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異世界召喚による日本人拉致に自衛隊が立ち向かうようです  作者: 七十八十
第5章 よっつめの世界 ~なんやかんや言っても大艦巨砲はロマン~
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5-6 高校生、何もしない(できない)

本筋となんの関係もない艦砲の歴史の話がほとんどになっています。

書いちゃってから消そうかとも思ったのですが、そのままにしておきますので、興味のない人は読み飛ばしてください。

「遠、遠、共に遠弾!」

「バカヤロー!至近弾ですらねーじゃねーか!」


主砲が放たれた2発の砲弾は、目標の船を遥かに飛び越して水柱をあげた。

艦長は罵声をあげて、副長はああ、今月の給料が、と青い顔をしている。


「照準修正、装填次第発射!」


甲板では弾薬運搬手がせっせと走り回っている。

15センチ砲の砲弾は40キロとか平気であるので、ほんと伝令で良かったなぁと思う。

それにしても、かすりもしないとはほんとに大丈夫なんだろうか。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ここで「僕」の視点を離れて、簡単に砲撃戦の手順と歴史を確認。


艦船に対艦攻撃を目的として大砲が積まれるようになったのは、14世紀ごろとされている。

このころの火砲は、炸薬を持たない砲弾、つまり金属の塊や石、はてはガラス片や金属片といったものを発射するもので、敵艦を撃沈するような威力はもっていない。

乗員やマスト、転輪といった設備を破壊して航行不能にするのが目的で、交戦距離も歩兵が持つマスケット銃で狙撃が行えるほどの距離である。

このころの主力艦は、戦列艦と言われ、艦首から艦尾まで2階建て3階建てにぎっしり砲を並べているあれである。


交戦距離が近いのは、敵船への移乗による白兵攻撃や、体当たりによる衝角攻撃(ラムアタック)が有効な戦術とされていたことからもわかるだろう。

トラファルガー海戦で英海軍のネルソン提督が仏海兵隊の狙撃兵に狙撃されたというのも、この時代の海戦の交戦距離を如実に物語っている。


しかし、砲弾に炸薬が入った榴弾が登場すると様相は大きく変わってくる。

それまでの軍艦はとにかく舷側に大砲を並べて、最初の斉射で敵乗員をなぎ倒し、戦闘不能にするという戦術だったのが、榴弾が登場した結果、水線付近の1発の命中弾で沈没する可能性がでてきたのである。


こうなると、悠長に歩兵銃の射程まで接近して、なんて言っていられない。

より遠くからより威力のある砲弾を命中させたほうが勝つ。という考えが主流になってくる。

結果、艦首から艦尾まで、ぎっしり並べられていた大砲は姿を消し、数は減ったもののより大型の主砲を搭載する艦が登場することになる。


それには動力船や装甲艦の登場も大きく関わってくるのだが、ここでは割愛する。


さて、大砲が大きくなって射程が伸びると新たな問題が発生する。

照準である。


戦列艦の時代は照準なんてあってないようなものだった。

なんせほぼ水平射撃で命中するのである。

適当に砲の後ろからまっすぐ砲身を見て、その線状に敵艦があれば命中する距離である。


しかし、離れれば離れるほど砲弾の弾道は山なりになるので、適当に狙って撃っていては命中しない。

必然的に測距や照準のための器具や方法も発達することになる。


それでも、結局のところ長らくシステム自体は変わっておらず、「砲ごとに狙って撃つ」というのが基本だった。

各砲がバラバラのタイミングで撃つので、必然、弾着の水柱もバラバラに上がり続けて、それぞれ自分の砲弾がどこに落ちたのかわからず、勘で着弾修正するという初弾以外の照準はあってないようなものだった。


もっとも、これは装填の問題や照準儀の精度の問題、射撃指揮装置の問題など、複合的な要因によるものであり、初めて統一諸元による斉射と着弾修正が行われたと言われている日本海海戦においても、距離情報を統一しているだけで、方位は前後の各砲塔毎に計測し、発砲タイミングも伝声管の指示でそれぞれ発砲するという程度のものであった。


それでも、明確な着弾修正を行えるという威力は絶大で、日本海海戦における日本勝利の一因と言われている。

ちなみに、戦艦が行う斉射の方法だが、まず敵艦の距離と方位を測定しそれに合わせて斉射。

その着弾を見て、全弾が敵艦より手前か向こうに落ちれば照準を修正する。逆に手前にも向こうにも着弾があった場合、夾叉 であり照準はそのまま動いた分だけ修正して射撃する。


これは斉射の際はある程度砲弾が散るように発砲するためである。

その広がる範囲を散布界というが、その散布界の中に敵艦が入るように射撃を続けていればいずれ命中するはず。というわけである。

なぜそんなに大雑把なのかというと、砲弾の弾道が砲身の伸縮や気温、風によって影響を受けるというのもあるが、船そのものが揺れているためである。

その揺れも考慮して照準できるようになるのは、また後の時代の話。


どんなに正確に狙っても揺れ方ひとつで全弾明後日の方向に飛んでいく可能性もあるので、ある程度散らばるように発砲するわけである。


さて、ここで本題、この「ユーニービ号」はいつの時代が当てはまるのか?

機帆船とはいえ、蒸気レシプロ機関とスクリューを持つ動力船なので、もちろん戦列艦の時代ではない。

しかし、帆船としての設備を持つことからもわかるように、砲自体は舷側に並べられている。

つまり、戦列艦から砲塔搭載艦への移行期の艦、日本の歴史でいうと日清戦争前夜の艦ということになるので、統制射撃も斉射も夢のまた夢である。


もっとも、片舷火力2門では斉射も散布界もクソも無いので、この状況では当たればラッキーで撃ち続けながら突撃するのが一番有効な戦術となる。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「撃てー!」


もう主砲が4度目の轟音を轟かせていたが、命中弾はない。

副長が、ああ、コート、そろそろ寒くなってくるのに、とか死んだ魚の目をしながらブツブツ言っている。

なまじ美人なだけにコワイ。


というか


「砲雷長が撃ちたいからわざと外してたりして」


ふと思いついたことを口に出してみたら、艦長と副長がすごい顔をしてこちらを見た。

さすがにそれはない・・・


「おらぁ!砲雷長!わざと外してんじゃねぇ!」

「次から外した分は全て砲雷長の自費ですからね!」


次の瞬間、2人は砲雷長に向かって罵声を浴びせていた。

えぇ・・・それが有りうるって砲雷長思われてんのかよ。


「お」

「当たった?」


罵声が効いたのか近づいたせいかはわからないが、次の砲撃が命中したようだ。

しかも


「煙突か?」

「そのようですね。甲板がすごいことになってそうです。ああはなりたくないですね」


どうも煙突にあたって根元から破壊したらしく、甲板が火災でも起こしたのかというくらい煙に巻かれている。


「あれなら機関停止だろ!さっさと振り切るよ!」


後方に現れた船とはすでに十分な距離があいている。

艦長の号令のもと、ユーニービ号は逃走を開始するのだった。

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