5-7 高校生、上陸する
「あー、やっと帰ってきたー」
ストーカーとの砲撃戦(一方的に撃っただけだが)から1週間。
予定より4日遅れの帰港である。
この世界に来て2か月ほどだが、やはり船より陸地のほうが落ち着く。
「けど撃ちまくったせいで給料はねーんだろうなぁ・・・」
僕の横で並んで母港を眺めていた鷹人族の見張り員がぼやく。
この世界は魔術もあれば、獣人もいた。
鷹人族は鷹の目と呼ばれる遠視に優れた能力を持つそうな。顔の見た目は人と鷹を足して2で割った感じ。いや、どっちかというと鷹寄りかな?腕も羽ではないが、羽毛が生えている。
遠視に優れるので見張り員なのに、双眼鏡いらずというか、双眼鏡より良く見えるらしい。覗きし放題じゃね?
欠点は鳥目だから夜は使えないこと。
ちなみに夜でも昼間と同じように見える猫人族もいるが、見張り員にはいない。
なぜか艦長に聞いてみたところ
「なんでだろうね?」
と言われた。
副長は
「猫ですから・・・眠くなったら寝ちゃうんですよ」
と昔を思い出すような遠い目をしていた。
昔そのせいで何かあったらしい。
というか、昔から苦労人だったのかな。
「上陸したらどうすんの?」
この世界に来た翌日にはこの船に乗ることになってしまったので、ここの街がどうなっているのかとかはよくわかっていない。
「とりあえず俺はお姉さんとの一夜の熱い恋愛を楽しみたいかな!お前も来るか?」
「え、いや、それは」
予想通りではあるが予想外な誘いに思わずドギマギしてしまう。
それって要するにあれよね。
お姉さんとキャッキャウフフってことですよね。けど、給料でないのにお金あるのかな?
「そりゃぁ、新米水兵は私の御付きとして雑用をこなすんだよ」
いきなり後ろから首に腕を回され、ヘッドロックされる。
胸がー、胸が顔に当たってるんですけど!?
もがーとじたばたしてみるが、「あててんのよ!」と言わんばかりにがっちりロックされてさらに押し付けられた。
「あ、ふーん。頑張ってね」
見張り員は先ほどの誘いはどこへやら、南無と言った感じで合掌して俺を艦長に売り渡した。
うらぎりものー。
艦長に捕まってどんなことをさせられるのかと思っていたら、なんのことはない新入りの日用品を買ってくれるらしい。
曰く
「今月の給料は払えそうにないから、冬になるし可哀想だからねー」
とのこと。
がさつで大雑把で適当な艦長だが、面倒見はいいのでみんなから慕われているし、みんなついていくのだろう。
ユーニービ号が母港としているのはぼちぼちの規模の港町だ。
まぁ、海賊船が母港にするくらいなので、アウトローな街ではあるのだが、治安は驚くほど良好に保たれている。
海賊とその関係者が中心の街だが、一応市庁舎も警察署もある。
もっとも、「街で問題を起こさないならそれでいい」というスタンスで、一度酒の密輸をした際の受取人が警察署長だったことがあって驚いた。
聞いた話では、国公認の海賊船で、他国の船を襲ったり、他国の不利益になることをする分にはおとがめなしらしい。
とはいえ、別に何か認められた書状があるわけでもなく、暗黙の了解といった感じらしいが。
酒の密輸はいいのかと聞いてみたら、あれは「お土産」だと言われた。
・・・お土産って量ではなかったが。
「ここでコートと手袋、帽子とあと他にも船で必要な冬物は揃うよー。サイズの合う好きなのを選びな」
艦長に連れられてきたのは、服屋というよりも、船に関する用品を揃えた雑貨屋のような店だった。
「お、副長がいるねぇ」
見ると冬物のコートを前にしてムムムと唸っている副長がいた。
副長が欲しがってたコートって、おしゃれするためのじゃなくて、冬に船で着る奴のことだったのか・・・。
なんか夢が無いな。着飾ったら似合うだろうに。
「気が変わったわ。お金渡すから副長に選んでもらいな」
突然お金を渡されて、ばしんと背中を叩かれた。
えぇと思って、顔を見返したらぐっと親指を立てられた。
この人何がしたいんだ。




