5-9 高校生、ホームレスになりかける
ぼんやりと意識が覚醒する。
どうやら暖かいベッドで寝ているようだ。いい匂いもする。
どこでどうやって寝たのか思い出せないが、副長に勧められるまま、初めてお酒を飲んだのは覚えている。
寝返りを打とうとして、腕が柔らかいモノに触れた。
「んぅん」
「え?」
すぐ間近に副長の整った顔があった。
普段はキリッとしてかっこいい美人と言った感じだが、寝顔で受ける印象はどちらかというと可愛い系である。
「ではなくて!?」
え、なに?僕なんで副長と一緒に寝てるの?
というか、がっちり抱き枕にされてて動けないんですけど!?
ああ、副長のいい匂いがする。その胸に顔を埋めてしまいたい。
・・・ではなく、こういう場合はどうしたらいいのだろう。
わからない。わからないので
「おやすみない」
二度寝することにした。
次に目が覚めた時には副長はすでに起きて朝食を準備していた。
「よく眠ってましたね。寝顔は結構子供っぽいんですね」
副長はクスクスと笑っている。
副長の寝顔も可愛かったですよと言うべきか迷ったが、見ていないことにしておく。
起きてみて気付いたが、昨日の服のまま寝てしまったようだ。
まぁ、着替えは全て船においてあるので、それ以外だと下着か裸以外の選択肢はないが。
ん?つまり副長とむふふなことは無かったのか?
いや、抱き枕にされてただけでも十分あれな気もするが。
「初めてだと言っていたのに少し飲ませすぎましたね。すいません」
「いえ、何も考えずにガバガバ飲んでた自分が悪いんで。というか、こちらこそすいません。泊めてもらったみたいで」
昨日飲ませすぎたことを副長は謝ってくるが、こちらとしては朝からいいものも見れたし、何か触っちゃった気もするので、むしろありがとうございますってところだが。
「そういえば、昨日は聞けませんでしたがこの街で部屋は借りてるんですか?」
「いえ、ないので船に戻って寝ようかと」
「え、でもユーニービは今日からドック入りで出入りは結構めんどくさいですよ」
「聞いてないんですけど!?」
しばらく出港しないから休みとは艦長に聞いたけど、船に戻れないとはきいてねぇ!?
「ま、まぁ入渠中もずっと艦内にいる人もいますから、大丈夫ですよ・・・?」
引きつった笑顔で副長が言う。
「ちなみにそれは?」
「機関長ですね」
どんだけ筋金入りの引きこもりなんだよ機関長・・・。
「蒸気機関の整備と船体整備が主ですから、艦内で寝る分には問題ないと思いますが、いかんせんドック内なので、出入りや艦内設備の使用は制限されますね」
とはいうものの、せっかく陸にいるのにわざわざ船内でハンモックというのもたしかに何か違う気がする。
だが、お金もない現状では家を借りることはおろか、宿に泊まることもできないだろう。
「ぐぬぬ・・・」
「あー、なんとなく状況はわかったから、ここに住んでいいよ」
「ふえ?」
なんだって?
「しかし、それはさすがにご迷惑では?」
「給料も払えてない新人をほっとくわけにもいかないわよ。一人暮らしには大きい部屋だし、遠慮せずにお姉さんを頼りなさい」
副長は胸を張るが、寝起きの薄着でそれをされると非常に目のやり場に困るのでやめていただきたい。
しかし、このままでは路上で寝ることになりかねない。
「ありがとうございます。お世話になります」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
しかし、僕を抱き枕代わりにするような無防備な副長と同居してしまって、僕は耐え続けることができるだろうか。
・・・時々は船で寝た方がいいかもしれない。




