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異世界召喚による日本人拉致に自衛隊が立ち向かうようです  作者: 七十八十
第4章 みっつめの世界(真) ~異世界だからって剣と魔法のファンタジーとは限らない~
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4-5 自衛官、早くもうんざりする

「「「幸せです幸せです幸せです」」」


額を地面に擦り付けて怪我がひどいほど信仰心が高いとか馬鹿らしすぎるのだが、まだ背教者として引っ張られるには事前の情報が足りていない。


よって、額を地面に擦り付けるふりをして、額は隠し持ったやすりで擦っておいた。

はっきり言ってそれすらあほらしいのだが、額に怪我がない=背教者という図式に例外はないようなので今は目立たないようにしておく。


朝食を終えて、割り当てられた職場へ向かう。


昨日、一日過ごして分かったのだが、教都における信者の管理は大雑把だ。

というか、基本的に個を識別して管理している様子が無い。

食事のときに人数をカウントしてはいるようだが、それ以外での管理は杜撰である。

とはいっても、街の道という道は保衛部と呼ばれる警察というか、秘密警察(ゲシュタポ)染みた組織が常に巡回しているし、仕事場にも一定数の保衛部や教団の管理者がいる。


信者の管理はそれで充分ということなのだろう。

どのみち、外に出たところで汚染地域で、日々の食事にも困る世界。

教都の周囲の壁に武装した保衛部がいた様子からして、教都の情報が外に漏れさえしなければそれでいいという管理方法なのだろう。


教都に来て驚いたのは、この都市の内部だけは1970年代くらいの技術水準の世界が広がっているということだった。

大きな湖に面しており、周囲は壁で囲まれ、出入りできるのは1ヶ所のみ。

まるで刑務所だが、その広さはかなりのもので、10キロ四方くらいはあるようだ。


「キリシマさん、ここの生活はどうですか」


ニコニコと不自然な満面の笑みの男に声をかけられた。

「基本的に」個を識別した管理をしていない、と先ほどいったが例外はある。

俺達のような外からきた信者である。


「毎日の食事にも困らず、清潔なベッドで眠ることができる素晴らしい場所だと思います」


俺も満面の笑みを作って返事をする。

このニコニコ顔の男は、新参者を気遣う善意の教父のように昨日からふるまっているが、その体つきや歩き方、姿勢からして保衛部である。


「外の世界では苦労されたようですが、ここではそんなものはありません。日々の奉仕を怠らなければ大聖祖様のお恵みがあなたを助けるでしょう」

「はい、ではこれから今日の奉仕がありますので失礼します」

「大聖祖様より幸あらんことを」

「私は幸せです」


反吐が出るような挨拶をして男とわかれた。

この教都という都市が、教団を頂点とした搾取構造になっていることは昨日だけで嫌というほど理解できた。


信者という名の奴隷に最低限の栄養と信仰(救い)を与えて、それを保衛部が監視し、教団関係者は自堕落な生活を送る。

とはいえ、三食(量は少ないが)きちんと出て、睡眠時間も8時間確保されているなど、「過労死するまで働け」というような感じではない。

信者(どれい)を使い潰すような真似をしないのは、この世界で人的資源が貴重だからだろう。

「生きる」ということだけに焦点をあてるなら、この世界で一番簡単な都市なのかもしれない。


この都市で生まれ、小さいときから洗脳されている人間だけでなく、わざわざ外から人を入れているのも慢性的な労働力不足が原因と思われる。

実際、職場として割り当てられた農場の仕事もまるで人が足りていなかった。


「それでは皆さん、今日も奉仕活動ができることを大聖祖様に感謝しましょう」

「「「「私は幸せです」」」」


何が幸せなのかさっぱりわからないが、定番の挨拶をして皆一斉に農場に散っていく。

農場とはいうものの、ただの荒れ地である。

つまるところ、それを耕して使える状態に持っていくのが仕事である。


装甲車があるならトラクターくらいどうにかなるだろ、と思うのだが、内燃機関はかなり貴重のようだ。

まぁ、こんな世界では内燃機関をまともに生産できる工場が残っているとは思えないので、仕方ないのかもしれない。

一方で、教都は電力は豊富である。


街の中は壁の内側に沿って環状と、中央で交差する南北に電車が通っている。

これがこの街で唯一の徒歩以外の移動手段である。

その電力はどうやって賄っているのかだが、それがこの街が川沿いではなく湖の横にある理由である。


発電に大量の水を必要とする施設。

つまり原発である。

外部電源はどうしてるんだ?と思わなくもないが、「停止している」火力発電所があるので起動時だけ火力に頼って、あとは1号機と2号機で融通しあっているとかいう恐ろしい状況なのではないかと推測される。

・・・それだけでここから逃げ出したくなる。


他にも製鉄所と思しき施設もあるが、こちらは放棄されて長いようだ。

というか、いろいろはぎとられて無残な状態になっている。

化学プラントもあるようだが、こちらも同じく稼働はしていないが、部品をはぎとられたりはしていないようだ。


とりあえず地面をクワで耕しながら、周囲を観察する。

教父がいるのは最初の挨拶だけで、あとはどこかに消えている。

聞いた話では、信者への「個別指導」や「懺悔」といった業務があるというのだが、昨日昼食後のお言葉を述べていた教父からは、独特の「匂い」がしたので爛れた生活を送っているようだ。

どこの世界でも腐った支配階級がやることに差はないらしい。


ほかに保衛部の監視がいるのかと思いきや、意外なことに普通に見える範囲にはいない。

よって、普通ではない方法で見る。


スキル:不射之射 遠見 を使用


まず遠方の教都外周の壁と監視塔。

保衛部はいるが、こちらではなくもっぱら外を見ている。

外敵に備えているのか、脱走者に備えているのかは微妙だが、少なくとも中を見ることはなさそうだ。


次に農場の管理棟。

まぁ、管理棟といっても実際には建物の大きさの割に小さな事務所があるだけで、ほぼ倉庫である。

事務所のほうは、農場が稼働したら生産管理などで使うようだが、現状ではただの空き室。

こちらも人の気配はない。


そしてそこに面した道があるのだが、そこを2人の保衛部員が歩いている。

もっとも、巡回している感じで、信者の仕事ぶりを監視している様子はない。


適当にクワを振るいながら、さてどうやって抜け出して情報を集めたものかと策を巡らせるのだった

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