5-5 高校生、できることがないと感じる
「総員、戦闘用意!偽装解除!」
艦長の号令で砲術科の船員が甲板を走り回っている。
この船には片舷前後に2ヶ所、計4ヶ所の張り出しがあり、そこに主砲が設置されているが、普段は露天甲板に置かれた荷物や物資に見えるように偽装の覆いがかけられている。
「最初は24センチなんて馬鹿げた砲がついてたんだけど、重いし外して元々の副砲を主砲に据えたんだ」
と以前、掌帆長が言っていた。
なんでも、もともとは24センチ砲4門に加えて、副砲に15センチ砲が7門もあったらしい。
それに加えて、煙突やらマストやらのせいで、かなりのトップヘビーで揺れが酷かったとのこと。
それを解消して、荷物を積む場所を増やすために、24センチ砲は全て降ろして、その位置に15センチ砲を据え付けたとのこと。
よって、今のウーニービ号の武装は、主砲が15センチ砲4門、副砲兼白兵戦援護用の8センチ砲が4門、25ミリ4連装機砲が4基となっている。
他に魚雷発射管が4門あるが、艦長曰く
「魚雷って高いんだよ」
とのことで、積まれているのを見たことはない。
それ以前に、水雷員と呼ばれる船員を見たことが無い。
「戦うんですか?」
思わず艦長に聞いてしまった。
「うんにゃ、向こうはこっちを無傷で捕まえるのが絶対条件だから、攻撃はしてこないよ」
「そうなんですか」
「こっちが一方的に撃つだけ」
卑怯くせぇ。
「転舵してる暇はないから、前のを潰してトンズラするよ!」
「目標、右舷30度敵艦、右舷主砲、砲撃準備!」
「1番砲、3番砲、装填準備!観測手は敵艦との距離を10000までは1000刻み、それ以下は100刻みで報告!照準手は敵艦を追い続けろ!」
艦長、副長、砲雷長と順に指示が飛ぶ。
今のところ僕の仕事はありましぇん。
なお、しつこいようだが人手不足のこの船には主砲4門分の人員はいない。
よって同時に発砲できるのは2門だけである。副砲の人員を主砲にまわせば3門になるが、どのみち同一方向に撃てる主砲は2門なので、それなら副砲を撃てるようにしておく方がいい。
「外すんじゃないよ!弾だってタダじゃないんだ!」
弾代を計算しながら撃たないと赤字になって、給料がでなくなると以前副長が教えてくれた。
なお、トリガーハッピーの砲雷長はそんなことお構いなしに撃ちまくろうとするので、掌帆長が殴り飛ばして止めたことが何度かあるとかないとか。
「貴様らいいか!絶対に当てろ!外しても当てろ!沈めても当てろ!とにかく当てて当てて当てまくれ!」
砲雷長が叫んでいる。
沈めても当てろって、それとにかく撃ちたいだけじゃねぇのか。
それを聞いた副長が渋い顔をしている。せっかくの美人が台無しである。
「距離10000!」
交戦距離は刻一刻と近づいている。
「機関増速、最大戦速!」
伝声管に号令が飛ぶ。
伝声管から聞こえる声って独特で、いまだによく聞き取れない。あれでよく指示間違えずに伝わってるなぁと思う。
「水線付近を狙いな!足を遅らせて一気に振り切るよ!」
「距離6500!目標、転舵します!」
お互いに距離を縮めるように動いてきたところで、突然向こうが向きを変えた。
「どっちにいく!」
「反航から同航になります!距離6000!」
「撃ちますか?」
「まだだ、遠い」
「撃っていいんですか!?」
「ダメだつってんだろ!」
どんだけ砲雷長は撃ちたいんだよ。
「近づいたら撃たれるからずっと距離を保つ気だな」
「監視を続けて石炭切れを待つ気ですか」
「まぁ、そうするには近づきすぎたな、奴さん」
艦長が副長ににやりと笑いかける。
「フルセイル!」
突然の号令に甲板が慌ただしくなる。
「機関が最大戦速で運転中なのに、フルセイルは無茶です!」
「なーに、今日は海も凪いでるし、僅かな追い風だ。使わない手はないだろ?一気に距離を詰めて一撃したらそのまま離脱だ」
帆が広げられて、わずかだが増速する。
これ空気抵抗が増えるから副長が言うようにハーフセイルのほうがいいんじゃないかなぁ、とかぼーっと考える。
今のところ伝令の仕事はゼロである。まぁ伝声管で伝えられない指示とか、戦闘で伝声管が破損したときに指示を伝えに走るのが仕事だしね。
「距離4000!」
「主砲、1番、3番、撃て!」
艦長の号令と共に、右舷主砲が轟音を轟かせた。




