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異世界召喚による日本人拉致に自衛隊が立ち向かうようです  作者: 七十八十
第4章 みっつめの世界(真) ~異世界だからって剣と魔法のファンタジーとは限らない~
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4-7 自衛官、教団について知る

保衛部としての仕事は楽なものだった。


「再教育」を受けて戻ってきた信者に教団に不満を持っているふりをして接触し、反逆の意思が残っていないか確認する。

同調するそぶりがあれば再び再教育送り、再教育がうまくいっていてこちらを背教者として保衛部に通報するようなら問題なし、というわけである。

ちなみに、背教者として通報されても保衛部に再教育名目で連れていかれて、保衛部員や教父と(この世界としては)豪華な食事を一緒にとって、雑談して戻ってくるだけである。


そこでいろいろ保衛部員や教父に話をきいてわかったのだが、保衛部員と教父に待遇や身分の差はないらしい。

というか、そもそも信者から保衛部のスパイになって上に上がったのが教父で、教父や保衛部員の子供として、この教都と呼ばれる都市の中で生まれた人間が保衛部員になるらしい。


で、教父は元はと言えば皆、この都市の外で生活していて信者としてこの街に入った、つまり今の俺と同じ立場を経ているのだという。

ちなみに、外から来た人間が全員教父になれるわけではなく、ここの生活をおかしいと思って仕事も適当にしているが、それを全く表に出さず信者に溶け込んでいると判断された人間だけが選抜されるらしい。

ちなみに一度、背教者だと通報されて再教育名目で保衛部員と雑談しながら飯を食っていると、隣のテーブルで桧山が同じように飯を食っていてお互い思わず噴き出した。


教団内部に仕事の差はあっても、待遇や身分に差はなく、自由に暮らすことができる。この街は理想郷だと雑談した教父や保衛部員は口をそろえた。

教父や保衛部が「教団」とか「この街」と言った時、そこに一般の信者は含まれていない。

というか、おそらく彼らは一般の信者を奴隷か、下手をすれば家畜の豚くらいにしか思っていない。


とある教父は一般の信者を、教団が生活するための道具だと言い切っていた。

そのように「生産」しているのだから、そのように扱うのだと。

それについて、俺は特に意見しなかった。「そうなんですか?」と生産とはどういうことかとか、信者はどのくらいの寿命なのかとかを聞いていた。


少なくともこの世界において、「そんな扱いは間違っている!」と言ったところで、じゃあどうやってあの人数を養うのか、という根本的な問題に突き当たるだけで解決策はない。

この世界はただ生きることだけでも難しい世界なのだ。

その証拠に、この世界では日本で言う「高齢者」にあたるような人をほぼ見たことが無い。

唯一、複数見かけたのは、教団が運営する病院だった。もっとも入院できるのは教団関係者、つまり教父か保衛部だけとのことだったが。


この世界の平均寿命が短いなんていうのは容易に想像がつく。

医療制度は崩壊しているし、まともな教育を受けた医者なんていないだろう。

外を歩けば、一歩間違えるだけで急性被曝であっさり死んでしまう。

それ以外にも、変異して狂暴化した野生動物(クリーチャー)も襲ってくるし、教都(ここ)以外は日々の食料も足りていない。

そもそも自然被曝量だって日本の基準なら許容値を超える場所のほうが多いだろう。

・・・早く帰らないと俺もやばいかな?


この世界に来て2ヶ月が過ぎようとしているが、日本人の情報もない。

そもそも、都市国家規模の社会基盤しかないうえに、都市間での情報交換もほぼ皆無ということがはっきりしたので、情報を集めたければ複数の都市を渡り歩くしかない。

これは教都への潜入は失敗だったかな、と思い始めたころ渡に船な話が舞い込んだ。


「教父に昇進して外の街での勧誘活動ですか?」

「そうです。その街に不満を持っていて、食うに困っているような人間を信者(どれい)として迎え入れるのです」


部屋には教父と俺以外には保衛部の偉いさんしかいないので、表現がオブラートにも包まれずむき出しである。


「そういえば、前から不思議だったんですが、なんで教父になれる人間は外部から来た信者限定なんですか?」

「血が濃くなりすぎるのは良くないから、なるだけ外部から人を入れなさいという大聖祖様の教えです。実際、理に適っているでしょう?」

「そもそも、この都市内部で育った信者なんて阿呆ばかりですからね」


限られた中だけで交配しているといずれ致命的な結果になることを見越しての政策か。


「わかりました。それで、いつ出発ですか?」

「まぁ、そんなに焦らずに。とりあえず、そうですね来週あたりのどこかであなたを教父にすることを発表しましょうか。どこがいいでしょう」

「東地区のA班がいいだろう。まだあそこから教父にあがった人間がいないはずだ」

「ならそうしましょうか、また部屋を移る用意をしておいてください」


いい加減な話だが、信仰心が篤いと教父になれるという政治宣伝(プロパガンダ)のために、昇進する際はそのときに最適と判断された場所に動かされるという話は事前に聞いていた。

「班」と言ってもひとつの班に1000人近い人間がいるので、そいつが最近来た奴かどうかなんてわからない。

そもそも、信者同士が繋がらないよう、居住地区と職場はバラバラにされているのでバレることはないらしい。


「これであなたも名実ともに教団の一員です。期待していますよ」


教父にそう言われたが、俺は他の街に勧誘に行ったらそのままトンズラするつもりでその方法を考えるのだった。

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