4-4 自衛官、信者(仮)になる
「大聖祖様はいつでも皆様を見ておいでです。皆さまのこれからの生活に幸多からんことを」
教父と呼ばれる教団の人間が講壇の上で何やら話している。
そう、俺はこの素晴らしい教団に入信することにしたのだ!
・・・そんなわけはない。
日本人を探すために教都に潜入するのが目的だ。
街で勧誘活動を行っていた教団の信者を見かけた俺は、町長に聞いてみたのだ。
「あれは宗教ですか?」
「彼らは単に”教団”と名乗ってますね。まぁ、こんな世界ですからね、宗教に救いを求める人間もいるということですよ」
力なく町長は笑った。
「ただ、彼らは少々特殊でして」
「特殊?」
「ええ、入信すれば彼らの街、教都というらしいですが、そこで衣食住全て満ち足りた生活をおくることができ、求められるのは信仰心だけだと」
胡散臭い匂いがプンプンする。
「その教都というのはどこに?」
「わからないんです」
「わからない?」
思わず町長のほうを見てしまった。
「この街の住人は皆助けたいとは思っているのですが、いつだって何もかも不足しているのが現状です。そんな生活に不満を持ったり、集団生活から排除されるものというのは・・・」
「どこでも出てくる。か」
「はい・・・力不足を痛感するばかりです」
悔しそうな顔をしている町長は本当にいい人なのだろう。
そんな人だから皆から町長を任されたのだろうが、こんな世界で生きていくには優しすぎるようにも思う。
「で、その生活に不満を持った人や排除された人が救いを求めて教団に縋っていったことは何度かあるのですが」
「ですが?」
「今まで1人も戻ってきていません。彼らが言うには教都で幸せに暮らしていると言うのですが・・・」
そこでふと疑問が浮かんだ。
「彼らが教都へ戻るのなら後をつければいいのでは?」
「残念ながら徒歩では追いかけられません。彼らは装甲車を持っているうえに、見た者が言うには、高汚染区域を通るようなのです」
ドローンでも飛ばしてみるか?
「彼らが勧誘しているのはここだけなのでしょうか?」
「他の街でも勧誘しているようですが、その街がどこにあるのかといった情報は一切教えてくれません。一説には彼らは飛行機も持っているようなのですが・・・」
つまりこの世界では一番情報を持っていそうなうえに、各地から人を集めているのか。
「”終末の日”と言われた世界の終わりから40年、我々は他に生き残った人間がどこに住んでいるのかさえわからないまま。それを知っている組織は秘密主義で何も教えてくれない。人は絶滅しかけてもなお協力できない生き物なのでしょうか」
町長の嘆きを聞きながら、教都の情報を得るには内偵しかないなと考えを固め、作戦会議の後、俺と桧山二曹は勧誘していた信者に声をかけ、教都への切符を手にしたのだった。
そのまま装甲車に乗せられ、走り続けること2日。
道も何もない不整地の荒野なので、速度はさして出ておらず、途中で休憩もしていたことを考えると距離はそれほどでもないのだろう。
むしろ問題は汚染地域のほうである。
そして教都の入口とされる場所で他の場所から連れてこられた新しい信者と合流し、先ほどの教父のありがたいお話となったわけである。
一緒にありがたーいお話を聞いたのは5人。
見たところ日本人顔ではないので、多分こっちの世界の人間だろう。
強いて関わる必要もなさそうだ。
「はい、それでは皆さんこれから住んでもらう場所をお伝えして服と日用品を渡しますので、順番に並んでください」
「別々の場所に住まされそうですね」
「外から来た人間の身元調査も何もしてないんだから、一か所に集めないのはトロイの木馬を防ぐには有効だろうが、俺らには好都合だな」
桧山と気付かれないように小声で話す。
ちなみにいざというときの計画も(俺は)完璧だ。
なぜなら、なぜかスキル:不射之射が今も使えるからである。
つまり丸腰でもごり押し可能という素晴らしさ。
というか、バレないためにここには俺も桧山も丸腰できている。
無線機だけは隠し持っているが、ほんとにばれないか心配ではある。
え?どこに隠し持ってるか?・・・秘密だ。
とりあえず桧山には可能な限り目立たず、溶け込んで情報収集するように言ってある。
俺の方は無茶ができるので、いろいろ動くつもりである。
思っていたより現代的な教都の街を見ながら、まさか無線諜報システムとかないよな?と心配するのだった。




