5-3 自衛官、釣りをする
「いい天気ですねー」
「そうだなー」
俺と桧山はぼーっと海を見ながら釣り糸を垂らしている。
「ひまですねー」
「そうだなー」
煌めく太陽、白い砂浜、それを彩る青い海に南国植物。
そんな南国リゾート顔負けのビーチを無視して、何が悲しくておっさん2人で磯釣りをせねばならないのか。
簡単である。現状、この島にはおっさんしかいない。
よって、ビーチはひどいことになっているので、磯釣りに逃げたのだ。
「みんな全裸で飛び込んでましたね」
「やめろ、思い出したくない」
航空偵察を送り出して、後はこの島に設置されたLORAN局と転移装置を警備するのが仕事だが、島の周囲200Kmに他の有人島がないことは確認済みである。
よって、警備といいつつもただの留守番である。
そして、偵察のUS-2とMV-22を送り出した直後、海兵隊と情報分隊の一部馬鹿どもが海に向かって突撃。
全裸になってボディビル大会を始めたのである。
そりゃ、半分休暇みたいなもんだとは言ったけども!
好きにしてていいとは言ったけども!
ちなみに、一緒に来た沿岸監視隊の連中も、それを見てげんなりした顔をしてレーダーの設営に戻っていった。
「しかし、どうするんですかね」
「なにが?」
「US-2使っても見れるのはこの島中心の2000キロくらいまででしょ」
初期偵察において航空偵察は威力を発揮するものの、結局拠点を中心とした航続距離で往復できる範囲内までしか捜索できない。
これまでは、資料や情報収集のために地上部隊を使っていたわけだが、どうもこの世界は海ばかりのようだ。
「とはいえ、船の派遣はなぁ」
この世界が海ばかりということが分かった時点で、大型の艦船を転移させる案は出たものの、海自、米軍ともに
「ローテに余裕がないのにさらに1隻引き抜く気か!」
と猛反発した。
実際、異世界で集めた資料や薬品が目に見えてわかる成果を上げ始めると、日本が異世界とのコネクションを独占している状況を面白く思わない国の軍事的挑発の頻度が増している。
空自のスクランブル件数も毎月最多を更新する状況で、日本海や東シナ海でも海自と米海軍の警戒行動が常態化している。
とはいえ、日米両政府ともに艦船の派遣を諦めていないようである。
理由は簡単、拠点としているこの島から北東に300キロほどいった島に、大量のタングステンが露天で見つかったからである。
普通の地下資源を異世界から持って帰るのは効率があまりよろしくないのだが、中国が生産の8割を占める地下資源となると話は別である。
実際に持って帰る、帰らないは別として交渉のカードにすることだってできる。
他にも宝の山があるかもしれないとなれば、政府はもちろん産業界まで目の色を変えてこの世界を探索しろの大合唱である。
とはいえ、ここまででわかっていることとしては、この世界にも人間をはじめ知的生命体がいて、技術水準も蒸気機関を造れる程度、地球でいうと日清戦争前後くらいの技術水準ではないかと予想されている。
極端に陸地の少ない世界らしく、とにかく海海海で、今のところ有人島は1つしか見つかっていない。
しかし、航行する船舶はそれなりに発見の報告はあるので、やはり技術水準なりの流通はあるらしい。
「けど、アメリカさん、船だけはありますからねぇ。この世界で主導権とるために大盤振る舞いするんじゃないですか?」
「予備役艦から引っ張ってくるのか?どっちみち人がいないだろ」
「わかんないですよ。異世界にいってみたいって人間はいっぱいいるみたいですから、人間も予備役から引っ張ってくるかも」
有益なのがわかっているのに日本が派遣で二の足を踏んでいる世界。
となればアメリカが主導権とるために無茶する可能性もあるか。
「けど何派遣するだろうな?」
「タラワ級強襲揚陸艦とか退役から日が浅いしありそうじゃないです?」
「とはいえ、日清戦争の軍艦がいる世界って考えたら護衛艦は必要だろう」
「対艦攻撃に主眼をおいた水上艦なんてのがないのが泣き所ですね」
「あえて潜水艦とかな」
「一方的に攻撃できますし、いいかもしれませんね」
もっとも、後で思い知ることになるのだが、アメリカはこちらの想像の斜め上をついてくるのだった。




