5-8 高校生、初デート(?)する
あの後、艦長は本当に立ち去った。
どうすんだよこれ。
私服姿の副長とか、どこのモデルだよってくらい浮世離れした美人ですっごく話しかけづらい。
「あの、副長?」
無視するわけにもいかないので、声をかける。
どのみちこっちの世界に何も持たずに飛ばされた僕は、冬物を買わなければ凍死してしまうだろう。
「うひゃぁ!?」
おおよそ見た目に反した情けない声をあげて驚いた副長は僕を見て、さらにわたわたとしだした。
「どどどどうしてここに」
動揺しすぎだろ。
「いえ、艦長に冬物を買って来いとお金を渡されまして」
一緒にそこまで来たとは言わない。話がややこしくなりそうだから。
「え、そうなんですか・・・」
コートを見ていた副長が急にトーンダウンした。
俺なんか悪いこと言った?
「どんなのを選べばいいのかよく分からないんですけど、教えてもらっていいですか?」
「ええ、かまいませんよ」
副長はぱっと明るい笑顔を浮かべると、この辺りがサイズもちょうどいいだろうとそれまで見ていた辺りを勧めてくれた。
ん?てことは副長は男物の僕くらいのサイズのコート見てたの?
彼氏さんへのプレゼントとかかな?こんな美人さんの彼女からのプレゼントとか羨ましすぎて憤死しそうです。
「これって羊革ですか?」
「ええ、そうですよ。その上にゴム製のレインコートを着ることが多いですね」
え、そんな厚着するの?めちゃくちゃ寒そうなんですけど。
「海の上は遮るものが無いので風が強いのと、雨だけでなく波しぶきでも濡れますから陸上よりずっと寒く感じますよ」
それに行先次第では、単純に寒そうですよね。
その後も、副長のアドバイスを受けながら冬支度を整える。
寒くて寝れないのはつらいからごつい毛布を買っておけと言われた。未だに慣れないからハンモックの時点であんまり寝れないんだけど・・・。
なんやかんや選んだりしていたらもう日は傾きだしていた。
持てないこともない量だったが、他にもユーニービ行の荷物があるとかで、僕宛で後で届けてくれることになった。
僕1人だと本当だろうかとびくびくしたところだろうが、艦長が連れてきてくれた店だし、副長もそうしてもらうといいと言っているので大丈夫だろう。
「今日はありがとうございました」
「いえいえ、可愛い新人の役に立てたようで良かったです」
副長に礼を言うと、可愛いの部分を気持ち強調して言われた。
それは男としてはどうなんだろうか。まぁ、そういう対象としては見られてないってことだろう。
「時間もちょうどいいですし、夕食でもどうですか」
突然のお誘いである。
この後の予定はない。というか、そもそも家が無いので、停泊中のユーニービに戻って寝るしかない。
門限があるわけでもなし、お誘いに乗ることにした。
こんなことでもないと、こんな美人と食事する機会なんて一生ないだろうし、「可愛い新人」としてありがたくご相伴にあずからせてもらう。
「はい、是非ご一緒させていただきます」
「では、行きましょうか」
副長が笑顔を向けてくれる。
日本にいたころは、同級生の女子に向けられる視線なんて、蔑みか、そもそも視線なんて向けてもらえない、無視だった。
この笑顔だけでも異世界に来れて良かったと思わせる破壊力だった。
というか、なんか異世界に来ていきなり童貞でなくなったような気もするが・・・あれは事故だと思って忘れよう。
副長についていくと、着いたのは表通りからは少し入った建物の下、半地下になったフロアで営業している店だった。
レストランというほどではないが、居酒屋というほど雑多な感じも無い、ほどよい雰囲気のお店だった。
「好きなものを頼んでいいですよ」
と言われたものの、文字は読めるがどんな料理かよく分からないので、副長にお任せすることにした。
そして、料理が来ると副長に勧められるまま、初めてお酒を飲み、他愛ない話をして、店を出たあたりで記憶はあやふやになった。




