな」
派遣戦力は日米それぞれ2隻ずつ。
しかし、その中身は大きく異なる。
「アメリカの合計排水量って10万トンオーバーだろ?」
「それを現役と別に予備役から引っ張り出したんだから、化け物染みた物量だな」
ちなみに、今俺がいるのは補給艦「ましゅう」の甲板である。
こちらは今回の派遣に合わせて通常とは異なる運用が為されている。
まず、艦首の20mmCIWSの将来装備位置とされる場所には無理矢理76mm砲がねじ込まれている。
敵航空戦力がないので、20mmでは何の役にも立たないということで76mmを積んだらしいが、海自の乗員曰く
「どっちにしても対艦攻撃なら豆鉄砲」
とのこと。
飛行甲板荷扱所はヘリコプター格納庫として使用され、EH-101が搭載されている。
自衛隊側唯一の航空装備なので、SH-60Kで汎用性を確保すべきとの意見もあったものの、搭載能力が買われての採用となった。
日本側のもう1隻ははたかぜ型護衛艦「しまかぜ」である。
ヘリコプター搭載能力のある護衛艦をというのが、政府・防衛省側の意見だったものの、海自側が通常任務のローテーションに支障が出るとのことで、反対しこの形に落ち着いた。
とはいうものの、5インチ砲2門にハープーンSSM4連装発射機2基、Mk13ミサイル発射機、74式アスロックSUM発射機と、対艦攻撃に全振りした場合、海自最大火力となるため採用された。
アスロックとスタンダードSAMは今回必要ないので、発射機の中身は全てハープーンSSMになっている。
想定されるこの世界の技術は明治時代前半程度、世界のほとんどが海で、大陸と呼べるような場所は存在しないと見られている。
「あ、帰ってきた」
轟音とともに、米海兵隊のAV-8Bが上空を通過する。
固定翼機としては航続距離が短いとはいえ、ヘリコプターよりは長いし速いので、偵察任務はもっぱらAV-8Bによっている。
「とりあえず交渉はどうするんですかね?」
「一番でかい国と交渉してみてどうするかって話らしいが、すんなりお好きにどうぞ、なんてなるはずないよなぁ」
俺は前方を航行する5インチ砲装備を復活させたタラワ級強襲揚陸艦「ペリリュー」と、それに着艦しようとするAV-8Bを見ながら言う。
「とはいえ、陸上兵力はあれに乗ってる海兵隊1個大隊と俺らで全て。やっぱあれが火を噴くのかねぇ」
ペリリューの遥か前方を航行し、姿の見えない米軍のもう一隻と、ましゅうの後ろを航行する対艦ミサイル弾庫と化しているしまかぜを見遣る。
「しかし、米軍はてっきり原潜でも持ってくるかと思ったんだがなぁ」
「一説ではGPSを使えず、ほとんど海ではデジタルマップも作成しようがなく、トマホークの射程が限定的にならざるを得ないから諦めたってことですが」
「慣性誘導だけでも十分な精度が出そうな気がするがなぁ」
もともと、米軍は巡航ミサイル搭載型に改造されたオハイオ級戦略原潜を持ってくるのではないかと予想されていたが、蓋をあけてみればまさかの斜め上編成だったので、急遽海自側が補給艦を追加する羽目になったいきさつがある。
というか、そもそも海自は当初、はたかぜ、しまかぜを派遣するつもりだったらしい。
ヘリコプターも積めない艦2隻で何をする気だったのだろうか。
まぁ、ミサイル防衛にも使えず、ヘリコプターも積めないからこっちに派遣しても本来任務には影響が一番少ないということだったのだろうが。
「まぁ今回はアメリカさんが気合入りまくりで、交渉も向こうがやるってことだから俺らはついていくだけだ」
「いうこと聞かなかったら一回当たってみて、もう一回交渉とかやりかねない気がしますが」
「まぁその時は向こうの見る目が無かったってことだ」
手の内を必要以上に見せる必要はないということで、交渉にはしまかぜで乗り付けることで日米が合意している。
というか、この世界の港湾設備を考えると、他の3隻は沖留めできる湾があればラッキーといった感じなので、しまかぜ以外だとヘリで乗り付けるしかないが、「手の内」になるので使わないことになっている。
「10分で迎えが来ますから移乗の準備をしてください」
艦橋から声がかかる。
日米混成交渉団の警護のため、しまかぜに移乗することになっているが、正直、交渉決裂して敵中突破で艦に戻る。なんてことになりそうで行きたくないなぁ、と思うのだった。




