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異世界召喚による日本人拉致に自衛隊が立ち向かうようです  作者: 七十八十
第5章 よっつめの世界 ~なんやかんや言っても大艦巨砲はロマン~
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5-2 高校生、フラグを立てる?

「帆走用意!」


特に変わりなく、あっちへ行ったりこっちへ来たりしているだけの日々が過ぎていたある日、突然艦長が大きな声を張り上げた。


「帆走?」

「帆を張って航行するんだよ。あのマストは飾りだと思ってたのか?」


口をついて出た疑問に、先輩の水兵が答えてくれた。

たしかに、この船には帆船のような3本マストがあったが、これまでずっと帆は畳まれたまま、マストと同じくらい背の高い煙突から煙を吐きながら航行していたので、使うことがあるとは思っていなかった。


「使うことないと思ってました」

「ま、艦長が気まぐれ起こさない限りは使うことないけどな」

「配置にもつかないとはいい度胸だな」


いつの間にか掌帆長が背後に立っていた。コワイ。

ひゃぁと先輩水兵はあっという間に走り去って、マストに登って行った。


「あの、僕の配置とは?」

「ん、ああ、お前は正規の水兵じゃないんだったな。まぁのんびりしとけ」


帆走は気持ちいいぞ!とガハハという笑い声が聞こえてきそうな上機嫌で掌帆長は去っていった。


「ボイラー落とせ!フルセイル!」


艦長の号令で水兵が慌ただしく動いている。

僕のように街を歩いているところを放り込まれたような素人で水増ししていても、なお人員不足なのである。

マストに登って帆を張るなんていうのを、なんの訓練も受けていない人間ができるはずもなく、ごくごく限られた人員だけで、あっちこっち走り回っている。


忙しそうだなぁとは思うものの、できることもないので他の素人水兵と同じようにマストを眺める。

慣れた手つきでするすると帆が広げられていく。

真っ白な帆なら見栄えもいいのだろうが、煙突から出たすすのせいで黒ずんでいて、どこか汚らしい。

このいい加減な船には似合っている気もするが、みずぼらしいことに変わりはない。


「なーにボケーとしてんのさ」


突然背後から大きな柔らかいモノが押し当てられた気配が!?


「か、かんちょう?」

「んー、どうした?」


わざとだ!ぜったいわざとだよ!

ぐりぐりと背中に立派なものが押し付けられている。

い、いかん、これ以上は・・・鎮まれ、俺の主砲(ビッグキャノン)


「うふふ、若いねー。童貞でもないのにこれだけで元気いっぱいかなぁ?」


童貞じゃないっていっても、経験はあなたに無理矢理押し倒された1回だけなんですけど!?

というか、そのせいでこの船に乗ることになったんですけど!?


「この船にもかわいい子いっぱいいるんだから、男ならものにしてやろうという気概はないのかね」


艦長はなおも胸をぐりぐりと押し付けながら言ってくる。

恐ろしいことにこの船の乗員の男女比は幹部の比率と同じ、つまり女3(艦長、副長に加えて機関長も女らしい。会ったことないけど)に対して、男2(砲雷長、掌帆長)である。


「堅物の副長とかどうよ。きっと惚れさせたら想像もできないダダ甘でイイ声で啼いてくれると思うよ」


ナニイイダスンデスカコノヒトハ


「ん、ごほん!」


突然咳払いが聞こえたので、そちらを見ると顔を真っ赤にした副長がこっちを睨んでいた。


「艦長、当直中にブリッジを離れるのはやめてください」

「はいはーい。じゃあ少年、がんばってねー」


何を頑張ればいいのか知らないが、はいはいと返事をしておいたら、艦長はニシシと笑ってブリッジに戻っていった。


「あなたも、あまり艦長を甘やかさないように!」


とばっちりなんですけどぉ!?






「おお、なんか静かだし風が気持ちいい」

「これで手間がかからなければ最高なんですが・・・」


特にすることもなかったが、なぜかそのまま休憩中の副長に捕まって風を受けながら海を眺めている。

ボイラーもレシプロも止めて、帆に受けた風だけで進むというのは初めての経験だったが、騒々しい蒸気機関の音と振動が無いだけで爽快感が全然違った。


「前から気になってたんですが」


ぼーっと水平線を眺めていると、突然副長が話を振ってきた。


「なんか私のこと避けてませんか?」

「うえぇ!?」


そんなこと言われても、基本的に下っ端の水兵が直属の上司以外と接点を持つことはほぼない。

ベタベタと何かと寄ってくる艦長のほうが変なのだ。

そもそも、副長はちょっと引いてしまうくらいの美人である。気後れして、なかなか話しかけにくい。


「いや、副長は美人過ぎて近寄りがたいというか、なんというか」


ごにょごにょと言うと、最初ぽかんとしていた副長の顔がみるみるうちに真っ赤になっていき


「そ、そんなくだらない冗談言う暇があったら、早く仕事を覚えてください」


そう言い残して、ぴゅーっと船室の方へ去っていった。

んん?これはどう判断したらいいんだ?脈ありってこと?

まぁ、あんな美人が僕のことを好いてくれるとかありえないから、しょーもないこと考えるのはやめよう。

そうして、再び僕は風を受けながら水平線に目をやるのだった。

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